- 心理学に興味があるが、どうすればビジネスに取り入れられるだろう?
- 産業心理学とは何か?組織心理学とどう違うのか?
- 産業心理学を効果的に取り入れている企業の事例はないだろうか?
上記のような疑問を抱えていませんか?
今回は、産業心理学に関する基本事項と、産業心理学を取り入れている企業の事例を紹介します。
それぞれの事例で活用している産業心理学の理論や、事例から学べるポイントもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
産業心理学とは
そもそも産業心理学とはどのような学問でしょうか。
産業心理学の歴史や組織心理学の違いを押さえておきましょう。
- 産業に関わる活動を心理学的に観察・分析する研究領域
産業心理学とは、産業に関わる活動を心理学の知見を活かして観察・分析していく研究領域です。
職業や労働、集団・組織、マーケティング、消費者行動といった幅広い領域を、心理学の観点で分析します。
産業は時代とともに変化していくため、さまざまな産業に関わる人々の心理も同様に変化していくはずです。
産業心理学は、理論と観察の両輪で人間の心理を捉えている点において、非常に実践的な学問といえます。
産業心理学の歴史
産業心理学の源流は、心理学者ヒューゴー・ミュンスターバーグによる3冊の著書にあるといわれています。
- Psychology and Industrial Efficiency(心理学と産業効率)
- Psychology and Social Sanity(心理学と社会的健全性)
- Grundzuge Der Psychotechnic(心理工学の基本原理)
最良の仕事をするための条件や、仕事に最適な人間の選択といったテーマを心理学において初めて取り上げたのです。
心理学が人事や人間工学、マーケティングといった分野に応用されていくきっかけとなった著作といってよいでしょう。
1924年〜1932年、アメリカのウエスタン・エレクトリック社ホーソン工場において生産性に関する実験が行われました。
人間関係や感情が生産性に大きく影響することを実証した実験として、のちに「ホーソン実験」と呼ばれるようになります。
以降、産業心理学は応用心理学の一分野として発展を遂げていきました。
産業心理学における3つの研究分野
産業心理学は、大きく分けて3つの研究分野から構成されています。
- 組織と人間の関係性
- 消費と人の関係性
- 健康と人の関係性
1は組織のあり方、仕事に関わる採用や人事などの諸条件のほか、職場における人間関係などを研究対象としています。
2は心理にもとづく消費者の行動や、商品・サービスを販売する側の心理が研究対象です。
3はストレス耐性や行基の治療といった、産業にまつわる人の健康面を研究対象としています。
産業心理学と一口に言っても、研究対象とする分野が幅広い領域にわたっていることが分かるはずです。
1〜3は産業の変化に伴って常に変化し続けていくことから、多岐にわたる知見が求められる研究分野といえます。
組織心理学との違い
応用心理学には「組織心理学」と呼ばれる分野があります。
組織心理学は産業心理学から派生した新たな研究分野で、従来の産業心理学に対して批判的な立場から提唱されていきました。
産業心理学と組織心理学の主な違いは次の通りです。
- 産業心理学:従業員個人を職務にどう当てはめるか、という枠組みで研究を進める
- 組織心理学:個人と組織環境の相互依存的な関係の中で人間の心理を研究する
組織心理学では、組織構造やリーダーシップ、組織コミュニケーション、意思決定、組織開発といった領域が研究対象となります。
時代が移り変わるにつれて産業心理学と組織心理学は統合され、現在では「産業・組織心理学」とも呼ばれるようになりました。
産業心理学と組織心理学は成立の経緯は異なるものの、産業と人間の心理の関わりを捉える学問領域という点で共通しているのです。
事例1:アンコンシャス・バイアスの解消
産業心理学を取り入れた事例の1つ目として、「アンコンシャス・バイアス」の解消に産業心理学を活用した事例を紹介します。
産業心理学との関わりや、事例から学べるポイントを見ていきましょう。
アンコンシャス・バイアスとは
アンコンシャス・バイアスとは、心理学における「認知バイアス」を表しています。
無意識のうちに物事に対して先入観を持ったり、ステレオタイプに捉えたりするのはアンコンシャス・バイアスの影響です。
アンコンシャス・バイアスは一個人の問題だけでなく、企業活動においても重要な意味を持っています。
近年はダイバーシティが重視されているものの、無意識の認知バイアスが多様性を阻害しているケースは少なくありません。
働きやすい職場を築いていく上で、アンコンシャス・バイアスをできる限り解消していくことは重要な視点の1つといえます。
Googleが実践するアンコンシャス・バイアスの解消法
Googleでは、チーム内の心理的安全性の高さを重視しています。
心理的安全性とは、次に挙げるような不安が解消されている状態のことです。
- 無知・無能だと思われる不安
- 他の人を邪魔していると思われる不安
- ネガティブだと思われる不安
上記の不安は、いずれも感情面の抑制や緊張、忍耐などを強いる「感情労働」を誘発する要因といえます。
一方で、「〜と思われる」とある通り、お互いの誤解や思い込みが心理的安全性を阻害する原因となるケースも少なくありません。
Googleは企業として心理的安全性の重要性を掲げることにより、従業員の感情労働を最小限に抑えているのです。
アンコンシャス・バイアスが発生しにくい職場環境を醸成し、生産性を高めることに成功している事例といえます。
事例から学べるポイント
心理的安全性という言葉を、近年よく耳にするようになりました。
職場環境として心理的安全性が高いほうが良いことは、すでに多くの人が気づいていることでしょう。
