行動経済学は、「人が直感や感情によってどのような判断をするのか、またその結果、市場や人の幸福にどのような影響を及ぼすのか」を理解する学問です。
ビジネスやマーケティング活動を行う上で、多くのヒントが隠れています。
今回の記事では、ビジネスで使える行動経済学の具体例、また従来の経済学との違いについてもご紹介していきます。
行動経済学とは?
行動経済学は、人間の非合理な判断や行動を分析する学問です。
人の判断が感情や直感にどのように影響されるのか、またその結果が市場や人々の幸福にどのような影響をもたらすかに焦点を当てています。
行動経済学は、2002年に心理学者のダニエル・カーネマン、エイモス・トベルスキー、そして経済学者のリチャード・セイラーによって創設されました。
従来の経済学と何が違うのか?
従来の経済学は、「人は常に合理的な行動を取る」と仮定していますが、実際には非合理な行動をとることもあります。
例えば、とてものどが渇いてる時、1km先に安売りしているペットボトルが90円で売られているスーパーがあったとしても、人間は喉が渇いているとすぐ横にあるキッチンカーでキンキンに冷えている500円のドリンクを買うこともあります。
つまり、人は必ずしも合理的な行動を取るわけではないということです。
行動経済学は、人が感情や直感に影響されて合理的でない判断をすることを考慮し、その背後にある理由やメカニズムを研究します。
従来の経済学が理論上の「合理的な人間」に焦点を当てるのに対し、行動経済学は現実の「感情に左右される人間」を対象にしています。
ビジネスとの関連性
ビジネスにおいても、行動経済学の知見は有用なツールとなります。
例えば、消費者の購買行動やブランドへの忠誠度を高めるために、商品の価格設定や表示方法、マーケティング戦略などに行動経済学の原理を応用することができます。
また、以下のようなシーンにも役に立ちます。
- 意思決定のサポート:顧客や従業員の意思決定をサポートするツールやアプリケーションを開発
- 消費者行動の予測:需要予測や在庫管理の改善、新商品の導入時期の最適化など
- 価格設定の戦略:価格設定を通じて、消費者の選択行動に影響を与えるための戦略を策定
さらに、競合他社やパートナー企業との交渉や協力においても、行動経済学の概念を利用することで、より効果的な戦略や解決策を見つけることができます。
このように、行動経済学とビジネスは密接に関連しています。
ビジネスで使える!行動経済学の具体例
ここからは、ビジネスで使える行動経済学の具体例をご紹介します。
ナッジ理論
ナッジ理論とは、人の意思決定に影響を与える際、強制や規制ではなく、選択肢の提示や環境の設計を通じて「軽く刺激」することで、望ましい行動を促す手法です。
ナッジ(nudge)とは、英語で「軽く突く」や「ひじでつつく」という意味があり、選択の自由を尊重しつつも、より望ましい結果をもたらすためにアプローチします。
ナッジ理論の事例
例えば、レストランのメニューで、ヘルシーなオプションを目立たせたい時に使用します。
サラダや低カロリーの料理を特別なマークや写真で示すことで、顧客が健康的なメニューを選択しやすくなります。
これにより、カロリーや栄養に気をつける人にとって目に留まり、最も売りたい商品の購入率を上げることができます。
他には、以下のような事例があります。
- ショッピングウェブサイトで、商品の隣に「限定セール」と表示
- 家庭用エネルギー使用量の通知書に、自分の使用量と近隣の平均使用量を比較するデータが記載
- 寄付募集のウェブサイトで「過去1時間で10人の人が寄付しました」と表示
このように、微細な変化や環境の工夫を通じて、人の選択行動や行動パターンを変えるようにアプローチできます。
プロスペクト理論
プロスペクト理論は、人は損失を過大評価し、実際の利益と心の中での損得が一致しないという内容です。
別名「損失回避性」とも呼ばれるこの理論は、人の判断は合理的ではなく、感情や感覚によるゆがみを伴うというものです。
プロスペクト理論の事例
例えば、コインゲームをする場合どちらを選びますか?
