サステナビリティに基づいた社員教育の企業事例7選

最終更新日: 2024/01/22 公開日: 2023/11/13

2015年に国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、SDGsとともにサステナビリティという言葉がよく聞かれるようになりました。

政府の後押しもあり、多くの企業でサステナビリティの取り組みを実施していますが、何をすればサステナビリティなのかよくわからない人もいるのではないでしょうか。

サステナビリティは社員教育にもおよび、多様性やワークライフバランスなどに関係します。

この記事では、サステナビリティに取り組むメリットやサステナビリティに基づいた社員教育の事例を説明します。

自社の社員教育の参考になりますので、ぜひ最後までお読みください。

サステナビリティとは

サステナビリティは持続可能性という意味です。

環境保護と結び付けられている印象がありますが、それだけではなく社会的、経済的な発展も持続させるための取り組みのことを言います。

漁業の場合であれば、目先の利益だけを追求し魚を取りすぎてしまうと生態系が崩れ環境に影響を及ぼし、将来的に漁業で生活していた人々が困窮しコミュニティが崩れてしまいます。

今さえ良ければ良いのではなく、長期的な影響を考えて事業を行うことがサステナビリティにつながるのです。

サステナビリティは経営層だけが意識するのではなく、社員全員が実践することで達成できるため、社員教育で自社の取り組みを教える必要があります。

企業が社員教育の取り組みの基礎としているサステナビリティに関連した言葉に「GRIスタンダード」「ESG」「SDGs」があります。

GRIスタンダード

GRIスタンダードとは、Global Reporting Initiativeという非営利団体が策定したサステナビリティのガイドラインのことです。

企業が経済・社会・環境に与える影響についての情報を顧客や消費者に提供する際にGRIスタンダードを使います。

GRIスタンダードは、共通スタンダード・セクター別スタンダード・項目別スタンダードに分かれており、共通スタンダードはGRIスタンダードを準拠するために必ず対応しなければなりません。

共通スタンダードGRI101:基礎
GRI102:一般開示事項
GRI103:マネジメント手法
セクター別スタンダードGRI11:石油・ガス
GRI12:石炭
GRI13:農業・養殖・漁業
項目別スタンダードGRI200:経済
GRI300:環境
GRI400:社会

「GRI400:社会」に社員教育に関する項目が複数含まれています。

ESG

ESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(統治)」の3つの言葉の頭文字をとった言葉で、企業が環境問題や社会問題に配慮した公正な運営をする仕組みのことです。

企業が長期的に発展するためにはESGの視点で経営に取り組むことが必要です。

Environment(環境)・気候変動
・生物多様性
・水資源
・廃棄物
Social(社会)・人口問題
・労働問題
・所得格差
・多様性
Governance(統治)・経営の透明性
・権利保護
・法令順守
・情報開示

SDGs

SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略です。

SDGsは2030年までに達成するべき目標として、17のゴールと169のターゲットが示されています。

  1. 貧困をなくそう
  2. 飢餓をゼロに
  3. すべての人に健康と福祉を
  4. 質の高い教育をみんなに
  5. ジェンダー平等を実現しよう
  6. 安全な水とトイレを世界中に
  7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに
  8. 働きがいも経済成長も
  9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
  10. 人や国の不平等をなくそう
  11. 住み続けられるまちづくりを
  12. つくる責任つかう責任
  13. 気候変動に具体的な対策を
  14. 海の豊かさを守ろう
  15. 陸の豊かさも守ろう
  16. 平和と公正をすべての人に
  17. パートナーシップで目標を達成しよう

