- 感情管理をすることで生産性は変化するのか?
- 心理学的にみた感情管理と生産性の関係は?
心理学の分野では、個人の感情管理が生産性に結びつくことが明らかになっています。
生産性を上げて仕事を行うためには、個人での取り組みはもちろん組織単位で感情管理を行っていくことが不可欠です。
今回は、心理学の観点から感情管理と生産性の関係性について紹介しましょう。
この記事を読めば、感情が生産性に左右する理由や心理学的な効果、組織単位でできる生産性を上げる感情管理法が分かります。
心理学からみる感情管理と生産性の関係
ポジティブ心理学とは、個人や組織の強みをより伸ばすためにより毎日を充実させて幸せに生きることをテーマにした学問です。ポジティブ心理学の研究では、成功と前向きな気持ちには相関があるとします。
これは「感情管理ができ前向きな状態を持ち続けることができれば、モチベーションが上がり生産性が向上する」ことを表しています。
私たちは苦しくても頑張り続ければ成果が出る、嫌なことでも頑張れば報われると感じることがあるかもしれません。
しかし、ポジティブ心理学では前向きな状態で物事を行うことこそが生産性が上がり成果が出ることにつながるといいます。
日々、嫌々仕事に取り組む人よりも、主体的で前向きな感情を持って仕事にあたる人の方が成果がでるのです。
心理学と脳科学が導き出した生産性と感情管理の関係
さまざまな実験や分析によりポジティブで前向きな感情で物事に当たる人は生産性が高いことが証明されています。
ポジティブ心理学の第一人者の一人であるショーン・エイカーに書かれた『幸福優位7つの法則』では、感情と生産性の関係性が記載されています。
一部を紹介しますのでご覧ください。
人は幸せでポジティブな気分のときに成功するのである。
『幸福優位7つの法則』(著者:ショーン・エイカー,翻訳:高橋由紀子,2011年8月,徳間書店,P.23より引用)
たとえば、診断を下す前にポジティブな気分になった医師は、普通の気分の医師に比べ、三倍も賢明で想像力がよく働き、一九パーセントも短い時間で正確な診断をすることができる。楽観的な営業マンは、悲観的な営業マンに比べて五六パーセントも営業成績がいい。数学の実力テストの前に幸せな気分になった学生は、普通の気分の学生に比べてはるかによい成績を取る。
"人間の脳は、普通の気分のときでもネガティブな気分のときでもなく、ポジティブな気分のときに最もよく働くようにできている、ということが証明されている"
本書では、幸せは成功の後にやってくるのではなく幸せがあり成功がやってくるといいます。脳はネガティブな気分のときよりもポジティブな気分のときによく働くのです。
組織の生産性の左右要因を結論付けたホーソン実験とは?
次に、組織のあり方で生産性が左右される要因について確認していきましょう。
ここでは、組織においてどの要素が生産性の高低に左右するかについて検証された「ホーソン実験」の概要と実験結果を紹介します。
「ホーソン実験」とは、1924年から1932年にかけて実施された環境要因と生産性の関係を検証する実験です。
この実験結果を知ることで、組織で具体的に何の要素が生産性の高低に関わるのかが理解できます。また、感情管理の要素が生産性にもたらす重要性について知ることが可能です。
ホーソン実験では、四つの環境要因の角度から生産性に作用する効果を検証しました。
一つずつ見ていきましょう。
照明実験
照明実験とは、照明の明るさが生産性にもたらす作用について検証するため実験を行ったものです。
これを行った理由は、照明の明るさが暗いと生産性が下がると仮説が立てられたことからでした。
具体的には明るい場所で作業をするグループと、最初は照明が明るいけれど徐々に照明が暗くなるグループに分けて比較します。
その結果、照明の明るさと生産性には関係がないことが明らかになりました。
組み立て実験
組み立て実験とは賃金や待遇といった条件の差が生産性にもたらす作用について検証するため実験を行ったものです。
これを行った理由は、待遇が悪いほど生産性は下がると仮説が立てられたことでした。
そこで具体的な実験方法として、作業時間や賃金などといった待遇面に差をつけてレーンの組み立て作業をさせます。結果としては、待遇の差と生産性に相関は見られませんでした。
面談実験
面談実験とは、作業を行っている際の感情が生産性にもたらす作用を検証するため実験を行ったものです。
これを行った理由は、組織体制のあり方が悪いと生産性が下がるという仮説が立てられたことでした。
具体的な実験内容としては、2万以上を対象にインタビュー形式の聞き取り調査が行われます。
実験の結果、組織体制のあり方は生産性の高低には左右しませんでした。一方で、個人の感情や主観的な好みが組織への満足度を変化させることが明らかになったのです。
パンク配線実験
パンク配線実験は、組織に存在するいくつかの小さなグループの統制力が生産性にもたらす作用を検証するため実験を行ったものです。
実験内容としては、製造工程ごとに小グループに分けて配線の作業業務をしてもらいました。
実験の結果、グループに属する個人同士には共存の関係があり個人同士がもたらす感情が生産性に結びつくことが分かりました。
ホーソン実験から明らかになったこと
ホーソン実験で明らかになったことは、個人の仕事に対する満足度は主観的な好みや引き起こされる感情によるという事実です。
また、個人の感情形成には小グループでのメンバー同士の関係などによってもたらされる感情が関係していました。
ホーソン実験から生まれたホーソン効果とは
ホーソン効果とは、人から注目や称賛を受けることでモチベーションが上がることを表します。このホーソン効果は、ホーソン実験から生まれました。
このことから組織のなかで社員は互いの良いところを見つけて習慣的に感謝したり褒めたりすることが大切であることが分かります。また成果を出した人を称賛する文化形成は重要です。
