リスクマネジメントとは、組織や個人が直面する様々なリスク(危険や不確実性)を特定、評価、管理するプロセスのことを意味します。
- 会社経営に必須のリスクマネジメントについて知りたい
- リスクマネジメントは何から始めればいい?
- リスクマネジメントが成功している事例が知りたい
リスクを回避したり、リスクを最小限に抑えたりすることは、安定した経営を目指すために必要不可欠と言えます。
そこで本記事では、リスクマネジメントとはどのような手法を使うのか、事例などをあわせて簡単に解説します。
経営だけでなく個人レベルでも実践できるリスクマネジメントについてもわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
リスクマネジメントとは
リスクマネジメントは危険や恐れという意味を持つ「risk(リスク)」と、経営や管理といった意味を持つ「management(マネジメント)」が組み合わされた言葉です。
事業や組織を取り巻く損失などのリスク回避を目指すプロセスを指します。
将来を見越して起こりうる危機を予測し、リスクを最小限に抑えるための予防策や起こったリスクへの対応策を実施します。
リスクマネジメントという言葉は近年広く認知され始めたものの、リスクマネジメント自体は以前から行われてきました。
しかし「予測できない時代」と言われるほど不確実性が増すなか、1つのリスクによって経営が大きく傾く可能性もゼロとは言えません。
そのため、リスクマネジメントを重要視する企業が増えているのです。
リスクの種類
リスクマネジメントにおいて対策すべきリスクの種類は大きく次の2種類に分かれると言われています。
- 純粋リスク:損失のみをもたらすリスク
- 投機的リスク:損失の可能性も利益の可能性もあるリスク
では、それぞれのリスクの種類について解説します。
純粋リスク
純粋リスクとは、自社に損害や損失といったマイナス面のみを持つリスクのことです。
純粋リスクは主に次のようなものが挙げられます。
- 火災や水害、地震などの自然災害
- 交通事故などの不慮の事故
- テロや強盗などの人的災害
また、企業経営において欠かせないツールとも言えるSNSの投稿の炎上や、ミスやセキュリティの脆さが原因となる個人情報の流出なども純粋リスクに分類されます。
投機的リスク
投機的リスクとは、投資や新規事業の立ち上げなど、損失のリスクと利益獲得のメリットの両方の可能性を持つリスクのことで、「ビジネスリスク」とも呼ばれています。
投機的リスクはおもに次のようなものが挙げられます。
- 為替変動や金利変動
- 新商品・サービスの開発
- 事業の多角化
IT技術の進化や世界経済の変動、働き方の多様化など、外部環境の影響や内部環境の変化などリスクとメリットが混在する働きが投機的リスクに該当します。
リスクマネジメントの手法
リスクマネジメントの手法は次の5ステップとは次のものです。
- リスクを特定する
- リスクを分析する
- リスクを評価する
- リスクに対応する
- リスク対応を評価して改善する
リスクマネジメントの手法はPDCAを基準に進めるのが一般的です。
リスクの分析や対応など、ステップごとに評価と改善を繰り返すことによって精度の高いリスクマネジメントが実現できるでしょう。
リスクを特定する
リスクマネジメントを行うためには、まず想定されるリスクを特定する必要があります。
リスクの特定をより現実的なものにするためには、経営陣や管理部門だけでなく、各部署や部門のメンバーから意見を集め、現場レベルでリスクを特定することが大切です。
たとえばリスクを特定する方法には次のような方法が挙げられます。
- 各部署や部門にアンケートやヒアリングを実施する
- 業務フローから純粋リスクを特定する
- 会計や財務のデータから投機的リスクを特定する
- SWOT分析を行って外部環境と内部環境からリスクを特定する
確実性のあるものだけでなく、小さな可能性のリスクも細かく特定すると幅広いリスクに対応しやすくなります。
外部環境と内部環境のリスク分析に役立つ「SWOT分析」について詳しく知りたい方は、こちらの記事もチェックしてみてください。