この中で社員教育にかかわるものは、4・5・8・10です。SDGsの目標に合う課題を見つけ、自社の目標を数値設定します。

サステナビリティに取り組むべき3つのメリット

自社がサステナビリティに取り組むことを世の中に宣言することが大切です。宣言することによって社会に認知され、評価されることで人材確保などにつながります。

また、以下のようなメリットも期待できるでしょう。

1. 社会的評価の向上

サステナビリティに取り組む企業は、社会的責任を果たしていると認知されます。

社会や環境のために取り組む姿勢は消費者だけでなく取引先や自治体などのステークホルダーからの信頼を得ることにつながり、社会的評価が向上します。

ステークホルダーからの信頼は、人材の定着や財務の安定などの効果があるため、経営を安定させるためにもサステナビリティに取り組むと良いのです。

2. 従業員エンゲージメントの向上

GRIスタンダードには従業員の雇用に関する項目が設定されています。

GRI400:社会・雇用
・労使関係
・労働安全衛生
・研修と教育
・ダイバーシティと機会均等

従業員が働く環境を改善し、キャリアアップに必要な教育を提供することはサステナビリティの取り組みの一部です。

働きやすい環境や公平なキャリアアップの機会などがあると、従業員は自社に愛着を感じ貢献しようと行動します。従業員エンゲージメントが高くなると、離職率が下がり、従業員が定着します。

3. コスト削減

サステナビリティに取り組むことで、エネルギーや原材料の消費や廃棄の削減が期待できます。また、自社のイメージ向上により人材が定着するため採用コストも減ります。

企業は様々な取り組みから認知度やブランド価値を高めて人材を集めようとしますが、サステナビリティに取り組むことで企業価値が高まり、その結果優秀な人材が集まりやすくなるでしょう。

サステナビリティをもとにした社員教育の事例

どの企業でもサステナビリティ経営を目指し実践していますが、それは社員教育でも同じです。

従業員のサステナビリティの意識を向上することで、企業活動の様々な場面で社会や環境に貢献できるのです。

サステナビリティの目標に対してどのような社員教育を行っているのか、7社の事例を紹介します。

1. サントリーホールディングス株式会社

サントリーホールディングスでは、どのような国籍や人種、年齢などであっても、すべての従業員に成長の機会を与えています。

従業員が描いたキャリアビジョンや適性に基づいた適材適所の人員配置を推進し、どの社員も活躍できる環境を提供する考え方が「全社員型タレントマネジメント」です。

サントリーホールディングスは全世界に250社以上のグループ会社があり、国によって言語が異なります。

サントリー独自の学習プラットフォーム「My Suntory University」では、日本語以外に英語・フランス語・スペイン語・ベトナム語・タイ語・インドネシア語・簡体中国語・繫体中国語などの多言語対応をしています。

これにより、世界規模で全従業員に同じ学習機会を提供しているのです。

2. 株式会社FANCL

FANCLでは、企業文化である「人間大好き」をもとに、誰もが輝ける社会をつくることを目指しています。

従業員に関する活動で取り組んでいる項目は、以下の7つです。

  • 人事の基本方針
  • 健康経営
  • ダイバーシティ&インクルージョン
  • ワークライフバランスの推進
  • 人材活用と育成
  • 労働における安全衛生
  • 経営と従業員代表

FANCLの従業員に対する教育は、独自専門教育機関である「ファンケル大学」で行っています。

LGBTQや障がいを持つ人への理解を進める研修や、プラスチック問題や気候変動などの課題に対するテーマ別研修などを実施し、SDGsに貢献する意識の向上を目標にしています。

3. 大東建託株式会社

大東建託では、サステナビリティを実現するためのマテリアリティを7つ設定しています。

  1. 環境:事業活動による気候危機への対応
  2. 社会:誰ひとり取り残さない社会への貢献
  3. 人材・組織:誰もが成長しチャレンジできる企業風土の構築
  4. 企業統治:業界をけん引するガバナンス体制の構築
  5. 土地・資産:土地と資産の最有効利用支援
  6. 賃貸住宅:資産価値向上と社会課題解決の両立
  7. 街の利便性と人の暮らしやすさの向上

この中の「人材・組織」に社員教育が含まれます。大東建託では、人財を持続的な成長の源泉として従業員エンゲージメントの高い組織を目指しています。

従業員および役員も対象とする「人材育成プログラム」では、各階層に必要最低限習得しなければならないスキルや昇進に必要な研修を明示しているのが特長です。

従業員がいつどのような研修を受けるのかのスケジュールや、大東建託が求めるスキルなどを書いた「人材育成ガイドブック」を従業員に公開していることで、公平にスキルアップの機会があることを示しています。