- 表が出れば「2万円」裏が出れば「0円」
- 無条件で「1万円」プレゼント
この場合、多くの人は確実にもらえる「2」を選びます。
これは、確実な利益を選び、ギャンブルによる損失を回避する意向から来ています。
しかし、以下の場合はどうでしょうか。
- 表が出れば「再度2万円」裏が出れば「全額没収」
- コインゲームをやらない
こちらも「損失回避」したいが故に「2」を選択する人が多いでしょう。
しかしこの場合、「1」を選び「全額没収」されたとしてもゲームをやる前に戻っただけで、元々自分が持っていたお金は減っていません。
しかし、人は利益を得られなかったり損失するケースを避けようとします。
・「先着○○名限定」「○日まで半額セール」
『○日までに購入すればお得(=損失を回避できる)!』という心理を持たせ、今買わないと損をすると伝える売り方。
サンクコスト効果
サンクコスト効果は、過去に投資した時間やお金などのリソースに対する感情的なつながりが、合理的な意思決定に影響を与える現象を指します。
つまり、過去の投資やコストに対して感情的に縛られて、本来合理的な選択とは異なる行動を取ることを指します。
人間は、費やした時間や費用を取り戻そうとする心理効果が働きます。
サンクコスト効果の事例
例えば、映画を観に行った時、内容が気に入らなかったり退屈だったりするかもしれません。
しかし、チケット代を支払ったことに対して感情的なつながりを感じてしまい、そのまま映画を最後まで見てしまうことがあります。
本来なら退席して他の楽しいことをするべきですが、サンクコスト効果が働いて、既に支払ったお金を無駄にしたくないという気持ちから映画を見続けてしまいます。
このように、サンクコスト効果は過去の投資に対する感情的な拘束が、合理的な判断を妨げる現象です。
ビジネスや個人の意思決定において、この効果に注意を払うことが重要になります。
ハロー効果
ハロー効果とは、ある特定の特徴や評価が他の様々な特徴や評価にも影響を与える現象を指します。
言い換えれば、ある一つの好意的な印象が、その人や物事全体に対する好意的な評価を引き起こすことを指します。
- 東大卒業なので営業マンとしても優秀な成績になると期待される
このような一つの好意的な印象の影響で「きっと○○に違いない」と評価してしまうことを「ハロー効果」といいます。
ハロー効果の事例
例えば、広告やブランドイメージに影響を与えることがあります。
有名な人物や有名ブランドが商品やサービスと関連付けられると、その有名さや好意的なイメージが商品やサービス全体に影響を与え、購買意欲を高めることがあります。
「人気の女優が宣伝しているシャンプーだから良い商品に違いない」
このようにハロー効果が働くことで、外見が良いという一つの特徴が、他の特徴にも好意的な評価を与えるということです。
アンカリング効果
アンカリング効果とは、人が情報を受け取る際に最初に提示された情報(アンカー)に影響を受け、その情報を基準として判断や評価を行う傾向を指します。
この効果により、最初に提示された情報が後続の判断や評価に与える影響が大きくなることがあります。
アンカリング効果の事例
例えば、商品を購入する際に、最初に売り手が高い値段を提示すると、その値段が購買者の頭にアンカーとして残ります。
その後、売り手が値段を下げれば、購買者はアンカーに影響を受けて高い値段を基準として判断を行います。
- 表示価格から50%OFF
このように定価から値引きをされるとお得に感じます。しかし、実際は元々安い定価だったかもしれません。
このようにアンカーを高めに設定し値引きをすれば「安い!」「得だ!」と感じ購入に至る確率を上げることができます。
バンドワゴン効果
バンドワゴン効果とは、人は他人が行っていることに同調する傾向があることをいいます。
つまり、他人がすることや支持できる共通項目が増えると、人々はそれに追従しようとする現象を指します。
- 人気No.1
- 今もっとも売れています!