リスクを分析する
リスクを特定したら、それぞれのリスクが発生する可能性や損失や損害の大きさを分析します。
たとえば個人情報の流出というリスクを分析するときは、自社の顧客数などを考慮し、他社で起こった過去の事例を参考にすると具体的な損失を分析しやすくなります。
なかには規模の予測が難しいリスクも存在しますが、次のステップでリスクの評価を行うために、できるだけ数値化しておくのがおすすめです。
リスクを評価する
リスクを特定して分析したら、リスクへの対策を行うために優先順位を決定します。
そこでリスクの優先順位を一目でわかりやすく把握できるのが、「リスクマップ」です。
リスクマップは横軸を「リスクの発生確率」とし、縦軸を「そのリスクが与える影響の大きさ」として、リスクマップ上に特定したリスクを配置します。
横軸、縦軸ともに右上に位置するリスクほど、重大な影響を与えかねないので、優先的に対策を講じるのがおすすめです。
リスクマップで決定したリスクの優先順位は社内外の環境によって順番が前後する可能性があります。
定期的にリスクの見直しを行い、適切なリスクマネジメントを行っていきましょう。
リスクに対応する
リスクの優先順位が決定したら、リスクに対応するために対策案を検討します。
リスクへの対応策は大きく次の2種類に分けられます。
- リスクコントロール:リスクによって生まれる損失を抑える
- リスクファイナンシング:リスクによって生まれた損失を金銭で補填する
この2種類の対応策をとることで、リスクを最小限に抑えられると言われています。
それぞれの具体的な対応策は次のとおりです。
リスクコントロール
- 回避:原因となる業務を停止してリスクを取り除く
- 損失防止:リスクが発生しないように対策や教育(マニュアル作成、研修)を実施する
- 損失削減:リスクを最小限にできるようにリスク対応策を策定しておく
- 分離・分散:リスクが集中しないように分散させる
リスクファイナンシング
- 移転:第三者から損失を補填してもらう
- 保有:リスクを自社の資産で補填し、自社内でおさめる
このように多角的にリスクに対応することで、リスクを最小限に留めることができるでしょう。
リスク対応を評価して改善する
リスク対策を実施したときは、リスクだけでなく対策への評価も行います。
リスク対応の評価の例は次のとおりです。
- 運用時に発生したトラブルはなかったか
- どのくらいリスクの回避や軽減につながったか
- 従業員の対応はどうだったか(教育が行き届いていたか)
このように、リスク評価の基準を明確にし、数値化して採点します。
リスク対応の評価を行ったら、改善策を講じて改善に努めましょう。
ただし、発生したリスクの大きさや社内外の環境の変化によってリスク評価の結果が変化します。
定期的にリスク評価を見直し、ブラッシュアップしていくとリスクが再発したときにより良い対応が取れるでしょう。
リスクマネジメントの事例
実際にリスクマネジメントを行って成功した企業の事例を3つ紹介します。
富士通株式会社の事例
日本の総合エレクトロニクスメーカー、総合ITベンダーである富士通では、取締役会に直属する機関として「リスク・コンプライアンス委員会」を設置して、グループ全体のリスクマネジメントを実施しています。
また、富士通の各グループ会社にリスク・コンプライアンス責任者を配置することで、機関との連携を図っているのが特徴でしょう。
さらに、リスクマネジメントを徹底するため、社長直下の組織として全社「リスクマネジメント室」にリスク・コンプライアンス委員会事務局機能を移管しました。
このように各所にリスクマネジメントの担当を確保しているほか、各種教育の実施、全社防災体制や合同防災訓練なども実施しています。
カゴメ株式会社の事例
野菜飲料をはじめ、健康増進を通して社会問題の解決に取り組むカゴメでは、食品を提供する企業ならではのリスクマネジメントを行っています。
社長を委員長とした「リスクマネジメント統括委員会」は、経営戦略を踏まえた統合的視点から、第1のラインと第2のラインを統括することから始まるのが特徴でしょう。
