経営危機に陥っていたユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、2011年以降V字回復を果たしました。
経営回復のカギは、マーケティングを重視する会社に生まれ変わったからです。
「会社をもっと成長させるにはどうしたら良いのだろうか?」
「売り上げが伸びる新しい商品やサービスを生み出したい」
「マーケティングの本質を知って生かしたい」
このように考える経営者の方も多いのではないでしょうか。
この記事ではUSJ復活の立役者である森岡毅氏の著書『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』をご紹介します。
この本の概念を理解することで、マーケティングの根本を把握することができるでしょう。
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』とはどんな本?
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』では、マーケティングの基本や本質を伝えています。
「USJはなぜ復活し、大成功をおさめることができたのか」を事例を用いて解説されています。
マーケティング初心者の方も「マーケティングとは?」「どのように取り入れるべきなのか」が理解しやすい入門書となっています。
マーケティングを学ぶ際にどのように本を選べばよいか知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
森岡毅氏とは?
森岡毅氏は日本を代表する戦略家・マーケターです。
マーケティングカンパニーとして世界的にも定評のあるP&Gでマーケティングを学び、その後日本ヴィダルサスーンの黄金期を築いた実績もあります。
2010年にUSJに入社し、革新的なアイデアを次々投入して、経営危機にあったUSJをわずか数年でV字回復に導きました。
ベストセラー作家としても著名で、マーケティングや組織論、リーダーシップなどに関する書籍も出版しています。
代表的な著書は次の通りです。
USJを成功に導いたマーケティング手法
マーケティングはただ市場調査を行ったり、プロモーションを考えたりするだけではありません。
日本のほとんどの企業は、マーケティングの本当の意味を理解していません。マーケティングを正しく理解できれば、必ず成功できます。それはUSJの劇的なV字回復を見ていただければ一目瞭然だと思います。
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』
では、森岡氏はどのようにマーケティングを利用してUSJの売上を伸ばしていったのでしょうか。
ビジネスを好転させる着眼点とは?
マーケターの役割は、企業の進むべき方向を見極めることです。売上を上げるためには、「どこで戦うか」を正しく把握しなくてはいけません。
森岡氏はUSJのトップライン(売上金額)を伸ばすために3つの課題に着目しました。
この3つを衝くべき焦点として着眼することで、V字回復に導いていったのです。
ターゲット層を変える
オープン当初のUSJの最大の問題点は客層でした。「映画ファンだけのパーク」という非常に狭い市場を狙ったために、集客を伸ばすことができなかったのです。
森岡氏は「映画専門店」から「世界最高のエンターテインメントを集めたセレクトショップ」に大きく転換することを決めます。
アニメやゲームなど多くのジャンルを扱うことで、映画以外のファンの心もつかもうと決めました。
さらにUSJ最大の弱点でもある「低年齢の子供連れ家族の集客」を強みに変えるため、ファミリーエリア(ユニバーサル・ワンダーランド)を投入しました。
これは恒久的な集客層の拡大と生涯来場回数を増やす戦略だったのです。
TVCMの質を変える
森岡氏はUSJのブランディングイメージを強固にする必要があると考えました。
当時のUSJのTVCMの品質はそれほど悪いものではありませんでしたが、USJの印象を劇的に上げるものではなかったのです。
この新しいブランドキャンペーンを立ち上げ、継続的にプロモーションを行っていきました。
チケット価格を変える
マーケターの重要な仕事の一つが価格施策(プライシング)です。価格は売り上げを左右するだけではなく、ブランドイメージそのものでもあります。
高ければ高級なイメージがつきますが、販売個数が落ちることになり、売上が最大化するとは限りません。
安ければ販売数は上がるかもしれませんが「安いテーマパーク」というイメージの定着にも繋がります。
当時の日本のテーマパークは世界基準に比べると非常に安く設定されていました。
世界一の品質を誇り、コスト面でも世界で一番高いにもかかわらずチケット価格の設定が間違っていたのです。
チケット価格を変えるために、森岡氏はまずブランド価値を高めることに注力ました。その上で、値上げのタイミングと値上げ幅を的確に分析し実行したのです。
先にブランド価値を顕著に高めておいて、価格弾力性をできるだけ小さくしておくことです。
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』
簡単な事ではありませんが、結果的にUSJは単価も集客数も、そして売上も伸ばすことができました。
USJが変わった最大の原動力
森岡氏はUSJの状況を好転させるための様々な取り組みを行いましたが、それらの根本には共通点があると言います。
