松下幸之助は、22歳から松下電器を開業後一代で企業を大きくしながら、並行して出版活動もおこなっていました。
『人生経営帖』は、松下幸之助が満90歳を迎えるにあたり書かれた本です。
松下幸之助自身が、今までに出版されたものや話したもののなかで人生に関する事柄をまとめています。
この記事では、『人生心得帖』の中からビジネスパーソンに向けて、仕事をおこなううえで役立つような項目を抜粋して紹介します。
解説する項目は本書のなかの一部分のため、記事を読んで気になった方はぜひ本も読んでみてください。
『人生心得帖』とは?
『人生心得帖』は、松下幸之助が90歳の節目を迎えるにあたり書かれた本です。9歳で奉公へ出て22歳のときに松下電器を開業し、その後は経営者として躍進を続けました。
この本では、松下幸之助が自分自身の人生を振り返って、仕事や日常生活を営むうえで参考になる考え方を示します。
経営者はもちろんすべてのビジネスパーソンに読んでいただきたい本となっております。
松下幸之助が『人生心得帖』のなかで伝えたかったこと
松下幸之助は、幼いころから商いの仕組みを徹底的に学んで経験を積みました。
『人生心得帖』の前書きでは、奉公へ出た当時の思い出を振り返ることから始まります。90歳を迎えるにあたり、社会や人、仕事に対する感謝の気持ちを語ることへと展開していきます。
ここでは、前書きの一部を紹介します。
松下幸之助が『人生心得帖』を書いた思いを感じ取ることで、ここから先受け取れる学びがより濃厚になることでしょう。
私はまもなく満九十歳を迎えようとしています。大阪へ奉公に出るために、見送りに来てくれた母とともに、郷里の紀ノ川駅に立っていた九歳のあの日のことが、まるできのうのことのように思い出されます。
人生心得帖/社員心得帖(著者:松下幸之助)P.20,21より引用
それから八十一年、いろいろなことがありました。
(中略)さまざまなことに出会い、いろいろな人にお会いし、今日このような自分がある。そのことを思うと、世と人と仕事というものに心から感謝をしたい気持ちでいっぱいです。
私は、そうした歩みの折々に考え感じたことを、これまで求められるままに書いたり話したりしてきました。この『人生心得帖』は、それらの中から人生にかかわることを、あらためてまとめてみたものです。
自分自身を知るヒントを学ぶ
ここでは『人生心得帖』の項目から、自分自身を知るためのヒントになるものを解説します。
長所が短所に、短所が長所になることがある
私たち一人ひとりは異なる個性を持っていて、それぞれに得意なことや不得意なことがあります。
松下幸之助は、それぞれが持つ長所と短所についての考え方を示しました。
それは長所にはうぬぼれることなく、また短所には劣等感をもつ必要はないということです。
日常生活、仕事では時として長所が短所として機能するときがあれば、その反対もあると述べます。
例えば、行動力が旺盛で知識が多く話しの引き出しが豊富な経営者がいたとします。しかしながら、いわゆる”口八丁手八丁”の経営者の企業経営が上手くいくとは限らないそうです。
反対に、ごく平凡に見える経営者が営む企業が発展する例はよくあると言います。
長所が短所になってしまう経営者の例
長所がかえって短所となってしまう経営者の例を紹介します。
どうしてそのようなことになるのか、非常に興味があるところですが、それは結局、経営者の長所がかえって短所になり、短所が長所になっているということではないかと思うのです。
人生心得帖/社員心得帖(著者:松下幸之助) P.59,60より引用
すぐれた知識や手腕をもつ人は、何でも自分でできるし知っていますから、仕事を進めるにあたっていちいち部下の意見を聞いたり相談をかけたりということをしない傾向があります。それどころか、せっかく部下が提案をしたような場合でも、「そんなことは分かっている」と簡単にかたづけてしまうことさえあります。
(中略)
それでは各人の自主性も生かされず衆知も集まりませんから、力強い発展が生まれないのは明らかでしょう。
短所が長所になる経営者の例
短所が長所となり得る例についてもご紹介します。
