- リスキリングとリカレントはどう違うのだろう?
- なぜリスキリングやリカレントが注目されているのか?
- 具体的にどのような実践事例があるのだろう?
上記のような疑問を抱えていませんか?
今回は、リスキリングとリカレントの違いと、それぞれの目的・特徴、注目されている理由について解説します。
企業での実践事例も併せて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
リスキリングとは
まずはリスキリングの定義や目的、特徴を見ていきましょうj。
リスキリングが注目されている理由については、DXとの関わりも含めて押さえておくことが大切です。
定義
リスキリング(reskilling)とは、直訳すると「再度スキルを身につけること」という意味です。
経済産業省の資料では、リスキリングを次のように定義しています。
(リクルートワークス研究所「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」2021年2月26日)
かつて、仕事に必要なスキルの習得は若手が取り組むべきことと考えられていました。
新入社員研修に代表されるように、若いうちにスキルを身につけておくのが当たり前と考えられていたのです。
リスキリングの定義に「今の職業で必要とされるスキル」が含まれている通り、対象者は若手に限りません。
あらゆる年代の人にとって、リスキリングが求められる時代になったといえるでしょう。
特徴
リスキリングの大きな特徴として、企業から従業員へ機会を提供すること、主にデジタル技術分野について学ぶことが挙げられます。
リスキリングは企業が経営方針の1つとして掲げる戦略であり、従業員が各自で判断して決定するものではありません。
学ぶ内容や対象者も企業側が決定し、学習機会の提供や環境の整備も企業が計画的に進めるのが一般的です。
多くの企業はDX推進に向けて必要なリソースを確保する必要に迫られています。
モノ・カネ・人のうち「人」を育てる戦略の1つがリスキリングと捉えてよいでしょう。
目的
リスキリングには、大きく分けて2つの目的があります。
目的1:人材活用の促進
1つめの目的は、人材の活用を促進することです。
企業にとって必要な技能を獲得する手段として、人材を外部から採用する方法が挙げられます。
買い手市場の時代であれば、新たに人材を採用するほうが確実に技能を獲得できたかもしれません。
昨今は労働人口が減少しつつあることから、優秀な人材の確保は多くの企業にとって容易ではなくなりました。
貴重な戦力である自社の人材を有効に活用するには、従業員に新たなスキルを習得してもらう必要があるのです。
目的2:技術革新への備え
2つめの目的は、技術革新に対応できる体制を築くことです。
近年の技術革新はめざましく、数年前に台頭した技術が間もなく古くなってしまうケースは決してめずらしくありません。
技術革新に伴い、業務の進め方や必要とされるスキルが大きく変わることも想定できます。
現状の業務に従業員が適応できていたとしても、未知の新技術に対応できるとは限らないでしょう。
時代ごとに必要とされるスキルを体得するには、従業員が学び続けていく必要があるのです。
注目されている理由
リスキリングとDX推進には深い関わりがあります。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を駆使して事業を変革することです。
大前提として「デジタル技術を使いこなせる人材」が欠かせないのは明白でしょう。
総務省の調査によれば、DX推進を「実施していない」と回答した企業は全体の77.1%にのぼります(※)。
現状のままではDXの波に乗り遅れ、時代に取り残されてしまう企業が8割近く存在するのが実情です。
DX推進の遅れに対する危機感が、リスキリングへの関心の高さとなって表れていると見ることもできるでしょう。
※参考:総務書「令和3年版 情報通信白書」
リカレントとは
次に、リカレントについて解説します。
リスキリングとの違いが紛らわしい面がありますが、実は根本的に異なる概念です。
定義
リカレント(recurrent)とは、もともと「再発する」「周期的に起こる」という意味の英語です。
リカレント教育と言う場合には、就労と学習を行き来することを指します。
たとえば、一度就職した後に大学へ戻って学び、得た知識や技能を仕事で活かしていく、といったイメージです。
