行動経済学をわかりやすく解説|マーケティングに活用できる理論7選

最終更新日: 2023/12/25 公開日: 2023/12/25

行動経済学は古くから研究されている経済学に心理学を足した新しい学問です。2002年にダニエル・カーネマンがノーベル経済学賞を受賞してから注目を集めました。

学問というと難しい響きがありますが、実は行動経済学は身近にあるものなのです。

この記事では、行動経済学をマーケティングに活用したいと思っている経営者やマーケティング担当者のために以下の内容をわかりやすく説明します。

  • 行動経済学とは何か
  • マーケティングに使える行動経済学の理論
  • 行動経済学をマーケティングに使う際の注意点

行動経済学の基本について詳しく説明していますので、ぜひ最後までお読みください。

行動経済学とは

行動経済学とは経済学と心理学が一緒になった学問です。

人間は直感や感情に左右されて自分の損になるような行動をとってしまうことがあります。行動経済学では、合理的とは言えない行動が市場にどのような影響を与えるのかを研究しています。

例えば、半額セールをしているといらないモノなのに買ってしまったり、購入した株が下落して損切しなければならないのに保持し続けたりするようなことです。

行動経済学を説明するうえで重要な考え方がありますので解説します。

二重システム理論

二重システム理論は、脳には2つの判断システムがあるというものです。2000年に心理学者のキース・スタノヴィッチとリチャード・ウェストが提唱しました。

脳には早い思考と遅い思考があり、早い思考を「システム1」遅い思考を「システム2」と呼んでいます。

システム1・直感的
・無意識的
・経験則をもとに判断
・バイアスがかかる
・エネルギーの消費はほぼ不要
・よく判断を間違う
システム2・理性的
・意識的
・論理的に意思決定
・最終的な決定権を持つ
・エネルギーを大量に消費
・システム1の間違った判断を見逃す

早い思考のシステム1は経験から直感で判断します。高速で働いており意識して判断する必要はありません。システム1は脳のエネルギーをほとんど使わないためデフォルトの判断機能ですが、しばしば間違った判断を下します。

遅い思考のシステム2は、直感的なシステム1では判断を下せない集中力の必要な問題や熟考を要するものを判断します。論理的な思考や統計問題を解くのが得意です。

システム2はよく考えるため、エネルギーが多く必要です。注意力が散漫になると正しい判断ができなくなってしまい、システム1の判断をそのまま正しいと判断してしまうこともあります。

ヒューリスティック

脳は負荷を最小限にするためシステム2をあまり使おうとしません。そのため、システム1は直観で判断できない難しい問題に対して、経験則に基づいて答えられる簡単な問題に置き換えて考えようとします。

この思考をヒューリスティックといいます。ヒューリスティックは深く考えることなく判断しますが、間違っていることが多いです。

ヒューリスティックにはいくつかの種類がありますが、ここでは3つのヒューリスティックを説明します。

代表性ヒューリスティック

代表性ヒューリスティックは、物事の起こりやすさを自分の経験に基づいて判断することです。

  • さいころを3回連続で振った時にすべて同じ目が出る確率は低い(実際はどの目も同じ確率で出る)
  • 選択問題で同じ選択肢が続くことはない(実際はどの選択肢も正解は同じ確率である)
  • コイントスをして10回連続で表が出る確率は低い(実際はどちらの面も同じ確率で出る)

このように自分が今までにあまり経験したことがないことは確率を無視して起こらないと判断してしまいます。

利用可能性ヒューリスティック

利用可能性ヒューリスティックとは、自分が思い出しやすい情報やよく見る情報、印象深い情報をもとに判断することです。

  • 自動車よりも飛行機の方が死亡事故が多いと考える(実際は車の死亡事故の方が多いが、飛行機事故の方がセンセーショナルに感じる)
  • 女子会の店を予約する際に口コミ上位の店を選ぶ(口コミが高評価でも実際のサービスや食事が良いかはわからない)
  • 似たような商品のどれを買うかで迷った時に聞いたことがある社名の商品を選ぶ(知っている会社の商品でもそれが良いものかどうかわからない)

広告や口コミで見て印象に残っていれば人はそれを選びやすいため、CMの好感度や口コミの高評価が重要となります。

固着性ヒューリスティック

固着性ヒューリスティックは、アンカリング効果とも言います。最初に見た情報や経験に引っ張られて判断してしまうという意味です。

  • 定価から何割引と書かれていると、割り引き後の金額が定価の場合よりもお得に感じる
  • お一人様何個までと書かれていると、最大の数を購入してしまう
  • 朝の占いで恋愛運が良いと知ってから、異性に優しくされると恋愛感情を抱きやすい

