「売りたいが値段は下げたくない」という悩みを解決する価格設定の心理効果について、この記事では解説します。
価格に対する消費者の捉え方や、値下げする前に経営者として考えておくべきことにも触れていきます。
- より多くの商品を売るにあたって、値下げ以外に良い方法はないだろうか?
- 値下げは極力しないという方針で事業を続けて問題ないのか?
- 値段を下げずに競合他社に勝つ方法はないだろうか?
上記のようなことで悩んでいませんか?
大切な考え方をお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
「値段を下げたくない」事業方針が好ましい3つの理由
結論からお伝えすると、「できれば値段を下げたくない」というスタンスは事業方針として望ましいものです。
なぜ安易に値下げしないほうが良いのか、基本的な考え方から確認しておきましょう。
値下げは利益減に直結する
商品の販売価格を下げることは、利益減に直結します。
たとえわずかな値下げであっても、年間の利益で考えると深刻な影響を与えかねません。
企業の売上は、言うまでもなく商品やサービスの販売によって確保されています。
仮に商品Aの値段を2%下げたとすれば、商品Aによってもたらされる総利益が2%減ることになるのです。
もし自社の利益率が4%だとすれば、純利益が2%減ることで利益率は半減してしまうでしょう。
商品一点あたりの値下がりはわずかなものであっても、積もり積もっていくことで大きな利益減につながりかねないのです。
値下げしなくても購入する顧客を大切にできる
値下げしない戦略が正しい理由の2つめは、値下げしなくても購入してくれる顧客を大切にできるという点です。
値下げしたことで商品を購入する消費者の中には、「安くなったこと」が主な購入動機という人も含まれているでしょう。
将来的に競合他社がさらに安い価格で商品を販売し始めたとしたら、他社に流れる可能性の高い顧客といえます。
一方、値下げしなくても購入している消費者の中には、価格以外の理由で商品を購入し続けている人も含まれているはずです。
現状の価格で購入している顧客を大切にしていくことにより、結果として安定した売上・利益の確保につながる可能性があります。
価格競争に巻き込まれるのを回避できる
安易に値下げをする癖がつくと、価格競争に巻き込まれやすくなります。
価格を下げること自体は簡単にできるため、短期的に売上を伸ばすには手近な方法のように思えるかもしれません。
裏を返せば、同じように「値下げすることで直近の売上を伸ばしたい」と考えている企業は少なくないはずです。
競合他社よりも安い値段で販売していくうちに、利益がほとんどなくなるまで値下げを続ける消耗戦へと突入してしまいます。
薄利多売のビジネスモデルが成立しやすいのは、資金が潤沢な大手企業です。
安易に値下げをすることによって、大手企業に有利な市場を築く手助けをすることにもつながりかねません。
消費者は値引きを望んでいるか?
「値引きをしたい」という誘惑に打ち克つには、価格に対する消費者心理を知っておくことが大切です。
消費者にとって値引きが実際どの程度のインパクトを与えるのか、次の3つの視点から考えてみましょう。
買いやすい値段が必ずしも「安い」とは限らない
「消費者は高いものより安いものを好む」「多くの人はできるだけ安く買いたいと感じている」と思い込んでいませんか?
たしかに消費者はしばしば「安いほうがいい」「安く買いたい」といった言葉を口にします。
実際のところ、どこまで本音で「安く買いたい」と言っているのか注意深く考えておく必要があるでしょう。
もし本当に安いものほどよく売れるのであれば、安価な軽自動車ではなく高級車を買う人がいるという事実を説明できません。
消費者が口にする「安く買いたい」は、必ずしも本音とは限らないのです。
値下げの誘惑に打ち克つには、そもそも消費者が「安い商品を望んでいる」という先入観に疑いの目を向ける必要があります。
「安い」ことが裏目に出る場合もある
値下げをして安く販売することが、むしろ裏目に出ることも考えられます。
安いことは消費者に良い印象を与えるケースばかりではなく、かえって不信感を抱かせる原因にもなり得るからです。
たとえば格安航空券を予約する際、「正規料金8万円の航空券が800円で購入できる」と知ったら、どう感じるでしょうか?
