心理的資本は労働者がポジティブな意識で仕事をして将来に向けて前進しようとする力のことです。
現代は環境の急激な変化にともない企業の経営手法も変化しつつあるため、心理的資本が注目されています。
「心理的資本とは何か理解できていない」
「心理的資本は人的資本と何が異なるのかわからない」
「心理的資本をどのように育てればいいのか知りたい」
このように考えている経営者の方に、この記事では以下の内容を説明します。
- 心理的資本とは何か
- 心理的資本が注目される理由
- 心理的資本の構成要素
- 心理的資本を高める方法
心理的資本はこれからの人材育成やマネジメントに必要となるもののため、ぜひ最後までお読みください。
心理的資本とは
心理的資本とは人がポジティブになるための要素とされています。ビジネスでは従業員が仕事や将来に対して前向きで、困難があっても前進し続けようとする心の力です。
心理的資本はポジティブ心理学から生まれた研究の1つで、経済学者のフレッド・ルーサンスによって提唱されました。
ポジティブ心理学は、人が幸せで心身ともに健康に生きることをメインの研究テーマにしています。仕事においてもポジティブな感情を持って対応しようとする姿勢が重要です。
ポジティブ心理学における心理的資本
企業にとって人材は大事な資本です。ポジティブ心理学では人材がどのように成果を出すかで、人材を「人的資本」「社会関係資本」「心理的資本」の3つのレベルに分類しています。
1. 人的資本
人的資本(Human Capital)は、知識、スキル、経験などの人材が持つ能力を資本とする考え方です。「何を知っており、何ができるのか」を重要視しています。
日本では終身雇用制度や年功序列といった独自のシステムがあったため、人的資本を重視していませんでした。
現代では少子高齢化で必要な人材を揃えることが難しくなっているため、人的資本に投資する企業が増えています。
2. 社会関係資本
社会関係資本(Social Capital)は、人材が持つ人脈やネットワークが資本という考え方です。「誰を知っており、協働できるのか」が重要で、他人と社会的な関係性を構築できる人は企業にとって価値があります。
日本では社会関係資本が比較的強固で、災害が起きたときの助け合いの精神や困ったときはお互い様と考える傾向が強いです。
社会関係資本が弱い場合は被災した際に略奪が起こったり、自己中心的な言動が増えたりします。
集団の中での協調性は社内での信頼関係構築だけでなく、社外の人間関係構築に重要です。
3. 心理的資本
心理的資本(Psychological Capital)は、人材が持つポジティブな気持ちから来るパフォーマンスが資本となる考え方です。
日本は謙遜文化であるため、心理的資本が育ちづらい環境です。目標を設定しても達成できなかったことに焦点が当てられ評価が下されます。
心理的資本を高めるためには失敗しても別のアプローチを考えたり、できた途中経過に注目したりすることが大事です。
心理的資本が高まれば、人的資本と社会関係資本も高まります。ポジティブな気持ちがあれば積極的に能力を向上させ、他人とコミュニケーションを取ろうとします。
心理的資本は人的資本と社会関係資本の基礎となるものです。
心理的資本が注目される3つの理由
心理的資本は社会情勢や人々の意識変化により注目されることが増えています。ここでは心理的資本が注目されている主な背景を3つ説明します。
- VUCA時代の到来
- 人的資本経営の再認識
- ワークエンゲージメント向上の重視
従業員は企業の財産です。変化の多い現代で企業価値を高めるためにも、心理的資本を増やし業績を上げる必要があります。
1. VUCA時代の到来
VUCA(ブーカ)時代とは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(あいまい性)」の4つの言葉の頭文字をとった先行き不透明な時代を表す造語です。
少子高齢化や地球温暖化、環境破壊、新型コロナウイルスの脅威などにより社会が急激に変化したため、将来の予測が困難になっています。
