印象的な情報が最初に与えられると、それを軸に判断してしまうのがアンカリング効果です。日常生活にも使われていますが、マーケティングでうまく活用するにはどうすれば良いのでしょうか。
「アンカリング効果とは何かわからない」
「アンカリング効果を活用して売り上げを増やしたい」
「アンカリング効果を活用するうえで注意点はあるのか」
このように悩んでいる経営者やマーケティング担当者のために、この記事では以下の内容について説明します。
- アンカリング効果の意味
- アンカリング効果の活用事例
- アンカリング効果を活用する上での注意点
アンカリング効果をうまく活用できると、大きな効力を発揮します。ぜひこの記事を読んでマーケティング施策に役立ててください。
アンカリング効果の意味
アンカリング効果とは最初に与えられた情報が基準となり、その後の判断に影響を与えてしまう心理のことです。
よく考えれば合理的な判断ではないのにも関わらず、先入観により非合理的な判断をしてしまう認知バイアスの一種として、マーケティングによく使われています。
アンカリング効果を英語で書くと「Anchoring Effect」です。「Anchor(アンカー)」はいかりの意味で「Anchoring」はいかりを下げて船を動かないようにするという意味です。
いかりを下ろすことで動けなくなり、意思決定が固定されてしまうという状態です。
アンカリング効果に似た心理効果
アンカリング効果に似た心理効果に、プライミング効果とフレーミング効果があります。どれも人々の判断に影響を与える認知バイアスです。それぞれどのような心理効果なのかを解説します。
ほかにも様々な心理効果があるので、気になる方はこちらの記事も参考にしてください。
1. プライミング効果との違い
プライミング効果は事前に受けた刺激が、その後の判断や行動に影響を与える心理現象です。
テレビ番組で沖縄に旅行している芸能人を見た後に来年の夏は沖縄に行こうと考えたり、口コミで紹介されていた料理を店に行って無意識に注文したりするのは、プライミング効果によるものです。
アンカリング効果は最初に示された情報が判断に影響を与えます。プライミング効果では視覚や嗅覚などの刺激が判断に影響するという違いがあります。
2. フレーミング効果との違い
フレーミング効果とは、同じ情報であっても異なる表現方法で提示すると判断が変わってしまう心理現象です。
美容商品の宣伝で「使用者の90%が効果を実感している」と伝えるか「使用者の10%が効果を感じなかった」と伝えるかで、同じ内容でも受け取る印象が変わります。
このようにフレーミング効果は情報の表現方法を重視しますが、アンカリング効果は先に伝える情報が基準になるという違いがあります。
アンカリング効果の活用事例5選
アンカリング効果は数字でアンカーを設定することで、後の判断基準が設定されやすくなります。ここでは以下の5つの事例について説明します。
- 商品の割引価格表示
- オプション商品の販売
- サブスクリプションの価格表示
- 待ち時間の表示
- 見積書の提示価格
ほかにも送料無料キャンペーンや今だけの増量などもアンカリング効果です。
1. 商品の割引価格表示
アンカリング効果が最も多く使われているのは、割引価格を表示するときです。
割引価格を表示するだけでなく割引前の通常価格も記載されていることが多いのは、通常価格がアンカーとなって割引価格がお得に感じられるからです。
アウトレットモールやバーゲンでも正規価格と割引価格が値札に書かれているのを見たことがある人もいるでしょう。
同じような価格表示にメーカー希望小売価格と店頭販売価格の表示があります。電化製品などにはメーカーが定めた希望小売価格があり、その価格から割り引いた店頭販売価格を同時に表示することでお得感を演出しています。
2. オプション商品の販売
車などの高額商品を購入したとき、オプション商品まで購入してしまうことがあります。車の金額がアンカーとなり、低い金額のオプション商品を安く感じるため、購入のハードルが下がるのです。
そのオプション商品の値段が他の店舗と比べて安いかどうかはわかりませんが、高額商品と比較して安いと感じてしまうのはアンカリング効果の影響です。
3. サブスクリプションの価格表示
サブスクリプションサービスの価格表示には、月額料金と年額料金の2つがあります。企業は月ごとの契約で退会されるリスクがあるよりも、年額料金で1年間の契約を取りたいと考えています。
月額料金を先に表示し次に年額料金の12分割した金額を表示すると、月額料金がアンカーとなり、安く見える年額料金での契約が増えるのです。
消費者にとって最初の1回で払うのは年額料金の方が高くなり、1年間契約し続ける必要がありますが、12分割することでお得に見せています。
4. 待ち時間の表示
アミューズメントパークでアトラクションに乗る行列の最後尾に「1時間待ち」などと書かれているときがあります。待ち時間の目安を示したものですが、実際よりも長めに書かれていることが多いです。
待ち時間が表示され、その表示時間と同じ時間待ったとしても「待たされた」と感じます。逆に表示されている待ち時間よりも待つ時間が短ければ「そんなに待たずに済んでラッキーだ」と感じるのです。
カスタマーセンターのオペレーターが出るまでの待ち時間や、チケット予約サイトで表示される待ち時間などもアンカリング効果を活用し、クレームを防いでいます。
5. 見積書の提示価格
見積書にも割引前と割引後の2種類の金額が書かれていることが多いです。見積書に値引き欄があり、通常価格をアンカーにして割引しているからお得と示す方法です。
最初に提示した価格がアンカーになりやすいため、高品質で高価格のプランを先に見せてから本当に買ってもらいたいプランの見積書を見せて契約に結びつける方法もあります。
アンカリング効果を活用するための4ステップ
アンカリング効果は以下の4ステップでマーケティングに活用します。
- 情報収集をする
- 自社商品・サービスの価格を決める
- アンカーとなる要素を決める
- 実際に販売した結果を分析し改善する
アンカリング効果を活用するには、アンカーを何にするかを決めることが重要です。マーケティング戦略の1つとしてアンカリング効果を使うのも良いでしょう。
