臨床心理学に大きな影響を与え、心理学の分野で活躍した言われている精神科医の「ユング」で、そのユングが開発・提唱したのが「ユング心理学」です。
ユングは、フロイトの精神分析学に心を惹かれ、それまで以上に心理学を深求していました。しかし、その後に二人は意見が対立したことで決別しています。
・ユング心理学は、無意識を「個人的無意識」と「集合的無意識」に分ける
・フロイトは、無意識を「意識・前意識・無意識」の三層構造に分ける
今回は、ユング心理学を分かりやすく解説すると共に、心理学の三代巨匠といわれているフロイトとの違いについても解説していきます。
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ユング心理学とは?
ユング心理学とは、スイスの精神科医・心理学者のカール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung)が提唱した心理学のことを指します。
ユングは、『分析心理学』の創始者でフロイトと共に精神分析学を発展させていました。しかし、フロイトとは「無意識」についての意見が相違したことで距離を置くようになりました。
ユングは、「集合的無意識」といった新しい概念を生み出し、“無意識”の領域を明らかにしています。
このように、自分自身でも意識ができない部分が大半を占めているという考え方に基づく心理学、それがユング心理学です。
ユングにとっての無意識とは?
ユングにとっての無意識とは、「個人的無意識」と「集合的無意識(普遍的無意識)」の2つの要素に区別しています。
まず、人の心の構造を「意識」「無意識」の2つの領域に分類することができると考え、その2つの領域が対になることで『心』のバランスを保つことができると説いています。
ユングは、意識(自分の知り得る意識)と知り得ない意識(無意識)のバランスが崩れた際に、精神疾患を生じると考えています。
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ユングにとっての「人の心の動き」
ユングにとっての「人の心の動き」は、「思考」「感情」「感覚」「直観」の4つの機能があると解説しています。
4つの機能で「どれが最も働くか?」で人の心の動きをタイプ別に分けています。
意味 | 具体的に | |
---|---|---|
思考 | 物事を理に適った捉え方をする心の機能。 “理屈で考えようとするタイプ” |
「それを証明する根拠は?」 「この作品はいつ・どんな意図で作られた作品なんだろう?」 |
感情 | 好きか嫌いかで判断する心の機能。 “快・不快で物事を捉えるタイプ” |
「この仕事はそもそも好きなことか?」 “思考”と正反対の機能をしている。 |
感覚 | 物事を「そのまま」捉える心の機能。 “あるがままで感じ取るタイプ” |
「このギターのニュアンスは○○の曲と似ているかな」 「〇〇の味付けのおかげで〇〇の料理が美味しいと感じる」 |
直観 | 物事を思いつきで判断する心の機能。 “ひらめきで物事を捉えるタイプ” |
「この出来事は〇〇を予知している」 “感覚”と正反対の機能をしている。 |
人は、「なんとなく好き・嫌い」で付き合う人を選別したり、「〇〇がこうだから好き」などのこだわりで食事を選んだり、「今でなければ後悔する」という“勘”で行動をする人とさまざまです。
ユングは、人の心の動きに注目したことにより、人間の心の特徴に気づくことができ治療や研究に役立てていました。
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ユング心理学の代表的な思想
ここからは、ユング心理学の代表的な思想について解説していきます。
集合的無意識
ユング心理学の代表的な思想1つ目は、集合的無意識です。
集合的無意識は、普遍的無意識とも呼ばれていて、昔から現代まで変わらない、人間の無意識の根底となる心理構造のことを指します。
例えば、“ふくよかな体型の女性を象った土偶”があったとします。
この土偶を見たときに「優しい母親的なものを感じる」とイメージが浮かぶ場合、古代から伝わる神話・伝説、芸術、個人が見てきた夢などが影響しています。
ユングは、物事を捉えるとき『人類の心の中で脈々と受け継がれてきた“何か”がある』と説いています。
このように、想像力の原点となる無意識の領域のことを『集合的無意識』といいます。
タイプ論
ユング心理学の代表的な思想2つ目は、タイプ論です。
