フランクリン効果とは?敵も味方にしてしまうビジネス心理学

最終更新日: 2024/08/03 公開日: 2024/01/15

今回は、ビジネス心理学の中でも「敵をも味方にしてしまう」効果で知られる「フランクリン効果」について解説します。

次のようなことで悩んでいませんか?

  • 苦手なタイプの部下や従業員とうまくやっていくために、良い方法はないだろうか?
  • 社内やチーム内の雰囲気が良くない場合、どんな解決策があるだろう?
  • 取引先との信頼関係を強化したいが、具体的に何から取り組めばよいのか?

苦手な相手とうまくやっていきたいときや、信頼関係を築くきっかけを作りたいときに、活用できる心理学といえるでしょう。

具体的な活用シーンや活用する際の注意点にも触れていますので、ぜひ参考にしてください。

フランクリン効果とは

フランクリン効果とは、具体的にどのような心理現象を指しているのでしょうか。

定義や由来をはじめ、効果を検証した実証実験について見ていきましょう。

フランクリン効果の定義

フランクリン効果とは、助けた相手に好意を感じるようになるという心理現象です。

正式には「ベンジャミン・フランクリン効果」といいます。

人から頼み事をされたことが、相手と親しくなるきっかけになった、といった経験をしたことはないでしょうか。

頼み事をされて助けたのは自分のほうであるにも関わらず、頼んだ相手に好意を持つというのは不思議な感じがするかもしれません。

フランクリン効果は人間の心理を的確に捉えており、苦手な相手・合わない相手との関係性を改善したい場合に役立ちます。

フランクリン効果の由来

フランクリン効果の由来は、政治家・著述家・物理学者・気象学者として知られるベンジャミン・フランクリンの逸話です。

フランクリンはかつて、ペンシルバニア州議会で議員を務めていました。

当時、フランクリンは別の議員から敵視されていたようです。

自分を敵視する議員に対してフランクリンが取った行動は「あなたの蔵書を貸してもらえないか?」と頼むことでした。

議員から本を借りたフランクリンは、後日返却する際にお礼の気持ちを手紙にしたためたそうです。

以降、問題の議員とフランクリンの関係性は見事に改善され、2人は生涯の友になったといいます。

フランクリン効果の実証実験

フランクリン効果は、のちに行動科学者のジョン・ジェッカーとデビッド・ランディによる実証実験を通して証明されています。

実験の概要は次の通りです。

  • 被験者に問題を出題し、正解すると賞金が受け取れるというルールで勝敗を競ってもらう
  • 賞金を手にした被験者をグループ分けし、片方のグループのみ賞金を返してもらうよう依頼する
  • 実際に賞金を返してもらった後で、実験者に対して抱いている好意の度合いを回答してもらう
  • 結果として、賞金を返したグループのほうが実験者に対して好印象を抱いていることが分かった

通常、せっかく手にした賞金を返すよう要求されれば、「インチキだ」「理不尽だ」と不満を抱くと思うでしょう。

実際には、「実験資金がなくなってしまったので、お金を返していただけないか?」と頼まれたほうが好印象を持たれていたのです

被験者は、実験者側の内情を知り、誠実に話してもらえたことに好感を抱いたと考えられます。

フランクリン効果と似ている心理効果

フランクリン効果と同様に、気づかないうちにはたらいている心理効果はたくさんあります。

なかでもフランクリン効果と似ている心理効果と、違いを把握しておきましょう。

ハロー効果

ハロー効果は後光効果とも言われており、一部の印象に引っ張られて全体を評価してしまう認知バイアスのことです。

たとえば、人当たりがよく仕事をテキパキこなしている人がミスをしても高い評価を受けたり、普段から非効率な仕事をしている人が成果を上げても評価が上がらなかったりなど、良い面にも悪い面にも引っ張られることがあります。

フランクリン効果との大きな違いは、ハロー効果は一方的に相手に対して抱く印象であるのに対し、フランクリン効果は相手からの働きかけによって印象が変化する心理効果を指します。

ウィンザー効果

ウィンザー効果は情報の信憑性に影響を与える心理効果で、当事者が発信する情報よりも第三者が発信する情報の方が信憑性が高いことを指します。

たとえば、ユーザーは企業側が商品やサービスについて発信する情報よりも、第三者が書いた口コミやレビューの方を信憑性が高いと判断することが多いです。

フランクリン効果は第三者に限らず当事者の情報も影響するため、ウィンザー効果とは違いがあります。

フランクリン効果の仕組み

フランクリン効果の仕組みを理解する上で、必ず押さえておきたい言葉として「認知的不協和」が挙げられます。

「頼み事をした相手に好感を持つ」という心理現象の仕組みを読み解いていきましょう。

人は認知的不協和を解消したいと考える

認知的不協和とは、人の考えや行動、態度などが一貫していないことを表す社会心理学の用語です。

人は認知的不協和を抱えている時、自身の中で矛盾している情報や感情を無意識のうちに解消しようとします。

日常生活でよく見られる認知的不協和の例から考えてみましょう。

  • 飲食店に入ろうとしたところ、長蛇の列ができていた
  • 仕方なく列に並んだ結果、長時間待つことを余儀なくされた
  • ようやく入店し、注文したメニューが提供された
  • 提供された料理は、ごく一般的な味だった
  • 長時間待ったのだからおいしいに違いないと感じ、不満を口にしなかった

