- 従業員に気持ちよく働いてもらうには、どのように社内の環境整備を進めればよいのか?
- 自ら行動する部下を育成するには、どういった方針でマネジメントしていくべきか?
- 顧客の記憶に残るアピールをするにはどうすればいいのだろう?
上記のような悩みを抱えている経営者の方は、決して少なくないでしょう。
今回は、行動経済学(ナッジ)をビジネスに活用することで、さまざまな問題を解決する方法を紹介します。
具体的な事例から学べることを理論ごとにまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
ビジネスで行動経済学(ナッジ)が注目されている背景
行動経済学(ナッジ)は、経済学と心理学が融合した学問領域です。
ナッジ(nudge)には「肘で軽く押す」という意味があり、人に自然と行動を促す理論として注目されています。
なぜ行動経済学はビジネス領域においても注目されているのでしょうか。
主な3つの要因について解説します。
トップダウン型の組織運営が限界を迎えつつある
労働人口が減少に転じた現代においては、トップダウン型の組織運営が限界を迎えつつあるといわれています。
多くの企業にとって、優秀な人材の確保は経営課題における重要事項の1つとなっていることは明白です。
企業は「人材を選ぶ側」から「選ばれる側」になったことで、職場環境を整備する意味合いも大きく変わっています。
従業員に画一的なルールを課すのではなく、より自然体に近い状態で過ごせる職場環境が求められているのです。
時代に合った職場環境の整備が求められていることは、行動経済学が注目されている大きな要因の1つといえるでしょう。
ファシリテーター型リーダーが求められている
人々の価値観が多様化したことにより、マネジメントのあり方も見直されています。
従来、リーダーとファシリテーターは相反する役割を担っていると考えられていました。
- リーダー:意思決定を下し方向性を明確に示す役割を担う
- ファシリテーター:意見やアイデアを引き出して整理し、意思決定を後押しする
多様な価値観がイノベーションの創出につながることから、リーダーにファシリテーション能力が求められるようになったのです。
ファシリテーター型リーダーには、メンバーの意思決定を「後押し」する能力が欠かせません。
マネジメント領域においても、自然と行動を促す行動経済学の理論が活用され始めているのです。
顧客の価値観や行動様式が多様化している
顧客の価値観や行動様式が多様化したことも、行動経済学が注目されている大きな要因の1つです。
企業側が主張する商品・サービスのメリットを、顧客は容易に信用しなくなっています。
顧客自身が必要性を感じ、自ら購入という選択をしたと実感してもらわなくてはなりません。
売り込まれてやむなく購入するようでは、2回目以降のリピート購入は望めないでしょう。
顧客が自ら購入するよう導く・促すための施策を講じる必要があります。
顧客への対応や接遇においても、自然な形で行動を促す行動経済学の理論が注目されつつあるのです。
視点1:社内の環境整備に行動経済学を活用する
従業員が気持ちよく仕事をするには、社内の環境整備を進める必要があります。
一方で、環境整備の進め方によっては数多くのローカルルールが設けられる原因にもなりかねません。
複数の従業員が働く社内環境を整えるにあたって、行動経済学を活用した事例を紹介します。
社内の環境整備に活用できる行動経済学とは
ナッジを実践する手法として「色分け」が有効であることが広く知られています。
多くの人は色などの直感的な情報を無意識に認識するため、状況によっては文字情報よりも把握しやすいからです。
社内の環境整備を進めるにあたって、各従業員に守ってもらうべきルールを定める必要があります。
ゴミの分別などささいなことであっても、大勢の従業員にルールを徹底するのは意外と難しいものです。
「ゴミは必ず分別してください」といった文字を掲示するよりも、色分けを活用するほうが効果的なケースは少なくありません。
直感的な社内ルールを導入したリクルートの事例
株式会社リクルートでは、社内に設置されている全てのゴミ箱を次のように統一しています。
- 燃えるゴミの投入口は赤色、燃えないゴミの投入口は青色で示す
- 燃えるゴミの投入口を左側、燃えないゴミの投入口を右側に設置する
- どのゴミ箱にも同じ位置・同じ表記方法でゴミの種類を示す
結果として、全ての従業員はどのフロア・どの事業所でも普段通りにゴミを捨てられるのです。
ゴミ箱の前で毎回「どちらが燃えるゴミの投入口か」を考える必要がなく、直感的に判断できるルールの好例といえます。
リクルートの事例から学べること
従業員に守ってもらうべきルールを知らせる際、「周知徹底を図る」という言い方をすることがあります。
たとえ重要なルールであっても、高圧的な伝え方をされたり何度も繰り返し言われたりするのは気分が良いものではありません。
リクルートの事例は、日常的にゴミ箱の位置関係や色分けを目にするうちに自然とルールが周知されていく仕組みになっています。
人の認知をうまく活用することによって、あえてルール化しなくても徹底が図られるよう工夫しているのです。
職場での小さなストレスの積み重ねを解消する、行動経済学の有効な活用事例といえるでしょう。
視点2:マネジメントに行動経済学を活用する
ビジネスを成功へと導く上で重要な鍵を握るのがマネジメントです。
実は、マネジメントにも行動経済学を取り入れることでメンバーのパフォーマンス向上につなげることができます。
