現在市場が拡大しているエイジテック分野とは「Age(老齢)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語で、高齢者向けのテクノロジーのことです。
日本のエイジテックは発展途上の市場のため、介護用品などを思い浮かべる人が多いと思いますが、エイジテックはAIなどの先進技術が大いに生かされる新しいビジネス分野なのです。
エイジテックにどのようなサービスがあるのか気になる方のために、この記事ではエイジテックの市場規模とエイジテックサービスについて紹介します。ぜひエイジテック市場参入の参考にしてください。
エイジテックの市場規模
エイジテックとは、高齢者が健康的で豊かな日常生活を送るためのテクノロジーサービスのことです。高齢者の数が増えるに伴い需要も増加するため、エイジテック市場は拡大すると考えられています。
みずほコーポレート銀行産業調査部によると、2007年の高齢者向けマーケットの市場規模は62.9兆円でしたが、2025年には101.3兆円になると予測されました。
世界的に見てもエイジテックの市場規模は拡大しており、2018年に17兆ドルだった市場が2025年には27兆ドルになると予測されています。(参考:Forbes『'Age-Tech': The Next Frontier Market For Technology Disruption』)
エイジテックが注目される背景
エイジテックが注目されている背景には、以下のような社会の課題や特徴があります。
- 少子高齢化による介護従事者の減少
- 医療や介護費の増大
- 高齢者の年間消費額の増加
前述のようにエイジテックの市場規模も拡大していくと予測されているため、ますます注目を集める分野となるでしょう。
1. 少子高齢化による介護従事者の減少
少子高齢化により現在の日本は超高齢化社会に突入しています。総務省の統計では、2022年の時点で65歳以上の高齢者が占める割合は全人口の29.0%で、人口の4分の1以上が高齢者です。
働き盛りの若い人たちが減っていることは、高齢者を介護する人が少なくなることを意味します。
厚生労働省の調査によると介護職員数は毎年増加はしていますが、介護が必要な高齢者の需要に見合った人数に達していません。
今後もますます需要と供給の差が開くと予想されているため、介護士の負担を軽減できるエイジテックが注目されています。
2. 医療や介護費の増大
厚生労働省のまとめによると、日本の医療費はところどころ若干の減少がある年はあるものの、右肩上がりに増加しています。医療費の増加には新技術や新薬の導入などの理由もありますが、高齢者の増加も一因です。
エイジテックサービスは新技術を活用した高額なサービスもありますが、活用することで高齢者の健康を維持・改善できると期待されています。
また、エイジテックにより若年層から生活習慣を整え健康な生活をすることで、将来の医療費を抑えられるでしょう。
3. 高齢者の消費割合の増加
総務省の「家計調査(家計収支編)」から作成されたグラフを見ると、消費支出全体の高齢者の割合は年々増加しています。
少子高齢化で高齢者の割合が増えたため、消費支出の割合も増えるのは必然といえます。
加えて高齢者は年金の受給による所得と、高度経済成長期やバブル期などに蓄えた貯蓄などにより、不景気でも消費額が若年層や中年層よりも落ちていないと考えられています。
今後も高齢者の消費支出割合は増加していくと予想されているため、高齢者をターゲットにしたエイジテックがますます発展していくでしょう。
エイジテックの企業・サービス事例
Golden Years作成のエイジテックカオスマップには様々な分野の企業が書かれていますが、ここではサービスの対象者ごとに企業やサービスを3つずつ紹介します。
エイジテックは大企業だけでなく、中小企業やスタートアップ企業が多く参入しています。高齢者が抱える課題をどのようにエイジテックが解決しているのか見ていきましょう。
高齢者自身が使うサービス
高齢者自身が使い、自分自身の生活の質を向上させていくためのサービスを紹介します。
