日本マクドナルドは、企業の成長を支えているのは人の成長であると考えています。
従業員を教育することは雇用主である自社の責任であり、従業員が成長することが自社の利益を生むという考えです。
しかし、企業が従業員を教育しようとマニュアルを整備したり、セミナーを開催したりしても従業員がついてこないこともあります。
- 従業員のやる気を出す方法が知りたい
- 長年にわたって成長を続けているマクドナルドの人材教育が知りたい
マクドナルドは友人に紹介されて入社したクルーや、親子で働いているクルーもおり、会社に対する愛着が比較的強いです。
この記事では、マクドナルドの社員教育の方法と考え方について紹介します。
マクドナルドの社員教育に対する考え方
マクドナルドの創業者であるレイモンド・アルバート・クロックは「マクドナルドはお客様にハンバーガーを提供するビジネスではなく、ハンバーガーの提供によるピープルビジネスだ」と言います。
来店するお客様におもてなしをすることや、スタッフの雇用を生み出すことを役割としており「マクドナルドは世界中どの街でも、ベストな雇用主となる」ことを今も掲げています。
つまり、マクドナルドで働くすべてのスタッフがビジネスの主役であるということです。
マクドナルドのクルーは全国に約19万人います。1つの店舗を1隻の船にたとえ、従業員であるアルバイトをクルー(乗組員)と呼んでいることからも、ビジネスの主役という考えがわかるでしょう。
店舗には社員の数より多い数のクルー(アルバイト)が働いています。クルーがお客様と接する機会が最も多く、クルーの行動が顧客満足度に結び付いています。
マクドナルドのキャッチコピーは「I'm lovin' it」です。
「I'm lovin' it」は「私のお気に入り」「私が今ハマっているもの」という意味で、マクドナルドをずっとお気に入りでいてもらうためには、クルーが顧客満足について考え行動することが大切なのです。
マクドナルドの成長戦略の根幹は従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントとは、従業員が自発的に会社に貢献しようという思いのことです。従業員エンゲージメントが高いほど、従業員はその会社に愛着を持っています。
マクドナルドでは、従業員がエンゲージされた状態を「スマイル・アンド・ハッスル」と呼んでいます。
「スマイル・アンド・ハッスル」とは、従業員が生き生きとお客様のためにより良い仕事をしようと行動している状態のことです。
マクドナルドは存在意義を「おいしさと笑顔を、地域の皆さまに」と規定していますが、これを達成するためには従業員の「スマイル・アンド・ハッスル」が必要です。
マクドナルドにはアルバイトから社員になる人も多いですが、従業員エンゲージメントを高める教育が会社への愛着を深めていると言えるでしょう。
マクドナルドのクルーへの教育方法
基本的にクルーはトレーナーに1対1でOJT(On the Job Training)を受けます。
マクドナルドのOJTには独自の考え方があり、クルーの成長を速めています。
- 「何を」だけでなく「なぜ」も教える
- 即時フィードバック
- 認知的徒弟制度
- BESTリーダーシップモデル
- Employee Value Proposition
マクドナルドではアルバイト勤務していたクルーが職場を気に入って新卒で入社したり、親子二代に渡ってクルーになったりすることもあります。
アルバイトであっても人を大事にするピープルビジネスを守っているからこそクルーが長く務める職場になっているのです。
1. 「何を」だけでなく「なぜ」も教えるマニュアル
マクドナルドのオペレーションは数が多く、ハンバーガーを作るのにも手順がしっかりと決まっています。
入社したてのクルーがまず覚えるのは、マニュアルにあるオペレーションですが、トレーナーは「何をするのか」だけでなく「なぜそのようにするのか」という理由も教えます。
例えば、ハンバーガーを作るときケチャップを中央につける理由は、どこから食べても美味しく食べられるようにということです。
ケチャップを中央につけるというやり方だけを教えると、クルーはハンバーガーの作り方を覚えられますが、理由を知らなければ勝手な作り方をしてしまうかもしれません。
「なぜするのか」は行動の理由であり、それをクルーに考えさせることで自律的にお客様が満足する行動をとれるようになるのです。
2. 即時フィードバック
クルーを指導する際は注意をしたり厳しいことを言ったりすることもありますが、クルーが良いことをすればすぐに褒めるように徹底されています。
マクドナルドでは、すぐに褒めることを「即時フィードバック」と呼んでいます。
人は褒められると嬉しくなり、もっとうまくなりたいと思うことが多いです。褒め合うことが常日頃から行われている職場であれば、自分が良いと思ったことを実践し、より努力しようと考えるようになるでしょう。
クルーを褒めるためには、よく観察していなければなりません。新人クルーにとってちゃんと見てくれていることは安心感にもつながります。
マクドナルドでは1対1で研修するため、トレーナーは新人クルーをよく見てすぐに褒めることができるのです。
3. 認知的徒弟制度