一方、一見平凡に見える経営者の会社が発展するというのは、その反対の姿があるからでしょう。何でも自分で決めたりやったりするのではなく、部下の意見をよく聞き、相談をかけ、仕事を任せる。そのことによって全員の意欲が高まり、衆知も集まって、そこに大きな総合力が生み出される、といった経営を進めているわけです。
人生心得帖/社員心得帖(著者:松下幸之助) P.60より引用
このように長所が短所になり、長所が短所となるケースがあります。
自己観照をすること│第三者の視点から自分を見つめる
自分自身の適性や能力を知るためには、自分を他人を見るような視点で見る必要があると松下幸之助は述べます。
誰でも自分自身のことは自分が一番知っていると思うはずです。しかし、自分の得意なことや好きなことを考えたときに分からない人は多いのではないでしょうか。
私たちは自分自身を客観的に見ることを難しく感じやすい生き物です。
だからこそ自己を正しく把握するためには”自己観照”が大切であると述べます。
松下幸之助も、意識的に自分自身でおこなったり他人に勧めたりしていたそうです。
自分で自分を、あたかも他人に接するような態度で外から冷静に観察してみる、ということです。いいかえると、自分の心をいったん自分の外へ出して、その出した心で自分自身を眺めてみるのです。
人生心得帖/社員心得帖(著者:松下幸之助) P.89より引用
といっても、実際に自分の心を外へ取り出すといったことは、できることではありません。しかし、あたかも取り出したような心境で、客観的に自分をみつめてみる。それが私のいう自己観照で、これをすれば、比較的正しく自分がつかめるのではないかと思うのです。
自己観照をおこなうメリット
自己観照ができると客観的に自分の適性や能力を把握できるため、自分自身をどのように活かせばいいのかが分かります。
そのため、自分自身の苦手な部分を過信したり、また得意なものに対して必要以上に自信をなくしたりすることがなくなるのです。
反対に、自己観照ができないと自分がもつせっかくの良さに気付けなかったり、実力を過大評価してしまったりします。
人間関係を円滑に進めるヒントを学ぶ
企業発展には、取引先、顧客、地域社会との関係など、相手との良好な関係構築が欠かせません。
ここでは、松下幸之助が考える人間関係を円滑に進めるヒントについてご紹介します。
まず信頼すること
様々な人に会って人を育ててきた松下幸之助は、人をまず信頼することが大事であると言います。
人は信頼すれば必ず答えてくれるものであり、互いが信頼し合えば物質的にも精神的にも利益がもたらされると説くのです。もちろん人間関係もスムーズになると言います。
人間には人を憎んだり損得の念があったりすると述べます。その面にとらわれ、時々人の持つものや立場を奪おうと考えることがあるかもしれません。
しかし、このような不信感が生むのは非効率で悲惨なものだと述べます。このような関係では当然企業が発展することは難しいでしょう。
新しく増えた従業員に企業秘密の製法を教えた
松下幸之助が、従業員をまず信頼することで好ましい結果を生んだエピソードがあります。
松下電器の創業当時は身内の3人で仕事をおこなっていました。業績が順調に上がりとうとう人手が足りなくなったため人員を増やします。
そのとき製品を作る際に企業秘密である煉物の製法を教えるべきかどうか迷ったそうです。
松下幸之助の信念により功を奏したエピソードを紹介します。
ある同業者の方が、「製法が外に漏れる危険があり、同業者が増えることにもなりかねない。それはぼくたちにとっても、君自身にとっても、損になるのではないか」と忠告してくれました。しかし、その忠告は忠告としてありがたく受けましたが、その仕事が秘密の大切な仕事であることを話して依頼しておけば、人はむやみに裏切ったりするものではなかろうというのが、そのときの私の考えでした。
人生心得帖/社員心得帖(著者:松下幸之助) P42より引用
その結果は、幸いにして、製法を外に漏らす人もいませんでしたし、何よりも、重要なことを任されたことで、従業員が意欲を持って仕事に取り組むようになり、工場全体の雰囲気ものびのびと明るくなって、仕事の成果があがるという好ましい結果が生まれてきたのです。
人情の機微
人の心はほんの些細な出来事を受けて常に変化し続けるものです。松下幸之助は、嬉しくなったり悲しくなったりなどさまざまな感情を持つことは、理屈では割り切れないものであると言います。
