ウェルビーイングとは、人が良い状態(Well-being)であること、つまり健康で幸福な状態を意味します。非常に広い概念のため、ウェルビーイングが経営にも大事だと注目されていても何をすればよいのかわかりづらいものです。
ウェルビーイングとは何かについて知りたい人のために、この記事では以下の3点について解説しています。
- ウェルビーイングとポジティブ心理学について
- ウェルビーイングが注目されている理由
- 企業が実施しているウェルビーイングの施策
ウェルビーイングをビジネスや経営に取り入れたいと考えている経営者の方は、ぜひ最後までお読みください。
ウェルビーイングとは
ウェルビーイング(well-being)とは、wellとbeingの「良い状態である」ことを意味する英語の単語を組み合わせた言葉で、簡単に言うと心身ともに健康で幸福である状態のことです。
この概念が広く知られるようになったのは、1946年に世界保健機関(WHO)が採択した憲章において、健康の定義に「well-being」という言葉が初めて登場したのがきっかけです。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。
公益社団法人日本WHO協会『世界保健機関(WHO)憲章とは』より引用
昔は健康は病気やけががないことを指しており、健康のために病気を予防する対策が重視されていました。
現在では身体的な健康だけでなく、精神的にも社会的にも満たされているウェルビーイングな状態を健康であると定義されています。
主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイング
ウェルビーイングとは、主観的な幸福感(主観的ウェルビーイング)と、客観的な指標で測る幸福度(客観的ウェルビーイング)の2つの側面があります。
主観的ウェルビーイング
主観的ウェルビーイングは、個人が感じる人生への満足度を指します。
必ずしも物質的な豊かさや健康状態と一致するわけではありません。
客観的ウェルビーイング
客観的ウェルビーイングはGDPや生活水準など、客観的な指標で測ることのできる幸福度のことです。
一般的に客観的ウェルビーイングが高いほど、主観的ウェルビーイングも高いと期待されますが、必ずしも相関関係にあるとは限りません。
ウェルビーイングで内面・外面両方の幸福度を客観視できる
現に日本のGDPは世界で4位であるものの主観的ウェルビーイングを含めて測る2024年度の世界幸福度ランキングでは、143カ国中51位となっています。
(引用元:経済局経済課による公表資料・ワールドハピネスレポート)
客観的な豊かさだけでは必ずしも幸福を感じられるとは限らないことが、日本の事例からも明らかです。
ウェルビーイングとは、個人の主観的な感覚と客観的な状況が複雑に絡み合った多面的な概念であると言えます。
ポジティブ心理学とは
ウェルビーイングとはポジティブ心理学から生まれました。ポジティブ心理学はペンシルベニア大学心理学部の教授であるマーティン・E・P・セリグマンが創始した学問で、人が幸せになるための方法が研究されています。
ポジティブ心理学では、ウェルビーイングの要素としてPERMA理論を提唱しています。
PERMA理論とは、以下の5つの要素の頭文字を取りました。
- Positive emotion(ポジティブな感情)
- Engagement(エンゲージメント)
- Relationship(良好な人間関係)
- Meaning(人生の意味)
- Accomplishment(達成感)
これら5つの要素を追求することで、ウェルビーイングが高まります。
1. Positive emotion(ポジティブな感情)
ポジティブな感情とは、喜びや愛、希望、笑いなどの前向きな感情のことです。ポジティブな感情がネガティブな感情を拒み、取り消すことで人生を幸せにしていきます。
ポジティブな感情を増やすには、好きな人と一緒にいることや趣味を持つこと、成功体験などの良い思い出を振り返ることが大事です。
2. Engagement(エンゲージメント)
エンゲージメントは何かに没頭して夢中になることです。時間を忘れて集中し続けられます。自分の得意なことや強みに没頭できれば集中力が高まり、作業効率や生産性が上昇します。
エンゲージメントを上げるには、没頭できる環境が必要です。自然の中や静かな場所で好きな作業や学習を行いましょう。
3. Relationship(良好な人間関係)
良好な人間関係とは、様々な人からサポートを受けたり評価されたりすることです。愛し愛され、意見や思いを共有できる他者が必要とされています。家族や友人、会社の同僚や上司などとの関係性が幸福に繋がります。
良好な人間関係を構築するためには、自分がエンゲージメントを上げられる地域の活動に参加することや、しばらく疎遠になっていた人とコンタクトをとることなどが効果的です。相手のことを知りたいと思う気持ちを大事にしましょう。
4. Meaning(人生の意味)