全社でのリスクマネジメント活動のPDCAサイクルの実現に向けて戦略を生み出すことで、各ライン毎の取り組みをモニタリングしていくのです。
また、第3のラインでは、第1と第2のラインのリスクマネジメント活動に対して、内部監査室が客観的な視点で監査を実施します。
さらに次の5つの対策部門を設置しているのも特徴です。
- コンプライアンス委員会
- 情報セキュリティ委員会
- 品質保証委員会
- 研究倫理審査委員会
- 投資委員会
このように、食品安全をはじめ、防災対策など、幅広い分野のリスクマネジメントを行っています。
高島屋株式会社の事例
老舗百貨店として名高い高島屋では、社長を委員長とする「高島屋グループCSR委員会」を中心に、グループ全体のリスクマネジメントに取り組んでいます。
新たなリスクや未知のリスクに関してはリスクテイクを行い、PDCAサイクルを活用することで、リスクとリターンのバランス調整が可能です。
また、大規模災害対策として、初動対応を取りまとめた「イエローファイル」を作成しました。
そのなかの「レッドページ」では、大規模災害や事故が発生した際に人命第一でリスクを最小化、迅速な営業の再開に向けて取り組むための指針を記載しています。
行動を基準化することによって、リスクにスピーディーかつ適切に対応できる体制を構築することができました。
PDCAサイクルについて詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてみてください。
個人レベルでも役立つリスクマネジメントとは
リスクマネジメントは企業だけでなく、個人レベルでも行うことができます。
日頃から起こりうる可能性のあるリスクを特定したり、リスクへの対応策を確立したりすることで、トラブルが起こっても冷静に対処できるほか、リスクを最小限に抑えられるでしょう。
想定できるリスクを書き出す
個人レベルで行うリスクマネジメントは時間をかけすぎないように注意しましょう。簡単にできる方法として、想定できるリスクを書き出す方法があります。
リスクマネジメントばかりに時間をかけていては、ほかの業務を圧迫し、新たなリスクを生む可能性もゼロではありません。
メモレベルで想定できるリスクと優先順位を決め、最低限のリスク対策を検討しておきましょう。
リスクが発生する可能性が高い場合やリスクの与える影響が大きい場合は、チームメンバーに共有しておくとリスクの影響を最小限に抑えることができます。
リスクを見抜く精度を上げる
慣れた業界だったり、何度も同じ業務を行っていたりすると直感的に「嫌な予感」を感じることがあります。
「刑事の勘」という言葉がよく使われますが、これは単なる直感ではなく、経験から来る予測と捉えられる可能性があります。
たとえば同様の犯罪ケースにおいて、犯人像や犯行の手口に共通している部分が多かった場合、直感的に統計から事件の傾向を予測しているケースも少なくないでしょう。
このような直感の精度を高めるためには、より確度の高いものを選別する方法があります。
- 感じたリスクを書き出す
- リスクの影響を算定する(リスクの影響が小さければ無視する)
- リスクを感じた理由や根拠を掘り下げる(根拠がなければする)
リスク対策においてもムダを減らすため、思い浮かんだリスクの精査を行い、必要なリスクマネジメントだけを行っていきましょう。
まとめ
大規模な災害や新型ウイルスの蔓延など、ビジネスを進めていく上では社内だけでなく、外部の環境も大きく影響します。
日常的な小さいリスクから、予測できない大きなリスクまで、できるだけ被害を小さく止めるためにはリスクマネジメントが必要不可欠と言えます。
現に大企業ではリスクマネジメントに対するさまざまな機関を設置し、連携してリスクマネジメントに取り組んでいるのがわかります。
リスクを正しく特定して対策を考え、リスク対応への評価を行って改善するまでのPDCAサイクルを回し、リスクマネジメントの質を向上していきましょう。
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