コンシューマーインサイトとは、マーケティングにおいて消費者が気づいていない隠れた心理のことを指します。
商品が店に溢れている現代は、消費者が欲しいと思っているものは既に販売されており、企業が他社との差別化をすることが困難です。
それでも自社独自のブランディングを確立し、市場で優位に立ちたいと考えるマーケティング担当者は多いでしょう。
自社がレッドオーシャンを生き抜くために注目されているのが、コンシューマーインサイトです。消費者が無意識に感じている課題を解決できる商品・サービスが市場でヒットしています。
この記事では、コンシューマーインサイトを捉える方法やマーケティングの成功事例を紹介します。新しい視点で自社の提供価値を考える機会にもなりますので、ぜひ最後までお読みください。
コンシューマーインサイトとは
コンシューマーインサイトは直訳すると「Consumer(消費者)」の「Insight(洞察力)」という意味です。マーケティングでは、消費者が気づいていない隠れた心理のことを言います。
消費者の消費行動は必ずしも明確な理由があるわけではありません。物が溢れている現代では商品はどれも似たり寄ったりで、絶対にこの企業から買うという強い動機がないことが多いです。
そのため、企業は消費者が欲しいと思っている商品を販売するのではなく、消費者がまだ気づいていない欲求(コンシューマーインサイト)を満たす商品を提供することを重視するようになりました。
コンシューマーインサイトは潜在ニーズと間違われることがあります。潜在ニーズは深層意識では気づいているのに言語化ができていない欲求ですが、コンシューマーインサイトは消費者本人がまったく気づいていない欲求をいいます。
行動経済学とコンシューマーインサイトの関係
行動経済学は経済学と心理学が合わさった学問です。経済学では人間は合理的な判断や行動をすると考えられていますが、実際は非合理的な判断や行動をすることも多く、それを研究する学問が行動経済学です。
消費者の合理的でない行動は、マクドナルドのサラダマックとクォーターパウンダーの例にも表れています。
マクドナルドでは昔、健康志向のメニューとしてサラダマックを販売しました。サラダマックは顧客アンケートの「ヘルシーなメニューが欲しい」という声によって開発されましたが、まったく人気が出ませんでした。
マクドナルドにヘルシーなメニューを求めたのは建前であり、実際は健康を気にしていても高カロリーのものを食べたいというインサイトがあったのです。
2008年にマクドナルドは一般的なハンバーガーよりも肉の量が多いクォーターパウンダーを販売し、大ヒットとなりました。マクドナルドといえばハンバーガーであり、コンシューマーインサイトは「罪悪感を感じたとしても高カロリーのものが食べたい」だったのです。
消費者は健康志向と言いながら、実際は高カロリーの食品を食べたいと思う非合理的な行動を取っていました。コンシューマーインサイトを探るには、アンケート結果だけではわかりづらい深層心理をとらえる必要があります。
コンシューマーインサイトの見つけ方3ステップ
ここでは、コンシューマーインサイトの見つけ方を3ステップにして紹介します。
- 市場調査を行う
- 収集したデータを分析する
- 分析結果をフレームワークに当てはめる
コンシューマーインサイトは様々なデータを収集・活用し、ペルソナの行動や感情を具体的にイメージすることで見つけられます。
1. 市場調査を行う
コンシューマーインサイトは消費者の日ごろからの行動や感情などを調査しなければ把握することができません。市場調査には以下のような方法が効果的です。
- 顧客満足度調査
- インタビュー調査
- 行動観察調査
- 消費者アンケート調査
- SNSでの反応など
- Webサイトのアクセス数・クリック数
定量的なデータや定性的な情報をできるだけ多く集めることで、コンシューマーインサイトがつかみやすくなります。
2. 収集したデータを分析する
収集したデータを分析し、消費者にどのようなインサイトがあるのかを推測します。データ分析には以下のようなツールを使います。
CDP (カスタマーデータプラットフォーム) | 企業が集めた顧客情報を集約し一括処理できるデータベース ・Treasure Data CDP ・Adobe Experience Platform ・Rtoaster insight+ など |