究極的に変えたことはただ1つでした。
USJは徹底した消費者視点の会社に生まれ変わることで、V字回復を果たしたのです。
消費者視点とは、お客様を喜ばすことを何でもするという意味ではありません。
むやみにコストをかけてお客様の要求にこたえるだけでは中長期では価値を生み出せないからです。
制約がある中でも何がどれだけのお客様価値に繋がるのか、総合的な判断を元に意思決定しなくてはいけません。
USJは消費者視点を大切にして、作ったものを売る会社から、売れるものを作る会社に変りました。これこそがUSJ最大の変化です。消費者価値を高めるために会社全体が機能するようになったことだと私は考えています。
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』
会社が発展していくための大切な考え方である「三方よし」の経営については、こちらの記事も参考にしてください。
日本企業の問題点
今、日本を代表する多くの企業が苦境に立たされています。日本企業は長期にわたり、技術志向に偏ってきたからなのです。
マーケティングをやってこなかったツケが回ってきていると森岡氏は述べています。
かつての日本は良いものがあれば売れる時代だったため、売れる仕組みを作る思考が伸びなかったのです。
マーケティングが日本で発達しなかった理由は3つあります。
- 規制によるバリア
- 終身雇用のバリア
- 技術志向のバリア
戦後の日本は、政府や当局による規制と関与により本当の意味での自由競争が阻害されてきました。
終身雇用という壁によって有能なマーケターを中途採用できず、たとえ採用できたとしても既存権力者の「エゴ」がバリアになっていたのです。
マーケティング発展途上国の日本では、USJの事例のようにマーケティングの必要性が今後さらに高まるでしょう。
マーケティングで制する3つの「接点」
マーケティングとは商品の「売れる仕組み作り」のことです。自社商品が顧客に「選ばれる必然(選ばれて当たり前の理由)」を作ることがマーケティングの本質なのです。
お客様と商品の接点をコントロールすることで売れる状態を作ることができます。
コントロールするべき(制するべき)接点は次の3つです。
- お客様の頭の中を制する
- 店頭(買う場所)を制する
- 商品の使用体験を制する
この3つについて解説していきます。
お客様の頭の中を制する
売れる仕組み作りで最も重要なのが「お客様の頭の中」です。
人の認識を有利に変えることで、自ブランドが選ばれる必然を作ります。選ばれる必然は人の頭の中に作ります。
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』
変えるべき人の認識とは次の2つです。
認知率(Awareness)
市場を100とした時に、消費者が自ブランドを知っている割合を「認知率(Awareness)」と言います。
人は自分が知らないものに対しては購買行動を取りにくい生き物だと言われていて、知っていることに対する安心感が大きいのです。
認知を上げるための方法は次のようなものがあります。
- TVCMや紙媒体などのマス広告やPR
- 屋外広告(OOH)や看板
- インターネットなどのデジタル媒体やホームページ
- 店頭認知
- 友人知人からの口コミ
- SNS
これらの方法を複数組み合わせ、露出を増やし知ってもらうことが大切です。
ブランド・エクイティー(Brand Equity)
お客様の頭の中にあるブランドに対するイメージを「ブランド・エクイティー」と呼びます。
ブランド・エクイティーを築くための活動を「ブランディング」と言い、マーケティング最大の仕事が、お客様の頭の中にブランドのポジティブなイメージを作ることです。
市場において有利なブランド・エクイティーを築くことで自ブランドの市場価値が上がり、どんどん売れるようになります。
店頭を制する
お客様の頭の中に十分な認知とブランド・エクイティーを築けていても、店頭での戦いに負けていれば購入に結びつかない場合があります。
「お客様が商品を購入する現場」に3つの大きなビジネスドライバーが存在すると言います。これらをコントロールできれば潜在的売上が大きくなるでしょう。
配荷率
店頭を制するのに最も大切なのが配荷率です。
配荷率を上げるには、流通業者に対して自ブランドを扱うメリットをどう作るのか、「流通に選ばれる必然」が重要です。
最大の武器になるのは「お客様に強く求められる状態を作り出すこと」だと森岡氏は述べています。
ディスプレイ
お客様は常に買いたいものを覚えていられるわけではありません。店頭で目にして思い出すことも多いのです。
棚以外で商品を目立たせる古典的なやり方に「山積(ディスプレイ)」があります。
視覚的に目立たせることは、お客様に選ばれるためには圧倒的有利なのです。値段を変えなくても、ディスプレイを変えるだけで数倍もの売り上げの差が出ることがあるからです。
USJの場合、商圏が店頭ディスプレイにあたるものでした。
東京ディズニーランドに比べ、大阪という東京からの遠さが課題だったのです。
森岡氏は、差別化を図るためにエンターテインメントのすべての要素を取り入れることにします。
また、ハリーポッターの新しいエリアを作ることで、圧倒的に人の目を引く戦略を立てました。
価格
企業が設定したいと考える価格は、必ずしも実現できるとは限りません。狙った価格がお客様にとって高すぎても安すぎてもだめなのです。
