2020年から2022年までの行動制限によって、自宅から出なくても様々な体験ができるメタバースが大きく注目され、多くの企業が参入しています。
メタバースをビジネスに活用したいと考えていても「どんなビジネスができるのかわからない」「メタバースを活用したビジネスモデルに具体的なイメージを持てない」と悩んでいる人も多いでしょう。
この記事では、メタバースのビジネスモデルと実際の企業事例について紹介します。自社のメタバース活用の参考になりますので、ぜひ最後までお読みください。
メタバースとは
メタバースは、「メタ(Meta:高次の・超~)」と「宇宙(Universe)」を組み合わせた造語です。
1992年にアメリカの小説家であるニール・スティーヴンスンのSF小説『スノウ・クラッシュ』で初めて使われ表現されました。
メタバースは明確に定義されておらず、インターネット上の3D仮想空間と考えられています。
メタバースの仮想空間ではユーザーがアバターを自分の思うように行動させてコミュニケーションしたり、仮想通貨取引や商品販売などのビジネスを行ったりできます。
メタバースでできる7種類のビジネス
メタバースでできるビジネスの種類を紹介します。
- デジタルコンテンツやサービスの提供
- インフラやツールの提供
- 広告枠の提供
- マーケティングや販売
- プラットフォームの手数料
- メタバース上でイベント開催
- 業務効率化シミュレーション
自社の事業のためのメタバースの活用方法を検討してみましょう。
1. デジタルコンテンツやサービスの提供
メタバースで多くの企業がビジネスに成功しているジャンルが、デジタルコンテンツやサービスの販売です。
メタバースではアバターを使って他の人とコミュニケーションをしたり、ゲームをしたりするので、アバターの服装やゲームで使う武器などのデジタルアセットの販売は大きなビジネスとなります。
今後メタバース人口やメタバースの利用時間が増えると、よりデジタルアセットの需要は高まるでしょう。
Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)というゲームでは、個人でもマネタイズができるゲームとして有名です。ユーザーはゲームを始める際にアクシーというモンスターを購入しなければなりません。
ブリーダーとなってモンスターを育て高値で販売したり、モンスターを貸し出して手数料を徴収したりしてゲーム内通貨を稼ぎ、それを現金に換金することでマネタイズができます。
2. インフラやツールの提供
今後多くの企業がメタバースを活用しようと取り組むと予想されます。メタバースを構築するには専門的なスキルやリソースが必要なため、仮想空間の構築業者やコンテンツ制作業者との取引が活発になるでしょう。
ユニティ・テクノロジーズが提供しているUnityというゲームエンジンは、全世界で100万人以上のゲーム開発者に使われています。
Unityは「Pokemon Go」やソーシャルVRプラットフォームのVRChatなどの開発に活用されました。
3. 広告枠の提供
メタバースの区画を所有している企業や個人が広告枠を提供し、広告から商品が売れたときに手数料を得るマネタイズ手法です。
メタバースではユーザーが注目しているもの以外には意識が向きづらいという性質があります。ただ看板を設置して広告を掲載しても見てもらえない可能性が高いのです。
広告と体験を結び付けた宣伝方法は効果が高いため、事業やサービスなどにメタバースをどのように組み合わせるのかを考える必要があります。
また、プラットフォームのユーザー数により広告の効果が変わるため、RobloxやThe Sandboxなどのような大型のプラットフォームを使うことが大事です。
4. マーケティングや販売
メタバースは新しい集客方法としても使われ始めています。オンラインショッピングをメタバース上で発展させたようなものです。
自宅にいながらショッピングできるのは、通常のオンラインショッピングと変わりはありませんが、アバターを使ってメタバースの中に建つショップに行くという実際の来店と同じような体験を味わえます。
スタッフのアバターで接客することもできるため、ECサイトよりも成約率の向上を期待できるでしょう。
トビー・テクノロジーが開発した「アイ・トラッキング」では、ユーザーの視線をトラッキングでき、パッケージの視認性や陳列方法などの分析に役立っています。
5. プラットフォームの手数料
現実世界にもクラウドソーシングサービスの利用手数料や、動画コンテンツサイトの利用手数料など、プラットフォームのユーザーに手数料を徴収することで収益を得るビジネスモデルがあります。