100分の1の価格で販売されていることに不審を抱き、「本当に大丈夫なのか?」「安全性に問題はないのか?」と感じるはずです。
消費者の心理は「安ければ安いほど喜んで買ってくれる」ほどシンプルではありません。
安い=喜ばれるという図式から脱却する必要があります。
「値段に見合った価値」は常に揺れ動いている
消費者がさまざまな商品やサービスに対して感じる「高い/安い」という印象は、実は固定化されていません。
飲食店で600円のランチを「安い」と感じて注文しても、接客マナーに不快な印象を抱いたとすれば「損をした」と感じるでしょう。
「値段に見合った価値」は、置かれた状況や心理状態によって上がりも下がりもするのです。
商品の値段を下げたからといって、消費者が「お得だ」と感じるとは限らないともいえるでしょう。
値段と価値が常に連動しているわけではないという点は、価格設定の基本として必ず押さえておきましょう。
値段を下げずに売れる値段の付け方|心理的価格戦略7選
値段を下げずに売上アップを目指すのであれば、価格が消費者にもたらす心理効果を理解し、価格戦略を立てるのが得策です。
心理的価格戦略として、次の7つを紹介します。
価格帯ごとに分ける「プライスライニング」
プライスライニングとは、商品をグレード別に分け、グレードに応じた値段をつけることを指します。
身近なところでは、スーパーマーケットの牛乳売場は典型的なプライスライニングの事例といえるでしょう。
たとえば、138円・188円・238円といったように、3〜4種類の値段で牛乳が売られているパターンがよく見られます。
普段から188円の牛乳を買っている人は、1本188円という値段に関して「高い」「安い」とわざわざ考えることはないでしょう。
価格設定を習慣づけてしまうことで、高いかどうか考える余地を少なくする効果がもたらされるのです。
中間を選びたくなる「段階価格」
段階価格とは、あえて複数の価格帯の商品を提供することで、中間の価格帯の商品を購入するよう促される心理効果のことです。
いわゆる「松竹梅」の3段階であれば、多くの消費者は「竹」を選ぶことが知られています。
最も安い「梅」を選ぶことによって、すぐに壊れて使えなくなるといった損失を被りたくないと多くの人が考えるからです。
人は無意識のうちに損失を回避する行動を取ることを、行動心理学では「プロスペクト理論」と呼んでいます。
将来被る可能性のある損失を予測し、最も無難な値段の商品を選びたくなる心理を利用した価格設定方法といえるでしょう。
選択肢を設けない「均一価格」
均一価格とは、どの商品も同じ価格で統一することを指します。
典型的な例が100円均一ショップです。
店内に陳列された商品の全てが100円であれば、消費者は「高い/安い」を判断する必要がありません。
実際には商品によって仕入値が異なるはずですが、商品ごとの仕入値をいちいち考える人はまずいないでしょう。
どの商品を買っても100円と分かっていれば、消費者は安心して買い物ができます。
結果として、今すぐに必要でないものまで「ついで買い」をしてしまうのです。
セット購入を促す「抱き合わせ価格」
抱き合わせ価格とは、特定の組み合わせで複数の商品を購入すると本来の合計価格よりもお得になる価格設定のことを指します。
抱き合わせ価格を設定する商品の組み合わせは、次のパターンがほとんどです。
- よく購入されるものの利益が少ない商品
- あまり購入されないものの利益が多い商品
よく購入される商品のニーズに引きずられて、今すぐに購入する必要のない商品もセット購入するケースは少なくありません。
利益を確保しつつ、消費者に「お得だ」と感じてもらいたい場合に適した価格設定といえるでしょう。
価格が価値を決定づける「名声価格」
あえて値段を高くすることによって、価値を引き上げる効果がもたらされることを名声価格といいます。
価格が高いことによって「価値があるに違いない」と感じられるのは、美術品や骨董品が典型例といえるでしょう。
本来、価格と価値は連動していないものですが、高い値段がついているからには何らかの理由があると感じることもあり得るのです。
ブランディングとも密接に関わっているため、「高いほうが好印象を与える場合もある」点を押さえておきましょう。
名声価格の効果を知ると、安易な値下げが得策でないことがより理解しやすくなるはずです。
刷り込み効果を利用する「慣習価格」
慣習価格とは、特定の商品の値段がすでに決まっていると思い込む心理効果のことです。
現在、自動販売機の缶飲料は120円で売られており、缶飲料といえば120円という感覚は広く浸透しています。
缶飲料は1992年まで100円で販売されていたものの、現在では「120円の飲み物は高い」と感じる人はほとんどいません。
別の見方をすると、缶飲料の値段を多少下げたとしても売上を大幅に伸ばすことは難しいと考えられます。
一般的な販売価格を浸透させることにより、値段は購入する・しないを決定づける要因ではなくなるのです。
