トヨタ自動車の生産体制は、トヨタ生産方式と呼ばれ、多くの企業の手本となっています。
トヨタ生産方式の基盤となっているのは、様々な作業を行える多能工の存在です。
多能工を自社でも育成したいと思っている人も多いですが、全従業員のスキルを把握するのは大変でしょう。
そこで役に立つのが、スキルマップです。スキルマップは従業員のスキルや知識を見える化し、人材育成に活用することができます。
この記事では、多能工やスキルマップについて学びたい人のために、多能工を育成するメリットや、スキルマップの作り方などを解説します。
ぜひ自社の人材育成に役立ててみてください。
トヨタ自動車の多能工とは
多能工とは、1人で様々な作業を行うことができる社員のことです。
トヨタ自動車の大野耐一元副社長が、繊維工場で女工が複数の機械を一人で操作して動かしているのを見て、多能工を考えました。
以前のトヨタは、1人の従業員がずっと同じ作業を行って車を組み立てるフォード生産方式をとっていました。
1人の従業員が同じ作業だけを担っていると、時期によって忙しい従業員と忙しくない従業員に差が出てしまい、人材を効率的に動かせません。
トヨタでは、仕事の偏りを防ぐために、仕事量によって様々な仕事が担えるような人材を育成しました。それが多能工です。
この多能工が活躍する方法は、トヨタ生産方式と呼ばれ、多くの企業が取り入れています。
多能工を育成するメリット
トヨタ自動車は、多くの多能工を育成したことで、様々な車種を臨機応変に作り出せるようになり、業績が向上しました。
また、天災などで1つの工場が危機に面したときにも、助け合える体制が整っているため、より早く復旧でき、地域にも貢献しています。
これらはトヨタ自動車の事例ではありますが、多能工を育成することで多くのメリットを得られるので、詳しく説明していきましょう。
業務の割り振りを均等にできる
多能工は複数の作業を1人でできるため、自分の仕事量が少ないときに、忙しい部署を手伝うことが可能です。
1つの部署もしくは誰か1人に作業が集中しないため、「なぜ自分だけ忙しいのか」という不満がなくなります。
トヨタでは、多能工は隣り合った工程を自由に行き来でき、生産ラインが忙しい工場に出向いて仕事をするのが当たり前と考えられているのです。
チームワークが向上する
多能工は他の部署を手伝うことが一般的に行われているため、お互いをフォローし合うマインドが育ち、信頼関係が構築されます。
また、お互いの業務を経験することで、それぞれの業務の苦労がわかり、「自分だけが大変なわけではない」という気持ちも生まれます。
結果として、チームワークの良い職場ができるのです。
当日欠勤者が出ても、その人の仕事をすすんでフォローする風土があるため、突発的な業務にも対応できる柔軟性のある組織を構築できます。
トヨタには、必要なときに必要な人を必要な場所へ配置する「ジャストインタイム」というシステムがありますが、これは多能工が多いためできる施策であると言えるでしょう。
人件費を削減できる
従業員を多能工にすることで、従業員同士でフォローし合う体制を組めるため、残業を減らすことができます。
また、忙しい部署に多くの人員を配置しなくとも、他の忙しくない部署の人員を忙しい部署に回せば良いため、余剰人員を減らせます。
また、人が様々な経験をすることで多様なアイデアが生まれます。
結果として、様々な商品を生産することができ、売り上げアップにも結び付くでしょう。
スキルマップとは
多能工を育成するためには、1人ひとりの社員のスキルや、持っている知識を把握しなければなりません。
社員のスキルなどの把握に役に立つのが、スキルマップというものです。
スキルマップとは、社員1人ひとりが業務を遂行するのに必要なスキルを持っているかどうかを一覧表にした資料です。
どの仕事をどの社員ができるのかがわかるようになっているので、適材適所で人材配置がしやすくなります。
スキルマップを活用するメリット
スキルマップは、成果主義で従業員を評価するときに必要なツールです。