そのうえで、人間の心の機微を敏感に察知しそれに合わせた行動をすることがよい人間関係を結ぶことにつながるとしています。
例えば、ビジネスや日常生活で人に何かを頼んだりまた依頼されたりすることがあるでしょう。
このとき人は「利害によって動く」「利害だけでは動かない」という二つの面があると言います。そして、この両面の感情を理解したうえで人と対自することの大切さを説くのです。
例えば、私たちは、物を頼む人の態度が高飛車であったり横柄であったりする場合には時としてその依頼を断ることがあるでしょう。反対に、私たちは頼む時の姿勢が非常に丁寧で誠実な人には、その姿勢にひかれ引き受けたいと感じることがあると思います。
このように私たちは、利害だけでは動かないまたはときには感情が揺り動かされて承諾するということがあるのです。
参考になる考え方を学ぶ
私たちの考え方や思考は過去の経験によって学習されるため、主観的で誤った考え方をすることがあります。
松下幸之助が大事にしていた価値観を知り、ものに対する見方が変わることで、仕事への取り組み方や日常の過ごし方が変化するかもしれません。
松下幸之助が述べる参考になる考え方についてご紹介します。
無用のものはない
松下幸之助は、物にはすべて価値があり無用のものは存在しないと言います。そして、一つひとつのものを活かすように努めることが大切であると述べました。
私たちは、先人から引き継いだ発見や知識をもとに次から次へと新しい製品を開発します。そして廃れてはまた新しいものが生まれというサイクルを繰り返しています。
松下幸之助は企業の取り組みにより今までにない新しいものが生まれるなかで、それを使用する私たちの知恵を磨き続けることの大切さを説いています。
そうしなければ、作れられたものを活かしきることができなくなると言うのです。
不要であったものが、後から役立つことがある
松下幸之助は本来この世にあるものはすべて必要なものであると言います。もちろん、人間にとって害のあるものや明らかに不要なものもあるでしょう。
しかし、後になって「害と思われるものから役立つものができることがある」と言います。本書に書かれている例をご紹介しましょう。
たとえば、かつて青カビは、人間にとって害になるものと考えられていました。しかし今それは、病気を治すペニシリンという薬として大いに役立っています。
人生心得帖/社員心得帖(著者:松下幸之助) P.92より引用
また石炭や石油にしても、昔は黒い石、黒い水といった程度の認識しかされていなかったのでしょうが、時代が進むにつれて、まず石炭がエネルギーとして活用され、次いで石油も大量に使われるようになりました。さらにエネルギー源としてだけではなく、薬やプラスチックなどの化学製品としても幅広く活用されるようになっています。
松下幸之助は、捨てるようなもので役に立たないものが人間の生活向上のために役立てられると説きました。
そのため、無用なものはなく、すべてが役立つという意識下のもとで一つでも多くのものを活かすということが私たちの使命であると説いています。
日々の体験を味わう
私たちは大きな変化や出来事が起きない日々の生活の変化のなかにでも、その体験を味わって振り返ることができると言います。
日々の仕事のなかでも「ある方法でおこなうとうまくいった」「このやり方では失敗した」など、少なからず発見があるはずです。
松下幸之助は、このような小さな成功や失敗の体験を振り返り、よりよい方向へ向かおうとするならばそれはすべて人生の糧になると言います。
このような目に見えない成功や失敗の形でなく、自分の心のなかで成功や失敗を感じ味わうことが変化の激しい時代を生きるうえで大切であると説きました。
まとめ
『人生心得帖』は私たちに仕事や日常生活のなかで変化を与える新たな視点やヒントを教えてくれます。
この本から、松下幸之助が日々の仕事に対して一つずつ大切に取り組んでいたことを感じ取れるでしょう。
さらに詳しい項目を知りたい方は、『人生心得帖』をぜひ読んでみてください。
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