スターバックスは1971年にアメリカのシアトルで誕生したコーヒーショップです。日本には1995年に進出し、今では1,600店舗以上を日本全国に展開しています。
パートナーと呼ばれる従業員の数は約4,500人で、そのうち約8割はアルバイトです。
店舗の中に正社員は1~2人しかおらず、その他のパートナーは全員アルバイト。ですが、皆が生き生きとサービスを提供しており、誰が社員で誰がアルバイトなのか区別がつかないのではないでしょうか。
カップにお客様の名前を書いたり、笑顔を描いたりするサービスはそのような指示があったわけでもマニュアルがあるわけでもありません。
パートナーが自発的に名前を書き、絵を描いているのです。
なぜ、パートナーは自発的に行動し、生き生きと働いているのか。その理由をスターバックスの採用活動や研修方法、評価方法から考えていきましょう。
スターバックスが職場としても人気である理由がわかるはずです。
スターバックスのコンセプト
スターバックスが販売しているものは、おいしいコーヒーだけではありません。
おいしいコーヒーの他にも、大切にしているものがあるといいます。
それは、アルバイトの最初のキャリアである「バリスタ」の仕事内容を見ると明らかです。
来店されるすべてのお客さまの心を豊かで活力あるものにするために、最高のスターバックス体験(感動体験)を提供することがバリスタの役割です。
【公式】スターバックス コーヒー ジャパンアルバイト求人情報より引用
コーヒーやフラペチーノを作るのが仕事のように見えるバリスタの本当の仕事は、最高のスターバックス体験を提供することなのです。
スターバックスのコンセプトは、「サード・プレイス」です。お客様にとって自宅と学校・職場のほかにある、居心地の良い自分の居場所となるように位置付けています。
「サード・プレイス」の提供がお客様にとっての特別な体験となっていることが、スターバックスが多くの人に支持されている理由です。
スターバックスのミッションとバリュー
スターバックスでは、ミッション(企業としての指針)とバリュー(行動指針)を以下のように定めています。
OUR MISSION
人々の心を豊かで活力あるものにするために―
ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティからOUR VALUES
私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します。お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります。
勇気をもって行動し、現状に満足せず、新しい方法を追い求めます。
スターバックスと私たちの成長のために。誠実に向き合い、威厳と尊厳をもって心を通わせる、
その瞬間を大切にします。一人ひとりが全力を尽くし、最後まで結果に責任を持ちます。
私たちは、人間らしさを大切にしながら、成長し続けます。
スターバックス公式サイトOur Mission and Valuesより引用
スターバックスのすべての基礎にミッションとバリューがあり、スターバックスで働いている人(パートナー)は皆、このミッションとバリューを理解して、仕事をしています。
ミッションとバリューがどのように生かされ、働きやすい職場となっているのかを、採用・研修・人材育成・評価の視点から解説していきます。
スターバックスの採用方法
スターバックスでは、アルバイト・正社員問わず、採用面接で必ず確認していることがあります。
それは応募者の価値観です。
応募者の価値観とスターバックスの価値観が重なる部分があれば、採用した後、パートナーは店や会社に愛着を持って働いてくれると考えており、価値観を採用において最も重要視しています。
スターバックスを志望する人の多くは、そのブランドや店舗を利用したときの雰囲気に魅力を感じています。
しかしそれだけではなく、スターバックスで働いて何を成し遂げたいのか、どう変わりたいのかを明確にしている応募者を採用しているのです。
例えば次のようなものです。
- 「コーヒーの知識を増やしブラックエプロンをつけて活躍したい」
- 「海外のお客様と話すために英語力を伸ばしたい」
- 「話すのが下手だからレジでのコミュニケーションがうまくなりたい」
このようなスキルアップや共感できる価値観、マインド面の向上などでも、立派な動機となります。
小さくても目的意識があれば、働くモチベーションになるでしょう。
スターバックスの研修
スターバックスでの研修内容と、会社に愛着を持ってもらうためにパートナーに何を教えているのかを紹介します。
スターバックスでは、「Why you're here?(あなたがここにいる理由は何ですか)」という質問を大切にしており、採用時に確認した個人の価値観を常に念頭に置いています。
自分の目的を忘れさせずに、会社の価値観に共感してもらうことが重要です。
研修で学ぶこと
一般的な飲食店の研修期間は2、3日であることが多いですが、スターバックスでは、アルバイトの研修時間は約80時間にも及びます。期間は約2か月間です。
そのうちの1週間はスターバックスの基本理念やアイデンティティに基づくお客様へのサービスやコミュニケーションをみっちりと学びます。
その期間に、ミッションやバリューを実現するために何をすれば良いのかをパートナーが自ら考えて行動するよう教育しているのです。
従業員エンゲージメントが高い理由
スターバックスで働いているパートナーは、店舗や会社に愛着を持って働いています。
愛着を持って働いている状態を従業員エンゲージメントと言い、スターバックスには従業員エンゲージメントが高いパートナーがたくさんいます。
エンゲージメントが高い従業員は、自ら考え行動し、同僚や会社、チームを信頼して働き、自己成長の欲求が高く、目標達成のために努力を惜しみません。
スターバックスには、コーヒーの作り方などのオペレーションマニュアルはありますが、サービスに関するマニュアルはなく、接客に関することは「お客様が何をしてほしいかを考えてサービスしよう」と書かれているだけです。