- SOKUYAKU
- EPARKお薬手帳
- ぱる体操
高齢で足腰が不自由になると外出しづらくなったり、体の不調を我慢してしまったりするため、気軽に医療を受けられるサービスなどが発展しています。
1. SOKUYAKU
SOKUYAKUは、ジェイフロンティア株式会社が提供するオンライン診療と服薬指導が受けられるアプリです。
病院が遠方で通院することが難しい場合や自宅から出られない場合でも、オンラインで医師の診察や服薬指導が受けられます。処方された薬は自宅に配送されます。
アプリの使い方がわからない場合は、電話で教えてもらいながら操作できるので高齢者も安心です。風邪などの比較的軽度な症状の場合に診察を受けられるため、気軽に相談ができるでしょう。
2. EPARKお薬手帳
EPARKお薬手帳は、株式会社くすりの窓口が提供しているお薬手帳アプリです。
ノート型のお薬手帳の場合、薬局や病院に持っていくのを忘れてしまったり紛失したりする可能性がありますが、スマートフォンのアプリにすることで持ち忘れの防止ができます。
薬の飲み忘れを防げる服用カレンダーや処方された薬の情報を登録できる機能などもあり、家族が高齢者の薬の管理をすることも可能です。
3. ぱる体操
ぱる体操はシニア@プロジェクトが提供している体操動画のWebアプリです。「ぱる」とは英語で「仲のいい友達」という意味があり、仲のいい人と一緒に笑いあえる人生を送ってほしいという思いが込められています。
肩こり予防や姿勢改善、脳トレなどの目的別に動画が分けられているため、自分の気になる内容を重点的に運動できます。
10分間の動画を見ながら自宅でも運動する習慣をつけることで、認知症などのリスクの軽減が期待できるでしょう。
高齢者向けの医療・介護施設や行政が使うサービス
病院や介護施設のスタッフの負担を軽減できるサービスを紹介します。
- RehaVR
- ROBOHELPER SASUKE
- どこでもナースコール・見守りセンサー
スタッフの負担を軽減できれば、高齢者のためのより良い介護サービスを提供できるようになります。少子化でスタッフ不足の中、質の良い介護を提供するために必要な製品・サービスです。
1. RehaVR
RehaVRはsilvereye株式会社が提供しているリハビリとVRを組み合わせてリハビリをしながらVRの世界で散歩ができるサービスです。
東京タワーや明治神宮など、日本各地の観光名所の360°動画が用意されており、足こぎペダルを使って好きな場所の散歩体験ができます。ただリハビリをするだけではなく、VR世界を楽しみながら運動できるのが魅力です。
利用者が見ているVR動画はiPadにも映し出されるため、リハビリトレーナーと話しながらトレーニングができます。利用者ごとにペダルをこいだ距離を管理するなどのトレーナーのための機能も用意されています。
2. ROBOHELPER SASUKE
ROBOHELPER SASUKEは、マッスル株式会社が開発した移乗介助ロボットです。お姫様抱っこのように人を抱き上げられるロボットで、介護スタッフの腰の負担を軽減できます。
2本のレバーを傾けるだけの操作で動くため、介護スタッフは高齢者とコミュニケーションをとりつつ移乗介助ができます。
高齢者にとっても自分の体重を気にしたり、抱き上げられるときの怖さを感じたりすることがないため、精神的な負担がありません。
3. どこでもナースコール・見守りセンサー
どこでもナースコール・見守りセンサーは、株式会社FENが提供する介護施設向けの見守りシステムです。Wi-Fi環境がなくても携帯回線を使って、スマートフォンのアプリに通知が表示されます。
ベッドから起き上がった時のマットセンサーや、ドアに付ける開閉センサーなどの設置工事が必要ないため、導入のための初期コストを抑えられるのがメリットです。
高齢者を介護する個人が使うサービス
在宅介護をしている家族の負担軽減や、離れて暮らしている家族との繋がりを保つためのサービスを紹介します。
- PARLO
- まごチャンネル
- 楽匠プラスシリーズベッド