リスキリング・リカレントともに「学び直し」と表現されるものの、定義は根本的に異なります。
在職のまま学ぶのがリスキリング、職場を一度離れて学ぶのがリカレントと捉えてください。
特徴
リカレントの大きな特徴は、社員が自らの意思で「学び直したい」と考え、実行する点です。
学ぶ分野に関しても、デジタル技術に限らず幅広い領域にわたっている点がリスキリングとは異なります。
職場を離れて学ぶため、学ぶ機会や環境は企業ではなく教育機関によって提供される点も根本的な違いといえるでしょう。
目的
リカレントに取り組む目的として、大きく2つのポイントが挙げられます。
目的1:人生100年時代への対応
厚生労働省の「簡易生命表(令和3年)」によれば、日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳です。
健康状態の改善や医療の進歩により、人生100年時代が目前に迫っています。
従来、学問に打ち込むのは学生時代までとされ、社会に出てからは仕事に打ち込むものと考えられてきました。
人生100年時代においては、学校を卒業した後の人生がますます長くなっていきます。
より充実した人生を送るためにも、社会人になってから幅広い知識や教養を体得していくことが求められているのです。
目的2:変化が速い時代への対応
近年、時代の変化はいっそう速く、激しいものになりつつあります。
スマートフォンが普及する前後で人々のライフスタイルが大きく変わったように、ものの数年で常識が大きく変わることもあるのです。
学生時代に学んだ経験が、社会人になってからも通用し続ける保証はなくなりました。
中長期のキャリア形成を考える時、個人のスキルアップや知識の体得は欠かせない要素となりつつあるのです。
注目されている理由
「人生100年時代」という言葉が日本で広まったきっかけは、リンダ・グラットン著『LIFE SHIFT』だったといわれています。
シリーズ累計52万部のヒット作となった同書は、多くの人に今後の生き方・考え方を考える機会をもたらしたのです。
長い人生を豊かにしていくために必要なものは、人によって異なるでしょう。
新たな知識を得て思考を深め、仕事だけでなく暮らし全般を実り多いものにしていくことも豊かな人生といえます。
「自身の生き方」について改めて考える人が増えつつあることが、リカレントが注目を集めている理由の1つといえるでしょう。
リスキリングとリカレントの違い
リスキリングとリカレントの違いを一旦整理しておきましょう。
リスキリング | リカレント | |
定義 | DX人材育成を実現するための学び直し | 人生100年時代に対応するための学び直し |
特徴 | 企業が学習の機会を提供する | 職場を離れて教育機関で学ぶ |
目的 | 職務に必要なスキルの体得 | 人生をより充実させる知識の体得 |
学習分野 | デジタル技術 | 問わない |
実施方法 | 企業が主導 | 従業員の自己判断 |
学習期間 | 限定的 | 非限定的 |
リスキリングがDX人材の確保を軸としているのに対して、リカレントは生涯学習の実現を目指しています。
両者は広い意味での「学び直し」という点では共通しているものの、目的が異なる点を押さえておきましょう。
リスキリングの事例
リスキリングの事例として、とくに有名な企業を3社紹介します。
どのような問題意識からリスキリングの取り組みが始まったのか、どのような成果を目指しているのか見ていきましょう。
AT&T
情報通信・メディア分野を中心としたコングロマリット企業であるAT&Tは、リスキリングの先駆者として知られています。
2008年に社内調査を実施したところ、従業員25万人のうちエンジニアリングスキルを持つ人材は約半分に留まっていたのです。
2013年に「ワークフォース2020」を始動させ、多方面にわたるリスキリングの取り組みを進めてきました。
以下は、同社が実践したリスキリングの一例です。
- 学習プラットフォームとして「パーソナル・ラーニング・エクスペリエンス」を提供
- オンライン訓練コースの提供
- キャリア開発支援ツール「キャリアインテリジェンス」の提供
- 社内で必要とされるスキルの明文化、スキルに応じた報酬体系の整備
結果として、技術職の81%を自社でまかなうことができるようになり、離職率は1.6倍低くなりました。