安いと販売件数は増えますが、問題点が3つあると言います。
- 安っぽいブランドと認識されてしまう
- 利幅が薄くなり「流通に選ばれる必然」が弱くなる
- 今後も価格を安くしないと売上が伸びない
中長期的に発展するために価格戦略をしっかりと定めて、具体的プランを詰めることが非常に重要です。
使用体験を制する
お客様は自社の商品に期待を持って購入します。その期待に応えることができれば、もう一度購入しようとなるわけです。
中長期的にブランドの売上を維持するためには、2回目以降の「リピート」を増やすことがとても大切です。
商品やサービスの使用体験を重視して、リピートや前向きな評判が広がるための仕掛けを準備しなくてはいけません。
消費者視点で優れた商品やサービスを作ることができるよう、会社全体の方向性を一致させることが必要です。
成功を引き寄せるマーケティングフレームワーク事例
マーケティングにおいて重要なことは、「戦略的に考える」ことです。
戦略的に考えるとは、「目的→目標→戦略→戦術」の順番で大きいところから考えられるようになるということだと森岡氏は言います。
マーケティング・フレームワークとは、何かを考える時の基本となる頭の使い方の型です。
マーケティング課題に取り組むにあたって、その型に沿って考えていくと「整合性のある戦略と戦術」を生み出しやすくなる
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』
ここでは森岡氏のマーケティングフレームワークを使った、USJの事例を紹介します。
事例1:USJ最大のヒット「ハロウィーン・イベント」
目標・戦略・戦術が上手に組み合わさり、爆発的な成功になったのが2011年から仕掛けた「ハロウィーン・イベント」でした。
2010年までは昼間のパレードは実施していましたが、ハロウィーンとは関係ないコンセプトのものだったのです。
2010年のハロウィーンでは、通常期のプラス7万人の集客でした。そこで、2011年は追加集客達成14万人という目的を掲げることにしたと言います。
目標:誰に売るのか?
戦略ターゲットは従来と変わりなく「テーマパークが嫌いではない人」でしたが、さらに狭めたコアターゲットを定める必要があります。
そこで森岡氏は秋シーズンに動きやすい顧客層を分析し、「独身の若い女性層」をターゲットとします。
コアターゲットから消費者インサイト(消費者が気付いていない願望)を見つけ出し、戦略へと移ります。
戦略:何を売るのか?
日本の女性は海外に比べるとストレスがたまりやすい社会環境に置かれています。それにもかかわらず、安心してストレスを発散する手段がありません。
森岡氏は、「本当は素の自分をさらけ出してはじけたいけど、なかなかできない」という非常に強い消費者インサイトを発見したのです。
この価値を提供することに決めました。
戦術:どうやって売るのか?
森岡氏は予算が少ない中で使えるリソースがないかを探し、過去の映像から高いクオリティのゾンビメイクと演技に着目します。
そこで、リアルなメイクをしたゾンビキャラクターをパーク中に放つことに決めました。
夜になればパーク全体をゾンビが練り歩き、全てのゲストが巻き込まれるアトラクションを考えたのです。
TVCMでは好感度の高い女性タレントを起用して、「怖いけど面白い、楽しい!」を打ち出します。
結果として、追加集客14万人の目的を大幅に超えたプラス40万人の集客効果を上げることとなりました。
事例2:2010年のクリスマスイベント
森岡氏がUSJに入社して最初に指揮を執ったイベントだと言います。目的はクリスマスシーズンの集客増加です。
目標:誰に売るのか?
森岡氏はターゲットを小さな娘を持つお父さんとしました。
当時のUSJは「低年齢層の子供連れ家族」という客層が少なく、弱点でした。
弱点を補うためにもクリスマスイベントの活用が重要だったのです。
戦略:何を売るのか?
2010年以前、クリスマスシーズンのTVCMは非常に無難なものでした。森岡氏はCMでの打ち出し方を消費者の隠された欲求感情を衝くことで、大きく変えようと決めます。
USJを小さな娘との貴重なクリスマスを一緒に過ごす場として、価値提供することにしました。親にとっては非常に切ないインサイトを衝いたのです。
戦術:どうやって売るのか?
TVCMで大人っぽい表情ができる女の子をキャスティングし、父親と2人でパークで遊ぶストーリーとします。
今は小さい娘が、すぐに大きくなってしまうという親の恐れをかり立てるため、「無邪気な娘の女の顔」を彷彿させるアングルやしぐさの演技を徹底的に計算して盛り込みました。
「子どもはすぐに大きくなってしまう」と、親をドキッとさせ切ない気持ちにさせるCMを打ち出しました。
商品を変えることなく、消費者インサイトを衝くことで集客倍増という結果になったのです。
まとめ
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』は、ビジネスで成功する戦略や戦術を導き出す武器を学べるマーケティングの入門書です。
マーケティングを重視し、徹底した「消費者視点」に立つことで事業の成功率は大きく高まるでしょう。
マーケターでなくとも、マーケティング思考を持っていればビジネスを成功に導くことができます。
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