プライベートDMP (データマネジメントプラットフォーム) | 顧客データ(属性・行動履歴・広告配信など)を一元管理するプラットフォーム ・Rtoaster ・Adobe Audience Manager ・Yahoo! DMP など |
アクセス解析ツール | Webサイトの訪問者の情報や行動履歴を収集・分析ができるツール ・Googleアナリティクス ・Clarity ・Juicer など |
収集した数多くのデータを見やすいように表やグラフで可視化することで、消費者の行動などを把握しやすくなります。最近ではAIを使って消費者行動を予測することもできるようになりました。
3. 分析結果をフレームワークに当てはめる
分析結果をフレームワークに当てはめることで、自社の商品・サービスが顧客の感情や行動にどのように関わるかを視覚化できます。
インサイトの発見には共感マップ・カスタマージャーニーマップ・バリュープロポジションキャンバスの3つがよく使われています。
共感マップ
共感マップはペルソナの感情や行動を6つの要素に分類するフレームワークです。
- See(見ているもの)
- Hear(聞いているもの)
- Think and Feel(考えていること・感じていること)
- Say and Do(言っていること・行動)
- Pain(痛み・ストレス)
- Gain(喜び・ほしいもの)
共感マップはペルソナを深く理解するために作成します。ペルソナの行動や感情を具体的にイメージできなければ、自社商品・サービスがどのようにコンシューマーインサイトに関連付けられるか捉えられません。
カスタマージャーニーマップ
カスタマージャーニーマップは、消費者が自社商品・サービスを認知してから購入後の行動までを図にしたものです。
横軸 | ・ニーズ認識 ・商品認知 ・比較検討 ・購入 ・利用 ・継続や再購入 |
縦軸 | ・行動 ・タッチポイント ・思考や感情 ・理想の体験 |
横軸の時間軸に合わせて縦軸を考えます。ペルソナが購入までにどのように考えて行動するのかを具体的に考えることで、コンシューマーインサイトの仮説を立てやすくなります。
バリュープロポジションキャンバス
バリュープロポジションキャンバスは、顧客への提供価値と顧客セグメントを比較することでズレがないか確認できるフレームワークです。
顧客セグメント | ・顧客が解決したい課題 ・顧客が得るもの・必要なもの ・顧客の悩み |
顧客への提供価値 | ・顧客に利得をもたらすもの ・顧客の悩みを取り除くもの ・商品やサービス |
顧客が何を求めているか深く理解した後に顧客への提供価値を考えます。顧客の悩みが引き起こされる要因や必要なものが得られる背景を深掘ることで、自社が本当に提供すべき価値を検討できます。
コンシューマーインサイトの成功事例7選
コンシューマーインサイトをマーケティングに生かした7種類の成功事例を紹介します。
- 大戸屋ごはん処
- カップヌードルリッチ
- パナソニック食器洗い乾燥機
- 一蘭
- NANOX one ニオイ専用
- ファブリーズ
- KitKat
どの企業も消費者の心の底にある悩みを上手く言語化し、自社の提供する価値に組み合わせています。ターゲットの感情や行動を調査するところから始まり、自社商品に生かしていることがわかるでしょう。
1. 大戸屋ごはん処
定食チェーン店の大戸屋ごはん処は、商業ビルの2階や地下に店舗があることが多いです。これはターゲットの女性が持つインサイトをおさえた立地戦略となっています。
大戸屋が全国展開を始めた1990年代後半は、定食といえば男性が食べるものというイメージがありました。
大戸屋は女性客をターゲットにするためにインサイトを調べたところ、女性は一人でレストランに入るところを見られたくないと考えていたことがわかり、店舗を2階や地下に置いたのです。
また、タッチパネル式のオーダーシステムで品数を増やすところを見られないため、女性でもがっつり食べたいと思うときの恥ずかしさを軽減しています。
2. カップヌードルリッチ
日清食品のカップヌードルは60歳以上の購入率が低いことが課題でした。高齢者は全般的に健康志向と考えられていましたが、高齢者のSNSには豪華な料理の写真が並んでいます。
高齢者は、健康を気にしながらも美味しい料理や好きな食べ物を食べたいというインサイトを持っていました。
