行動経済学とユーザーエクスペリエンスの関係とは|顧客体験の改善に役立つ6つのメソッド

最終更新日: 2024/04/09 公開日: 2024/01/10
  • ユーザーエクスペリエンスの改善につながる良い方法はないだろうか?
  • 行動経済学を事業戦略やマーケティングに活かすにはどうすればいい?
  • 行動経済学とユーザーエクスペリエンスにそもそもどんな関係があるのか?

上記のような疑問を抱えていませんか?

今回は、行動経済学を応用することでユーザーエクスペリエンスを改善する方法について解説します。

行動経済学がユーザーエクスペリエンスの改善に寄与している身近な例も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

行動経済学・ユーザーエクスペリエンスの基本を確認

はじめに、「行動経済学」「ユーザーエクスペリエンス」の基本をそれぞれ確認しておきましょう。

行動経済学とは

行動経済学は、「人間は経済合理性のみによって意思決定しているわけではない」という考えにもとづく学問です。

従来の経済学は、全ての人間が利益を最大化させるために合理的な判断を下し、行動しているという考えに根差していました。

現実の社会を見た場合、私たちは経済合理性だけを重視して判断し、行動しているとは限りません。

生身の人間が持っている感情やバイアスを織り込み、現実的な経済活動に着目するのが行動経済学の大きな特徴といえます

ユーザーエクスペリエンスとは

ユーザーエクスペリエンス(UX)とは、ユーザーが商品やサービスとの出会いを通じて得る体験を表す言葉です。

ユーザー体験・顧客体験と呼ばれることもありますが、いずれもユーザーエクスペリエンスと同義と捉えてください。

購入した商品の品質が良くても、購入時の店員の対応が横柄だと感じるようでは、良質なユーザーエクスペリエンスは得られません。

ユーザーエクスペリエンスは、顧客に与える印象やイメージも含めた、体験全体を表す概念といえるでしょう

行動経済学とユーザーエクスペリエンスの関係性

ユーザーエクスペリエンスの改善を図るための施策は、企業が意図した通りの効果を生むとは限らないのが実情です。

ユーザーエクスペリエンスはあくまでも「顧客にとっての」体験であることから、意図通りに操作するのは容易ではありません。

一方、行動経済学は人間の現実的な意思決定のプロセスに着目する学問です。

行動経済学を活用することによって、自然な形でユーザーの行動を促し、良好な顧客体験につなげられる可能性があります。

行動経済学は、ユーザーエクスペリエンスを無理なく改善する上で役立つ理論として注目されているのです

ユーザーエクスペリエンスの改善に役立つ6つのメソッド

ユーザーエクスペリエンスの改善に活用できる行動経済学のメソッドとして、代表的なものを紹介します。

次に挙げる6つのメソッドを、ぜひユーザーエクスペリエンス改善のヒントにしてください。

アンカリング効果

アンカリング効果とは、あらかじめ印象づけられた情報が意思決定に影響をもたらすというメソッドです。

実際には同じ情報を提示していたとしても、前提となる情報の有無によって印象が大きく変わるケースは少なくありません。

たとえば、次の例を見てください。

【例】
どちらの伝え方が「お得だ」と感じるでしょうか?
・販売価格は8,800円です
・通常価格1万円のところ、今なら期間限定で8,800円です

何も情報のないところへ「8,800円」と聞かされると、人によっては「高い」「安くならないのか?」と感じるかもしれません。

一方、通常価格が1万円という事前情報を提示されることにより、「1,200円もお得なのか」という点が印象づけられます

事前に与えられた情報を無意識のうちに比較対象として意識させている点で、典型的な行動経済学の応用例といえるでしょう。

ピーク・エンドの法則