製品を販売する際に、「人気商品」などと表記すれば人がさらに人を呼びます。
バンドワゴン効果の事例
例えば、政治選挙において、支持が集まる候補者に人々が同調することがあります。
ある候補者が支持を得ていると、他の人たちもその候補者に投票しようとする傾向があります。
これは、人気があるから信頼できるという期待や、多くの人が支持しているならば自分も支持するべきだとの考え方が影響しています。
- みんなが選ぶから自分も...
ビジネスの場面で活用すれば、「みんなが選ぶものなら失敗はないはず」という心理を後押しすることができます。
現状維持バイアス
現状維持バイアスとは、現在の状態を維持しようとする心理的な傾向のことです。
人間は、変化や新たな選択肢に対して抵抗感を持つため、得られる期待感よりも手放すことに対する恐怖心が上回ってしまうことがあります。
そのため、「このままが心地いい」と思い、今に留まってしまうようになります。
現状維持バイアスの事例
例えば、組織や企業で長年行われてきた制度や手続きがあるとします。
このとき、新しい効率的な方法が提案されても、従来のやり方を好む人がいることがあります。
人は既存の方法に慣れ親しんでおり、新しい方法への移行に対して抵抗感を持つことがあるのです。
ビジネスや日常生活においては、新しいアイデアや選択肢を受け入れるためには、この現状維持バイアスを克服する必要があることがあります。
現在志向バイアス
現在志向バイアスとは、人が現在の欲求やニーズを満たすことに重点を置く傾向を指します。
つまり、現在の満足感や報酬に焦点を当てることが、将来の利益や計画に対する選択よりも優先される現象を指します。
- 今すぐもらえる1万円
- 1年後にもらえる5万円
合理的に考えるなら金額が大きい5万円を選びます。
しかし、多くの人は、今すぐもらえる1万円の方が想像しやすく、目の前の小さな利益(1万円)を受け取ってしまいます。
現在志向バイアスの事例
例えば、重要だけど緊急ではないタスクを後回しにしてしまい、緊急で簡単なものだけで日々の時間が終わってしまうことがあります。
業務において現在志向バイアスが働くと、目の前の重要なタスクしかこなせない人になってしまいます。
しかし、緊急なことだけでなく、重要なことにも十分な時間を割り当て、計画的に取り組むことが重要です。
長期的な目標を達成するためには、それを小さなステップに分割し、それぞれのステップに取り組むスケジュールを作成することが重要です。
ピークエンドの法則
ピークエンドの法則とは、人がある経験や出来事の全体的な感情や評価を、その経験や出来事のピーク(最高点)とエンド(最終的な状態)で判断する傾向を指します。
つまり、経験の中で最も感情的に高揚する瞬間(ピーク)と最後の状態(エンド)が、人の全体的な評価に大きな影響を与えるという考え方です。
ピークエンドの法則の事例
レストランで食事の内容やサービスの質が良かった場合、食事の中で最も美味しい料理が提供された瞬間(ピーク)や終わりを感じる満足感(エンド)が、その食事全体の評価に大きな影響を与えるとされます。
逆に、途中でサービスが悪くなった場合、最も不快な瞬間(ピーク)や最後に感じる不満足感(エンド)が全体的な評価に影響します。
ピークエンドの法則は、顧客体験やサービスの改善においても活用され、ポジティブなピークとエンドを提供することで、顧客の満足度や評価を向上させることができます。
まとめ|行動経済学を活用すれば、より効果的な戦略や解決策が見つかる
行動経済学は、「強制的に購買させる手法」とは違い、ユーザーの心理を理解し、コミュニケーションや施策を計画する際の指針として活用されます。
マーケティング活動では、ユーザーがどのように感じ、どのような行動をとるかを先に考えることが重要です。
行動経済学は、この視点を通じてユーザーとの絆を深める手助けとなります。
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