マーケティングでは価格設定によく使われています。

以前ECサイトで、定価を本来よりも高額に設定し、割引金額を本来の定価にしているという問題がありました。これは固着性ヒューリスティックを悪用した例です。

認知バイアス

認知バイアスとは、今までの経験や情報による先入観で合理的でない判断をしてしまう心理現象のことです。ヒューリスティックによる間違った判断のほとんどが認知バイアスによるミスと言えます。

  • 良かれと思ってした親切が相手には必要のないものだった
  • 定価から割り引かれていると安く感じる
  • 一度事故を起こした航空会社の飛行機に乗りたくない

行動経済学と経済学の違い

行動経済学はヒューリスティックや認知バイアスのように、人間が時には非合理的な判断をしてしまうことを心理現象から読み解く学問です。

一方で、経済学は"人間は合理的な生き物である"という前提で研究がされています。

最大の利益を得られるように合理的に行動するというロボットのような人間は、世の中にほとんどいません。経済学では景気の動向や、国や企業の活動が及ぼす経済への影響などについて分析しています。

行動経済学がマーケティングに重要である理由

行動経済学はマーケティングにも活用されています。スマートフォンやSNSの普及により、それぞれの顧客のニーズに合わせたマーケティングが必要です。

行動経済学の知識により、まず顧客の心理を理解し顧客ごとにパーソナライズした接点やコミュニケーションをとることで、より顧客の興味を強める宣伝ができます。

そのようにして、顧客に自社の商品を選択してもらうなどの望ましい行動や判断をさせることをナッジと言います。ナッジは「肘でつつく」「そっと押す」という意味です。

行動経済学の理論を使うことで、顧客が自分の意志で選択をする自由を持ちつつ、自社にとって良い結果を得ることができるのです。

マーケティングに活用できる行動経済学の理論7選

行動経済学の理論には様々なものがありますが、ここではマーケティングによく使われている主な理論を7つ紹介します。

自社でマーケティングに役立てる際、参考にしてください。

1. プロスペクト理論

プロスペクト理論は損失回避の法則とも言います。人は得することよりも損したくない気持ちの方が強いという心理現象です。

1979年に行動経済学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーによって提唱されました。

プロスペクト理論をマーケティングに使う場合、以下のようなコピーライティングがあります。

  • 本日限定タイムセール!
  • 期間中はポイント2倍!
  • 30日間無料お試しキャンペーン

期間を過ぎるとお得ではなくなる、つまり損をすることになるため、顧客の行動を促すことができます。

2. ツァイガルニク効果

ツァイガルニク効果は、1938年に心理学者のブルーマ・ツァイガルニクによって提唱された、未完了な事柄は完了した事柄よりも記憶に残りやすいという心理効果です。

  • 無料で試し読みができる電子コミックのストーリーが気になって続きを購入してしまう
  • CMの最後に「続きはWebで」と検索キーワードが表示されると、つい検索してWebサイトを訪問してしまう
  • 観光地で今は見られないイベントを知るとまた来たくなる

人は中途半端な情報や経験が気になって仕方がなくなり、その欲求を満たすために行動してしまうのです。

3. フレーミング効果

フレーミング効果は、同じ情報でも伝え方によって相手の受け取り方が変化するという現象です。1981年に経済学者のダニエル・カーネマンと心理学者のエイモス・トヴェルスキーが提唱しました。

例えば、ダイエット食品を購入した人にアンケートを取り、結果を伝えるには2通りの方法があります。

  1. 購入者の90%が満足と回答しています!
  2. 購入者の10%のみが不満足という結果でした!

見込み顧客に伝える場合、1の肯定文の方が多く購入されるでしょう。同じ結果を伝える場合でも、何を強調するかで人に与える印象が変わります。

4. サンクコスト効果

サンクコスト効果は、すでに費やしたコストをもったいなく感じ、損をするとわかっていてもさらに多くのコストを費やしてしまう心理現象です。コンコルド効果とも言います。

音速を超えたスピードでロンドン―ニューヨーク間を運航していた飛行機のコンコルドは、燃費が悪いうえに乗客定員が少ないため採算が見込めないとされていましたが、それでも開発され2003年まで運用されていました。

マーケティングでは次のように使われることが多いです。

  • ドールハウスなどの部品が毎号の付録になっており、全号購入することで完成する雑誌を購入すると途中でやめられなくなる
  • ホテルの宿泊ポイントを貯めることで上級会員にランクアップする制度では、あともう少しで上級会員になれると思うと必要のない宿泊をしてしまう
  • 来店ポイントをもらいに来たついでに買い物もしてしまう

