帝王学とは、皇帝や国王など特別な地位につく人に行われる学問のことです。
『君主論』『孫氏』『孔子』など様々な古典では、リーダーとしての振る舞いや国を長く存続させる方法などを学べます。
これは企業を受け継ぐ経営者や組織の長期的な発展を目指す社員すべてに学ぶべき価値があるものです。
本記事では、そんな帝王学についてその起源や代表的な古典を紐解きます。
特に「帝王学の三原則」と呼ばれる三つの考え方について、その概要と詳しい内容を解説しますので、ぜひ参考にしてください。
帝王学とは?
帝王学とは、古代の王や皇帝など国を統治する者が学ぶべき学問の総称です。
特別な地位につく人々に対して、どのように国を治めて人を先導していくべきかという教えをまとめたものといえます。
特別な地位につく人に与えられた教えをまとめた書物は世界で数多くありますが、特に古代中国ではその思想が深く根付いていました。
古代中国の書物には、皇帝とはどのようにあるべきかについてや国を長く存続させるためのノウハウが詳しく書かれた本が多くあります。
それらは、後世の指導者たちに読み継がれてきました。
帝王学の内容に明確な定義はありませんが、ビジネスに役立つ様々なことが学べます。
例えばリーダーシップを発揮して周囲に影響力を与える方法や長期にわたり安定した組織を作るノウハウなど経営で知っておきたい知識が満載です。
帝王学の代表的な古典
帝王学の代表的な書籍として知られているのは『貞観政要』です。
本書は唐の時代に書かれた唐の二代目の太宗とその巨下の問答形式により、始皇帝としてのあり方をまとめています。
帝王学の基本をおさえるにはまず本書に目を通すのがおすすめです。
また、帝王学を学べる代表的な古典には他にも以下の書籍があります。
- イタリアのルネサンス時代に書かれたマキャベリの『君主論』
- 中国の春秋時代に書かれた韓非の『韓非子』
- 中国の春秋時代に書かれ孔子の言行を弟子たちがまとめた『論語』
- 中国の春秋時代に書かれた孫武の『孫子の兵法』
書籍により異なる考え方や意見が述べられているため、読み比べることで自分に合った帝王学を学べる古典を見つけやすくなります。
帝王学を参考にしている社長・経営者
「ビジネスを成功させる秘訣は古典にある!」と言われるように、現代社会を牽引している経営者は、帝王学を学べる古典を参考にしている方が多くいます。
例えば以下のような人物です。
『孫子の兵法』 | テスラ創業者 イーロン・マスク ソフトバンク創業者 孫正義 パナソニック創業者 松下幸之助 |
『論語』 | SBIホールディングス代表取締役 北尾吉孝 約500の企業設立や発展に関わった渋沢栄一 |
『君主論』 | エステー創業者 鈴木喬 |
古くから読み継がれ現代に残る古典は、時代が変わってもその原理原則は変わらず、ビジネスを発展させるノウハウを多く学べます。
ニーズやトレンドが速いスピードで移り変わる現代社会においても古典から帝王学を学ぶことは、変化の激しい時代を生き抜くお守りのような存在となるはずです。
帝王学を学ぶメリット
次に帝王学を学ぶメリットを紹介します。
先の見えない困難や状況に冷静に対処できる
帝王学を学ぶと今まで経験したことのないような困難や先の見えない状況に直面した時でも、冷静に対処できます。
これは帝王学がリーダーシップの取り方や組織の発展のさせ方など、どんな時代にも変わらない普遍的な考え方や原則を教えてくれるからです。
科学や経済がどんなに変わっても人の心は変わらないため、帝王学はいつの時代でも使える考え方です。
そのため帝王学で学べる集団をまとめたり周囲と協力したりしながら、組織を発展させる方法は現代にも応用できます。
たとえば帝王学を学べば今までの経験したことのない問題にぶつかったときでも「この状況って、昔の人がこんな風に解決したんだ」と、過去のノウハウを現代に使えるのです。
組織としての力を最大限に発揮できる
帝王学を学ぶと、周囲の人と円滑に仕事を進め組織としての能力を最大限発揮できます。
なぜなら部下から意見を引き出す振舞い方を学び、周囲から率直で厳しい意見を集めることで、自分の判断をよりよいものにして企業を発展させられるからです。
例えば一人だけで考えているとどうしても考えが偏ってしまったり、見落としがちなことがあります。
部下たちは現場で実際に仕事をしているからこそ、社長や上司には分からないようなことを多く知っています。
社長が自分の意見ばかりを信じずに周りの信頼できる部下の意見を素直に聞き入れると、より良い判断ができるようになるのです。
個人として大きな影響力を持つことができる
帝王学を学ぶと個人として影響力を持たせる方法が分かります。
帝王学では部下との信頼関係の築き方や気持ちよく動いてもらうための働きかけ、意思決定の仕方などが分かります。
リーダーとして組織に影響力を持たせるための具体的な方法が様々な角度から書かれているからです。
影響力を身につけることは一朝一夕にできるものではありません。しかし帝王学を学ぶことで、様々な国を治めた先人たちの知恵を学べます。
その経験を自分のものにすることで、複雑な状況でも冷静に対応できるような、確かな「影響力」を身につけられるのです。
帝王学の三原則とは?