企業が急激な変化にも対応できるようにするためには、前向きで意欲的な従業員が必要です。ストレスに強く課題を乗り越えようとする姿勢のある従業員を育成するために、心理的資本が注目されています。
2. 人的資本経営への転換
人的資本経営は人材に投資し、人材の価値を引き出す経営手法です。少子高齢化による労働力不足が今後も深刻になると予想されており、人的資本経営により従業員が少なくても企業価値を高めていけます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)を推進するために従業員に研修を受けさせても、従業員自身が能動的に学ぶ姿勢がなければ成果は出ません。
心理的資本は人的資本の土台となるため、人的資本経営を目指すなら心理的資本が必要です。
3. ワークエンゲージメント向上の重視
ワークエンゲージメントとは、従業員が仕事に対する熱意や活力で満たされて没頭できる状態のことです。働き甲斐があることは労働者のモチベーションに大きくかかわります。
2019年に発表された厚生労働省の労働経済白書では、ワークエンゲージメントの高い従業員は自信をもって前向きに業務に取り組むため、労働生産性も比例して高くなると示しています。(参考:厚生労働省『令和元年版 労働経済の分析-人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-〔概要〕』)
ワークエンゲージメントが低いままでは業績が上がらないため、労働環境の改善が必要です。
心理的資本の構成要素「HERO」
心理的資本は「HERO」と略される以下の4つの要素で構成されています。
- Hope(希望)
- Efficacy(自己効力感)
- Resilience(回復力)
- Optimism(楽観主義)
HEROを高めることで、モチベーションアップや生産性の向上が期待されます。内容を詳しく説明しましょう。
1. Hope(希望)
Hope(希望)は目標達成のために前向きに行動する意欲や、将来への期待感のことです。希望を持つことで目標達成までモチベーションを維持し、失敗してもポジティブな心理状態でいられます。
希望を高めるためには、SMARTの法則に沿った目標を設定し、目標を達成するためのプロセスを明確に示すことが大切です。
目標達成までのマイルストーンを設定すると、どのように達成すれば良いかを理解しやすいでしょう。
SMARTの法則は目標設定のフレームワークです。
「Specific(具体的)」「Measurable(測定可能)」「Achievable(達成可能)」「Relevant(関連性)」「Time-bound(期限がある)」の5つの要素のある目標は達成しやすいとされています。
詳しくは以下の記事を参考にしてください。
2. Efficacy(自己効力感)
Efficacy(自己効力感)とは、自分の能力を信じ自信をもって行動する姿勢のことです。自己効力感の高い人は、挑戦を苦に思わず目標達成に努力を惜しみません。失敗したとしてもくじけず取り組みます。
自己効力感を高めるには3つのポイントがあります。
- 成功体験を重ねる
- ポジティブフィードバック
- ソーシャルモデリング
自己効力感は成功体験を作ることで生まれます。成功体験を繰り返すことで自分に自信が持てるようになるため、小さくても成功できたと実感できる体験を重ねましょう。
尊敬や信頼している人からのポジティブフィードバックも成功体験の一種となります。単なる誉め言葉だけでなく、努力に対する承認や今後の期待を言葉にして伝えることが有効です。
成功している人を見て「自分もできる」と自信をつけるソーシャルモデリングも効果的です。ただし、他の人と比較した際に自分を卑下してしまう可能性もあるため、従業員の性格を見極める必要があります。
3. Resilience(回復力)
Resilience(回復力)は、失敗して落ち込んだとしても回復し前向きに進もうとする力のことです。ストレス耐性が高く、大きな責任を背負う役職に就いたとしても前向きでいられます。
回復力を高めるには、自己分析が大事です。自分の強みをどのように活用すれば最大限の成果が出るかを考えたり、失敗して落ち込んだ後にどのように回復したのかを振り返ったりすることで、自分自身の回復方法がわかります。