4. ライオン株式会社

ライオンでは「従業員とともに」というテーマで重要課題を5つ設定しています。

  • ダイバーシティ&インクルージョンの推進
  • ワークライフエンリッチメントの推進
  • 人材開発
  • 従業員の健康増進
  • 労働安全管理体制の充実

ライオンは従業員エンゲージメント向上のため働きやすさだけでなく、働きがいを追求するため「ライオン流働きがい改革」などの取り組みを行っています。

ライオン株式会社「従業員とともに」から引用

「ライオン流働きがい改革」とは、従業員の健康支援"GENKI”アクションをベースにして「ワークマネジメント」「ワークスタイル」「関係性を高める」の3つの要素で構成した取り組みのことです。

例えば、副業の申告制度やフルフレックス制度、社内SNSなどで働きがいを高めています。

5. 三井物産株式会社

三井物産のサステナビリティの取り組みの1つに、女性の活躍支援があります。

女性のリーダー候補者を育成するためのWomen Leadership Initiativeを2020年に設立しました。メンター制度や座学による研修を行い、1年間のSponsorship Programで経営幹部が指導します。

世界中にある三井物産のグループ会社への赴任を希望する女性社員には、子どもを帯同する際のアドバイスやベビーシッターの補助制度などもあり、キャリアアップの支援が充実していると言えるでしょう。

三井物産では2025年3月期までに女性管理職比率10%達成を目指しており、2022年の段階で8%に達しました。

2016年9月に女性の活躍推進の取り組みが優れている企業として厚生労働省から3段階中2段階目の「えるぼし」を認定されています。

2022年には高水準の子育て両立支援の取り組みを行っている企業として「プラチナくるみん」を認定され、社会からも評価されました。

6. スターバックスコーヒージャパン株式会社

スターバックスはフェアトレードのコーヒー豆を購入しています。

フェアトレードとは、開発途上国の立場の弱い小規模な生産者に対し公平・公正な料金を支払うことで持続的な発展を目指す取り組みです。

スターバックスでは「人」「コミュニティ」「地球」を大切にしており、お客様や従業員だけでなく、コーヒーの生産者にも良い影響を与えることを目指しています。

フェアトレードのコーヒー豆を購入し続けるためには、お客様にもフェアトレードの意義を理解してもらわなければなりません。

スターバックスでは、従業員がお客様にコーヒーの魅力をわかりやすく説明できるようになるための教育プログラムが用意されています。

店頭に立つ従業員がお客様へフェアトレードについて話すことで、フェアトレードの正しい理解を広めています。

7. コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社

コカ・コーラでは多様性のある職場環境を実現するため、中長期的な目標と方向性を定めています。

ジェンダー・女性管理職の比率50%
・男性の育児休業・休暇取得率100%
年齢/世代・30代の管理職比率15%
・年次有給休暇の取得率80%
障がい者支援・障がい者への支援強化
LGBTQ・LGBTQの理解促進
・同性婚に対する働きやすい環境整備
Coca-Cola Japan『多様性の尊重|Inclusion』より引用

コカ・コーラではInclusion Month(多様性の尊重推進月間)を設定し、社員が参加できるセッションを開催しています。

2021年10月に開催されたセッションには女性や若手の経営者、ジェンダーやダイバーシティの専門家が講義し、社員も交えた話し合いで多様性への理解が進められました。

ミレニアル世代(1980年~1990年後半に生まれた世代)の社員が経営陣に対して会社をより良くするための提案を行うコミュニティ「ミレニアル・ボイス・ジャパン」も設置されています。

若い世代の発想から、社内SNSの普及やLGBTQの東京レインボープライド2022への企業ブース出展を実施しました。会社の課題を若い社員が自分事として考えることで責任感やリーダーシップを養えます。

サステナビリティを社員に教育することで自社の業績が上がる

この記事では、サステナビリティに基づいた社員教育について説明しました。

サステナビリティを実現させることは、自社にとっても従業員にとっても価値のあることです。

自社は社会的評価が高まりコストが低減します。従業員にとっては公平公正な評価や教育の機会が与えられ、キャリアアップを目指せるでしょう。

そのため、社員教育からしっかりとサステナビリティを自社に根付かせ、全社員がサステナビリティを実践する意識が必要なのです。

セミナーズ通信

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