認知的徒弟制度とは、アメリカの認知学者ジョン・S・ブラウンとアラン・コリンズが提唱した制度です。親方が弟子に教えるときの訓練制度に着目して理論として成立させました。
親方から弟子へと技能の継承がなされる徒弟制度には、4つの段階があります。親方は熟達者、弟子は学習者と呼びます。
1. モデリング (Modeling) | 熟達者が模範を示し、学習者がそれを見て学ぶ。 |
2. コーチング (Coaching) | 熟達者が学習者のレベルに合わせて課題を出し、助言を与えながら教える。 |
3. スキャフォルディング (Scaffolding) | 学習者ができそうなレベルの仕事を与え、できることが増えるにつれてサポートを減らす。 |
4. フェーディング (Fading) | 熟達者が学習者との関わりを減らし、自立を促す。 |
認知的徒弟制度で重要なのは、コーチングからスキャフォルディングにかけての段階です。新人クルーに任せられることは自分の手を放す客観性が必要です。
マクドナルドの新人クルーとトレーナーが1対1で教えるのは、徒弟制度に似ています。
最初は手取り足取り丁寧に教えますが、新人クルーの達成度に合わせてサポートを減らし、1人でできるように促していきます。
4. BESTリーダーシップモデル
BESTリーダーシップモデルとは、マクドナルドでキャリアを形成するためのフレームワークです。
BESTとは「Building Blocks(基盤)」「Execution Proficiency(実行力)」「Strategic Proficiency(戦略立案能力)」「Talent Proficiency(育成力)」の4つの頭文字をとった略語です。
Building Blocksは信頼関係や好奇心、しなやかな思考などのことで、E・S・Tの基盤となる資質を指します。E・S・Tが表す3つの能力は、会社に貢献するために熟練が必要なものです。
自分の強みをBESTに当てはめるとキャリア形成のチャンスをつかみやすくなるため、上司との面談において次の目標を明確に立てられます。
5. Employee Value Proposition
Employee Value Propositionとは、従業員がマクドナルドで働く価値のことです。なぜマクドナルドで働くのかを会社自身が提案し、クルーからの評価を上げることに向き合っています。
Employee Value Propositionで会社が提供する価値は「3つのF」と呼ばれています。
- Flexibility
- Family & Friends
- Future
Flexibilityは柔軟な働き方です。アルバイトでは週2時間から勤務が可能であり、毎週希望シフトを提出できるなどの柔軟な働き方を認めています。社員になっても変形労働時間勤務制度やフレックス勤務制度が導入されています。
Family & Friendsはポジティブな職場環境です。社員の出産・育児・介護休暇取得のサポートや、子供が小学校を卒業するまで時短勤務が認められているなど、ワークライフバランスが重視されています。
Futureはスキル取得の機会です。OJTによる教育や即時フィードバックなどの教育制度を指しています。
人を育てるノウハウがあるからできるマクドナルドの教育支援
人を大事にするピープルビジネスは、マクドナルド社員だけでなく、幼児から小中学生、高校生、大学生といった社会人になるまでの人材育成にも生かされています。
小学生においては食育授業支援のための独自教材を開発し、食育支援を実施、中学生、高校生においてはマクドナルドでの職場体験やインターンシップなどを通し、さまざまな人と関わりながら夢や理想を考え、働くことや社会に出ることの意義を見出す大切な機会を提供しています。
また、大学生や社会人向けの取り組みとして、鹿児島大学と共同で食の安全の持続的な確保を目指すため、次世代の食の安全専門人材を育成しています。
マクドナルドの人材育成の根幹となるハンバーガー大学
ハンバーガー大学は、マクドナルドの人材育成のための部署です。
マクドナルドの経営理念や現場でのオペレーションに必要な知識まで、マクドナルドのビジネスに関する講座を受講できます。
日本のハンバーガー大学はアメリカに次いで古く、1971年6月に設立されました。国内の第一号店である銀座三越店は1971年7月20日にオープンしたので、ハンバーガー大学の方が1か月早い開校です。
日本マクドナルド創業者の藤田田が、店を成功させるには人材が重要との考えで、第一号店の開業より先にハンバーガー大学ができました。
ハンバーガー大学では、スイングマネージャー以上の社員やアルバイトが学ぶことができる場所です。
ハンバーガー大学で学べる内容
ハンバーガー大学で学べる内容は大きく分けて3つあります。
- リーダーシップ
- チームビルディング
- コミュニケーションスキル
店舗でリーダーになる人にとって必要なスキルを、参加型のアクティビティやディスカッションを通じて学ぶことができます。
例えば、目隠しをしてボールをかごに投げ入れるというアクティビティがあります。
目隠しをしたまま普通にボールを投げてもかごに入りません。しかし、目隠しをしていても的確な助言があればかごにボールを入れられることから、正しい指導が正しい結果を生むことが体験を通して理解できるでしょう。
ハンバーガー大学のブランドボイス