また、必要なときは他人にサポートを求められる姿勢も重要です。自分は1人ではなく、困ったときは助けてもらえると思うだけでもストレスが弱まります。
4. Optimism(楽観主義)
Optimism(楽観主義)は、楽観的に物事を考えられる力のことです。ポジティブな結果は自分の頑張りだと認め、未来を前向きに考えられます。
悲観的な人は物事を悪い面しか見ていませんが、楽観的な人は良い面に焦点を当てます。失敗しても成功のための学びと捉え、次に失敗しないように対処方法を考えられるのが楽観主義です。
楽観主義を育くむには、感謝の気持ちを忘れてはいけません。感謝はポジティブな気持ちです。人に感謝するだけでなく、自分の状況などにも感謝をすることで、良好な人間関係を築けます。
「この人たちがいるから自分は大丈夫。ありがたい」と思うことで、将来をポジティブに考えられます。
心理的資本を高める方法
心理的資本は測定し数値化できます。可視化することで誰にどの要素が不足しているのかがわかります。
企業では心理的資本の各要素を強化する研修を実施することで、能力開発ができます。基本的には以下の3点を押さえることが必要です。
- 自己肯定感を高める
- 他者からの支援を受ける
- 目標を設定する
訓練すればだれでも心理的資本を高められます。心理的資本は高まった後もずっとなくならないため、積極的に高める施策を実施しましょう。
1. 自己肯定感を高める
自己肯定感は心理的資本の4つの要素に深く関係しています。自分に自信を持つことで能動的に行動できます。
自己肯定感を高めるには、自己分析が大事です。自分の長所や強み、成果を理解することで自信を得られます。また、成功体験を積み重ねていくことでも自己肯定感は養われます。
成功のハードルを低めに設定し、成功体験を繰り返しながらハードルを上げていくとモチベーションが上がるでしょう。成功体験の積み重ねは、希望や自己効力感を高められます。
2. 他人からの支援を受ける
何事も一人で行動すると視野が狭くなり、悪い方へと考えが移りがちです。特に失敗したり大きな壁に直面したりすると、ネガティブな意識になってしまいます。
複数人でチームとなり他人が自分の行動範囲に入ることで、サポートを受けたり協力し合ったりできるため、自信を持った行動につながります。
チームを組むときには自分に批判的な人ではなく、肯定的な評価をしてくれる人を選ぶことが大事です。会社の人間関係だけでなく、友人や家族などともコミュニケーションをとり味方を作ることで安心感を得られます。
共通の趣味を持つ人が集まるオフ会や、チーム制のスポーツに参加することでも、周りのサポートの重要性がわかるでしょう。
3. 目標を設定する
目標を設定するためには、自分の能力や知識レベルを知っている必要があります。
目標は頑張れば達成できる内容で作成し、中間目標を1つずつ達成していくことで最終的に大きな目標も達成できるように設定します。小さな目標を達成し続けると、自己効力感を高めやすいです。
定期的に目標の達成度合いを評価することで、希望や楽観主義が育まれます。自己評価をして振り返るとともに、第三者の評価を受けることが重要です。他者からの客観的で公平な評価は回復力を高めます。
従業員の心理的資本を高めて生産性向上を目指しましょう
この記事では、心理的資本の特徴と構成要素、心理的資本を高める方法について解説しました。
心理的資本はポジティブ心理学の概念の1つではありますが、計測し開発できるのが特徴です。
構成要素の「希望」「自己効力感」「回復力」「楽観主義」を高めることで、従業員は積極的に行動し課題を乗り越えていくでしょう。
従業員のパフォーマンスが向上した結果、自社の生産性や業績もアップします。従業員の積極性や自主性を育てたいと考えているなら、心理的資本を高める研修をしてみてはいかがでしょうか。
年商5億円を超えさらなるスケールアップを目指す経営者必見!
あなたのビジネスをスケールアップさせる集客と組織作り、
さらに、成功事例やここだけのお得な内容をお届け致します。