- キャッチコピーやセールスレターを熟考しても売上が改善しないのはなぜ?
- 新規顧客は獲得できてもリピート購入につながらない原因はどこにある?
- 多くの顧客はなぜ競合他社の商品を選ぶのか?
上記のような悩みを抱えていませんか?
今回は、行動経済学の集大成ともいわれる「ファスト&スロー」について解説します。
顧客の意思決定や競合他社の訴求方法を分析する際に、ファスト&スローがヒントになるかもしれません。
ぜひ参考にしてください。
ファスト&スローとは
はじめに、ファスト&スローがどのような理論なのか、概要を押さえましょう。
ファスト(速い思考・システム1)とスロー(遅い思考・システム2)の違いを理解しておくことが重要です。
ダニエル・カーネマンが唱えた理論
『ファスト&スロー』は、2002年にノーベル経済学賞を受賞した認知心理学者ダニエル・カーネマンによる著作です。
同著において、カーネマンは人間の思考を大きく2つに分類しました。
- ファスト:速い思考・システム1
- スロー:遅い思考・システム2
ファスト&スローには、行動経済学の集大成ともいわれる理論が詰まっています。
私たちが日常で下す判断の大半は、ファスト&スローで説明できると言っても過言ではありません。
「ファスト」と「スロー」がそれぞれどのような思考を指しているのか、詳しく見ていきましょう。
ファスト(速い思考・システム1)とは
「ファスト」「速い思考」「システム1」は、いずれも経験にもとづく直感や感情による判断を表しています。
私たちは、美しい景色を見た時に「きれい」「美しい」と感じ、汚れたトイレを目にすると「汚い」「不潔だ」と感じるものです。
直感や感情を自分自身で制御するのは難しく、大半のケースにおいて自分の意思ではどうすることもできません。
人間が下す意思決定の多くは、速い思考によって行われているのです。
スロー(遅い思考・システム2)とは
「スロー」「遅い思考」「システム2」は、いずれも熟考によってもたらされる判断を表しています。
複雑な計算をしたり、入り組んだデータを読み解いたりする場合、じっくりと時間をかけて考えなくてはなりません。
直感や感情にもとづいて判断を下すことができないシーンに限り、発動するのが遅い思考の特徴です。
遅い思考を発動させるには、自分の意思で考えようとし、思考を制御する必要があります。
私たちは日頃よく考えた末に判断しているようでいて、実は熟考に至っていないケースが大半なのです。
速い思考(システム1)の特徴と具体例
「速い思考」「システム1」の特徴と具体例・問題点について解説します。
なぜ私たちは正しい判断を下せなかったり、十分に注意して行動できなかったりするのかが明確になるはずです。
速い思考の特徴
速い思考においては、経験にもとづく直感や感情によって判断が下されます。
判断するにあたって「考える」ための努力はほぼ全く必要ありません。
自分自身が考えて判断したという認識もないため、脳にかかる負荷は最小限で済むでしょう。
私たちは物事を判断する際に、最初に速い思考が発動されるのを避けることができません。
最初に発動するのが速い思考のため、別名「システム1」とも呼ばれているのです。
速い思考の具体例
速い思考を説明する際に用いられる有名な問題があります。
次の問題を答えを「直感で」考えてみてください。
バットはボールより1ドル高いとすると、ボールはいくらでしょう?
「1ドル10セント」と「1ドル」という数字が並んでいるのを見て、「ボールは10セント」と直感で答えた人は少なくないはずです。
落ち着いて計算すればすぐに分かることですが、仮にボールが10セントならバットは1ドル10セントになってしまいます。
合計1ドル20セントとなることから、「ボールは10セント」は誤りです。
ボールが5セント、バットが1ドル5セントでなければ計算が合わないということです。
速い思考の問題点
ボールとバットの問題が示しているように、速い思考はしばしば誤った判断を下します。
実際、ハーバード大学やブリンストン大学の学生でさえも半数以上が「ボールは10セント」と答えたのです。
能力が高いかどうか、論理的思考力が優れているかどうかに関わらず、速い思考に囚われてしまうのが人間の性といえるでしょう。
「ボールは10セント」と答えた人の中には、誤りを指摘されるまで計算ミスに気づかなかった人もいるはずです。
自分自身の直感によって導き出した判断を疑ってかかるのは容易ではありません。
速い思考がもたらす思い込みは「認知バイアス」と呼ばれています。
私たちは認知バイアスに囚われるリスクを常に抱えているのです。
遅い思考(システム2)の特徴と具体例
次に「遅い思考(システム2)」について見ていきましょう。
なぜ「速い思考」を「遅い思考」で補うことが難しいのかを押さえておくことが大切です。
遅い思考の特徴
遅い思考とは、じっくりと時間をかけて考える際に発動する思考を指します。
直感では判断できない複雑な状況に遭遇したとき、思考を司っているのが「遅い思考」と捉えてください。
遅い思考の主な役割は、速い思考が下した判断の誤りを検証し修正することです。
私たちが常日頃「理性」と呼んでいるものの大部分は、遅い思考と考えてよいでしょう。
遅い思考の具体例