安さを印象づける「端数価格」
端数価格とは、「298円」「1,980円」のようにあえて端数を残して値段をつけることをいいます。
200g入りで200円の精肉と、198g入りで198円の精肉が並べられていた場合、198円を手に取る人が多いのではないでしょうか。
端数価格が設定されていることによって、心理的に「お得だ」と感じやすくなるのです。
実際はどちらも1g=1円であり、売り手側にもたらされる利益に差はありません。
正味の販売価格を変更することなくお得な印象を与えたい場合に活用できる手法といえるでしょう。
値段を下げる前に考えるべきこと
値段を下げなくても、さまざまな工夫を凝らすことによって売上や利益を確保できることが実感できたでしょうか。
値下げに踏み切るのは、講じるべき手立てが尽きた時の最終手段と捉えることが大切です。
値段を下げる前に、次の点について考えておく必要があるでしょう。
「なぜ自社商品を購入するのか」を言語化する
値下げをしていない状態でも、商品を購入してくれる顧客は一定数いるはずです。
「安くなくても買う」顧客は、なぜ自社商品を選んでいるのか理由を明確に把握しているでしょうか。
企業側が価値を感じている部分と、顧客が価値を見出している箇所にずれが生じているケースは決して少なくありません。
顧客ニーズを改めて分析し、言語化しておくことが大切です。
顧客が価値を見出しているポイントを強く打ち出せていないようなら、打ち出し方を変えることで売上が伸びる可能性があります。
自社の強みを発揮できる売り方・市場に集中する
値段を下げる以外に他社と差別化する方法がないとすれば、自社の強みが活かし切れていないのかもしれません。
スターバックスコーヒーが「自分らしく過ごせる空間」「第三の場所」を打ち出して成功を収めたのは、差別化の好例です。
コーヒーを他店よりも美味しく・安く・早く提供するという点を追求していたとすれば、決して出てこなかった発想でしょう。
製品やサービスの立ち位置を明確化する「STP分析」を活用し、訴求すべき市場と自社の優位性を再発見することが大切です。
あえて「値上げ」に踏み切る戦略もあり
値下げとは正反対の戦略として、「あえて値上げする」という方法もあります。
値段を上げれば、価格の安さが最大の魅力と感じていた顧客は離れていくでしょう。
安さだけを求める顧客とは、思い切って決別する覚悟が必要な場合もあるのです。
一方で、価格以外の面に魅力を見出していた顧客は、少々値上げをしたとしても購入し続けてくれる可能性があります。
値上げをすれば、当然のことながら利益が増えるはずです。
増えた分の利益を原資に、商品の改良やサービス向上に磨きをかけましょう。
「高くても売れる→利益が増える→サービスが改善される→ファンが増える」という好循環を生み出していくことが大切です。
値段を下げずに売れやすい価格設定で成功した企業事例
商品自体の価格を下げずに売上アップに成功した企業はたくさんあります。
有名企業の商品やサービスにも価格における心理効果が多数使われているので、ぜひ成功事例を参考にしてみてください。
サイゼリヤ|均一価格で売上アップを実現
コスパのいいイタリアンレストランチェーンのサイゼリヤは、売れやすい価格と言われる端数価格に設定していたものの、2020年に均一価格に値上げしました。
ミラノ風ドリアは299円から300円、シーフードパエリアは599円から600円に値上げしましたが、均一価格に設定することによってお釣りを渡す時間を減らすことに成功したのと、キャッシュレス決済の導入が業務効率化につながり、売上アップに成功しました。
任天堂|セット販売で利益増加
任天堂は2020年にNintendo Switch本体をはじめ、ダウンロードソフトやJoy-Con、キャリングケースをセットにした「Nintendo Switch あつまれ どうぶつの森セット」を発売しました。
セット購入による割引を設定したことによって、次の決算において売上高は2倍、営業利益が5倍に。
Nintendo Switch本体を持っていない新規客を取り込んだのが、成功の要因と言えます。
オリジン弁当|価格帯を増やして売り上げアップ
オリジン弁当は2012年にもともと1種類だった幕の内弁当を、「並450円」「上490円」「特上690円」と3種類の価格帯に変更しました。
これにより、段階価格によって中間価格を選ぶ顧客が増え、売上がアップしたと考えられます。
また、中間の価格帯を「並」とするのではなく、「上」にすることによって高級感のアピールにも成功しています。
まとめ
「もっと売りたい」と「値段を下げたくない」は、両立可能な事業方針といえます。
安易に値段を下げないことによって、売り方や強みの打ち出し方をより深く考えることにもつながるでしょう。
今回紹介した価格設定の心理効果を参考に、ぜひ「値下げしなくても売れる」仕組みを確立してください。
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