ユング心理学におけるカウンセリングとは?考え方や心理療法の種類

最終更新日: 2024/04/01 公開日: 2024/04/01
  • ユング心理学に基づいたカウンセリングの特徴とは…?
  • ユング心理学のカウンセリングで大事にされる考え方とは…?
  • ユング心理学のカウンセリングで実施される心理療法にはどのような種類がある…?

この記事は、上記の項目について知りたい方におすすめします。

ユング心理学におけるカウンセリングとは、スイスの精神科医であり心理学者であるカール・グスタフ・ユングの心理学理論をもとにしたカウンセリング方法です。

ユング派カウンセリング、分析心理学を用いたカウンセリングと呼ばれることもあります。

今回は、ユング心理学におけるカウンセリングの考え方や、カウンセリングと共に実施される心理療法について紹介しましょう。

ユング心理学がカウンセリングで大切にしていることやその実践方法について知りたい方は、ぜひご覧ください。

ユング心理学(分析心理学)の特徴

ユング派カウンセリングを理解するためのキーワードは「無意識」にあります。

まずは、この記事を通してユングが提唱した心の構造を知り、無意識について理解を深めてみてください。

心の構造論

ユング心理学では、心の構造を「意識」と「無意識」の2種類に分けられると考えました。

「意識」は、自分自身の行動や思考について自覚している状態のことをいいます。意識の中には、中心に自我を成しているのが特徴です。

自我は「自分の存在」を自覚して、行動したり物事を考えたりする意識の主体のことをいいます。

「無意識」は、自分自身の行動や思考について自覚できない領域のことを指すのです。

無意識は意識の周りを囲っていて、心の構造の大部分は無意識の領域が占めています。

このような心の構造によって、私たちが意識的に行う行動や思考は、実は無意識の領域が大きく反映しているのです。

コンプレックス

ユングは、無意識の中に「コンプレックス」という領域があると考えました。

コンプレックスとは、無意識の中に眠る恐怖や苦痛など受け入れがたい感情を指し、自分自身でコントロールするのが難しい感情をいいます。


一般的に「劣等感」という意味を持つコンプレックスですが、ユングはこの言葉に異なる解釈を述べました。

ユングが語るコンプレックスは、様々な要素が複雑に混ざりあったものであり、何かの葛藤を起こすものがあると考えます。

ユング派のカウンセリングでは、カウンセラーとの対話を通して自分の中に隠されていたコンプレックスに気付くことができます。

また、その存在に気付き他者と共有して外に吐き出すことで、自分の心が軽くなったり、コンプレックスを受け入れて主体的になれたりするのです。

ユング心理学におけるカウンセリングの考え方とは?

次に、ユング心理学におけるカウンセリングの特徴について解説します。

項目は以下の通りです。

  • 無意識の目的を探る
  • 「弁証法的な手続き」を取って対話を重視する
  • 自己実現(個性化)を目指す

ユング心理学は元より臨床心理学の観点では、依頼人のことを「クライエント」と呼びます。

ユングのカウンセリングでは、対話を通してクライエントの心の中にある無意識やコンプレックスの部分に焦点をあてることが特徴です。

一つずつ確認していきましょう。

無意識の目的を探る

ユングは、無意識が目的を持っていると考えました。

いわば私たちが、意識的に気づいていないけれど、無自覚に求めているものといえます。

クライエントはカウンセリングによってその目的を理解することができ、自分自身への理解が深まると考えたのです。

ユング心理学のカウンセリングを受けると、自分が本当に求めていることに気付くことができ、人間的により成長したことを感じられます。

そのため、ユング心理学に基づいたカウンセリングは、目的論的な観点を持っているといえるでしょう。

ここで、子どもに向けたユング派のカウンセリングについて書かれた『ユング派の学校カウンセリング ―癒しをもたらす作文指導』の一節を紹介します。

本書では、ユング派カウンセリングがクライエントに対してどのようなアプローチを取るかについて書かれているため、内容をご覧ください。

ユングによれば、心は常に移り変わりの最中にある。すなわち人生のさまざまな段階を通してそれは成長、展開、前進し続け、発達し、成熟し、そして死を受け入れていく。ユング派カウンセラーはイメージ、シンボル、比喩、遊び、そして書くことを通して展開されている子どもの世界から、辿るべき方向を見定めようとする。ユングは問題の原因に対してはさほど関心を示さず、むしろクライエントのイメージや比喩が導こうとする先に興味を持っていた。彼は無意識的な精神(自己という元型)が目的を持っており、人(クライエントであれカウンセラーであれ)が象徴的な形で示される自然なあり方に従っていきさえすれば、多くを学び、成長することができると信じていたからである。

『ユング派の学校カウンセリング―癒しをもたらす作文指導』(著者:ジョン アラン, ジュディ ベルトイア ,翻訳:高石 浩一, 片山 由季,昭和堂,2007年3月,P11より引用)