成果主義とは、従業員が行った仕事の成果、実力やスキルなどに応じて評価する人事制度のことです。
実力やスキルは目に見えづらく、評価するのが難しい分野となりますが、スキルマップを活用することで、成果主義の人事評価ができるようになります。
この章では、スキルマップのメリットを解説します。
従業員を適切な部署に配置できる
スキルマップで従業員の業務遂行能力がわかれば、組織に必要な人材をピンポイントで選び、人員配置をすることが可能です。
スキルマップを活用して、過去にどのような仕事をしていたのかまで把握するため、総務部に所属している人を前職の経験から営業部に異動させたり、繁忙期に手伝ってもらったりすることもできます。
持っているスキルや能力を最大限発揮できる環境で働けることで、従業員は会社に貢献し、会社は売り上げが上がり、従業員の給料を上げて還元する形で、双方にメリットが生まれます。
効率的な人材育成ができる
スキルマップを活用すると、従業員一人ひとりの不足しているスキルも把握できるため、それぞれに対してどのような教育や研修が必要なのかも見えてきます。
従業員それぞれに必要なスキルは異なるので、すぐに研修をすることができないものもありますが、研修を受けさせる優先度などをおさえつつ、人材育成の計画を練ることができるでしょう。
従業員にとっても、既に知っていることを再度研修させられることがなくなります。
公正な人事評価ができる
従業員が持っているスキルや知識は目に見えるものではありません。
スキルマップを活用することで、「誰がどのようなスキルを持ち、どれくらいのレベルにいるのか」や、「どれくらいのスキルアップをしているのか」が、客観的にわかるため、公正な人事評価ができるようになります。
評価基準が明確になれば、従業員もスキルアップを目指し、モチベーションを保って業務に当たることができるでしょう。
また、従業員は下された評価に対しても納得しやすくなり、会社に対する満足度も上がるはずです。
組織の弱点を把握できる
組織を構成するのは従業員です。多くの従業員が苦手としている分野が、その組織の弱点となるのは容易に想像ができるでしょう。
スキルマップで、従業員の業務に対する習熟度や不足しているスキルがわかれば、それをフォローするマニュアルを整備することができます。
会社が先手を打って弱点をカバーすることができれば、業績も上がり、従業員のモチベーション向上にもつながります。
必要な人材を採用できる
スキルマップを活用することは、採用活動にも役立ちます。
スキルマップを見ると、自社にとって必要な人材や、いなくなると困る人材がわかるため、新しく採用して補充することを検討できます。
自社が求めるスキルが明確であれば、応募者のスキルとマッチングしやすくなり、即戦力となる人を採用できるでしょう。
スキルマップを活用することで、人材不足というリスクを避けることもできるはずです。
スキルマップの作成方法|6ステップ
スキルマップの作成には、客観的な目が必要です。そのため、組織の管理者が作成することが多いです。
作成の際には業務を洗い出す必要がありますが、管理者は細かな業務まで知らない場合もあるため、一般社員にも協力してもらいましょう。
社内の全員がスキルマップの作成に携わることで、公平なスキルマップが出来上がるはずです。
- スキルマップを作成する目的を決める
- 業務内容と必要なスキルを洗い出す
- スキルマップの項目を設定する
- スキルレベルと評価基準を設定する
- スキルマップを試験的に運用する
- 本運用後も内容を定期的に見直す
スキルマップの作成方法を順番に説明します。
1. スキルマップを作成する目的を決める
スキルマップは作成の目的が異なれば、内容も異なります。
従業員の育成を目的とする場合は、キャリアに関わるマネジメント力やマーケティング力、営業力などのスキルを一覧にすると良いです。
項目を見れば、従業員の成長目標に対する到達具合を把握することができます。
日常の業務遂行能力を把握するために、スキルマップを作成する場合は、毎日の業務に必要なスキルや知識を細かく設定する必要があります。