帝王学には、リーダーとして身につけておきたい三つの考え方があります。
これは帝王学の三原則とも呼ばれているものです。
次に帝王学の三原則についてそれぞれの概要を紹介します。
また、各原則では、帝王学の根幹となっている古典『貞観政要』から、その原則についてのエピソードとともに解説していきます。
第一原則:原理原則を教えてもらう師をもつこと
原理原則とは、どんなに置かれている状況や時代が変わっても変わることのない真理のことです。
これは過去の経験則や特定のケースでしか通用しないノウハウとは違い、普遍的な法則であるため様々な状況に応用できます。
例えば「過去にこのパターンで上手くいったから、今回もこのケースで行けば上手く行く」という考え方は、過去の経験によるものでしかありません。
原理原則を知っていれば、まったく遭遇したことのない未知の事態や問題が起こっても冷静に判断して行動を起こせます。
常に変わらない原理原則を学べる師を持ちましょう。
歴史上の偉人やその書籍から変わらない価値観や問題解決の考え方などを学ぶことは、どんな時代においても私たちを支える心強い味方になります。
創業と守破の難しさについて述べた例
貞観十年、太宗がおそばに仕える巨下たちに言われた。「帝王の事業としては、ものごとを始めること(草創)とできあがったものを守り続けること(守破)とでは、どちらが難しいであろうか」。
『貞観政要 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』(著者:湯浅 邦弘,2017年1月,角川ソフィア文庫,P46,47より引用)
(中略)房玄齢がお答えして言った。「ものごとが始まったばかりの頃には、群雄が競い起こってくる。それらを攻め破って降参させ、戦いに勝利してようやく平定となります。ここから考えますに草創こそが難しいと思います。」
魏徴がお答えして言った。「(中略)一旦天下を得た後は、気持ちがおごり、しまりがなくなります。人民が安静な生活を願っているのに、労役はやむことがなく、人民が疲れ果てているのに、王の贅沢ぶりはやむことがありません。国が衰え廃れていくのは、常にここから起こるのです。」
物事を作り上げることとできたものを維持すること、どちらが難しいかという王の問いに二人の側近がそれぞれ異なる意見を述べている文章です。
房玄齢は、創業期の激しい勢力争いの経験から草創の難しさを伝えました。
一方、魏徴は、安定したときのおごりや気持ちのゆるみを訴えて守成の難しさを伝えています。
二人はそれぞれが経験した異なる側面から、創業と守成の両方がいかに難しいのかについて意見を述べているのです。
人の価値観は経験によって作られるため、二人の意見が異なるのは当然と言えるでしょう。
このように二人の異なる視点から、創業と守成いずれもがいかに困難なものであるかが浮き彫りになります。
第二原則:直言してくれる側近をもつこと
組織をまとめる立場になると、部下がリーダーに気に入られようと顔色を伺ったり自分の意見を言わなくなったりすることがあります。
自分に同調する都合のいい意見しか集まらなくなることがあるのです。
これはリーダーが独りよがりな判断をすることにつながり、組織が上手く機能していない状況といえます。
常に疑問や間違っていること、素直な考えを率直に厳しく話してくれる人を部下に持ちましょう。
自分の価値観に偏ってしまうのを防ぎ、広くさまざまな視点から物事を考えられるようになります。
リーダーに物を言えない理由を述べた側近の例
貞観十五年、太宗が魏徴に問うて言われた。「このごろ朝廷の巨下たちがみな政治について意見を言わないのはどうしてか。」魏徴がお答えして言った。「(中略)人の才能や器は、それぞれ異なります。勇気がなく気弱な人は、忠真の心をいだきながら言うことができません。疎遠の人(人間関係が濃密ではない人)は、信用されないのではないかと恐れて言うことができません。職のことを思う人は、その職を失うのではないかと考えて、言おうとしません。これがたがいに口を閉ざして周囲に同調し、その日その日を過ごしている理由です。」
『貞観政要 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』(著者:湯浅 邦弘,2017年1月,角川ソフィア文庫,P74より引用)
側近が君主に様々な進言を言うことがはばかられていること理由について述べた文章です。
側近は君主に進言することで自分に何か悪いことが起こるのではないか、不利益が起こるのではないかと不安になり上の人の言うことにただ従っています。
