- 行動経済学での「バイアス」とはどういうものだろう?
- どのようなバイアスが人の行動を後押ししているのか?
- バイアスをマーケティングに活用する方法とは?
上記のような疑問を感じたことはありませんか?
今回は、行動経済学におけるバイアスの一覧と、マーケティングへの活用方法について解説します。
ぜひ自社の販売戦略や商品企画などに役立ててください。
行動経済学における「バイアス」とは
はじめに、行動経済学とは何か、バイアスとは何かを整理しておきましょう。
行動経済学でバイアスが重要視されている理由と併せて解説します。
行動経済学とは
行動経済学とは、「人は必ずしも合理的な行動を取るわけではない」という前提に立つ学問です。
経済学に心理学のアプローチを加えることにより、現実の世界で多くの人がどのような行動を取るかが研究されています。
2002年、ダニエル・カーネマン博士らがノーベル経済学賞を受賞したことにより、行動経済学が注目されるようになりました。
カーネマン博士は「行動経済学と実験経済学という新研究分野の開拓への貢献」によってノーベル経済学賞を受賞しています。
20世紀後半には行動経済学の源流が存在していたものの、脚光を浴びたのは2000年代に入ってからのことだったのです。
バイアスとは
バイアスとは「偏見」「先入観」という意味を表す言葉です。
統計学や経済学といった分野では、データの偏りを示す言葉としても使われることがあります。
心理学では、認識の歪みによって事実を曲解したり、特定の物事や人物に対して偏った見方をしたりすることを指しています。
バイアスがかかるのは決して特殊な状況ではなく、私たちが誰しも日常生活の中で経験していることです。
バイアスは人間が本質的に持っている傾向の1つと捉えてよいでしょう。
なぜ行動経済学でバイアスが重要か
前述の通り、「人は必ずしも合理的な行動を取るわけではない」という前提に立っているのが行動経済学の特徴です。
合理的に判断すれば取らないような行動を選択してしまう背景には、バイアスが深く関わっています。
無意識のうちに先入観や偏見の影響を受けているからこそ、人は非合理的な行動を選択してしまうのです。
行動経済学にもとづいて物事を考える際に、バイアスは避けて通ることのできない重要な概念といえます。
行動経済学におけるバイアス7選
行動経済学におけるバイアスを紹介します。
身近な例と併せて押さえていくことで、どのようなバイアスなのかが理解しやすくなるでしょう。
現在バイアス(現在志向バイアス)
現在バイアス(現在志向バイアス)とは、将来の大きな利益より目の前の小さな利益を優先してしまうことを指します。
今すぐに得られる目先の利益のために、将来得られるはずの利益を犠牲にしてしまうケースは少なくありません。
たとえば、「夜中に甘いものを食べると太りやすい」ことは、多くの人が理解しているはずです。
将来的に「太る」という不利益を被ると分かっていても、目の前にあるお菓子を食べるのを我慢できなかったことはありませんか?
