消費者行動の先読みが可能になる?行動経済学の理論7選

最終更新日: 2023/09/22 公開日: 2023/09/28
  • 消費者行動を予測するための良い方法はないだろうか?
  • 商品・サービスを消費者がなぜ購入するのか知る方法とは?
  • さまざまなマーケティング理論を学んでも成果につながらないのはなぜか?

上記のような疑問を抱えていませんか?

今回は、消費者の行動を先読みすることが可能になる「行動経済学」の理論を紹介します。

消費者行動の具体例や、行動経済学を活用する際の注意点にも触れていますので、ぜひ参考にしてください。

なぜ行動経済学で消費者行動を予測できるのか

消費者行動を先読みする上でなぜ行動経済学が役立つのか、いまいちピンとこないという方もいるはずです。

行動経済学がどのような学問なのか、なぜ消費者行動の予測に役立つのか整理しておきましょう。

消費者は合理的な理由にもとづいて購入しているとは限らない

行動経済学は、経済学と心理学が融合した学問です。

経済学では、理論にもとづいて現実の出来事を説明しようとします。

実際のところ、消費者行動は理論通りになるとは限りません。

消費者はそもそも合理的な理由にもとづいて「買う」「買わない」を決めているケースばかりではないからです。

一例として、次のような場面に遭遇したことはないでしょうか。

・1ヶ月あたり4,500円のサプリメント→「高い」と感じる→買わない
・1日あたり150円のサプリメント→「安い」と感じる→買う

150円×30日=4,500円であることから、「1日あたり150円」と「1ヶ月あたり4,500円」では価格に差はありません。

実は同じ値段であっても、「1日150円なら安い」と感じるのは合理的な判断とは言いがたいでしょう。

消費者が購入を決定するプロセスは、決して合理的な判断によるものばかりではないのです

非合理的な人間の行動を読み解く行動経済学

私たち人間が合理的な判断にもとづいて行動しているわけではない以上、経済学の理論が常に当てはまるとは言い入れません。

経済学の領域で「正しいはずだ」と言われている理論で説明がつかないことは、現実の世界に数多く存在します。

非合理的な人間の行動を受け入れ、現実に起きている出来事を研究の対象にしているのが行動経済学と捉えてください。

従来の理論では予測が困難だった消費者行動についても、行動経済学を駆使することで先読みできる可能性があるのです

消費者行動を先読みするポイントは「バイアス」

行動経済学の核となる概念の1つに「バイアス」があります。

バイアスとは「偏見」「先入観」という意味を表す言葉です。

無意識のうちに思い込んでいることが、人の行動や思考に多大な影響を与えるケースは少なくありません。

【行動経済学が扱うバイアスの一例】
・現在バイアス:未来よりも目先の利益を優先しがち
・正常性バイアス:異常を察知しても普段通りの状態が続くと思い込む
・確証バイアス:自身の思い込みや願望を強化する情報を重視してしまう
・自己奉仕バイアス:成功は自分の能力のおかげ・失敗は外的要因のせいにする
・内集団バイアス:所属する集団のメンバーをひいきしたくなる
・後知恵バイアス:結果を知った後で、事前に予想できていたかのように捉える

行動経済学は、人間は誰しもさまざまなバイアスに囚われており、認知能力は完全ではないこと前提としています。

多くの消費者に共通するバイアスを把握しておくことによって、消費者行動の先読みが可能になるのです

消費者行動を先読みする行動経済学の理論7選

消費者行動を先読みする行動経済学の理論には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

とくに重要度の高い理論7選を紹介します。

現状維持バイアス

現状維持バイアスは現在バイアスから派生した概念の1つで、未知の物事は受け入れたくないと感じる心理を表しています。

新しいものを受け入れることによって、現在持っているものや現状の環境を失うかもしれないという心理に根差した心理です。

現状維持バイアスは、消費者がモノやサービスを購入・契約する際の行動にも当てはまります。

見たこともないもの、一度も購入したことがないものより、購入経験があるもの、使ったことがあるものに安心感を覚えるのです

【消費者行動の例】
・アプリのサブスクリプションサービスに「無料期間」を設ける
・無料期間中に一定数のユーザーが毎日のように利用するようになる
・すでに体験した利便性を失わないよう、無料期間が過ぎても課金して使い続ける

フレーミング効果

フレーミング効果とは、同じ意味の情報であっても切り口や見せ方によって印象が大きく変わることを指します。

印象が異なれば、購入時の意思決定にも影響を与えることは想像に難くありません。

キャッチコピーや商品説明文の表現1つで、消費者の印象を大きく左右しかねないのです

【消費者行動の例】
・「表示価格から300円引き」という表示は情報量が多い
・最も伝えたいメッセージを絞り、「半額セール」と表示する
・半額という文字に惹かれて購入する顧客が増える

おとり効果

おとり効果とは、複数の選択肢の中にあえて「選ばれない」ものを混ぜておくことで、別の選択肢を選びやすくすることを指します。

人は無意識のうちに「損をしたくない」と感じるため、他よりも劣った選択肢を自然と除外するからです。

企業が消費者に勧めたい商品がある場合や、価格設定の面で心理的なハードルを下げたい場合に用いられます

【消費者行動の例】
・5万円と8万円の羽毛布団を並べて販売すると8万円の商品が売れない
・より高額な12万円の羽毛布団を加え、商品ラインナップを3段階にする
・真ん中の価格帯となった8万円の羽毛布団が最も売れるようになる