ピーク・エンドの法則とは、体験の途中と最後に残った記憶が、体験全体の評価を決定づけるというメソッドです。

顧客が商品を選ぶ際に良い提案ができたにも関わらず、会計時に対応したスタッフの態度が横柄に映ったとしましょう。

良い提案をしてくれたスタッフの記憶だけでなく、会計時のスタッフの対応も顧客の記憶に強く残るはずです。

結果として「あの店舗での購入体験は微妙なものだった」といった評価になりかねません。

ユーザーエクスペリエンスを改善するには体験の途上だけでなく、最後に良い印象を残すことが重要なポイントとなるのです

プロスペクト理論

プロスペクト理論とは、人は無意識のうちに損失を回避する行動を選択するというメソッドです。

具体的な例として、飲食店でメニューを選ぶ時のことをイメージしてみてください。

【例】
どちらのメニューを「注文してみたい」と感じるでしょうか。
・写真と価格だけが表示されている
・写真と価格に加えて「限定1日○食」と記載されている

注文できる数が限られているメニューが残っているとすれば、「注文しなければ損だ」と感じる人も多いでしょう。

行動しなければ見えない損失を被ると暗に伝えることにより、迷っている顧客の背中を押す効果が期待できます

エンダウド・プログレス効果

エンダウド・プログレス効果とは、達成までの距離が近づいていると感じるとモチベーションを維持しやすいというメソッドです。

一例として、スマホゲームのユーザーエクスペリエンスについて考えてみましょう。

【例】
どちらのゲームを「引き続きプレイしたい」と感じるでしょうか。
・1stステージから始まり、クリアに必要なアイテムを1から集めなくてはならない
・1stステージが始まる前のチュートリアル通りに進めると、クリアに必要なアイテムが1つ確保できている

本格的なプレイ前にアイテムが入手できることで、「もう少しプレイすればクリアできるかもしれない」と実感しやすくなります

結果としてプレイヤーはゲームに入り込むことができ、引き続きプレイするというモチベーションも湧きやすくなるのです。

おとり効果

おとり効果とは、あえて見劣りする選択肢を提示することが、ユーザーの意思決定に影響を与えるというメソッドです。

デューク大学のダン・アリエリー博士は、学生100人を対象に次の実験を行いました。

【実験1】
エコノミスト誌を購読するなら、どの方法で購読したい?
・オンライン購読:59ドル/月
・雑誌の定期購読:125ドル/月
・オンライン購読+雑誌の定期購読:125ドル

上記の3択を提示した場合、8割以上の学生が「オンライン購読+雑誌の定期購読」を選択しました。

オンライン購読のみを選択した学生はわずか16%、雑誌の定期購読を選択した学生は1人もいなかったといいます。

一方、選択肢を2つに減らしたところ、全く違う結果が出たのです。

【実験2】
エコノミスト誌を購読するなら、どちらの方法で購読したい?
・オンライン購読:59ドル/月
・オンライン購読+雑誌の定期購読:125ドル

選択肢が2つになると、オンライン購読のみを選択する学生が7割近くに達しました。

3択の時には8割以上の学生が選んだ「オンライン+雑誌」は、2択になると約3割の学生にしか選ばれなかったのです。

実験1で「雑誌の定期購読」は、「オンライン購読+雑誌の定期購読」を引き立てる役割を果たしていたと考えられます。

あえて見劣りする選択肢を提示することで、「セット申し込みがお得だ」と印象づけられると証明された事例といえるでしょう

現在志向バイアス

現在志向バイアスとは、未来の大きな利益よりも目先のわずかな利益が優先されやすいというメソッドです。

美肌効果がアピールポイントの商品を例にとって考えてみましょう。

【例】
どちらの商品が魅力的に映るでしょうか?
・「継続的に使用することにより、約2〜3ヶ月で効果が表れ始めます」と説明されている商品
・「使用開始の翌日から効果が表れ始めます」と説明されている商品