そこで、日清食品は高級感のあるカップヌードルリッチを販売しました。スッポンやフカヒレなどの高級食材に1,000mgのコラーゲンを配合し、一般のカップヌードルよりも50円高い価格設定です。
シニアの購読率が高い新聞に広告を載せ、発売7か月で1,400万個を売り上げています。
3. パナソニック食器洗い乾燥機
ナショナル(現パナソニック)は2003年当時、食器洗い乾燥機を家事を楽にする家電として販売していました。
しかし、ターゲットである子育て中の親は家事を楽にすることに罪悪感を感じていました。家事が楽になると子育てをさぼっていると思われると考えていたからです。
そこでナショナルは食洗機を「子供と一緒にいられる時間を長くできる家電」として販売しました。広告に子供と一緒にいる夫婦の画像を使いイメージの転換を図ったところ、食洗機の国内販売台数1位を獲得しました。
今でもパナソニックの食洗機紹介ページには「食器洗いの時間を、だんらんの時間に。」というキャッチコピーが掲げられています。(参考:Panasonic『食器洗い乾燥機(食洗機)』)
4. 一蘭
ラーメン店の一蘭は、味集中カウンターで人気を博しています。ラーメン屋は女性にとって一人で入りにくい店というイメージがあります。
一蘭のカウンターは1席ずつ仕切られており、正面にはすだれがあるのでスタッフからも顔を見られることがなく、注文時もオーダー用紙に書いて渡すだけのため、周りの客に注文内容を知られる心配をする必要もありません。
味集中カウンターは、おひとりさまのインサイトを掴んだシステムと言えます。
5. NANOX one ニオイ専用
ライオンの「NANOX one ニオイ専用」は衣類のニオイに着目した洗濯洗剤です。日本人は衣類の汚れが目立たなくても毎日洗濯する習慣があるため、各社の洗剤は洗浄力で訴求していました。
ライオンは毎日洗濯をしている主婦にアンケート調査を行い、衣類がきれいになっているかどうかの判断を嫌なニオイがするかしないかで判断していると知りました。
見えない汚れをニオイと表現し、ニオイを断つ洗剤としてNanoxを販売したところ、ヒット商品に成長しています。
6. ファブリーズ
P&Gのファブリーズは1990年代にアメリカで日常の嫌なニオイを消すキャッチコピーで販売されましたが、まったく売れませんでした。
ターゲットとしていた喫煙家庭やペットがいる家庭では、ニオイに慣れてしまっておりファブリーズの必要性を感じていなかったのです。
当時ファブリーズを買っていた人は子持ちの女性で、掃除の後に部屋に吹きかけて良い香りを楽しんでいました。消臭のためではなく芳香剤としてファブリーズを使っていたのです。
そこで、窓を開けて爽やかな空気が部屋に入ってくる様子や整った部屋にファブリーズを吹きかける内容の宣伝を行ったところ、ヒット商品となりました。
また、日本人は洗濯でニオイを消す習慣があるため、ソファや布団などの洗濯できない布製品にファブリーズを吹きかけて消臭するという宣伝をして新しい価値観を生むことに成功しています。
7. KitKat
KitKatが日本で販売され始めた当時は一般的なチョコレート菓子と同じで、独自のブランディングがありませんでした。
ターゲットである高校生に理想的な休憩・嫌いな休憩を写真に撮り一言感想を書いてもらうという調査を行ったところ、高校生は休憩でストレスをなくしたいと考えていることがわかりました。
また、九州地区では毎年1月と2月にKitKatの売り上げが増えるという現象がありました。受験生を持つ親が九州の方言「きっと勝っとお」の語呂合わせで、合格の思いを込めてKitKatを買っていたのです。
KitKatは受験ストレスの軽減と受験生への応援の気持ちを込めたプロモーションを行い、受験生が合格の願掛けでKitKatを買うようになりました。
他社と差別化するブランド戦略立案にはコンシューマーインサイトの理解が重要
この記事では、コンシューマーインサイトの見つけ方や成功事例などについて説明しました。
コンシューマーインサイトは消費者自身が自覚していないため、調査する側の企業がインサイトを見つけるのは困難です。アンケートで質問しても本音を答えてくれるとは限りません。
しかし、様々な種類の膨大なデータを集めることで、コンシューマーインサイトを導き出しやすくなります。コンシューマーインサイトに訴えることは、他社との差別化になります。
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