具体的な手法について見ていきましょう。
マネジメントに活用できる行動経済学とは
マネジメントに役立つ行動経済学の理論として「EAST」が挙げられます。
EASTは、ナッジの実践する上で重要とされる4つの要素の頭文字を表したものです。
- Easy:簡単にできることを示し行動のハードルを下げる
- Attractive:魅力的に感じる選択肢を用意する
- Social:共通認識に則った行動を意識してもらう
- Timely:タイミングよく働きかける
部下に逐一指示を出さなくても、部下自身が判断して行動してほしいと考えている経営者や管理職の方は多いでしょう。
自走する部下を育てるには、部下自身が自然と行動しやすい状況を作っていくことが重要です。
上司・部下の双方にとってストレスの少ない関係性を築いていく上でも、重要な視点といえるでしょう。
EASTを応用したマネジメントの例
EASTをマネジメントに応用する場合、次に挙げる指示の出し方・部下との接し方を意識していくことが重要です。
- Easy:目標を分割して提示する・簡単な問いから投げかける
- Attractive:部下の行動に対して欠かさずフィードバックを行う
- Social:メンバー同士で進捗状況を共有できる仕組みを整える
- Timely:適宜リマインドを行い進捗状況を確認する
部下の成長は一足飛びに実現するものではないため、段階を踏んで成長をサポートしていく必要があります。
EASTの原則にもとづいて行動を促すことにより、部下をスモールステップで無理なく育成できるのです。
EASTを応用したマネジメントから学べること
「部下が自走してくれない」「指示待ちのメンバーばかり」といった悩みの原因は、実は上司の側にあるケースが少なくありません。
EASTを実践していない場合の接し方を想定すると、部下にとって「行動しづらい」状況がよりイメージしやすくなるでしょう。
- Eastが実践できていない → 一度に大量の業務を与えられる・難易度が高すぎる仕事を任される
- Attractiveが実践できていない → フィードバックがなく、自身の判断・行動が正しいのか分からない
- Socialが実践できていない → 他のメンバーの動きが分からない・チーム全体の状況が見えづらい
- Timelyが実践できていない → 一度仕事を任されたら放置されてしまう
部下の成長を促すには、上司自身も成長していく必要があります。
はじめから理想的な上司を目指そうとするのではなく、部下の視点に立って「どうすれば動きやすいのか」を考えることが重要です。
視点3:顧客対応に行動経済学を活用する
顧客対応に際しても、行動経済学を活用することによって自然な形で意思決定を促せます。
具体的な手法と事例から、行動経済学を顧客対応に活用する意義を紐解いていきましょう。
顧客対応に活用できる行動経済学とは
顧客対応に活用できる行動経済学の理論として「デフォルト」が挙げられます。
デフォルトとは「初期状態」を表す言葉です。
デフォルトの理論を実践した有名な事例に、キャサリン・L・ミルクマンらが携わった実証実験があります。
・インフルエンザワクチン接種の実施日を案内する際、具体的な接種日を記入してもらう
・接種予定者は、自分で日付を記入したことにより「当然行くべきもの」と考える
・結果としてワクチン接種率が向上した
多くの人は当事者意識を持つことにより、自身の行動や判断に責任を感じるようになります。
相手に「選んでもらう」だけの簡単なステップを踏むことで、意思決定を後押する効果が期待できるのです。
デフォルトを応用した顧客対応の例
商品やサービスを訴求する際、無料体験やカウンセリングなどの機会を提供するケースは少なくありません。
見込み客にとって、たとえ興味関心が多少はある商品・サービスであっても時間を割いて体験するのはハードルが高いものです。
無料体験やカウンセリングを案内する際、単に案内するのではなく「いつ参加するか」を選んでもらうとよいでしょう。
見込み客は自分で日付や時間帯を選んだことにより、「参加したほうがよい」と自然と意識するはずです。
「無料なのだから」といった理由によるキャンセルを防ぐためにも、デフォルト理論の活用は有効な対策といえます。
デフォルトを応用した顧客対応から学べること
商品やサービスを訴求する際、自社側の価値観にもとづくアピールに終始してしまいがちです。
一方で、見込み客にとって「商品が魅力的かどうか」と「自分にとって関係のあることかどうか」は必ずしも一致していません。
具体的な意思決定へと踏み切ってもらうには、見込み客に当事者意識を持ってもらうことが重要です。
行動経済学におけるデフォルトの理論は、相手に当事者意識を持ってもらうための手法と捉えることもできます。
一見すると顧客に手間をかけさせるようでいて、実は当事者意識を持ってもらうことによって行動のハードルを下げているのです。
まとめ
今回は、行動経済学を「社内環境の整備」「マネジメント」「顧客対応」に活用する例を紹介しました。
ビジネスにおいて、行動経済学が幅広いシーンで活用できることが実感できたのではないでしょうか。
自社が抱えている課題や解決すべき問題に直面した際には、ぜひ行動経済学を解決策の選択肢に加えてみてください。
行動や意思決定を迫らなくても、より自然な形で相手の行動を促すことにつながるきっかけになるかもしれません。
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