上の例では「わざわざ長時間並んで待つ」という行動と、「大しておいしくない」という感覚の間に認知的不協和が生じています。

長時間並んだからには待った時間が無駄だったと思いたくない、というロジックで認知的不協和が解消されているのです。

人は行動と感情の整合性を取るために、事実を解釈し直しているといえるでしょう

頼み事をされた側には好意の返報性の原理がはたらく

フランクリン効果も、認知的不協和の解消を応用した心理現象の1つです。

頼み事をされれば、多かれ少なかれ実行するために労力を費やさなくてはなりません。

「本を貸して欲しい」と頼まれれば、頼まれた本のタイトルをメモして覚えておく、本を持ち運ぶ、といった労力が発生します。

わざわざ労力をかけて頼み事を叶えた以上、自分が費やした労力が無駄だったとは考えたくないでしょう。

認知的不協和を解消するために、「頼み事を聞いた」事実を「相手を受け入れている」ことへと無意識のうちに変換しているのです

フランクリン効果が活用できるシーンの例

ビジネスにおいて、フランクリン効果が活用できるシーンの例を紹介します。

現状あまり好ましい関係ではないと感じている相手や、信頼関係をより強化したい相手は、誰にでも1人はいるでしょう。

フランクリン効果を上手に活用して、関係性の改善やいっそうの信頼構築を図ることをおすすめします。

例1:苦手なタイプの部下・嫌われたと感じる従業員がいる場合

経営者にとって従業員との信頼関係を築いていくことは重要なテーマですが、経営者も1人の人間であることに変わりはありません。

中には苦手なタイプの部下や従業員もいるでしょう。

苦手なタイプの部下・従業員に、あえて他の人には頼めないような「特別なお願い」をしてみてはいかがでしょうか。

自社にとって今後課題となるであろうテーマや、重要なポジションを一任し、自身で解決を図ってもらうのです。

具体的な成果がすぐに出なくても、努力している様子が見られるたびに感謝の気持ちを伝えることをおすすめします

お互いに従来は見られなかった一面を知ることができ、信頼関係が深まるきっかけとなるはずです。

例2:チーム・プロジェクトの雰囲気が良くない場合

社内のチームやプロジェクト、部署内での雰囲気が良くない場合には、権限委譲を促してみましょう。

従来はリーダーやマネージャーが担っていた役割の一部を、メンバーに委ねていくのです。

メンバーに「仕事を分け与える」のではなく、至らない部分を助けてもらうスタンスでお願いするのが大切なポイントといえます

メンバー各自が頼りにされていると実感することで、難易度の高い仕事も快く引き受けてもらえるでしょう。

各々の活躍によってチームやプロジェクトに良い影響がもたらされていることを、1on1などを通じて伝えていくのが大切です。

例3:取引先との信頼関係を強化したい場合

信頼関係を強化したい取引先がある場合は、あえて頼み事をしてみるのも1つの方法です。

「〇〇について教えていただけますか?」など、アドバイスや意見を求めるのも良い方法でしょう。

相手がよく知っている分野に関するアドバイスを求めることで、「頼りにしている」というメッセージを伝えられます。

アドバイスを求めることを通して関係性を深めていく「アドバイス・シーキング」と呼ばれる手法です

取引先にとって過度な負担にならない範囲で、「頼る」ことをきっかけに信頼関係を深めてみてはいかがでしょうか。

フランクリン効果を活用する際の注意点

フランクリン効果は心理の本質を突いているものの、活用の仕方によっては迷惑がられてしまいます。

頼み事をするのであれば「頼み方」が重要なポイントとなるのは間違いないでしょう。

次の3点を踏まえて、フランクリン効果を上手に活用してください。

頼み事をする相手へのリスペクトを忘れない

人にものを頼む以上、相手に対するリスペクトの念は不可欠といえます。

単に頼み事をするのではなく、「助けを求める」というスタンスで臨むことが大切です。

気軽に頼んでいるように受け取られてしまうと、相手にとっては単純に時間や労力を奪われる迷惑行為のように映ってしまいます。

他の人には気軽に頼めないと感じていることや、熟考した上で頼んでいることを伝え、相手を立てるのがポイントです

誰にでも簡単にできることを頼まない

誰にでもできる簡単なことを頼んでしまうと、かえって相手を軽んじているように受け取られる恐れがあります。

相手に負担をかけないよう簡単な頼み事から依頼しがちですが、雑用を頼んでいるかのように受け取られないよう注意しましょう。

フランクリン効果は、相手にとって得意なことやよく知っていることについて依頼すると、より効果を発揮します。

相手の興味関心や得意分野を見極め、相手に合わせて頼み事を選ぶ必要があるでしょう

頼み事を聞いてくれたら必ず感謝の気持ちを伝える

頼み事を聞いてもらえた際には、聞き入れてくれたことに対して感謝の気持ちを伝えましょう。

実際に頼み事を遂行してもらえた後で感謝するのはもちろんですが、「聞き入れた」ことに対して感謝するのも重要なポイントです。

前述の通り、フランクリン効果には認知的不協和を解消したいという心理が深く関わっています。

頼み事を聞き入れた時点で、相手はあなたの要望に応えようとしているのです

相手を利用することが目的ではなく、あくまでも関係性の改善・強化が目的であることを忘れないでください。

まとめ

フランクリン効果は、助けた相手に対して好意を感じるようになるという心理現象を指します。

頼み事をすることで関係性が改善するというのは一見すると不思議な現象ですが、実は心理を鋭く突いた手法といえるでしょう。

今回紹介したポイントを参考に、ぜひビジネスシーンでフランクリン効果を活用してみてください。

敵さえも味方に変えてしまうフランクリン効果を活用できるようになれば、さまざまな相手と良好な関係性を築いていけるはずです。

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最終更新日: 2024/08/03 公開日: 2024/01/15