- ソーシャルキャピタルという言葉を耳にするが、一体どういう意味なのか?
- なぜソーシャルキャピタルが注目されているのだろう?
- ソーシャルキャピタルの形成が企業にどのようなメリットをもたらすのか?
上記のような疑問を感じていませんか?
今回は、ソーシャルキャピタルに関する基本知識や注目されている背景についてわかりやすく解説します。
ソーシャルキャピタルを形成するメリットや、企業における実践方法にも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
ソーシャルキャピタルに関する基本知識
そもそもソーシャルキャピタルという言葉を初めて聞いた方や、最近知ったばかりという方もいることでしょう。
まずはソーシャルキャピタルに関する基本知識を整理します。
ソーシャルキャピタルの概要
ソーシャルキャピタル(Social Capital)は、日本語では「社会関係資本」もしくは「社会的資本」と訳されます。
社会を円滑に機能させる上で有効な信頼関係や、人と人との結びつきのことを表す概念です。
より良い社会を築いていくための資本がソーシャルキャピタルと捉えてください。
ロバート・パットナムによる定義
ソーシャルキャピタルの定義は、文献や有識者によって異なります。
ハーバード大学ケネディスクール教授で政治学者のロバート・パットナム氏による定義は次の通りです。
・物的資本 (Physical Capital) や人的資本 (Human Capital) などと並ぶ新しい概念
出典:厚生労働省「ソーシャル・キャピタル」
物的資本とは、土地や建物、機械といった物質的な有形資産を指します。
人的資本は、教育によって形成されるスキルや知識、資質といった人にまつわる資本のことです。
ソーシャルキャピタルは物的資本・人的資本に加えて、現代社会に必要な資本の1つと位置づけられています。
ソーシャルキャピタルが注目されている理由
近年、ソーシャルキャピタルが注目されている背景として、人と人とのつながりや信頼が失われつつあることが挙げられます。
たとえば、次のような現代社会に特有のライフスタイルや働き方は、いずれも人とのつながりを希薄なものにしがちです。
- 成果主義・自己責任論の台頭:組織における横のつながりが希薄化
- 終身雇用の崩壊:人間関係の流動化・不安定化
- 核家族化・非婚化:家族のつながりや親戚づきあい・近所づきあいの減少
人間は社会的な生き物であることから、家族・組織・地域とのつながりの希薄化がさまざまな問題を引き起こす可能性があります。
たとえば、仕事の実績が個人的なキャリア形成の「道具」でしかなければ、手段を選ばず成果を追求する人が増えていくでしょう。
結果として他人の足を引っ張ったり、組織のマイナスイメージにつながる強引なセールスが行われたりする原因になりがちです。
物事を中長期的な視点で捉え、より健全な社会を築いていくには、人と人とのつながりは不可欠といえます。
人とのつながりを見直す必要性を感じる人が増えつつあることが、ソーシャルキャピタルが注目されている重要な理由の1つです。
ソーシャルキャピタルを構成する3つの要素
ソーシャルキャピタルは3つの要素から構成されています。
各要素の趣旨を理解することが、ソーシャルキャピタルの考え方を知る上で欠かせません。
それぞれの要素のポイントを押さえておきましょう。
信頼
信頼はソーシャルキャピタルの重要な柱となる考え方の1つです。
事業における取引では、かつて「収益を上げること」「役立つものを提供すること」が重視されていました。
市場にモノやサービスが行きわたった現代においては、「信頼できること」「愛着を感じること」が重視されています。
取引を行う双方が信頼や愛着によってつながっていれば、過剰に売り込んだりプレッシャーをかけたりする必要はありません。
結果として無理のない効率的な取引が可能になり、持続可能な関係性を構築しやすくなるのです。
規範
ソーシャルキャピタルにおいて重視される規範とは、「互酬性」に根差した関係のあり方です。
互酬性とは、同等価値のものを同時に交換する行為や、中長期的に見て均衡が保てると期待できる交換行為のことを指します。
たとえば、モノやサービスを必要以上に安売りしないことは互酬性にもとづく意思決定の好例です。
より多く売りたいからと無理な値下げを決行すれば薄利多売に走らざるを得なくなり、自社にも消費者にも悪い結果をもたらします。
「儲けること」と「連帯を保つこと」を両立させるには、規範にもとづく行動や意思決定が欠かせないのです。
ネットワーク
ネットワークとは「つながり」のことですが、つながりには大きく分けて3つの種類があります。
- 垂直的ネットワーク:上下関係のあるつながり
- 水平的ネットワーク:自発的な参加によって構築されるつながり
- メッシュ型ネットワーク:お互いが対等な立場で関わり合うつながり
ソーシャルキャピタルにおいて重視されるのは、水平的ネットワークとメッシュ型ネットワークです。
垂直的ネットワークでは、「指示を出す」「指示通りにこなす」といった関係に終始しかねません。
貨幣の授受や恐怖によって相手を支配しようとする関係性は硬直化しやすく、何らかのきっかけで容易に壊れてしまいます。
一方で、信頼によってつながった関係性は柔軟で、しかも結びつきが容易に壊れてしまうことはありません。
人々が自発的に協力し合い、信頼によって結ばれていくことが、ソーシャルネットワークを形成する上で不可欠といえるでしょう。
ソーシャルキャピタルを形成するメリット
ソーシャルキャピタルの形成は、具体的にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
企業経営・知識社会・個々人の3つの観点から、ソーシャルキャピタルを形成するメリットについて解説します。