2. 業務と必要なスキルを洗い出す
社内にどのような作業があるのか、その作業をするために必要なスキルは何かをすべて洗い出します。
上司は気づいていない細かな業務もあるかもしれませんので、自分1人で洗い出すのではなく、部下にどんな仕事があるのかをヒアリングしましょう。
業務には大きなものとそれに付随する小さな業務に分けられるため、業務を分類して、階層に分けることで、整理しやすくなります。
最初の階層には業務内容を書き、次の階層にはその業務に必要な作業内容、その次の階層ではその作業に必要なスキルを書く、というように作成すれば、従業員のスキル到達具合が把握しやすいです。
階層はどんなに深くても3階層程度までにしておきましょう。
階層が増えてしまうと見づらくなってしまいます。階層があまりにも深くなる場合は、部署ごとや、チームごとにスキルマップを分けて作成すると良いです。
3. スキルマップの項目を設定する
全ての業務と必要なスキルを洗い出せたら、スキルマップに記載するスキル項目を設定します。
スキルは部署やチームによって内容が様々ですが、客観的に数値化して判断できるものを設定しましょう。
また、記載するスキルは抽象的すぎると評価者によって評価が変わったり、何を評価されているのかわからなくなってしまったりします。
逆に細かく書きすぎると、必要のない項目が入ってしまい、チェック項目が膨大になってしまうため、注意しましょう。
例えば、デザイナーのスキルマップの場合、「デザイナーとして一人前である」というスキル項目は抽象的すぎて、何を見て一人前とするのかが不明です。
かといって、「Illustratorの起動やデータ保存ができる」「投げ縄ツールが使える」では細かすぎます。
「タイポグラフィを用いて情報を効果的に見せたデザインを作れる」のような、細かすぎず抽象的すぎない程度に記載すると評価しやすいです。
4. スキルの達成レベルと評価基準を設定する
スキル項目が決まれば、スキルの達成レベルと評価基準を決めます。
簡単に「できる」「できない」の2択で評価する場合もあれば、3~5段階くらいに分けて評価基準を決める場合もあります。
第1段階 | できない・学び始めたばかり |
第2段階 | 教えてもらいながらできる |
第3段階 | 一人でできる |
第4段階 | 他の人に教えられる |
段階が少ないと、評価の基準や、従業員ごとの達成具合もわかりづらくなってしまいます。
スキルマップ作成の目的や業務内容を鑑みつつ、達成レベルを設定しましょう。
5. スキルマップを試験的に運用する
スキルマップが完成すれば、試験的に運用してみて、評価をする人と、評価を受ける人の両方からフィードバックをもらうことが大切です。
公正な評価ができるのか、達成度合いを把握しやすいかなどの意見をもらい、修正を繰り返して作成しましょう。
6. 本運用後も内容を定期的に見直す
スキルマップの本運用を始めても、定期的な見直しが必要です。
市場の変化に伴い、業務内容も変化します。また、従業員もスキルを身につけ、レベルアップをしていきます。
自社の状況に合わせて、定期的に内容を確認し、改善していきましょう。
スキルマップを活用しトヨタのような多能工育成を目指しましょう
この記事では、トヨタ生産方式に必要な多能工についてと、多能工を育成するために必要なスキルマップのメリットと作成方法について説明しました。
近年、多くの企業が年功序列ではなく、成果主義を取り入れるようになりました。
多能工も成果主義に基づいて育成されていますが、成果主義で従業員を評価するには、目に見えない成果やスキルの見える化が必要です。
そのためにスキルマップが役に立ち、多くの企業がスキルマップを取り入れるようになりました。
スキルマップを活用した公平な人事評価は、従業員満足度(ES)にも関わり、ひいては自社の業績アップにもつながります。
ぜひ自社でもスキルマップを作成し、従業員のスキルアップや評価に役立ててみてはいかがでしょうか。
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