ユングのカウンセリングでは、クライエントに心の状態を芸術などのイメージや比喩などで表現してもらうことで無意識に眠る目的を探していきます。

そして、そこから目的を発見することで、クライエントの人間的な成長が望めると考えるのです。

「弁証法的な手続き」を取って対話を重視する

ユング心理学におけるカウンセリングでは、クライエントとの対話を重視して、「弁証法的」であると表現されます。

弁証法とは、矛盾があったり対立していたりするものからより高次な結論を導き出す考え方のことです。

クライエントとカウンセラーが対話を通じて意見を話し合うことで、よりよい結論に辿り着くと考えました。

両者は相互依存的であり、話し合いを通して両者がお互いに高めあう関係になれるといいます。

自己実現(個性化)を目指す

ユング心理学では、クライエントとカウンセラーが対話を通して成長することを目指し、最終的にはその人が自己実現をすることを目指します。

自己実現は「個性化」とも言い換えられ、かけがえのない自分の存在に気付き、より自分らしく生きていくことです。

周囲との調和を保ちつつも、替えの無い自分の存在に気付き、より自分らしい生き方を追究していきます。

ユング心理学におけるカウンセリング実施後の心理療法

ユング心理学では、クライエントの中にあるイメージや比喩をつかみ取ることで、心の状態を探っていきます。

このイメージや比喩を把握する方法として、カウンセリングでは様々な心理療法が実施されることがあります。

主な心理療法は、以下の通りです。

  • 箱庭療法
  • 夢療法
  • 絵画療法

各項目の概要について紹介します。

箱庭療法

箱庭療法では、砂をしきつめた箱の中にミニチュアのおもちゃを自由に置いていきます。そして、使用したものや配置構造などから心の状態を把握する方法です。

用意されるミニチュアのおもちゃは、人や動物、建物、木や花などの植物など様々なものがあります。

河合隼雄が、1965年に日本人に馴染みやすい心理療法として、紹介したことで広く知られるようになりました。河合隼雄氏は、ユング派心理学を日本に普及した人物として知られています。

箱庭療法によって、無意識に考えていることをミニチュアおもちゃでイメージとして表出させることができるのです。実施者自身が無意識で考えていたことを自覚できることによって、心の癒しにつながると考えられます。

『カウンセリング辞典』では、箱庭という空間で自分を表現することがクライエントに与える意味が記載されています。

箱庭療法は、「自由にして保護された空間」を提供することによってクライエントの自己治癒力を引き出すための1つの手段となっている。

カウンセリング辞典(編集:氏原 寛 近藤 邦夫,山中 康裕 ,小川 捷之,鑪 幹八郎,村山 正治,1999年12月,ミネルヴァ書房,P492より引用

限られた空間ながらも自由を提供されていることによって、安心して自分自身を表現することが可能です。

出典・参考:『カウンセリング辞典』(編集:氏原 寛 近藤 邦夫,山中 康裕 ,小川 捷之,鑪 幹八郎,村山 正治,1999年12月,ミネルヴァ書房,P492)

夢分析

夢分析は、無意識の中で感じていることが夢に表れるとして、その夢に出てきた人や物、その出来事から心の様子を捉えるものです。

フロイトとユングはどちらも夢分析について研究を重ねた人物ですが、両者の夢に対する解釈は異なっています。

『ユング 夢分析論』の出版社であるみすず書房のWebサイトでは、フロイトとユングの夢に対する解釈の違いについて語られています。一部を紹介しますのでご覧ください。

フロイトが「夢は願望充足、睡眠の守り手」と考えたのに対し、ユングは、夢とは「あるがままの姿で」こころの状況を描くもので、共同社会に適応するためにどうしても一面的にならざるをえない自我・意識に対する補償の役割を果たしている、と基本的に考えていた。

みすず書房「夢についての論考をはじめて一冊に。臨床家ユングの姿を生き生きと伝える」より引用

ユングの夢分析では、夢で見たものをクライエントからヒアリングして、対話をしながらその意味について解釈を与えていくのが特徴です。

見た夢からすぐに解釈するのではなく、クライエントと一緒に考えながら心のうちを探っていきます。

絵画療法

絵画療法は、文字通り絵を書くことによって、自己表現を行うものです。

自分の気持ちを絵から表現することにより、クライエントとのコミュニケーションを行いながら、自分の気持ちを絵として表現することで心を癒すことができます。

自分の中に留めていた部分を外に開放することによって、すっきりとした気持ちになれることが特徴です。

また、絵画療法には「自由画法」と「課題画法」の二つのパターンがあります。「自由画法」では、クライエントに書きたい絵を自由に書いてもらう方法です。

「課題画法」では、カウンセラーが決めた課題から絵を書いてもらう方法があります。

絵画療法は芸術療法の一種

絵画療法は、芸術療法の一種です。

芸術療法では、絵の他に、音楽や演劇、ダンスなどによって自分を表現することで、心を癒すことができます。

絵画療法を始めとした芸術療法では、心の中のイメージや表現したいことを外に出して表現することにより、言語では伝えきれない非言語のイメージを伝えられます。

クライエントは、そのイメージから心の無意識の部分を読み取り、治療に活かすことが可能です。

まとめ

今回は、ユング心理学におけるカウンセリングの考え方、カウンセリング内で実施する心理療法について解説しました。

ユング心理学におけるカウンセリングの考え方は対話を通して自分の心と向き合うことで、自己理解が深められることが特徴です。

無意識の目的を探り、自分が本当に求めていることに気付くことができるため、自己実現に向けて歩みを進めることができます。

また弁証法的であり、対話を重視しながらクライエントとカウンセラーが互いに高めあうような関係を構築していくのが特徴です。

ユング心理学におけるカウンセリングの心理療法では、箱庭療法、絵画療法、夢療法などが実施されます。

ユング心理学のカウンセリングが大事にする考え方や関連する心理療法を把握することで、より心理学の知識を深めるきっかけとなれば幸いです。

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最終更新日: 2024/04/01 公開日: 2024/04/01