タイプ論とは、人間の気質を「外向的な人間(外向型)」「内向的な人間(内向型)」に分類する思想のことを指します。
- 外向型|意識(心のエネルギー)が外側に向いている人
- 内向型|意識(心のエネルギー)が内側に向いている人
外向型の人は、とても社交的で世の中の流行に敏感であり人に左右されやすい傾向があります。
一方、内向型の人は控えめで我慢強く自身の気分に左右されやすい傾向があります。(気質なので、必ず上記のような性格になるという訳ではありません。)
※ どちらが「良い・悪い」などはなく、人の性格を定義するためのものでもありません。
・相手がどっちのタイプかを見極めることができれば、人付き合いに役立てることができる。
➡︎ 相手の反応を少しでも予想することができる。
元型論
ユング心理学の代表的な思想3つ目は、元型論です。
集合的無意識で“根底に想像力の原点となる出来事がある”と解説したように、それにより人間の無意識が従うこと(パターンがあること)を「元型(アーキタイプ)」といいます。
代表的な元型には、『グレートマザー』『老賢人』などがあります。
『グレートマザー』『老賢人』は、日本の縄文土器、世界の古代文明の遺跡などで表現されています。
このような土偶は、形はさまざまもので表現されていたとしても、「命を生みだす母親」「権威性があり男の成長の最終点」と、共通するイメージがあります。
人によってイメージはさまざまですが、人類の心の中は「母親元型」「父親元型」が存在しているというユングの考えです。
アニマ・アニムス
ユング心理学の代表的な思想4つ目は、アニマ・アニムスです。
アニマ・アニムスとは、集合的無意識における元型のひとつです。
「アニマ」は、男性の集合的無意識のなかの一人の女性が影響されていて、「アニムス」は、女性の集合的無意識のなかの一人の男性が影響されている思想のことです。
例えば、普段の日常のなかで、とても穏やかで大人しい男性が意外にロマンチックに憧れていたり、反対に可愛らしい顔立ちの女性が男前な発言をするといった人を見たことはありませんか?
ユングは、このような人間には「アニマ」と「アニムス」の元型があると提唱しています。
成長していく過程で元型ができ、何かの出来事のイメージが強いことで「アニマ」と「アニムス」が成熟していると説いています。
アニマ:男性のなかの「女性像」「女性的」な部分のこと。
アニムス:女性のなかの「男性像」「男性的」な部分のこと。
ペルソナ
ユング心理学の代表的な思想5つ目は、ペルソナです。
ペルソナとは、人間の外的側面の心理的な“仮面(顔)”のことを指しています。
自分達が生活していくうえで、「職場での顔」「家族といる時の顔」「商談の時の顔」「〇〇会社の営業担当の顔」と場面や地位など、人によってさまざまな仮面があります。
ユングが提唱したペルソナは、人間は仮面を被って暮らしているという考えのことです。
① 本当の自分に合ったペルソナを理解すること。
② 仮面をうまく着脱できるようになること。
➡︎ 上記の2つが大切であると説いています。
コンプレックス
ユング心理学の代表的な思想6つ目は、コンプレックスです。
心理学・精神医学用語で「コンプレックス」とは、記憶・衝動・欲求などのさまざまな心理的な感情が複雑に絡み合ってできた劣等感(観念)のことを指します。
ユングが提唱しているコンプレックスは、「感情に色をつけた心的複合体」です。
簡単に解説すると、「自分は〇〇が劣っている」という劣等感を通り越して、さらなる複雑ないろんな感情が入り混じることで生じる感情のことを指しています。
なぜか自分自身でも感情をコントロールできないほど怒りが生じたり、感情的になってしまったりする複雑な心のことを、ユングが提唱する“コンプレックス”の概念に含まれます。
影(シャドウ)
ユング心理学の代表的な思想7つ目は、影(シャドウ)です。
影(シャドウ)とは、無意識の領域のなかに歪んだ形で存在するものを指しています。
例えば、下記のように思っている人がいたとします。
- お金に執着がある人は汚い
- 稼いでる人は、なにか裏がある
- お金持ちは性格が悪い
このように思っている人は「お金」に対して、なんらかの“影(シャドウ)”があると考えられます。
本当は「お金が大好き」「経営を成功させてお金を稼ぎたい」など、本当の望み(本当は生きたかったもう1人の自分)が隠れているかもしれません。
このように、ユングは無意識のなかに隠れている不健全な“心の暗部”が日常のなかで影響を及してしまうと説いています。
ユングとフロイトの違いは?