サンクコスト

サンクコスト(埋没費用)とは、すでに回収できる見込みがないコストのことを指します。

回収できる見込みがないと分かっていても、投じてきたコストが惜しいと感じ、損切りできなくなってしまうのです。

「せっかく続けてきたのだから」「今やめるのはもったいない」という心理が、継続的なサービスの利用や商品購入につながります

【消費者行動の例】
・購入ごとにポイントが貯まる会員カードを店頭で受け取る
・100ポイントで次回購入時の割引サービスが適用される
・せっかく貯めたポイントがもったいないと感じ、同じ店舗で買い物をする

マッチングリスク意識

マッチングリスク意識とは、購入した商品やサービスが自分に合うのかどうか懸念する心理のことです。

「買って後悔しないだろうか?」という考えが頭をよぎることにより、消費者が購入を踏みとどまる大きな要因となり得ます。

実際に後悔するかどうかは使ってみなければ分からないケースが大半のため、消費者の判断は流動的になりがちです。

消費者の不安や懸念点をいかに払拭し、「購入してみよう」という判断に傾いてもらうかがポイントとなります

【消費者行動の例】
・購入時に「買って後悔しないか」を想像し、不安な気持ちになる
・購入後1週間は理由を問わず返品保証が付いていることを知る
・万が一後悔しても返品できるなら安心できると考え、購入に踏み切る

シャルパンティエ効果

シャルパンティエ効果とは、イメージによって判断が大きく左右されることを指します。

同じ情報を伝えていたとしても、伝え方しだいで印象が大きく変わる可能性があるのです。

キャッチコピーなどを考える際には、誰にとってもイメージしやすい表現かどうかを吟味する必要があるでしょう

【消費者行動の例】
・インスタント味噌汁1杯で「オルニチン25mg」が摂取できる→イメージしづらい
・インスタント味噌汁1杯で「シジミ70個分のちから」が得られる→イメージしやすい
・「シジミ70個分はかなり多い」と実感し、購入してみようと考える

アンカリング効果

アンカリング効果とは、事前に与えられた情報が基準となり、意思決定に影響を与えることを指します。

マーケティングでは、しばしば価格表示に活用される心理効果です。

値引き前の価格をあえて知らせることで、元値に対してどれだけお得かが実感しやすくなります

【消費者行動の例】
・2万円の炊飯器Aと2万5,000円の炊飯器Bを店頭で見かける
・炊飯器Bには「通常価格3万円」と表示されている
・「5,000円もお得だ」と感じた消費者は、炊飯器Aよりも高い炊飯器Bを選ぶ

行動経済学を活用する際の注意点

行動経済学の理論を元に消費者行動を予測する場合、いくつか注意しておきたい点があります。

行動経済学を有効に活用していくためにも、次の3点に留意しましょう。

理論が「常に」「誰にでも」当てはまるとは限らない

行動経済学の理論は、人の行動を実際に観察し、実証実験等を経て提唱されています。

多くの人に共通する心理や行動の傾向を表しているとはいえ、万人に必ず当てはまるとは限らない点に注意してください。

たとえば、検証された際の環境とは大きく異なる条件下では、消費者の行動にも違いが見られる可能性があります。

行動経済学の理論が「常に」「誰にでも」当てはまると捉えてしまうと、消費者の実態を見誤る原因にもなりかねません。

多様な消費者がいること、人によって考え方やものの捉え方は千差万別であることを念頭に置きましょう

効果をデータで確認し改善を図る

行動経済学を元に仮説を立て、マーケティング施策に反映させた際には、必ず効果をデータで確認することを習慣化してください。

消費者行動が予測した通りになっているか、予測と大きくかけ離れていないかを確認し、改善を図っていくことが大切です。

求める成果によって、選択すべき理論は異なります。

理論自体は実証されているものであっても、選択する理論を見誤っていれば成果にはつながらないでしょう。

データを記録として残していくことで、商材やサービス提供形態と相性のよい手法を見極めるヒントになるはずです

消費者を欺くのではなく「導く」

行動経済学は消費者行動の予測に役立つ理論だからこそ、悪用することのないように十分注意する必要があります。

たとえば、「おとり効果」を活用する場合、おとりに使う選択肢は実在する商品であることが大前提です。

実際には取引の対象になり得ない商品等をチラシやWebサイト等に掲載する、いわゆる「おとり広告」は景品表示法違反となります。

行動経済学は消費者を「欺く」ためのツールではありません。

消費者を自然な形で導き、消費者にとってより良い選択ができるよう促すのが本来の役割です

行動経済学の本質的な用途・目的を履き違えないように注意しましょう。

まとめ

行動経済学の理論を取り入れることによって、消費者行動を予測した販売戦略やマーケティング施策を講じられます。

今までにさまざまな理論を学んでも成果が出なかったという方は、より現実に即した行動経済学を活用してみてはいかがでしょうか。

消費者の実態により近い理論を駆使していくことで、「選ばれる」「手に取ってもらえる」施策を実現しやすくなるはずです。

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最終更新日: 2023/09/22 公開日: 2023/09/28