ゲームとは無関係な事柄にゲームの要素を加えることをゲーミフィケーションと言います。
ゲーミフィケーションを取り入れることで顧客を楽しませることができ、長期的に自社の商品・サービスを購入し続けてもらえる効果がありますが、自社でどのように活用すればよいのか悩んでしまうのではないでしょうか。
この記事ではゲーミフィケーションをマーケティングに活用する方法や必要な要素、成功事例を解説します。
これからゲーミフィケーションを取り入れたいと考えている経営者の方は、ぜひ最後までお読みください。
ゲーミフィケーションとは
ゲーミフィケーションは「ゲーム化」とも言い、ゲーム以外の物事にゲームの要素を取り入れることです。
ゲームには人を熱中させる要素があり、それをマーケティングや研修などに取り入れることで、モチベーションやロイヤリティを向上させられます。
イギリスのLXA社の調査では、現在世界の70%の会社がゲーミフィケーションを取り入れており、2025年までにゲーミフィケーションの売り上げは320億ドルになると予測されています。(参考:LXA『Gamification in Marketing: Stats and Trends for 2023』)
ゲーミフィケーションを活用するために必要な要素
人々がゲームに熱中する要素をマーケティングに取り入れることで、能動的にプレイヤーを行動させることができます。
ゲーミフィケーションに取り入れるべき要素は次の5つです。
- クエスト
- 可視化
- リワード
- プレイヤーのタイプ
- プレイ・ルール
1. クエスト
クエストとはゴールのことです。ゲームにはゴールがあるからこそクリアしたくなります。ゲーミフィケーションにも目指すゴールがないと、目的を見失いモチベーションが上がりません。
ゲーミフィケーションのプレーヤーに最終的にどのようになってもらいたいのかを明確にしてクエストを検討することが大事です。
クエストは最終的なゴールのことですが、段階的に小さな目標を設置しても良いでしょう。小さな目標はミッションと言います。
ドラゴンクエストを例にすると、クエストはラスボスであり、ミッションは旅をする途中で訪れる各エリアでの冒険のことです。
2. 可視化
RPGでもキャラクターのレベルや冒険の地図での位置情報などがわかるようになっています。ゲームでは自分のレベルや立ち位置がわかることでモチベーションが上がるため、それを可視化しなければなりません。
ゲーミフィケーションの基本的な要素にPBL「Point(ポイント)」「Badges(バッジ)」「Leader Board(リーダーボード)」があります。これらを可視化することで自分の立ち位置がわかり、周囲との比較ができます。
Point
ポイントはゲームのスコアのことです。ポイントを集めたり、ポイント数で競争したりすることでモチベーションを高められます。
ポイントの達成度を可視化できるとともに、ゲームの管理者はポイントをプレイヤーのエンゲージメントを測定するための指標としても使えます。
Badges
バッジはポイントを集めて一定のレベルに達したら与えられるステータスです。
ポイントを集めることがチャレンジとなり、ゲームに参加したいという気持ちを高められます。
スターバックスのアプリには「マイストアパスポート」という機能があり、新しい店舗でアプリで支払うとスタンプがもらえます。スタンプはポイントと同じ役割です。
一定数の店舗に行くとメダルと呼ばれるバッジがもらえます。スタンプやメダルには多くの種類があるため、ユーザーにコレクションしたいと感じさせてスターバックスに来店する動機付けとなっています。
Leader Board
リーダーボードはランキングのことです。ランキングは主にバッジの数で順位付けを行います。ランキングを見たプレイヤーは競争心を掻き立てられ、もっと上位に行こうとして真剣に取り組むようになります。
上位者には特別な報酬などを用意することで、モチベーションを上げられるでしょう。
あまりにも上位者と下位者の差が開きすぎると、下位者のモチベーションが下がる可能性があるため、取り扱いには注意が必要です。
管理者にとってもプレイヤーの進捗が一目でわかるため、下位者の背中を押すような施策を講じることが求められます。
3. リワード
リワードとはプレイヤーがゲームをクリアしたときにもらえる報酬のことです。リワードによってプレイヤーのモチベーションが大きく変化するため、魅力的なものにする必要があります。
リワードは「マネタリーリワード」「ソーシャルリワード」「インナーリワード」の3種類があり、どのリワードを与えるかによってプレイヤーのモチベーションの質が異なります。
マネタリーリワード
マネタリーリワードは金銭的、物質的な報酬のことです。お金やポイント、豪華な賞品が報酬になります。
シンプルでわかりやすく、短期間でモチベーションが一気に上がるメリットがあります。あまり興味関心を持っていない人に対して有効的です。
一方でお金や商品のためにプログラムに取り組むことになるので、自らすすんで挑戦しようという気持ちになりづらく、モチベーションが持続しづらいデメリットがあります。
ソーシャルリワード
ソーシャルリワードは社会的な報酬です。他者からの評価が報酬になります。他のプレイヤーからのポジティブな評価や関係性が、自分のモチベーションを向上させるのです。