ユングとフロイトは、人が行動する時は無意識の力によって決定されるといった「精神分析学」の考え方に共通点があり緊密な関係を結んでいました。
そもそもユングは、精神分析学の創始者のフロイトから教えを受けていたが、考え方に違いが生まれたことでフロイトから離れたと言われています。
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無意識に対する解釈の違い
ユングとフロイトの違い1つ目は「無意識」に対する解釈に違いがあることです。
ユングにとっての無意識は、“個人的無意識”と“集合的無意識(人類が普遍的に持つ無意識の領域)”の2つの領域が存在すると言います。
一方フロイトにとっての無意識は、“個人の持つ領域”だけだと言います。
このように、ユングとフロイトは無意識に対する考え方が異なっています。
・意識と無意識は互いを補っている関係。
・無意識には意識とは正反対の別の自分が隠れている。
・意識と無意識は対立的な関係。
・無意識は過去の記憶や衝動を入れる領域。
リビドーに対する考えの違い
ユングとフロイトの違い2つ目は、リビドーに対する考えに違いがあることです。
リビドーとは、精神分析学で用いられる用語で簡単に言えば「性欲」の衝動を生む本能的なエネルギーのことを指しています。
ユングはリビドーを“一般的な生命の一部”として使用しているが、フロイトは“人間の行動エネルギーの動機は、すべてリビドーから来ている”と説いています。
例えば、恋愛のパートナーを選ぶ際にユングは「人間は性生活も重要視しているが価値観や話し方、経済面も含めて選ぶ」、フロイトは「人間は性生活の観点のみで選んでいる」と言います。
このように、精神分析を行う時に”性”に対する考え方、重点の置き方に違いがあります。
・『性』は生きていくうえでの1部に過ぎない。
・ポジティブなもの。
・リビドーは、ただの性的なものに過ぎない。
・ネガティブなもの。
診療者・治療のやり方の違い
ユングとフロイトの違い2つ目は、診療・治療のやり方の違いがあることです。
同じ精神分析学を研究していましたが、診療していた患者に違いがあったと言われています。
ユングは主に“統合失調症”を患っている患者を診療していました。一方フロイトは、“神経症患者”を多く診療していました。
それによって、2人の治療のやり方に大きな違いが生まれました。
ユング「夢分析」、フロイト「自由連想法」
フロイトも夢分析を用いて治療を行なってはいたが基本的には「自由連想法」を好んでいたといいます。
ユングが用いていた「夢分析」とは、日ごろ眠っている時に見た夢を語ってもらい分析していく方法のことです。
ユングにとって、夢分析は“無意識”の領域にある情報を把握することができ、患者が「何を考え」「どんなことを伝えたいのか」が把握できると言います。
フロイトが用いていた「自由連想法」とは、無意識の領域を把握するために、心に浮かんだ感情や事柄を言葉にするように促す技法のことです。
・夢こそが未知なものを伝えてくれる。
・夢はただの願望充足である。
まとめ
ユングが提唱した概念とは、無意識には個人的無意識と集合的無意識の二つの層があるといえます。
ユング心理学は、「集合的無意識」といった新しい概念を生み出し、“無意識”の領域を明らかにしています。
人間の無意識こそが、意識や心を分析するためには重要な要素だと提唱し、「意識」と「無意識」のバランスが崩れた際に、精神疾患を生じると考えています。
フロイト・ユングともに心理学を追求していたが、意見が分かれたことで独自の異なる理論を提唱し治療に役立てています。
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