ハンバーガー大学は、そこで学ぶ社員やアルバイトの成長欲求に応えるためのブランドボイスを3つの言葉にして掲げています。
- Optimism(楽観主義)
- Energy(情熱)
- Confidence(自信)
楽観主義とは、物事を良い方向に考えられることです。笑顔と気持ちの良い声は周りのスタッフだけでなくお客様の気持ちを晴れやかにします。
情熱とは仕事に対する意欲です。リーダーから発せられる熱いメッセージは、一緒に働くクルーのモチベーションを高めます。レベルの高い課題に対しても真剣に取り組み、折れない心を生みます。
ハンバーガー大学の研修内容・カリキュラム
マクドナルドでは、店長になるまでの道のりを示したカリキュラムロードマップが用意されています。
カリキュラムには、店舗での実務とハンバーガー大学によるリーダーシップ学習などが含まれます。
たしかな経験と知識を土台として、リーダーシップを身につけることで、臨機応変に対応できる店長を目指すことができます。
店長になるまでに受講する具体的なカリキュラムは次のとおりです。
- これからリーダーになる人が、リーダーの心構えと、効果的にリーダーシップを発揮するためのスキルを学ぶコース
- 店舗のビジネスの一部を運営するための実務的なスキルや、リーダーとしての効果的なコミュニケーション、問題解決、人材育成など、チームをリードするために必要なリーダーシップスキルを学ぶコース
- 店長として、店舗のマーケティング、チームビルディング、財務管理、問題解決など、店舗のビジネスを総合的にリードするための知識とスキルを学ぶコース etc…
ALL JAPAN CREW CONTEST
ALL JAPAN CREW CONTEST(AJCC)は、1977年から開催されているマクドナルドの技能コンテストです。
店舗で働くクルーのスキルやサービス、モチベーションの向上を目的としたコンテストです。2022年開催時は、全国にいる約19万人のクルーの中から最終戦に出られたのはたった66人で、8人の優勝者が決められました。
優勝者には高校生のアルバイトもおり、年齢に関係なくスキルの勝負ができる貴重な場であると言えるでしょう。
決勝戦までには、複数の審査があります。
- 店内戦
- 法人/直営ミニマーケット戦
- ミニブロック戦
- 地区本部戦
- 全国戦(決勝戦)
決勝戦までに審査があることで目標に向かってスキルを磨け、モチベーションが高まります。
店舗ごとに代表者が出るため、代表者となったクルーに先輩クルーが自発的に教えます。AJCCでチャンピオンとなったクルーのコメントには、以下のようなものがあります。
店舗ではもちろん、時にはリモートも活用して、先輩方が熱心にトレーニングしてくださいました。仲間の想いや積み重ねた努力が大きな自信につながったと思います。
「お客様に笑顔をお届けするためにAJCCのすべて」から引用
AJCCをきっかけとして店舗クルーが一丸となり、強い信頼関係が生まれるのです。そして、お客様を迎えるにふさわしい雰囲気の店舗となります。
マクドナルドのビジネスや人材育成教育が学べる本
マクドナルドの創業者の自伝やマクドナルドのハンバーガ大学で副学長を務めたこともある著者の本など、ビジネスから人材育成に役立つ本まで幅広く出版されています。
成功はゴミ箱の中に: レイ・クロック自伝 世界一、億万長者を生んだ男
マクドナルドの創業者であるレイクロックの自伝は、マクドナルドが成功するまでの紆余曲折を知ることができます。
小さなハンバーガーショップをフランチャイズ化するまでの苦労や取り組み、成功するための考え方などが書かれており、随所でマクドナルドの人気の理由がわかります。
ビジネス書としてはもちろん、サクセスストーリーとしても楽しめる一冊です。
日本マクドナルド 「挑戦と変革」の経営: “スマイル”と共に歩んだ50年
日本マクドナルドは2021年7月に50周年を迎えました。
こちらの書籍は、コロナ禍においても全店舗売上高、営業利益ともに過去最高を更新したマクドナルドの成功の秘訣がわかる一冊となっています。
どれだけ時代が変化しても臆せずにビジネスモデルを変化させてきた、マクドナルドの具体的な取り組み、イノベーションが学べます。
マクドナルドが大切にしてきた「マニュアルを超える」31の方法
マクドナルドの人材育成の主軸ともいえる「ハンバーガー大学」で副学長を務めた著者が、マクドナルドで培ってきた人材教育やオペレーション方法、マネジメントスキルが学べる一冊です。
著者がマクドナルドのマニュアルをもとにブラッシュアップした、人材育成に生かす31の具体的な手法が学べます。
マクドナルドの社員教育は人を大切にするもの
この記事では、マクドナルドの社員教育に対する考え方と教育方法について説明しました。
マクドナルドの社員教育の根底には、従業員エンゲージメントがあります。従業員が成長すれば、会社を押し上げてくれてビジネスが発展します。
従業員がいなければ会社は商品やサービスを提供することができません。ただ上から押し付ける教え方ではなく、従業員が自律的に行動できるように教育することが大事です。
人を大切にすることで従業員の会社に対する愛着を強め、マクドナルドで働くことを希望する人を増やすことができるのです。
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