なぜ心理的安全性が阻害されてしまうのか、産業心理学の見地から考えていくとより深く原因を探ることができます。
職場環境を改善していく上で、産業心理学が役立つシーンは多々あるでしょう。
現状抱えている職場環境の課題について、産業心理学の見地から捉え直してみると新たな発見があるかもしれません。
事例2:心理的価格にもとづく価格設定
産業心理学は「消費と人の関係性」も研究対象としています。
心理学をマーケティングに活かしたいと考えている方にとって、親和性の高い研究分野といえるでしょう。
産業心理学を取り入れたマーケティング手法として「心理的価格」を活用した施策が挙げられます。
心理的価格とは何か、具体的にどのような施策に活用されているのかを見ていきましょう。
心理的価格とは
心理的価格とは、経済的な合理性だけでは説明がつかない価格設定を表す言葉です。
たとえば、次に挙げる4つの価格はいずれも心理的価格に含まれます。
- 慣習価格:消費者が特定の商品群に抱いている価格のイメージ・目安
- 端数価格:あえて端数の価格にすることで実際よりも安く見える
- 威光価格:高い価格設定が品質の高さや高級感を想起させる
- 階段価格:3段階の価格を提示すると中央の価格設定が最もよく売れる
商品やサービスの価格を消費者がどう捉えるかは、事前に与えられた情報や一般的なイメージに大きく左右されがちです。
裏を返すと、価格から想起されるイメージや付帯する情報を意識することが、価格設定において重要なポイントといえます。
心理的価格を活用した事例
「ハーゲンダッツ」が発売された1984年当時、アイスクリームは子どものおやつとして消費者に認知されていました。
業界的な平均価格は100円前後の商品で、子どものおやつとして親が買い与えることを想定した商品だったのです。
ハーゲンダッツは発売当初から「高級アイスクリーム」というイメージを前面に打ち出していました。
大人が子どもに買い与えるのではなく、大人が自分のために購入するアイスクリームを提案したのです。
価格が高いことが高級感を想起させ、大人向けの商品として認知される大きな要因となった事例といえます。
事例から学べるポイント
産業心理学が広く知られる以前は、価格は安いほど消費者から好まれるというのが一般的な見解でした。
一方で、あまりにも安すぎる商品を避け、妥当性を感じられる価格の商品を選んだ経験は誰にでもあるはずです。
「安いほど売れる」「高いと売れない」と断定できるほど、消費者の心理は単純ではありません。
価格が高いことによって所有欲が満たされたり、ステータス感につながったりする場合もあるのです。
産業心理学は、消費者の微細な心の動きを捉え、理論に埋没させないための研究領域といえるでしょう。
事例3:RJPによる人材採用のミスマッチ軽減
産業心理学が研究対象とする「組織と人間の関係性」は、人材採用の領域においても活用可能です。
採用と関わりの深い理論として、産業心理学者ジョン・ワナウス氏が提唱した「RJP」が挙げられます。
RJPとは
RJP(Realistic Job Preview)は、日本語では「現実的な仕事情報の事前開示」と訳されます。
入社前に企業の実態を把握してもらうことにより、人材の定着率が向上することを示唆した理論です。
自社の良い面だけでなく、悪い面も併せて知ってもらうことにより、次に挙げる4つの効果が得られるとしています。
- ワクチン効果:職場のリアルな実態を伝えることにより、入社後の失望感が緩和される
- スクリーニング効果:ネガティブな情報も含めて提供することで、求職者にとって適切な選択につながる
- コミットメント効果:企業にとって不利な情報も開示することに対し、企業の誠実さが伝わる
- 役割明確化効果:選考の時点で企業が求職者に期待することを提示すると、入社意欲が高まる
RJPを活用した事例
ブライダル事業やレストラン事業を展開する株式会社ノバレーゼでは、求職者の志望意欲の醸成に力を入れています。
RJPを取り入れた施策の1つが、最大10回まで社員との面談が可能な「面談パスポート」です。
求職者は採用担当者以外にも、現場のスタッフやマネージャー、役員などに面談を申し込むことができます。
さまざまな立場の従業員・役員と話すことによって、会社の多様な側面を見てもらおうという試みです。
接触機会が増えることで、会社のネガティブな面が見えるケースもあるかもしれません。
ネガティブな側面も包み隠さず開示し、求職者の職場理解や志望意欲の向上につなげているのです。
事例から学べるポイント
人材採用では、会社側が人材を「選ぶ」「選抜する」という感覚が付きまといます。
昨今よくいわれているように、労働人口が今後減少していくことを踏まえると、会社は「選ばれる側」でもあるのです。
求職者・企業の双方が相手の良い面・悪い面を理解した上で入社・採用を意思決定していく必要があるでしょう。
RJPは当面の人材確保ではなく、より中長期的な人材の「定着」を重視した考え方といえます。
人材戦略を長い目で見たとき、RJPを取り入れた採用方針を掲げることが企業にとって多くのメリットをもたらしていくはずです。
まとめ
産業心理学は、組織・消費・健康という幅広い領域を研究対象とする学問です。
人材採用や社員教育、組織運営、社員のメンタルヘルスなど、産業心理学を活用できるシーンは多岐にわたります。
今回紹介したポイントや事例を参考に、事業運営に産業心理学を取り入れてみてはいかがでしょうか。
企業を形成するのは「人」であるからこそ、心理と産業の関わりを深く考察する産業心理学が重要な示唆を与えてくれるでしょう。
年商5億円を超えさらなるスケールアップを目指す経営者必見!
あなたのビジネスをスケールアップさせる集客と組織作り、
さらに、成功事例やここだけのお得な内容をお届け致します。
#産業心理学