企業経営にもたらすメリット
ソーシャルキャピタルが形成されることにより、企業では次のようなメリットを得られます。
- 組織運営が円滑化する
- 離職率が低下する
- 企業イメージが向上する
- 事業展開がしやすくなる
ソーシャルキャピタルの形成は、従業員間の横のつながりや絆を強固にします。
所属部門はもちろんのこと、部門を横断したコミュニケーションが円滑化し、業務効率や生産性が向上するでしょう。
勤務先に所属していることに誇りを感じられれば、顧客や取引先にも自然と気持ちを込めてサービスを提供するようになるはずです。
企業イメージが向上することにより、地域社会との関係性も良好になり、事業運営や事業展開もしやすくなります。
結果として、事業環境全体が改善されていく良いスパイラルを生むことができるのです。
地域社会にもたらすメリット
ソーシャルキャピタルの形成は、地域社会全体にも良い影響をもたらします。
具体的なメリットは次の通りです。
- 地域に根づいた事業が成長し、経済的に潤う
- 住民同士が交流する機会が増え、地域社会が活性化する
- 相互の信頼が高まり、犯罪発生率が低下する
- 住民間の自発的な連携により、災害発生時にも被害の抑制や早期復旧が実現しやすくなる
ルールや罰則で住民を押さえつけるのではなく、横のつながりが相互扶助を自然な形で実現していくのです。
「お互いさま」の自治が根づくことにより、自発的に地域社会に貢献し、暮らしやすい環境の実現を目指す人が増えていくでしょう。
個々人にもたらすメリット
ソーシャルキャピタルの形成は、組織や地域に所属する1人ひとりにも良い影響をもたらします。
具体的には、次に挙げるような豊かで快適な環境や生き方を実現しやすくなるでしょう。
- 地域のコミュニティ活動などで得た知識や経験を仕事に活かせる
- 自身の悩みや課題について相談し合い、サポートし合える人脈が形成される
- 個人間をはじめ地域や企業、団体などから支援を受けられる
- 声をかけ合える人が身近なところで増えていき、孤立や孤独を感じる人が減っていく
ソーシャルキャピタルにおける支援の流れは一方向ではなく「循環」していくことが重要なポイントです。
企業や地域が個人にもたらした恩恵が個々人を豊かにし、個々人が集積した知見は身近な人々への支援に役立てられていきます。
金銭を支払うことで提供されるサービスも生活を豊かにする場合がありますが、効果はあくまでも一時的なものに過ぎません。
水平的・メッシュ型ネットワークによってもたらされる「つながり」が、恒常的な豊かさを実現していくのです。
企業でソーシャルキャピタルを形成する方法
企業内でソーシャルキャピタルを形成していくには、どのような方法があるのでしょうか。
従業員間の横のつながりを強化する試みとして、次の4点が挙げられます。
メンター制度
メンター制度とは、若手の従業員に先輩社員がメンター(相談者)として関与し、支援していく仕組みのことです。
若手の従業員が悩みや課題を抱えている場合、上長に相談しにくい・相談するきっかけが掴めないケースも少なくありません。
上司と部下といった上下関係ではなく、よりフラットな関係で話せるメンターは心強い存在となるでしょう。
従業員間の横のつながりを強化する上で、メンター制度の導入は効果的な試みといえます。
グループインセンティブ
従業員1人ひとりへの評価だけでなく、グループ全体での成果を評価し、インセンティブを与える仕組みです。
個人的に成果を挙げればよいのではなく、チームで協力して成功する必要があるため、自然と横のつながりが強化されていきます。
チーム内の連携を強化するには、コミュニケーションを活発に交わし、役割分担を最適化していく必要があるでしょう。
グループ全体で評価される重要性が根づくことにより、支え合い協力していく意識が芽生える効果が期待できます。
オフィスレイアウト
固定席を設けないフリーアドレス制など、自由度の高いオフィスレイアウトもソーシャルキャピタルの醸成に寄与します。
チームや部門の垣根を越えてコミュニケーションを図る機会が増えることで、水平的ネットワークが形成されやすくなるからです。
偶発的な会話から新たなアイデアが生まれる瞬間を経験する従業員が増えるにつれて、横のつながりの重要性が認知されていきます。
働く場所を自由に選べることは、従業員の自発的な判断や行動を促す原動力にもなるでしょう。
ジョブローテーション
さまざまな部署へと計画的に配属するジョブローテーションも、ソーシャルキャピタルの形成に役立ちます。
配属部署が変わることで自ずと視点が変わり、物事をより多面的に見られるようになるからです。
特定の部門における考え方や利害意識に固執することなく、お互いの立場をより深く理解して業務を進めやすくなるでしょう。
従来、ジョブローテーションは終身雇用を前提とした仕組みであり、企業にとって必要な制度として捉えられてきた面があります。
従業員間の横のつながりを強化するための取り組みとして、新たな視点でジョブローテーションを導入してみてはいかがでしょうか。
まとめ
ソーシャルキャピタルは、社会を円滑に機能させる上で有効な信頼関係や、人と人との結びつきを表す概念です。
物的資本・人的資本では対応し切れていなかった「つながり」を醸成する試みとして、取り入れていきたい考え方といえるでしょう。
日本人は古くから、自分と他者との間に明確な線引きをすることなく、「お互いさま」の精神で社会を形成してきました。
ソーシャルキャピタルはアメリカで提唱された比較的新しい概念ですが、私たち日本人にとっては馴染み深い考え方といえます。
信頼や協調が世の中を豊かにしていくという、日本人にとってごく当たり前の感覚を取り戻す時が来ているのかもしれません。
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