現在バイアスは、遠い将来の利益よりも今すぐ手に入る利益を過大評価しやすいことを表しているのです。
サンクコストバイアス(埋没費用効果・コンコルド効果)
サンクコストバイアスとは、今までに費やしてきた金銭や時間・労力などを取り戻したいと感じる心理を指します。
あまり効果がないと分かっている商品でも、「お金を払ったのだから使い続けなければ損だ」と感じたことはないでしょうか。
効果がないと判明しているのであれば、利用し続けても効果を得られないと考えるのが合理的でしょう。
サンクコストバイアスがかかっていると合理的な判断ができなくなり、「どうにかして元を取りたい」と考えてしまいがちです。
正常性バイアス
正常性バイアスとは、異常なことが起きたとしても「正常な状態が続くはずだ」と捉え、平静を保とうとする心理を指します。
災害時に周囲の人が避難を始めていないのを見て、自分も急いで避難する必要はないと感じるようなケースが典型例です。
正常性バイアスがかかっていると「自分だけは大丈夫」と考えるため、課題の解決を先延ばしにしたり行動を遅らせたりします。
一方で、日常生活で遭遇するさまざまな変化に対していちいち過剰反応していると、いずれ心が疲弊してしまうでしょう。
心の状態を平静に保つ上で、一定の正常性バイアスを備えていることが役立つ場合もあるのです。
確証バイアス
確証バイアスとは、自分の思い込みや願望を肯定する情報に注目し、否定する趣旨の情報を軽視しやすくなる心理のことです。
「血液型がA型の人は几帳面」と思い込んでいる場合、几帳面な人がA型だと知ると「やはりそうか」と思うでしょう。
実際にはA型で大雑把な性格の人がいたとしても、自分が信じている情報に合致する状況が強く印象づけられてしまうのです。
思い込みや願望を肯定する情報が印象づけられることで、確証バイアスはいっそう強まっていく傾向があります。
確証バイアスを緩和するには、あえて反対意見に目を向けたり、具体的な数値やエビデンスを参照したりすることが重要です。
自己奉仕バイアス
自己奉仕バイアスとは、うまくいった時は自分の能力のおかげと捉え、失敗した時は外的要因によるものと捉える心理のことです。
転職先で評価されると「能力を発揮できた」と捉え、評価されないと「職場環境がよくない」と捉えるような心理を指します。
自己奉仕バイアスの背後には、自尊心や自己保身の心理が潜んでいるケースが少なくありません。
極端な自己保身バイアスを回避するには、周囲の人々との関係性や自分を支えてくれる人の存在に目を向ける必要があります。
内集団バイアス
内集団バイアスとは、自分が所属する集団の仲間に対して肯定的な評価や好意的な態度を示したくなる心理のことです。
より端的に表現するなら「身内びいき」をしたくなる心理と捉えてよいでしょう。
初対面の人が自分と同じ地域の出身と知ると、なぜか親近感が湧くのも内集団バイアスの一種といえます。
内集団バイアスが高じると極端に排他的になったり、外部の集団を理由もなく敵視したりする結果を招きかねません。
内部の結束を強めるのは大切なことですが、所属している集団を過大評価していないか時には客観視してみる必要があるでしょう。
後知恵バイアス
後知恵バイアスとは、物事が起きた後で「予測していた出来事だった」と後付けで捉える心理のことです。
多くの人は、自分の考えが間違っていたとは思いたがらない傾向があります。
予測していた状況とは異なる結果になったことを認めてしまうと、自身の間違いを認めざるを得なくなるでしょう。
自分の判断や行動が正しかったと捉えるために、「あらかじめ予測していた通りだった」と因果関係を修正するのです。
人の記憶は曖昧な点が多々あるため、無意識のうちに記憶を修正し、自己を正当化したくなる心理の表れといえるでしょう。
マーケティングにおけるバイアス活用例
行動経済学のバイアスは、さまざまなマーケティング手法に応用されています。
具体的な手法について、事例とともに見ていきましょう。
現在バイアスの活用例
将来の利益よりも目の前のより手近な利益に惹かれやすいという現在バイアスは、テレビショッピングなどでよく利用されています。
価格が20万円の電化製品であっても、「分割48回払いで月々わずか5,000円」と言われると抵抗なく買えるような気がするものです。
実際には、金利も含めると本体価格よりもさらに多くの金額を支払うことになるのは容易に想像できます。
たとえ金利の仕組みを理解していたとしても、「月々5,000円なら無理なく支払える」という点が印象づけられるものです。