人には承認欲求があります。マズローの欲求5段階説では承認欲求は4段階目であり、高いレベルの欲求です。他のプレイヤーから賞賛されることで欲求が満たされ、自立を促します。
ソーシャルリワードの取得に失敗したプレイヤーは劣等感を抱く可能性があるため、プログラムに工夫が必要です。
インナーリワード
インナーリワードは自分自身への報酬です。クエストをクリアしたときの達成感などの心理的な満足感が得られます。
インナーリワードはマズローの欲求5段階説の最上位である自己実現欲求につながるもので、自己実現欲求が満たされた状況で付与されることが理想的です。
オリンピックの金メダルのような金銭的価値は低いけれども大きな達成感が得られる報酬や、ホテルの高リピーターに対するVIPプログラムのような自分だけの特別待遇などがインナーリワードと言えます。
4. プレイヤータイプ
ゲーミフィケーションを取り入れたプログラムを作成する場合、どのようなタイプのプレイヤーが多いのかを認識しておく必要があります。
イギリスのゲーム研究者であるリチャード・A・バートルは、プレイヤータイプを4種類に分けたバートルテストというフレームワークを発案しました。
バートルテストではプレイヤーの行動や喜びの感じ方によって「アチーバー」「エクスプローラー」「ソーシャライザー」「キラー」に分けています。
1. アチーバー(Achiever)
アチーバーはクエストを達成することに満足感を得るプレイヤーです。一人でコツコツ目標を達成する努力家で、ゲームそのものに興味を持っています。
達成したい気持ちが強いため、細かく目標を設定しインナーリワードを報酬とすると、モチベーション高くプログラムに挑戦します。
2. エクスプローラー(Explorer)
エクスプローラーは好奇心が強く、新しい情報やスキルを身につけることで満足します。
他の人と交流をしながら自分が得た情報などを共有し、他者との関係性を構築しながらゲームを進めていきたい気持ちが強いです。
3. ソーシャライザー(Socializer)
ソーシャライザーは他人とのコミュニケーションが得意で社会的に関わりを持つことに満足を感じます。
人間関係を重視し、他のプレイヤーと協力し合ってゲームを進めていくため、一緒に組んだ人によってモチベーションが変わります。
4. キラー(Killer)
キラーは競争心が強く自分が人より上位にいることで満足感を得ます。ゲームの内容よりも勝負事に関心があり、ゲーム内の誰が一番強いかを明確にしようとします。
ランキングなどで順位の可視化が必要で、客観的に強さを証明できるような工夫が必要です。
5. プレイ・ルール
どんなゲームにもルールがあるように、ゲーミフィケーションを取り入れたプログラムにもルールが必要です。ルールがあることで、プレイヤーは安心して何をすべきかを判断できます。
ルールがあいまいであるとプレイヤーは不安になり、モチベーションも下がってしまうでしょう。
ゲーミフィケーションの取り入れ方3ステップ
ゲーミフィケーションを取り入れるには、プレイヤーの楽しみを考えることが重要です。楽しみながらマーケティング要素を入れたクエストをクリアする達成感を与えられるような目標設定やゲーム内容を考えます。
単純なものでも顧客の興味関心に沿った内容であれば熱中してもらえる可能性があります。
1. ゴールを設定する
ゴールとはリワードや目標のことです。売上アップや顧客ロイヤリティの向上、新規顧客の獲得など、ビジネス目標を検討しましょう。
2. ゲームの内容を考える
ゴールにどのような手順で進んでいくのかの仕組みを考えます。プレイヤーにゲームで何をしてもらい、どのように測定するのかを決め、可視化することでプレイヤーの行動を分析することができます。
3. プレイヤーの感想を聞き改善を繰り返す
実際にゲームをプレイしてもらい、プレイヤーに感想や意見をもらいましょう。一度ゲームを作っても良い成果はなかなか生まれません。プレイヤー一人ひとりの意見を聞き、最大値を取って改善することが大切です。
ゲーミフィケーションを活用した成功事例7選
多くの企業が様々な形でゲーミフィケーションを取り入れています。ここでは、主要な7社のゲーミフィケーション活用事例を紹介します。
1. くら寿司株式会社
くら寿司には、食べ終わった皿の合計金額を計算するシステムにゲームを組み合わせた「ビッくらポン!」というシステムがあります。5皿で1回ゲームができ、当たりが出ると景品がもらえます。
「ビッくらポン!」はもともと食べ終えた皿を積み上げるのが恥ずかしい女性のために開発され、従業員の皿の数え間違いや片付け作業の簡略化などのメリットもあり全店に導入されました。
ゲームをしたくて、4枚食べたならもう1枚食べようという気持ちにさせるため、消費の促進にもつながっています。
2. 日本コカ・コーラ株式会社
日本コカ・コーラは「Coke On」という公式アプリを提供しています。
Coke OnアプリはCoke On対応自動販売機に接続して購入すると、スタンプがもらえ、スタンプを15個集めるとドリンクチケットと交換できるシステムです。
アプリをインストールしている人はスタンプを集めるために、コカ・コーラ社の自動販売機を選ぶことが増えるため、他社との差別化ができます。
Coke Onアプリには、お金をチャージできる「Coke On Wallet」機能もあり、小銭を持ち歩かなくてもスマートフォンだけで自動販売機からドリンクを購入することも可能です。