高齢者の独り暮らしでは地域との繋がりが薄れやすいこともあり、絆を感じられる対象が必要です。また、在宅介護は家族に大きな負担がかかるため、様々な場面での介護をサポートする製品が開発されています。
1. PARLO
PARLO(パルロ)は富士ソフト株式会社が開発したコミュニケーションロボットです。
人工知能により相手との会話から好みなどを記憶したり、相手が発した言葉に関連させて会話を続けたりできるため、自然なコミュニケーションが生まれます。
インターネットに常時接続しているため、高齢者と遠くにいる家族がお互いに伝えたいことをPALROを通じて伝え合うことも可能です。友達のようなロボットとして、高齢者にとって独り暮らしの支えになるでしょう。
2. まごチャンネル
まごチャンネルは株式会社チカクが提供している動画送受信サービスです。高齢者が家族と離れて暮らしていると、孫の顔をなかなか見ることができません。高齢者にとって孫に会うことは楽しみや刺激になります。
若者世代がSNSで動画を気軽に見られるように、高齢者がテレビで動画を簡単に見られるようにしたサービスがまごチャンネルです。
家族がスマートフォンで撮影した動画をアプリで送信すると設置機器が受信し、高齢者はテレビのリモコンで操作すれば動画を見られます。動画が再生されれば家族にお知らせが届くため、簡単な見守り機能としても使えます。
3. 楽匠プラスシリーズベッド
楽匠プラスシリーズの介護用ベッドはパラマウントベッド株式会社の商品です。体の動きに沿った背上げ機能が搭載されており、ベッドの力を借りて起き上がりやすくなっています。
スマートフォンの専用アプリでベッドの操作や家庭内の呼び出しにも使えます。
高齢者になる前に個人が使うサービス
将来高齢者になっても健康的な生活ができるように、若いうちから備えておくサービスを紹介します。
- Genequest
- あすけん
- dヘルスケア
若年層や中年層が利用するサービスは健康管理や生活習慣改善アプリ、遺伝子検査サービスがあります。ITに慣れている人が対象のため、使いやすさとともに機能の豊富さも重視されています。
1. Genequest
Genequest(ジーンクエスト)は株式会社ジーンクエストが提供する遺伝子検査サービスです。遺伝子検査では病気のかかりやすさや体質、母系の祖先ルーツがわかります。
調査項目数が36項目のLITEと、350項目数を調査するALLプランがあります。LITEはダイエットやスキンケアなどの目的別に遺伝的傾向がわかるプランです。
遺伝子検査で自分の体質を知ることにより注意すべき生活習慣などがわかるため、病気の予防に役立てられます。
2. あすけん
あすけんは株式会社askenが運営しているダイエットサポートアプリです。写真やバーコードだけで食事の記録ができるため、誰でも簡単に食事管理ができます。
記録した食事に基づいて独自アルゴリズムで作成されたアドバイスがもらえるので健康的な食生活を続けやすいでしょう。ユーザーの体重は3か月で平均4kg減っているとのデータも公開されています。
3. dヘルスケア
dヘルスケアは株式会社NTTドコモが運営しているヘルスケアのスマートフォンアプリです。
毎日届く健康ミッションをクリアすればdポイントがもらえるため、三日坊主を防ぎながらお得に健康的な生活を目指せます。毎日の記録がグラフやカレンダーで表されるため、生活習慣の客観的な把握に役立ちます。
オンライン診療や服薬指導、市販薬のオンライン購入も可能です。健康に関する必要なサービスが詰まったアプリと言えます。
エイジテックの企業は今後も増加
この記事では、エイジテックの市場規模と注目される背景、エイジテックサービスについて説明しました。
エイジテックは高齢者やその周囲の人々のためのテクノロジーのため、まず使いやすさを考えることが重要です。エイジテックは今の若者にとっても価値があり必要とされるもののため、今後も発展していくでしょう。
ぜひ自社の強みを高齢者のためのサービスや製品に生かしてみてはいかがでしょうか。
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