- 競合他社が大企業なので、資本力で負けてしまう…
- 有効な差別化戦略はないか悩んでいるが、良い手立てが思い浮かばない…
- どうすれば強力な競合他社との競争に勝てるのだろう…?
上記のようなことで悩んでいる経営者の方は少なくないでしょう。
現在ではよく知られている企業や商品も、かつては強力な競合他社との競争に打ち克ってきた歴史があるものです。
今回は、中小企業が大企業との競争で勝利を勝ち取っていく上で重要な「ランチェスター戦略」について解説します。
具体的な企業の事例も挙げていますので、自社の事業戦略を検討する際にぜひ参考にしてください。
ランチェスター戦略の基礎知識
はじめに、ランチェスター戦略とはどのようなものか、基礎知識を整理しておきましょう。
ランチェスター戦略が誕生した歴史的背景や、現代の事業戦略に応用されている理由を押さえておきましょう。
ランチェスター戦略とは
ランチェスター戦略を端的に表すとすれば、「弱者が強者に勝つための戦略」といえます。
「弱肉強食」という言葉があるように、強者は弱者よりも有利な立場にあるというのが一般的な捉え方です。
一方で「盛者必衰」という言葉があるように、強者が半永久的に強い立場であり続けるとも限りません。
ランチェスター戦略には、大きく分けて「第一法則(弱者の法則)」と「第二法則(強者の法則)」の2つがあります。
弱者が強者に打ち勝つための戦略は、強者が弱者に打ち負かされないように備えておくための戦略でもあるのです。
ランチェスター戦略の歴史
ランチェスター戦略の歴史は第一次世界大戦まで遡ります。
イギリスの航空工学研究者だったF.W.ランチェスター氏は、戦闘機の数と空中戦による損害について研究していました。
後年、戦闘員の減少度合いを数理モデルで記述した法則は「ランチェスターの法則」として広く知られていくことになります。
第二次世界大戦が終結すると、ランチェスターの法則は経営学へと応用されるようになりました。
日本においては、経営コンサルタントの田岡信夫氏が著書でランチェスターの法則を紹介しています。
高度経済成長期以降、ランチェスターの法則は事業戦略やマーケティング戦略に広く活用されていったのです。
ランチェスター戦略がビジネスで応用されている理由
なぜ軍事戦略として誕生したランチェスター戦略が、現代においてもビジネス領域で広く活用されているのでしょうか。
主な理由として挙げられるのが「資金力の格差」です。
日本国内で事業を営む企業のうち、99.7%は中小企業に分類されます。
大企業は全体のわずか0.03%であることから、大多数の企業にとって「強者にどう立ち向かうべきか」を考えるのは重要な課題です。
今資金力の面で負けているとしても、戦略次第でニーズを獲得する手段はたくさんあります。
ランチェスター戦略は、中小企業が大企業に打ち勝つための戦略として現代においても重要視されているのです。
ランチェスター戦略における「3つの原則」
ランチェスター戦略を実践していくにあたって、押さえておくべき3つの原則があります。
それぞれの原則のポイントを確認しておきましょう。
ナンバーワン主義
ナンバーワン主義とは、ある分野や領域でトップを目指すという考え方です。
業界内でトップシェアを獲得することや、特定の市場で最も認知されている商品を目指すことと捉えてください。
重要なポイントとして、「あらゆる分野で」ナンバーワンを目指すわけではないという点が挙げられます。
ごく狭い範囲であっても、ある領域でトップの地位を築くことができれば事業として成立する可能性が高いからです。
自社の強みや特徴を活かし、どうすれば特定の分野でトップを目指せるのかを考えていく必要があるでしょう。
一点集中主義
一点集中主義とは、あえて目標を1つに絞り込むことを指します。
多方面で事業を展開するには、相応の資金力が必要です。
資金力の勝負になれば、すでに潤沢な資金を有している大企業に中小企業が勝つのは困難でしょう。