使い続けることで効果が得られる可能性が高いと分かっていたとしても、2〜3ヶ月続けられるか不安に感じる人も多いはずです。

一方、「翌日から」という表現は非常に分かりやすいことから、「一度試してみよう」という気持ちになりやすいでしょう。

多くの人は「待てない」「待ちたくない」という心理を突いた行動経済学の活用例といえます

行動経済学によるユーザーエクスペリエンス改善の例

私たちの身近なところでも、実は行動経済学はさまざまなところで使われています。

行動経済学を活用することで、ユーザーエクスペリエンスを改善している例を見ていきましょう。

アンカリング効果を応用したフリマアプリのUX

フリマアプリの「メルカリ」に出品されている商品を購入する際、売上金を支払いに使うことができます。

商品ページには販売価格と併せて、ユーザーが現在保有している売上金が表示されることにお気づきでしょうか。

たとえば、販売価格1,000円の商品を購入すべきか迷っているユーザーがいるとします。

商品ページには商品価格1,000円と併せて「現在の売上金1,300円」と表示されている状況をイメージしてください。

ユーザーは売上金の範囲内で商品を購入できるため、「他のフリマアプリで購入するよりもお得だ」と感じるでしょう。

現在の売上金という前提情報を示すことで、メルカリで商品を購入する優位性を暗に伝えているのです

ピーク・エンドの法則を応用したアパレルショップのUX

アパレルショップで服を購入した際、会計時などに着回しや洗濯の仕方などをアドバイスされたことはないでしょうか。

すでに購入することが決まっているにも関わらず、さらにアドバイスするのはなぜなのか疑問に感じるかもしれません。

顧客にとって、会計は店舗での購買体験のうち締めくくりにあたる場面です。

最後に良い印象を残すことによって、「次もこのお店で服を買いたい」といったポジティブな印象を残すことができます。

結果として、リピート購入を促す「最後のダメ押し」となるのです。

商品に満足してもらうだけでなく、接客で付加価値を高めたい場合に取り入れたい手法といえるでしょう

プロスペクト理論を応用したセミナーLPのUX

セミナーなどのLPには、「申込み締切まで〇時間〇分」といった表示やカウントダウンタイマーが設置されていることがあります。

締切期限を過ぎてしまえば、同じセミナーを聞くチャンスは二度と訪れないかもしれません。

申込むべきか、やめておくべきか迷っている相手に「今すぐ申込みをしないと損だ」と感じさせる効果が期待できます。

行動しなかったことで被る損失をイメージしてもらう手法は、プロスペクト理論を活用した好例といえるでしょう

エンダウド・プログレス効果を応用したポイントカードのUX

商品を購入した顧客に対して、購入額に応じたポイントを付与する場合を考えてみましょう。

ポイントカードを手にした時点で、その日の購入分で獲得した5ポイントが付与されていたとします。

10ポイント貯めれば割引が適用されるとすれば、多くの顧客は「もう一度購入したらポイントが全部貯まる」と考えるでしょう。

0ポイントの状態からスタートするよりも、達成までの距離が近いと感じてもらえるのです。

達成が近づいているという期待感は再来店する動機となり、結果としてリピート顧客の創出へとつながります

エンダウド・プログレス効果を活用したUXの典型といえるでしょう。

おとり効果を応用した小売店のUX

ある大手チェーンでは、廉価な羽毛布団Aばかりが売れ、やや高価格帯の羽毛布団Bが売れないという課題を抱えていました。

課題解決の糸口となったのは、商品ラインナップを増やすことだったといいます。

【羽毛布団の商品ラインアップ例】
・改善前:羽毛布団A(10,000円)・羽毛布団B(25,000円)
・改善後:羽毛布団A(10,000円)・羽毛布団B(25,000円)・羽毛布団C(38,000円)

結果として、中間の価格帯である羽毛布団Bが最も売れるようになり、羽毛布団コーナー全体の売上伸長につながりました。

いわゆる「松竹梅」の3グレード構成にすることで、値下げをしなくても「竹」にあたる商品がお得に感じやすくなります。

あえて選ばれにくい選択肢を設けることで顧客心理を誘導している点で、おとり効果を有効に活用した事例といえるでしょう

現在志向バイアスを応用した省エネ推進施策のUX

アメリカ・カリフォルニア州は2000年に猛暑に見舞われ、計画停電を実施せざるを得ない状況に追い込まれていました。

住人に節電を呼びかけるにあたって、「節電しましょう」「環境に配慮しましょう」といったメッセージは効果が薄かったそうです。

一方、「ご近所はエアコンでなく扇風機を活用しています」というメッセージを各世帯に配布したところ、大きな効果がありました。

住人各自の地域コミュニティに対する帰属意識に訴えることによって、節電効果を挙げることに成功したのです

ご近所付き合いを大切にしたいという心理を突いている点で、現在志向バイアスが有効に作用した事例といえるでしょう。

まとめ

「行動経済学を活用してユーザーエクスペリエンスを改善する」と聞くと、ハードルが高い印象を受けるかもしれません。

実際には、私たちのごく身近なところで行動経済学は活用されており、ユーザーエクスペリエス改善に向けた近道ともいえるのです。

今回紹介したメソッドや具体例を参考に、ぜひ事業運営や販売促進に行動経済学を応用してみてください。

顧客心理の本質を突いた施策を講じられれば、低コストで大きな効果を生むことも決して不可能ではないはずです。

セミナーズ通信

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最終更新日: 2024/04/09 公開日: 2024/01/10