1. 競合他社・類似商品の情報収集をする
アンカーとして提示する要素の参考にするため、競合他社や類似商品の情報を集めます。価格や数量、品質などの情報から、自社商品が他社と差別化できる特徴を見つけることが大事です。
競合他社や類似商品で比較する要素を決め、ポジショニングマップを作成します。ポジショニングマップとは、縦軸と横軸の要素を決め、自社および他社商品がどの位置にいるのかを可視化するフレームワークです。
ポジショニングマップによって自社商品・サービスをどの要素で差別化すれば良いかがわかります。
2. カスタマージャーニーマップを作成する
アンカーを提示する方法を決めるため、顧客の購入プロセスを考えます。その際に役立つのが、カスタマージャーニーマップです。
カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品購入の検討から購入までのタッチポイントを可視化するためのフレームワークです。
オンラインかオフラインか、他社商品と比較をするのかなど、顧客がどのように購買行動をするのかを具体的に考えましょう。
3. アンカーとなる要素を決める
アンカーとなる要素は数字で表せるものを選ぶようにしましょう。以下のような定量的なアンカーは比較しやすく、お得感を感じやすいです。
- 価格
- 数量
- 大きさ、長さ、深さ
- 速さなど
どれも相場や平均を大幅に超える、もしくは下回ると不信感を与えてしまうので注意してください。
4. 実際に販売した結果を分析し改善する
実際にアンカリング効果を使って販売した結果を分析し、次回の販売に役立てます。アンカリング効果を使った販売と使わなかった販売を比較して、どちらの売り上げが良いかを確認すると、効果の強弱が把握しやすいです。
要素や程度をテストしながら、自社商品・サービスに適したアンカーを設定することが重要です。
アンカリング効果を使う上での5つの注意点
アンカリング効果は非常に強い心理効果を持つため、注意して活用しなければなりません。ここでは5つの注意点を解説します。
- 景品表示法に違反しない
- 相場が周知されている商品に使わない
- 顧客が希望価格を言う前にアンカーを提示する
- 長期間アンカリング効果を使い続けない
- アンカーのイメージを払拭するのは困難
自社の信用にかかわる部分もあるので、正しくアンカリング効果を使いましょう。
1. 景品表示法に違反しない
不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)によって、消費者庁は価格などの表示に対するガイドラインを定めています。不当表示は以下のように規定しています。
事業者の販売価格について一般消費者に実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく有利であると誤認される表示
消費者庁『将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針』より引用
アンカリング効果を狙うために、販売価格を著しく有利に見せてはいけません。消費者庁はアンカリング効果のための二重価格表示も厳しく規定しています。
二重価格表示で比較対象にできる価格は以下のとおりです。
- 割引を行う前の一定期間販売していた価格
- 販売実績のある価格
- 将来値上げする根拠がある価格
- 競合商品の現在の表示価格
- 同じ生活圏にある競合店舗の表示価格
- カタログなどで公表されている希望小売価格
景品表示法に違反すれば措置命令を受け消費者からの信頼を失墜させてしまうので、適切に価格表示できているかを必ず確認してください。
参考:消費者庁『二重価格表示』
2. 相場が周知されている商品に使わない
アンカリング効果は顧客が相場を知っていると効果がありません。相場を知っていればその割引価格が本当にお得なのかどうかがわかるからです。
毎日スーパーで買い物している人なら食品の相場がわかります。インターネットで価格がよく比較されているパソコンなども相場を知るのは簡単です。
相場が周知されている商品で相場より高いアンカーを設定すると、顧客は自社に不信感を抱き購入することはないでしょう。
3. 顧客が希望価格を言う前にアンカーを提示する
アンカリング効果は自社がアンカーを設定することで強い効果を発揮します。顧客に希望価格があると、それがアンカーとなり自社の希望条件での販売が難しくなってしまいます。
ほしい気持ちが持ち上がったタイミングで見積もりを提示し、アンカーを決めることが大事です。
4. 長期間アンカリング効果を使い続けない
アンカリング効果を長期間続けると消費者は割引価格に慣れてしまい、それが普通と考えるようになります。毎回見積もりで値切っていると、値切るのが普通と思われ、ずっと値切り続けなければなりません。
常にバーゲンを行っている店は通常価格で買われなくなるうえに、顧客から信用もされないでしょう。
5. アンカーのイメージを払拭するのは困難
アンカーを設定すると、顧客に強いイメージを植え付けます。高額なアンカーを設定すると、その店は高額な商品を販売しているというイメージになります。
ファストフード店であれば、すぐに商品が用意される速さがアンカーになるため、提供が遅くなるとクレームになってしまうでしょう。
アンカーによって一度つけられたイメージは簡単に払拭できないため、ブランドイメージとのバランスを考える必要があります。
適切なアンカリング効果はマーケティングで大きな力を発揮する
この記事ではアンカリング効果の特徴や事例、活用方法などについて説明しました。
アンカリング効果は先に価格などの数字を示すことで、顧客の判断基準にしてもらいます。顧客がお得だと感じれば売り上げ向上の役に立つでしょう。
しかし、アンカリング効果を使いすぎると自社に対する不信感が増し、逆効果となってしまいます。
法を順守した適切なアンカーを設定し、他社との差別化によりマーケティングで優位に立つことが重要です。
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