市場に供給する商品の種類、事業を展開するエリア、価格帯などを一点に集中させることにより、強みを活かしやすくなります。
自社が勝てる土俵を的確に見極め、リソースを集中させられるかどうかが重要なポイントとなるはずです。
足下の敵攻撃の原則
足下の敵攻撃の原則は、自社よりも競争力が劣る相手を容易に勝たせないことが重要であるという原則です。
現状では自社に優位性があるからといって、今後も同じポジションを維持し続けられるとは限りません。
競争力が劣る相手と見なして油断するのではなく、脅威となり得る競合他社として慎重に分析しておく必要があります。
一足飛びに業界トップを目指すのは難しくても、力量が近い相手に出し抜かれないようにするための戦略は講じやすいものです。
強者にばかり目を向けるのではなく、業界全体・市場全体を冷静に見渡す視点を持ち続ける必要があるでしょう。
ナンバーワン主義によって成功した事例
ランチェスター戦略の3つの原則を実践し、成功を収めた事例を紹介します。
1つめの事例は、ナンバーワン主義を事業戦略に取り入れることで成功した事例です。
旅行会社「HIS」の事例
HISが設立された1980年当時、旅行業界にはすでに大手旅行会社が複数社存在しており、市場は寡占状態となっていました。
HISは大手旅行会社があまり注力していなかった以下の市場に着目したのです。
- お金はないが時間はある学生
- オフシーズン中の格安航空券
- セブ島、バリ島など当時はマイナーだった観光地
格安航空ツアーを提供しながらも、各分野で1位になるまで目立たないようにしていた点も戦略上の大きな特徴といえます。
メディアによる取材などをあえて断り、大手旅行会社が有望な市場として目をつけることのないよう留意していたのです。
格安航空ツアーが若者の支持を得るようになると、HISの知名度や業界内での地位は着実に向上していきました。
大手が注力していないマイナーな市場にリソースを投下し、知名度を高めることに成功した事例といえます。
なぜ「HIS」は成功できたのか?
HISが成功できた要因は、大手旅行会社に真っ向から勝負を挑まなかった点にあります。
すでに多くの日本人観光客が訪れていたハワイやグアムなどを避け、あえてマイナーな地域に注力したのです。
大手企業とは異なる戦略を採り、未開拓の市場に注力したからこそ小資本でも勝負できたと考えられます。
たとえ市場規模は小さくても、特定の市場でトップの地位を獲得したことがHISの成功要因といえるでしょう。
「HIS」の事例から学べること
旅行業界に限らず、現状すでに市場が飽和状態に達しているように感じられる業界は少なくないはずです。
多くのプレイヤーが参入し、開拓し尽くされてきた市場に新規参入の余地は残されていないように思えるかもしれません。
一方で、HISが実践したように「視点をずらす」ことで未開拓の市場を見出せる場合もあります。
「海外旅行は経済的余裕のある人が楽しむもの」といった固定観念に囚われていては、新たな発想は生まれないでしょう。
強者に勝てない・適わないという状況は、実は私たち自身の固定観念が生み出しているかもしれないのです。
一点集中主義によって成功した事例
次に、一点集中主義によって成功した事例を紹介します。
商品や商圏を絞ることによって、どのように大企業に対抗していけばよいのでしょうか。
飲食店の事例から読み解いていきましょう。
ハンバーグレストランチェーン「さわやか」の事例
「さわやか」は、静岡県内に34店舗を構えるハンバーグレストレランチェーンです。
全国区におよぶ知名度を誇るレストランですが、店舗は静岡県にしかないことをご存知でしょうか。
創業当初から「牛肉100%・炭焼きハンバーグ」を主力商品としており、現在もハンバーグがおいしいお店として知られています。
店舗展開を静岡県内に限定し、かつメニューをハンバーグに絞ることによって「さわやか」はブランディングに成功しました。
静岡県を訪れた際にはぜひ立ち寄ってみたいレストランとして、独自のポジションを確立したのです。
なぜ「さわやか」は成功できたのか?