ハンス・ロスリングらによる共著『FACTFULNESS』には、次のような次のような問題が紹介されています。
A 2倍以上になった
B あまり変わっていない
C 半分以下になった
速い思考で直感的に答えるとしたら、AまたはBを選ぶ人が多いのではないでしょうか。
日頃、私たちはニュースで報じられている洪水や地震、暴風雨、異常気象の様子を目にしているからです。
一度冷静になって「世界の人口はどれだけ増加したか」を思い出してみてください。
1920年代、世界の人口は18.6億人だったと推計されています。
「世界人口白書2023」によれば、世界の人口はすでに80億人を超え、2022年よりも約7,000万人増加しました。
実際には、自然災害による死亡者数は100年前の4分の1になっています。
さまざまな状況を考え併せ、じっくりと結論を導けば、「半分以下になった」が正解だと分かるはずです。
遅い思考の問題点
本来であれば、「遅い思考」は「速い思考」の弱点を補う役割を果たしています。
直感にはさまざまなバイアスがかかっているため、判断を誤りやすいからです。
一方で、遅い思考を発動させるには「自ら考える意思を明確に持つ」必要があります。
じっくりと集中して考えるには、多くのエネルギーと時間も費やさなくてはなりません。
実は、遅い思考は次に挙げる問題を抱えています。
- 速い思考を押しのけて遅い思考に到達できない(直感による判断は避けられない)
- 多くのエネルギーを消費するため、長時間考え続けるのは難しい
- 一度に1つのことしか熟考できない
上記のような遅い思考の特性を、カーネマンは「怠け者」と呼んでいます。
「遅い思考」はいつでも自在に発動できるものではないため、私たちは「分かったつもり」になりやすいのです。
ファスト&スローのマーケティングへの活用例
ファスト&スローの理論をマーケティングに活用するには、どのような視点で取り組むべきなのでしょうか。
マーケティング施策を練りに練っても成果が出ないようなら、次に紹介する視点で現状の施策を見直してみてください。
熟考された訴求ポイントの多くは「遅い思考」の産物
販売戦略やマーケティング施策を策定する際、多くの方は熟考に熟考を重ねて施策を決定していくはずです。
実際、マーケティング分析に役立つさまざまなフレームワークが提唱されています。
・3C分析
・PEST分析
・5フォース分析
・SWOT分析
・4P分析
・バリューチェーン分析
上記のようなフレームワークを駆使して考案されたマーケティング施策は、「遅い思考」の産物といえるでしょう。
一方で、見込み客や潜在顧客は商品やサービスを「じっくりと」「立ち止まって」検討するのでしょうか。
「広告を見かけた」「店頭で商品を手に取った」といったシーンでは、大半の見込み客が直感で意思決定を下しています。
「こだわり抜いて開発した商品なのに売れない」といった状況に陥るのは、ある意味自然なことと言えるかもしれません。
見込み客や潜在顧客は「購入する・しない」「興味がある・ない」を「速い思考」によって判断しているからです。
直感で判断を下される「速い思考」を意識しているか?
「なぜ競合他社の商品ばかり売れるのか?」を検証する際、自社と競合他社のどのような違いに着目しているでしょうか。
商品のスペックや機能性、デザインなどに着目するのは時期尚早かもしれません。
なぜなら、見込み客や潜在顧客は商品をじっくり比較検討していないか、商品の存在自体を認知していないからです。
見込み客の「速い思考」に訴えるには、まず目に留めてもらうためのインパクトが求められます。
キャッチコピーにインパクトのあるフレーズや印象に残りやすい表現を駆使し、「速い思考」に訴求する必要があるのです。
リピート購入やロイヤルカスタマーの醸成を支える「遅い思考」
見込み客を顧客化するフェーズにおいては、「速い思考」に訴えかける施策が重視されます。
注意点として、速い思考に訴えかける施策はあくまでも一時的な効果しかもたらしません。
たとえば、次のような経験をしたことは誰にでもあるはずです。
- ある商品の広告に惹かれて購入を決めた
- 実際に使い始めてみると、広告に謳われているほどの効果がなかった
- 商品に対して失望し、再び購入することはなかった
顧客は常に速い思考にもとづいて意思決定を下しているとは限らないのです。
購入後、じっくりと商品・サービスの良し悪しを判断し、再び購入すべきか検討し続けていると考えてください。
リピート購入やロイヤルカスタマーの醸成を重視するなら、顧客の「遅い思考」に訴える施策も軽視することはできません。
アフターフォローや購入後の情報提供など、既存顧客との信頼関係を強化していく施策を講じる必要があるでしょう。
まとめ
ファスト&スローは、行動経済学のさまざまな理論の集大成ともいえる本質的な理論です。
私たちはなぜ判断を誤りやすいのか、脳の仕組みから解き明かした理論といえるでしょう。
ファスト&スローはマーケティングだけでなく、日常生活やビジネスのあらゆるシーンで活用できるはずです。
今回紹介した基礎知識を元に、ぜひファスト&スローへの理解を深めていってください。
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