リスキリングの取り組みが功を奏し、時代が求めるスキルを確保することに成功したのです。
Amazon
GAFAMの1社として世界的に知られるAmazonも、リスキリングへの積極的な投資を公表しています。
同社は2025年までに従業員10万人のリスキリングに取り組むことを表明しているのです。
リスキリングへの投資額は7億ドル(従業員1人あたり約7,000ドル)にのぼります。
具体的な取り組みの一例は次の通りです。
- Amazon Technical Academy:非技術系の従業員を技術職へ移行させる
- Machine Learning University:デジタルスキルを持つ人材に機械学習スキルの獲得を促す
全社をあげてデジタルスキルの向上を志向する同社は、まさにリスキリングの代表的な取り組み事例といえるでしょう。
日立製作所
日立製作所は、従来グループ内に3つの研修機関を保有していました。
2019年に研修期間を統合するとともに、デジタル人材育成を目的とした新会社「日立アカデミー」を設立しています。
製造業からデータ活用を軸とする事業への転換を目指し、グループ約16万人の従業員を対象にDX基礎研修を実施する予定です。
2021年度よりジョブ型雇用を本格導入し、担当業務の範囲と学ぶべきスキルを明確化しています。
必要なスキルと実務を一致させ、リスキリングに取り組む必然性を明らかにした好例といえるでしょう。
リカレントの事例
次に、リカレントの事例を紹介します。
リカレントは本来、従業員が自らの判断で取り組むものですが、企業が従業員のリカレントを後押ししているケースもあるのです。
3社の具体的な取り組みを見ていきましょう。
SONY
SONYでは「フレキシブルキャリア休職制度」を新設し、次のような目的での休職を認めています。
- 配偶者の海外赴任への同行:最長5年間
- 知識・スキルを深めるための修学:最長2年間
修学を目的とした休職の際には、入学費用などを最大50万円まで同社が負担する支援制度も用意。
退職することなく社外で学べる仕組みを制度化し、優秀な人材の継続的な育成と流出防止に役立てています。
三協立山
三協立山では、社名の由来でもある「地元・得意先・従業員の三者協力」の理念のもと、リカレントに取り組んでいます。
具体的な取り組み例は次の通りです。
- 通信教育講座の受講奨励
- 資格取得者への報奨金支給
- 大学への継続的な派遣による技術部門の社員育成
- 地域産業界が開催する研修・育成プログラムを活用した研究者育成、管理職育成
リカレントを社員個人の課題と捉えるのではなく、企業・地域社会と連携することで実現を目指している点が特徴です。
とくに技術部門を擁する企業にとって、研究者の育成や研究機関との連携・協力は長期的な事業の成長に欠かせない視点といえます。
社員の個人的な努力に委ねるのではなく、企業が社員の成長を後押ししている好例といえるでしょう。
メルカリ
メルカリでは、リカレントの一環として博士課程への進学支援制度を導入しました。
高度な研究を通じて体得した知見が、長期的な競争力の獲得やイノベーションの促進に繋がると考えているからです。
具体的な支援内容として、次の施策を挙げています。
- 博士課程進学時の学費を年間200万円まで支援
- 研究と両立できる業務時間を選択可能に
- 自社研究機関によるサポートと研究相談
同社がフリマアプリを通じて収集・保有しているデータを研究に活用することも認められています。
以前から研究部門である「メルカリR4D」では、多くの博士課程修了者を採用してきました。
今後は、進学支援制度を通じて他部署にも博士号取得のメリットを広く知ってもらいたいとしています。
リカレントそのものの価値や意義を企業が発信・啓発する、ユニークな取り組みの事例です。
まとめ
リスキリングとリカレントは「学び直し」という点では共通していますが、両者の目的や背景は大きく異なります。
自社に必要なデジタル人材を育成するのか、従業員の継続的な成長を支援するのかによって、選ぶべき施策は異なるでしょう。
今回紹介したリスキリングとリカレントの違いやそれぞれの事例を参考に、ぜひ自社にとって最適な取り組みを考えてみてください。
従業員の学び直しを企業が後押しする仕組みを構築することで、将来を見据えた事業展開が現実味を帯びてくるはずです。
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