ハンバーグを提供する飲食店には、ファミリーレストランをはじめ非常に多くの業態が存在します。
全国にチェーン展開している大手企業と対抗するには、相当な資金力と知名度が必要になるでしょう。
第一号店を出店した1977年当時、「コーヒーショップさわやか」は店名の通り町の小さな喫茶店でした。
炭焼きハンバーグを一貫して主力商品に掲げ、むやみにメニューを増やさないことで「メニューの一点集中」に取り組んだのです。
2002年には静岡県全域へと店舗展開を開始したものの、あくまでも県内のみの展開の留めてきました。
静岡県でしか食べられないという希少性が、同社のブランド力を飛躍的に高めていったのです。
「さわやか」の事例から学べること
事業の拡大を図るにあたって、商圏を広げる・取り扱い商品を増やすことも1つの戦略といえます。
一方で、事業が一定以上の規模へと成長するにつれ、競合する相手は小規模事業者から大企業へと移り変わっていくでしょう。
結果として、事業を維持・拡大できるかどうかは資金力次第といった状況になりがちです。
「全国どこでにでもあるお店」ではなく、「その地域でしか味わえないお店」を目指した点が「さわやか」の成功要因といえます。
特定の地域で知名度を高めるという戦略は、すでに全国区となっている大企業には真似のできないことです。
自社の強みを活かせる分野・エリアを思い切って絞り込んでみてはいかがでしょうか。
足下の敵攻撃の原則によって成功した事例
最後に、足下の敵攻撃の原則に従うことにより、着実に成果を挙げた事例を紹介します。
自社よりもシェアの低い同業他社がどのような商品の売り出し方をしているか、注視することの重要性を示唆している事例です。
「第一三共」の事例
2005年当時、風邪薬市場で業界3位だった武田薬品は「ベンザブロック」を発売しました。
「あなたの風邪に狙いを決めて」をキャッチコピーに掲げ、熱・のど・鼻から来る風邪に効く3種類の商品を発売したのです。
一方、業界第2位だった第一三共は風邪薬「ルル」のキャッチコピーを「熱、のど、鼻にルルが効く」に変更しました。
ルルなら1種類であらゆる風邪の症状に効く、という意味のキャッチコピーです。
ちょうど同じ時期に3種類の商品を投入した武田薬品を意識していたことは明らかでしょう。
発売翌年、武田薬品の売上増は10%未満だったのに対して、第一三共は売上を14%以上伸ばすことに成功したのです。
なぜ「第一三共」は成功できたのか?
風邪の症状が始まったきっかけに合わせて風邪薬を選ぶというベンザブロックのコンセプトは、当時新鮮なものでした。
もし第一三共が武田薬品と同じように「商品を3種類に増やそう」という判断を下していたら、結果はどうなっていたでしょうか。
おそらく2社が真っ向から競争することになり、顧客の奪い合いへと発展していたでしょう。
第一三共は武田薬品とは異なる戦略を採ったことにより、消費者の多様なニーズに応えやすくなったのです。
- 原因別に風邪薬を選びたい(=症状を早く抑え込みたい)→ベンザブロック
- 風邪薬は1つに絞りたい(=次に風邪を引いた時に服用したい)→ルル
消費者によっては「熱・のど・鼻のいずれも症状が出ている」「どれを選ぶべきか迷ってしまう」という人もいるかもしれません。
どの症状にも効果があると表示されている風邪薬があれば、そちらを購入したいと考える消費者もいるはずです。
競合他社の戦略を分析し、対抗策をタイミングよく講じたことが第一三共の勝因といえるでしょう。
「第一三共」の事例から学べること
競争相手がカバーできていない市場をていねいに分析することは、顧客のニーズに応えていく上で非常に重要なポイントです。
自社よりも弱い相手を真っ向から封じ込めるのではなく、顧客のニーズに応えられる余地はないか、という視点で考えてみましょう。
ランチェスター戦略は企業対企業の戦略と考えられがちですが、最終的に消費者にメリットをもたらすかどうかが最も重要です。
不毛な価格競争に突入し、業界全体が疲弊していくようでは、結果として消費者のためにもなりません。
自社の事業を持続可能なものにするためにも、常々から競合他社を慎重に分析しておくことが大切です。
まとめ
ランチェスター戦略は「弱者が強者に戦略」であると同時に、「強者が弱者に出し抜かれないようにするための戦略」ともいえます。
今回紹介した3社の各事例は、ランチェスター戦略の原則に沿って事業戦略を立てていく上で重要な示唆を与えてくれるでしょう。
ぜひランチェスター戦略を事業戦略に活かして、大企業に負けない・ライバル社に出し抜かれないビジネスを築いてください。
自社にとっての「勝ちパターン」を掴んでいくことで、他社が容易に真似できない独自の強みを打ち出せるようになるはずです。
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