人生の意味を知ることは生きる目的を持つことに繋がります。人生に意味があると感じることで、逆境に対峙したときでも乗り越えようとする意志を強く持てます。
生きる意味を持っている人は、人生に前向きで満足度が高い人と言えるでしょう。
人生の意味を見つけるには、大切な人のために情熱を持って行動することや、自分にとって大切なコミュニティやグループに所属し活動することなどがあります。
5. Accomplishment(達成感)
達成感は努力して目標を達成したときの感情です。自分がやろうと決めたことを完遂することで達成感は生まれます。お金などの報酬や他者からの賞賛がなくても、達成感を感じることで幸福度は向上します。
達成感を得るには目標設定が大事です。資格取得や昇進、転職や起業などの成功体験が達成感を生むでしょう。過去の成功体験を振り返ることでも達成感を得られます。
これから目標設定をするならSMARTの法則が有効です。SMARTとは目標設定に必要な5つの要素を指しています。
- Specific(具体的)
- Measurable(測定可能)
- Achievable(達成可能)
- Realistic(現実的)
- Time-bound(明確な期限)
5つの要素を取り入れた目標は行動に移しやすくモチベーションも持続できるため、達成感を得られやすいでしょう。目標を達成した後は自分自身を十分に褒めることで自己肯定感が上がります。
ウェルビーイングを高めるための指標
ウェルビーイングを高めるための指標として、心理学者のタル・ベン・シャハーはSPIREモデルを提唱しました。SPIREモデルとは、以下の5つの項目の頭文字をとったものです。
Spiritual Well-Being (精神のウェルビーイング) | ・人生の目的 ・価値観 ・マインドフルな状態 |
Physical Well-Being (身体のウェルビーイング) | ・栄養バランスのとれた食生活 ・適度な運動 ・質の良い睡眠 ・健康的な身体 |
Intellectual Well-Being (知性のウェルビーイング) | ・知的好奇心 ・学習心 ・探求心 ・挑戦 |
Relational Well-Being (人間関係のウェルビーイング) | ・良好な人間関係 ・社会的なつながり ・コミュニティとの相互作用 |
Emotional Well-Being (感情のウェルビーイング) | ・穏やかな感情 ・落ち着き ・ストレスからの立ち直り |
SPIREモデルは、5つの項目のどれか1つだけが突出していてもウェルビーイングは達成されず、バランスの良いウェルビーイングを実現することが大事とされています。
ウェルビーイング理論が注目されている5つの背景・理由
ウェルビーイングは価値観や生き方、働き方が多様化していくにつれ注目されるようになりました。
多様化する社会の変化に企業も合わせていかなければ、多くの企業が持つ課題である人材の確保や生産性向上が難しくなっています。
企業はウェルビーイングや多様性を経営上見過ごせなくなっていると言えるでしょう。
1. 働き方の多様化
2019年4月1日から「働き方改革関連法」が順次施行されています。厚生労働省によると、働き方改革とは以下の内容を目指しています。
働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること
厚生労働省『「働き方改革」の実現に向けて』より引用
近年はリモートワークやフレックス制度など、働き方が多様化しています。働き方に対する選択肢が増え、ワークライフバランスを考える労働者も増えました。
従業員だけでなく子育てや介護などが必要な家族に対してもウェルビーイングを意識する労働環境が必要です。働き方改革に基づいて企業が労働環境を整備することにより、離職率を下げ必要な人材の流出を防げるでしょう。
2. 健康経営の重視
経済産業省は健康経営を以下のように定義しています。
「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。
経済産業省『健康経営』より引用
企業が従業員の健康増進や健康管理を行うことで生産性の向上や従業員のモチベーションアップにつなげ、業績向上に期待するというものです。
昔は健康管理は自己責任で行うものとされていましたが、近年の少子高齢化を背景に従業員の健康に投資し、組織を活性化させようとする企業が増えました。
企業が従業員のウェルビーイングに投資し戦略的に向上させることで、長期的に自社の収益を高められると考えられています。
3. 多様性の尊重
会社には年齢や人種、性自認、母国語、今まで生きてきた中で得た経験などが異なる多様な従業員が働いています。
従業員一人ひとりの多様性を尊重し、お互いを認め合える関係性を構築することは、社会的にも幸福であるウェルビーイングの維持に繋がります。
多様性に関する教育研修を定期的に実施したり、ダイバーシティ採用を導入したりすることで、企業の社会的な評価も上がるでしょう。
4. 価値観の変容