社員のモチベーションを高めて、エンゲージメントを高めることで企業全体の生産性はあがり利益向上につながるでしょう。
心理学の感情管理で生産性向上に成功した企業の例
ここでは、ホーソン効果を利用して組織の生産性向上に成功した企業の取り組み例について紹介します。
JAL株式会社│称賛し合う企業文化
JAL株式会社は称賛し合う企業文化の醸成作りに取り組む企業です。
具体的には、企業の方針に従って優れた行動をした社員を表彰する制度を実施しています。
対象者は、グループ企業の全社員、業務委託、協力会社のすべての人です。また、「サンクスカード」を使用して社員に感謝の気持ちを伝える習慣があります。
これらの取り組みはお客様に最高のサービスを提供することを目的として、社員の相互理解のため始められました。
これらは社員の帰属意識や仕事へのモチベーションを高め、個人に良い感情をもたらすことにつながっているといえます。
参考:褒める企業文化の醸成 | CSR情報 | JAL企業サイト
日本電気株式会社(NEC)|社内SNSでエンゲージメント活性
社内SNSを使って社員同士の結びつきを強くすることを試みる企業は多くあります。NECでは「イノベーションカフェ」と呼ばれる社内SNSを活用する取り組みを行っています。
「イノベーションカフェ」は、主体的に情報発信をすることで社員からコメントやトラックバックを得ることができる仕組みです。
このシステムは、社員が異なる社員を紹介して新たなコミュニティが生まれます。また、グループ外の社員のコミュニケーションが活発化することに役立っているのです。
これにより、社内エンゲージメントが強化されたりお客様に新たな価値を提供するための企画やアイデアが生まれたりします。
社内SNSを活用することで、社員の就業満足度を上げながら顧客によりよいサービスを提供することができるのです。
株式会社エスバイエス│社員同士の結びつきを強くする
株式会社エスバイエスは、助け合いの文化を醸成して実際に生産性の向上に成功しました。
具体的には、感謝の気持ちを伝える「サンクスカード」を書いて社員同士で交換するものです。
サンクスカードは、先述した通りJAL株式会社も取り入れています。
実際にエスバイエスは、従業員36名の企業(2018年時点)であり、前期1年間でおよそ6300枚のカードが受け渡されたといいます。
他にも社員への表彰制度を設けているのも特徴です。業績優秀な社員を称えるほか、縁の力持ち、顧客から評価されたなどといった多様な項目を設けて、全員を表彰しています。
これらは社員のモチベーションを引きだすことにつながっているのです。
参考:第3回(平成30年度)働きやすく生産性の高い企業・職場表彰|厚生労働省
ポジティブ心理学の面から見るホーソン効果を活用するポイント
人から注目や称賛を受けることでモチベーションが上がるホーソン効果を用いて、称賛する企業文化作りをする企業は多いです。
ポジティブ心理学者ショーン・エイカーの著書『潜在能力を最高に引き出す法』では、組織のポテンシャルを最大化する方法が説明されています。
最後に、称賛を受けた人がその行動が強化されるメカニズムと、反対に批判を行うことの危険性について引用から紹介しましょう。
このメカニズムを知ることで、社員のマネジメントにも役に立つ項目がありますのでご覧ください。
褒めることによって脳の中でポジティブな行動が注目される。批判をすれば脳の中でネガティブな行動が注目される。そして注目された行動は反復される傾向がある。それならなぜ、いいことにではなく悪いことにスポットライトを当てる必要があるのだろう。多くの勤務評価が、かえってその人の仕事ぶりを悪化させる結果になるのは、まさにそれが理由である。いいところを強調せず、欠点に注目し改善点を指摘する上司が多いからだ。(中略)脳の働きから考えれば、部下の脳は「よい行動は特に意味がない」と理解する。脳が「意味がない」と理解した行動が繰り返されることはない。
『潜在能力を最高に引き出す法: ビッグ・ポテンシャル 人を成功させ、自分の利益も最大にする5つの種』(著者:ショーン・エイカー,翻訳:高橋由紀子,2018年12月,徳間書店,P.160より引用)
管理職の人たちに、正直なフィードバックをするなと言っているのではない。また、改善点や伸びしろを指摘しないほうがいいと言っているのでもない。ただ、その人が克服すべき弱点や抱える困難について、もっと現実的であるべきだ。それにまた、不足点や弱点に向き合ってそれを改善するには、本人の精神力と強さとエネルギーが必要だということを理解しなければならない。その必要なリソースを供給するのが称賛なのだ。仕事ぶりを改善し自分を成長させるために必要な燃料を、称賛が作り出す。
まとめ
今回は、心理学の観点から感情管理が生産性にどのような影響を及ぼすかについて解説しました。
生産性は、ホーソン実験によって企業に対する個人の主観的な好みや感情に左右されることが明らかになっています。
また個人の感情を形成する要因には、他者との結びつきから生まれることが分かりました。これによって組織全体で社員の結びつきを強め、就業満足度を上げることが大切となります。
また、ポジティブ心理学の観点からは、良い感情がモチベーションや生産性を上げて成功につながることが分かったのです。
社員の感情管理と生産性の強い結びつきを知っていただき、ビジネスに活かしてみてください。
出典:
『幸福優位7つの法則』(著者:ショーン・エイカー,翻訳:高橋由紀子,2011年8月,徳間書店)
心理学からみる感情管理と生産性の関係は?│前向きな感情が生産性を上げる 部分
心理学と脳科学が導き出した生産性と感情管理の関係 部分
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