サンクコスト効果は、いかに顧客に「もったいない」と思わせられるかが重要です。

5. バンドワゴン効果

バンドワゴン効果は経済学者のハーヴェイ・ライベンシュタインが提唱した心理効果で、多くの人が同じ意見を持っている場合、自分も同じように感じてしまう現象です。

バンドワゴンとは、パレードの先頭で音楽を奏でる車のことで、皆がバンドワゴンについて行くことから名づけられました。

  • SNSで紹介されている商品に多くの「いいね」がついていると自分もほしくなる
  • 「全米興行収入1位!」と触れ込みのハリウッド映画に多くの観客が集まる
  • 「販売数50万個突破!」というキャッチコピーの商品は良いものに違いないと思ってしまう

バンドワゴン効果は、口コミにも表れます。良い評価の口コミが多ければ買っていないのに良い商品だと信じてしまうのです。

6. 希少性の法則

希少性の法則は、人はなかなか手に入りづらいものに対して価値を感じる心理現象です。

需要よりも供給数が少ない場合、高くても購入しようとします。コロナ下にマスク不足に陥り、並んでも購入する人がいたのは記憶に新しいでしょう。

希少性の法則は数量だけでなく期間や場所が限定されている場合でも効果があります。

  • 期間限定フレーバーのコーヒーが発売日当日に売り切れる
  • その土地限定のお菓子をつい買ってしまいたくなる
  • タイムセールがあると、つい店をのぞいてしまう

今この時でないと買うことができないと思うと人はほしくなってしまうので、マーケティングによく使われています。

7. ヴェブレン効果

ヴェブレン効果は、高級なものを持ち人に見せびらかしたいと思う欲求のことです。自己顕示欲により、購入価格が上がるほど需要が増えるのです。見せびらかし消費とも言います。

  • 高級だからという理由でハイブランドの洋服を身に着ける
  • 値段が高いという理由で海外輸入車を購入する
  • 同じ収入の人が持っているのに自分は持っていないのが恥ずかしいから不要でも購入する

ヴェブレン効果は高級であることに価値を見出す心理効果であるため、中身は同じでも高級感のあるケースに入れただけでヴェブレン効果が働く場合もあります。

行動経済学をマーケティングに使う際の3つの注意点

行動経済学をマーケティングに活用すると絶大な効果を発揮することがあるため頼ってしまいたくなりますが、注意しなければいけないことがあります。

注意点を無視すると商品が売れないだけでなく罪に問われる可能性もあるため、慎重に戦略を練ることが重要です。

1. 具体的な顧客像を設定する

行動経済学は人の心理にかかわることのため、すべての人に効果があるものではありません。自社の望む行動をとってもらえるように促すだけで、人を強制するものではないからです。

そのため、見込み顧客のペルソナやニーズを具体的に設定したうえで行動経済学の理論を活用する必要があります。

具体的な顧客像が明確でなければ、顧客がどのように考えて行動するのかがわかりません。

2. 行動経済学に関わる法律を理解して使用する

行動経済学は人間の心理にハマれば絶大な効果を発揮するため、悪用されかねません。法律で細かく規定されているのはそのためです。

例えばアンカリング効果を狙って価格表示をする場合、販売実績のない定価からの割引や比較対象の競合の販売価格が不正確なまま、その金額からの割引をすることなどが不当な二重価格表示とみなされるおそれがあります。(参考:消費者庁『二重価格表示』

割引価格を設定する場合、比較対象となる価格が明確に存在していることが必要です。

行動経済学をマーケティングに活用するなら、誠実な表記を心掛けましょう。

3. 行動経済学を盲信しない

行動経済学は顧客に商品を無理やり買わせるための理論ではありません。

行動経済学を学び顧客の心理を知ることで、顧客とのスムーズなコミュニケーションを実現させるためのものです。

また、多くの心理効果は短期的な成果しか出ません。どんなに心理効果で人の心を動かして購入に繋げたとしても、商品自体が良いものでなければ売れなくなってしまいます。

行動経済学の理論は1つのツールとして活用するにとどめ、商品・サービスの改善に努めることが大事です。

行動経済学をうまく活用してマーケティング戦略を有利に運びましょう

行動経済学は、人は感情で動く生き物のため合理的な判断をしないこともあるという性質を理論として研究しています。つまり、行動経済学を使うことで顧客の心理を知るヒントを得られるのです。

自社の顧客が何を感じて行動に移るのかを知ることは、マーケティング戦略を立案するうえで重要な視点です。

ぜひ行動経済学を活用し、顧客の心情を理解して最適な商品・サービスを提供してください。

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