歩くだけでスタンプがもらえる「Coke Onウォーク」機能もドリンクをもらいやすく、消費者にコカ・コーラのドリンクを選んでもらいやすいシステムとなっています。
3. Nike Inc.
Nikeはスマートフォンのスポーツアプリ「Nike+ Run Club」を2016年8月にリリースしました。
「Nike+ Run Club」では、自分のスケジュールに合わせてカスタマイズできる「マイコーチ」というコーチング機能を使えます。
自分のランニング成果は「Nike+ Run Club」で公開でき、世界中のユーザーと順位を競い合うことや、自分が走ったルートを「ステッカー」として共有することも可能です。
世界中にランニング仲間がいて順位が表示されるため、競争心が芽生えてトレーニングを続けやすくなります。
4. マイクロソフト・コーポレーション
世界中でソフトウェアを販売しているマイクロソフトは、ソフトウェアで使う言語を販売する国のものにする必要があります。
少しでも早く多くの言語のバグを見つけて修正するために、マイクロソフトは「Language Quality Game」を開発しました。
誤った言語表記を確認するゲーム「Language Quality Game」は、間違いを見つける度にポイントが与えられ、言語チームで競うものです。
マイクロソフトにはソフトウェアの翻訳部署もありますが、それ以外の従業員4,500人がゲームに参加し、500,000ページの修正に貢献しました。
競争心を煽ることで参加者全員が集中し、作業スピードが速くなったのです。
5. 株式会社ドミノ・ピザ ジャパン
ドミノ・ピザのエデュケーションアプリ「PERFECT PIZZA MAKER」では、遊びながらドミノ・ピザのトッピングなどを覚えられます。
ピザを焼くには時間がかかり、宅配の場合は届くまでお客様に30分程度待ってもらうのが普通です。教育のためにピザを焼く時間がかかってしまえば、お客様に迷惑がかかり、注文されないピザを焼くのも食材の無駄になります。
「PERFECT PIZZA MAKER」では、ピザを焼くシミュレーションができるため、自分が覚えるまで何度も繰り返しプレイすることができます。
アプリのユーザー同士で早く正しくピザを焼くことを競い合うこともできるため、早く一人前の従業員として働くことができるでしょう。
6. スターバックス株式会社
スターバックスは、公式モバイルアプリを提供しています。アプリで支払うとStarというポイントが貯まるStarbucks Rewardsというシステムがあり、それに参加すると、タンブラー部というコンテンツが楽しめます。
タンブラー部はスターバックスでビバレッジを購入する際、タンブラーやマグカップで注文すると、クマのキャラクター「ベアリスタ」が成長するというゲームです。
月に1回タンブラーで注文すると、その月だけもらえるカードコンテンツを読むこともできます。
ベアリスタの成長を楽しみながら、ペーパーカップの使用を控えて環境に貢献できるコンテンツです。
7. フォルクスワーゲンAG
フォルクスワーゲンは「The Fun Theory」というプロジェクトを企画しました。
「The Fun Theory」は楽しいことは人々の行動をより良い方向に変化させることをコンセプトにしたサイトです。
例えば、世界で最も深いゴミ箱と名付けられたゴミ箱に、ゴミを捨てるとゴミが落下する「ヒューン」という音が聞こえます。その音はかなり長くどこまでも落ち続け、最後に「ドン」という音でゴミが底に着いたとわかります。
実際のゴミが落ちる音ではなく、あらかじめプログラム化された音が鳴っているだけですが、多くの人が面白がりゴミ箱にゴミを捨てるようになりました。
「ゴミはゴミ箱に捨てましょう」と言っても誰も守らなかったことが、ゲーミフィケーションのアイデアにより人々が自らゴミ箱に捨てるようになった画期的なアイデアです。
ゲーミフィケーションで顧客に能動的に自社を選択してもらう
この記事では、ゲーミフィケーションの要素や活用方法、事例について説明しました。
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