メタバースでも、個人や企業がクリエイターとなり必要な人のためにデジタルコンテンツを制作するマッチングサービスなど、価値を交換する場所を提供しています。
2023年4月19日には、恋愛特化型のマッチングサービス「Memoria」がサービスを開始しました。
お互いがアバターの姿で会って話すため、外見よりも内面で相手を選べ、女性にとって身体的なトラブルに見舞われるリスクがないなど、メタバースのメリットを生かした出会いの場を提供しています。
6. メタバース上でイベント開催
メタバース上でスポーツの試合やコンサートなどのイベントを開催し、入場料を徴収する方法です。ブランディング向上や集客のために無料でイベントを開催することもできます。
バーチャル空間のため観客数の上限がなく、演出も自由です。
2020年4月にオンラインゲームの「Fortnite」で、アメリカの人気ラッパー、トラヴィス・スコットがバーチャルコンサート「Astronomical」を開催しました。
「Astronomical」は10分未満の短いコンサートでしたが、楽曲ごとにステージが変化したり、観客のアバターが水中や宇宙空間に入ったりする演出がされており、ユーザーの没入感を誘うものでした。
同時接続のユーザー数は1,230万人で、まさに世界中の人々が観客になったと言えるでしょう。
「Astronomical」で演奏された楽曲は現実世界で売り上げを伸ばし、イベントグッズの販売では1年間のツアー興行収入分を稼いだと言われています。
7. 業務効率化シミュレーション
自社の既存事業の効率化や生産性の向上のために、メタバースを活用することにも注目が集まっています。
新製品のシミュレーションをメタバースで行えば、実際にかかる材料費を削減できます。メタバース上に建てた仮想工場から得られた製造工程の不具合や最適な稼働率を実際の工場に当てはめることも可能です。
社員のトレーニングにもメタバースは使われています。
アメリカのスーパーマーケットのウォルマートは、ブラックフライデーなどの繁忙期のスタッフの動きなどをメタバースで研修しています。
繁忙期でなくてもメタバースで同じ状況を経験させることで、当日のスタッフは効率の良い行動ができるでしょう。
メタバースのビジネスモデルの事例7選
メタバースのビジネス展開は様々な業界ですでに実施されています。多くの企業がメタバースを活用していますが、その中でも7社に絞って紹介しましょう。
- Epic Games「Fortnite」:コンテンツやサービスの提供
- Meta「Horizon Workrooms」:インフラやツールの提供
- 博報堂DYホールディングス「arrova」:広告枠の販売
- 三越伊勢丹ホールディングス「仮想伊勢丹新宿店」:マーケティングや販売
- Roblox Corporation「Roblox」:プラットフォームの手数料
- 渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト「バーチャル渋谷」:イベント開催
- 奥村組「メタバース技術研究所」:業務効率化
1. Epic Games「Fortnite」
Fortnite(フォートナイト)は、2017年にリリースされたオンラインゲームです。Fortniteには4つのゲームモードがあり「バトルロイヤル」や「クリエイティブ」モードは基本無料で遊べます。
ゲームではありますが、メタバース上での映画上映やアーティストのバーチャルライブも実施され、ゲーム以外の楽しみ方も可能です。日本では星野源さんや米津玄師さんがバーチャルライブを開催しました。
企業もFortniteをマーケティングに使っています。2022年にフットウェアブランドのティンバーランドは、オリジナルコンテンツの「ティンバーランド・パルクール・トレイル」をFortniteのゲーム内に展開しました。
特別デザインのメタブーツを探したり、サンプルを集めて独自エフェクトをもらったりするゲームを通して、新しい見込み顧客の発掘に成功しています。
2. Meta「Horizon Workrooms」
Metaが2021年に公開した仮想空間のオフィス「Horizon Workrooms」では、離れた場所にいる人がバーチャルオフィスに集まって一緒に仕事をすることができます。
在宅勤務では同僚や上司とのコミュニケーション不足が課題に挙げられていますが、アバターを通して同じバーチャルルームで共同作業やミーティングができるため、リモートであっても孤立感を感じません。