今すぐに得られるメリットを提示することで購入の心理的ハードルを下げる手法は、現在バイアスを活用した好例といえるでしょう。
サンクスコストバイアスの活用例
過去に費やした金銭・時間・労力を取り戻したいと感じる心理は、会員制サービスなどの退会防止策として活用されています。
入会時にまとまった入会費を支払うと、「すぐに退会してしまったら損だ」という心理が働くものです。
結果として、あまり利用していないサービスであっても「しばらくは退会しないで様子を見る」という選択をしやすくなります。
入会期間や購入金額に応じて付与されるポイントや会員ランクなども、同様の効果を狙ったものと考えてよいでしょう。
退会すれば今までに付与されたポイントが失効してしまうことから、気軽に退会しにくくなるのです。
正常性バイアスの活用例
正常性バイアスがかかっていると、急激な変化や新たな発見に対して「今すぐに行動や習慣を変える必要はない」と感じがちです。
マーケティングでは、消費者の正常性バイアスをいかにして取り払い、課題の本質に気づいてもらうかが争点となります。
ダイエット食品を訴求するには「今すぐに痩せる必要はない」という心理を払拭しなければなりません。
商品を使用した場合のビフォーアフター画像を提示するのは、使用後の姿を自分自身に重ねてもらうことが主な目的でしょう。
視覚に訴えることで「行動する必要性」を強く感じてもらい、正常性バイアスを取り払おうとしているのです。
確証バイアスの活用例
思い込みや願望を肯定する情報を重視しやすくなる確証バイアスは、広告の手法にしばしば活用されています。
ディスプレイ広告やリターゲティング広告は、同一のユーザーに対して繰り返し同じ広告を提示するケースが少なくありません。
同じ広告を何度も目にしたユーザーは「よほど話題になっている商品のようだ」という捉え方をしやすくなります。
結果として広告をクリックし、詳細を確認するという行動につながっていくのです。
自己奉仕バイアスの活用例
自己奉仕バイアスはキャッチコピーなどでよく活用されています。
たとえば、債務整理を訴求する広告で「自信を取り戻しませんか?」というキャッチコピーを採用している例を考えてみましょう。
返済し切れないほど借金が膨らんだ背景には、何らかの原因があるはずです。
原因について責めるのではなく、「本来あなたは悪くない」というメッセージを込めることで自己奉仕バイアスを刺激しています。
現状の問題点を外的要因に見出すキャッチコピーの中には、自己奉仕バイアスの刺激を意図したものも少なくありません。
内集団バイアスの活用例
所属する集団に属する人を肯定的・好意的に捉える内集団バイアスは、ファンマーケティングで活用されているケースが見られます。
特定のコミュニティ内で交流を深めていくうちに、コミュニティに属していること自体を誇らしく感じるようになっていくのです。
愛着のある人物や製品を第三者が批判すると、まるで自分自身が批判されたかのように感じるようになるでしょう。
結果としてコミュニティ内では否定的な意見が出にくくなり、継続的に購入・利用してくれるファンの地盤を築くことができます。
一方で、極端な内集団バイアスは外部から見た場合に「怖い」「異様だ」といった印象を与えかねないため注意が必要です。
後知恵バイアスの活用例
物事が起きた後で「予測可能だった」と記憶を上書きする後知恵バイアスは、顧客フォローの際に活用されています。
商品を購入した顧客は、深層心理では「お金を使ってしまった」「無駄遣いだったのかもしれない」と罪悪感を抱えがちです。
購入した商品のメリットや活用方法を改めて伝えることで、「やはり購入してよかった」と思い直してもらうことができます。
顧客としては「購入したのは賢明な判断だった」「間違っていなかった」といった思いを強めていくでしょう。
結果としてキャンセルや返品を抑制できることに加え、リピート顧客の獲得につながるチャンスを広げられるのです。
まとめ
今回紹介した7種類のバイアスは、いずれも行動経済学で重要視されている心理作用です。
多かれ少なかれ、誰もがバイアスがかかった視野で物事を捉えています。
バイアスへの理解を深めることは、消費者の心理や行動をより深く理解する上で役立つでしょう。
行動経済学の知見を、事業企画やマーケティング施策を考案する際にぜひ活用してください。
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