上の立場に立つ人は、下の人の心情を推し量り常に意見をいいやすい環境を作ることを意識してください。
第三原則:幕賓をもつこと
幕賓とは、現代で例えるなら社外取締役や顧問、アドバイザーのような存在です。
組織に対して深い信頼を持ちながらも、組織の一員として完全に従属することなく中立的な立場から客観的な意見やアドバイスをします。
組織は外部のさまざまな考え方を取り入れることで、新たな成長のきっかけを得ることができます。
リーダーの政策を止めた幕賓の例
貞観十三年、太宗がおそばに仕える巨下たちに言われた。「(中略)天下の安定は、ただ賢人を得られるかどうかにかかっている。(中略)そこで今、人に自薦させようと考えた。この事をどう思うか。」魏徴がお答えして言った。「他人を知ることができるのは知性、自分自身を知ることができるのは明察です。他人を知ることはそれ自体すでに難しいことです。自分自身を知ることは、実にまた容易ではありません。さらに、暗愚の人は、みな自分の才能や善行を誇りがちです。[自薦させれば]おそらくは澆競(乱れ競う)の風を助長することでしょう。自薦させるべきではありません。」
『貞観政要 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』(著者:湯浅 邦弘,2017年1月,角川ソフィア文庫,P141,142より引用)
魏徴はもともと隋の官僚であり、その後唐の太宗に仕えています。
もともと敵対していた国に入ることとなった魏徴ですが、太宗をサポートしながら様々なアドバイスを行いました。
魏徴が太宗に言った言葉には、人材の選び方についての教訓を得られます。
自分を知ることは他人を知ることよりも難しいというのです。
人を選ぶとき自ら立候補した人の中から選ぶのではなく、むしろ組織が進んで探し出し招き入れる必要があるのです。
魏徴は、中立的な立場から客観的なアドバイスを送っています。
帝王学をやさしく学べるおすすめの本
帝王学は古典がもとになっていますが、内容が難しくかみ砕いて理解するのに時間がかかるかもしれません。
帝王学について初めて学びたい人に向けて、帝王学が基盤となって澆いる古典をやさしく解説し、学べることができる書籍を解説します。
帝王学をやさしく学べるノート
本書は帝王学の三原則ついて、日本の成長を支えた歴史上の人物などの様々なエピソードや書籍からの引用をしながら解説されている本です。
各人物のエピソードとともにそのエピソードを詳しく理解する上での背景知識も優しく解説されています。
分かりやすい文言ながらも深いレベルでノウハウを75学べるのが特徴です。
「帝王学」講義――中国古典に学ぶリーダーの条件
本書は中国古典で帝王学を学べる『貞観政要』『書経』『韓非子』を取り上げ、それぞれの内容について現代社会でリーダーの心得を学ぶうえで役立つ内容が書かれています。
古典を読みたいけれど、まずは現代で活かせる大事なところをかいつまんで知りたいという方に適した本です。
そして、そんな帝王学の学びの一環として日本で古くから親しまれてきたのが「三方よし」の価値観です。弊社代表の清水が出版してAmazonでベストセラーとなった「絆徳経営のすゝめ」も、現代の帝王学が学べるとして人気です。
ぜひこちらもご覧ください。
帝王学の考え方をビジネスに取り入れよう
今回は帝王学について、その起源や内容の基礎となっている古典にはどのようなものがあるかや、帝王学の三原則について解説しました。
帝王学は、周囲と自分の関係や組織を健全に保ちながら、長期的に発展させるための方法を学べます。
経営者の方は、ぜひ帝王学からリーダーシップを取りながら組織をまとめ、高い成果を出す方法を学んでみてください。
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「絆徳(ばんとく)」とは「あなたがよいことをするので、ずっと一緒にいられる関係性」という意味です。
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そして自社の売上が上がります。
自社の利益だけを追及するのではなく、社会性・理念と経済合理性を矛盾なく両立させることが絆徳経営です。
セミナーでは実際に自社ビジネスに活用できる実践的スキルや、マーケティングによってビジネスを拡大した成功事例を学べます。
自社だけが良いのではなく、顧客や社会にとっても良いビジネスをするために「三方よしのマーケティング」をぜひ学んでください。
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