「Meta Questリモートデスクトップアプリ」を使うと、現実のコンピューター画面とキーボードを仮想空間にミラーリングしたり、バーチャル画面を作成したりでき、生産性の向上が期待できます。
3. 博報堂DYホールディングス「arrova」
博報堂DYホールディングスの一社であるデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社は、Roblox内での広告枠を日本で初めて販売しました。
バーチャル空間広告サービスの「arrova(アローバ)」では、バーチャル渋谷などの広告を出しています。
メタバース内では物理的な制約がなく自由度の高い広告を出すことができ、VRゴーグルを着けたユーザーの視線の動きを分析することで効果の高い広告や配置の分析も可能です。
4. 三越伊勢丹ホールディングス「REV WORLDS」
大手百貨店の三越伊勢丹では、スマートフォン向けの仮想都市型メタバースの「REV WORLDS」を構築し、その中に仮想伊勢丹新宿店をオープンしました。
ユーザーはアバターを通して、遠方にいる人と一緒にショッピングを楽しめます。
実際に伊勢丹に勤めているスタイリストを3Dスキャンして作成したアバターが店にいたり、実際の伊勢丹新宿店の地下1階にそっくりなデパ地下があったりとリアリティのある百貨店となっています。
仮想空間で気に入った商品をクリックすると、オンラインストアに遷移し実際に購入することも可能です。
5. Roblox Corporation「Roblox」
Roblox(ロブロックス)は、ユーザーがゲームを作成して共有したり、他のユーザーが作成したゲームで遊んだりできるオンラインゲーミングプラットフォームです。Roblox上でゲームを作成することもできます。
Z世代の若者に人気で、コロナ禍の巣ごもり需要で一気に登録者を増やしました。
Robloxにはテンプレートからゲームを作成できる「Roblox Studio」という無料アプリがあります。プログラミングなどの専門知識が不要で作成できるため、企業だけでなく個人ユーザーもゲーム作りを楽しめます。
作成したゲームを公開し、他のユーザーがそのゲームのアプリ内課金を利用すると、作成者にRobuxというデジタル通貨が支払われる仕組みです。Robuxは現金にも交換でき、収益化が可能です。
6. 渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト「バーチャル渋谷」
バーチャル渋谷は東京都渋谷区公認のバーチャル空間です。2020年5月19日に、KDDIや渋谷区観光協会など50社が参画して作られました。
clusterというバーチャルプラットフォームを使用し、パソコンやスマートフォンから気軽にアクセスが可能です。
バーチャル渋谷では、バーチャルのスクランブル交差点でオンラインイベントを実施しています。オープニングイベントとして「#渋谷攻殻NIGHT by au 5G」が開催され、攻殻機動隊ファンの有名人も出演しました。
現実の渋谷とバーチャル渋谷の同じ場所に同じものがあるXR(クロスリアリティ)コンテンツが多数用意されているため、実際に渋谷に行かなくても渋谷の街歩きを楽しめます。
7. 奥村組「メタバース技術研究所」
総合建設会社の奥村組はメタバース技術研究所を構築しました。メタバース上で設計や施工のシミュレーションを行うことで工数の削減が可能です。
建築用に実物大の模型を作成すると、使用した後は大量の産業廃棄物が生まれます。仮想空間で模型を作成すれば、産業廃棄物となる材料は必要なく環境にも配慮できます。
メタバース技術研究所では日射条件を4種類から選べたり、構造を透視したりもできるため、現実では把握しきれない部分を確認できるのもメリットです。
メタバースはアイデア次第で新たなビジネスも可能
この記事では、メタバースを活用したビジネスモデルと企業事例を紹介しました。
メタバースには多くのビジネスの可能性があります。
既存のメタバース上でビジネスを行うものや、メタバースを構築したり利用したりするためのインフラなどを提供するものなど、アイデア次第でビジネスが発展していくと考えられています。
メタバースはまだインフラとなっていませんが、今後VRデバイスの性能向上や低価格化が進めば、一般の人々も気軽に使うようになるでしょう。
メタバースが一般化したときに後れを取らないように今から検討しておくことが大事です。
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