幸福であるという価値観も昔とは異なってきています。
昔は家や車、ブランドバッグなどの高級なものを持つことで幸福を感じる傾向がありました。しかし、今では所有することが幸せなのではなく、心が豊かであることに幸せを感じるようになっています。
豊かさの指標がお金ではなく、心へと変化していると言えるでしょう。金銭的に貧しくても、心が平穏で愛情があることに価値観を見出しているのです。
5. SDGsの目標
SDGs(持続的な開発目標)が掲げる17の目標の3つ目は「Good Health and Well-Being(すべての人に健康と福祉を)」です。
「すべての人に健康と福祉を」は、世界中のあらゆる人々に適切な福祉と健康的な生活を確保することを目標にしています。先進国、発展途上国にかかわらず、安全な出産や疾病予防、事故の減少などを目指しています。
企業がSDGsに取り組むことは社会貢献に繋がり、人材流出の防止に効果的です。
ウェルビーイングの測定方法
ウェルビーイングの測定方法を解説します。
前野教授が発明した幸福度診断
慶應義塾大学の前野隆司氏らが開発した「幸福度診断Well-Being Circle」は、72問の簡単なアンケートに答えるだけで、あなたのウェルビーイング(幸福度)を多角的に測ることができるオンラインツールです。
このツールでは人生への満足度だけでなく、ビッグファイブと呼ばれる性格特性や心身の健康状態、さらには社会や職場における幸せ力など、様々な指標を数値化し、強みや改善点を見つけられます。
また、他の利用者との比較も可能なので、自分のウェルビーイングがどの程度なのか客観的に把握可能です。
国際基準であるキャントリルの梯子法
現在の幸福度(ウェルビーイング)を簡単に測る方法として、キャントリルの梯子法があります。
この方法は、頭の中で10段の梯子をイメージし、0段目を考えられる限り最悪の生活、10段目を考えられる限り最高の生活として、あなたが今その梯子のどの段にいるかを自己評価するものです。
この方法は国連が実施している世界幸福度調査でも採用されており、国際的に広く用いられている客観的な幸福度測定指標の一つです。
企業のウェルビーイング施策事例
様々な企業がSDGsの観点からウェルビーイングに力を入れています。ここでは代表的な企業のウェルビーイング施策を見ていきましょう。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は「幸せを量産する」をミッションとして車を製造する技術を応用し、より良いモビリティ社会を目指しています。
高齢者や身体障がい者をサポートするパートナーロボットの開発やバリアフリーの移動式トイレのデザインなどに取り組み、成果を上げています。
特に移動式トイレは普通免許でも車でけん引ができ、フォーラムエイト・ラリージャパン2022で活用されました。今後車いすが欠かせない人でも旅行ができ、行動範囲を広げられるきっかけになると期待されています。(参照:トヨタイムズ『どうして、トヨタがトイレをデザイン?その真相に迫った!』)
電通名鉄コミュニケーションズ
電通名鉄コミュニケーションズは、名古屋に本社を置く電通と名古屋鉄道の共同出資の広告代理店です。
電通名鉄コミュニケーションズが本社を移転した際にオフィス環境を整備したことが評価され、2022年健康経営優良法人に選出されました。
昇降式のデスクを配置し業務を立って行えるようにしたり、重心がアンバランスな椅子を用いて体幹を鍛えられるようにしたりと、従業員の健康面を意識したオフィスになっています。(参照:株式会社電通名鉄コミュニケーションズ『NEWS RELEASE』)
コクヨ
コクヨの本社1階にある「HOWS WORK」というオフィスは、一般的なデザインの対象から外されていた障がい者や外国人などにも使いやすいインクルーシブデザインで設計されています。
HOWS WORKはデザインの段階から多様な従業員の意見を取り入れ、聴覚障がい者や精神障がい者、車いす使用者などと話し合いがもたれました。
家具の高さや配置、視認性などに配慮し誰もが安心して使えるオフィスになっています。(参照:コクヨ『社内外のWell-beingの向上』)
ウェルビーイング理論を経営に取り入れ組織を活性化させましょう
本記事ではウェルビーイングとは何かについて、高める方法や注目されている背景、施策に励む企業事例について解説しました。
ウェルビーイングとは心身ともに良好で幸福な状態を指します。
報酬が多く金銭的に豊かになることに価値を見出すよりも、ワークライフバランスや働く環境に重きを置く人が増えたのも、ウェルビーイングを重視しているからです。
従業員一人ひとりの違いを認め強みを引き出すことで、お互いの弱点を補完し合い組織として大きなパフォーマンスを発揮できます。
1日の多くを過ごす職場だからこそ、精神的にも身体的にも社会的にも幸福であるウェルビーイングの向上が必要なのです。
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