つまり、基本的な接客に関しては、自分で良いと判断したことをお客様に提供することを認められています。
自分で考え行動し、お客様を喜ばせることでモチベーションが上がり、スターバックスで働くことがより楽しくなる、という好循環を生むということです。
スターバックスの人材育成
スターバックスの人材育成方法の根底にも、ミッションとバリューがあります。
ミッションとバリューは成長のどの段階でも不可欠で、スターバックスの風土とパートナーのマインドを形作っています。
この章では、パートナーの成長モデルである「成長の階段」と、パートナーの従業員エンゲージメントを高める施策の「グリーン・エプロン・カード」を紹介します。
成長の階段
スターバックスでは、ミッションとバリューを土台に据えたパートナーの成長モデルを策定しています。
Phase-1
自分存在の証明
自分を知り、自分を社会に役立てる
「自分はだれかの役に立っている」と思える。Phase-2
スターバックス公式サイト「成長の階段」より引用
自分自身に対する期待感
人にフィードバックをもらい、自分で解決する(自分発)
自分への期待が高まると自ら動き出す。
Phase-3
他者への影響
自分を変えた方法で、人を変える
自発的に周りに良い影響を発揮し、自分を変えた方法で周りを変えようとする。
「成長の階段」という成長モデルは、アドラー心理学を基にしています。
Phase-1は、自分が職場にいていいと思える「自己受容」であり、Phase-2は人にフィードバックをもらうという「他者信頼」、Phase-3は人を成長させようと言う「他者貢献」です。
3つのフェーズが影響し合うことで、従業員エンゲージメントが高まり、店舗や組織が1つになっていきます。
グリーン・エプロン・カード
従業員エンゲージメントを高めるための制度として、「グリーン・エプロン・カード」があります。
この制度は、パートナーが、ミッションやバリューに沿った行動をしているのを見つけたら、カードにメッセージを書いて贈るというものです。
似たような制度がある会社もあると思いますが、スターバックスの「グリーン・エプロン・カード」では、上司から部下だけでなく、部下から上司にカードを贈ることができるのです。
お客様に対して笑顔で接客したことや、自分からお客様に声をかけたことなど、1つ1つの行動は小さくても、それを他の人から褒められることによって、よりモチベーションもアップするでしょう。
また、ミッションやバリューをパートナー1人ひとりに浸透させることもでき、全員がスターバックスのアイデンティティに沿ったサービスを提供できるようになります。
スターバックスの評価方法
スターバックスでは、評価をする際に点数をつけません。
目標の達成度合いや勤務評価などを数字に表すと、達成しやすい目標を立てたり、失敗が怖くて委縮してしまったりして、パートナーの実力が発揮できなくなる可能性が高いです。
点数をつけないことで、より高い目標に挑戦できるようになるという狙いがあります。
また、スターバックスでは人間力を重視しており、マインド面などの目に見えないものに点数をつけられないという考え方が生きた評価方法となっています。
パフォーマンス・マネジメント・シート
スターバックスでは、「パフォーマンス・マネジメント・シート」を使い、個人の成長に関する目標と、仕事のパフォーマンスに関する目標を明確にします。
個人の目標であれば、スターバックスで身につけたいスキルや、なりたい人物像などを書き、パフォーマンスの目標では、お客様へのサービス提供や、同僚や店への貢献について、具体的に何をするのかを書いていくものです。
この「パフォーマンス・マネジメント・シート」をもとに、個人の目標達成を50%、パフォーマンスの目標達成を50%の割合で評価します。
パフォーマンス&デベロップメント・カンバセーション
「パフォーマンス&デベロップメント・カンバセーション」とは、パフォーマンス・マネジメント・シートに書いた目標がどれくらい達成できたのかと話し合う場のことです。
1年を3ヶ月ごとに分け、その期間ごとに1回の割合で話し合いを実施。部下はマネージャーからのフィードバックを受けます。
点数で評価しないため、部下とマネージャーとで、どの程度目標が達成できたのかがずれる場合があります。
目標の達成度合いをすり合わせるために、「パフォーマンス&デベロップメント・カンバセーション」をしっかりと行わなければなりません。
2度の評価体制
スターバックスでは、人事評価が2回行われます。
直属の上司から1度目の評価、そして組織の長からの評価が2度目です。
アルバイトを評価する場合では、シフトスーパーバイザーと呼ばれる時間帯責任者と店長から評価を受けます。
評価が点数ではないため、日々の勤務態度などをチェックする必要があり、評価する人は大変です。
しかし、評価の軸が人によって変わらないようにするために、必要な仕組みと言えるでしょう。
もしアルバイトがシフトスーパーバイザーの評価などに納得がいかなければ、店長に直接言うこともできます。
部下、上司関係なく、パフォーマンスを向上させ、お互いに成長できるようにするためであれば、相談する順番は関係ありません。
全従業員をパートナーと呼んでいるスターバックスならではの考え方だと言えます。
スターバックスの人材育成方法で人間力あるスタッフを育てましょう
お客様が居心地良く思う場所を作るためには、そこで働くバートナーのサービスが欠かせません。
「こんにちは」と挨拶をすることから始まり、お客様に最適なカスタマイズを考えたり、コーヒーを選んだりするのも、パートナーの自発的な行動から生まれるサービスです。
「どうすればお客様に喜んでもらえるのか」を考え、行動した結果、お客様の笑顔が見られるのは、大きなモチベーションになります。
生き生きと働いている姿を見たり、先輩からお客様にどんなサービスを提供して喜ばれたのかという話を聞いたりしていく中で、自分もそうなりたいと考え、1人ひとりが行動していくことで、職場や会社に愛着を持ち、働きやすい環境となっていくのです。
人間力に重きを置いたスターバックスの人材育成方法は、従業員の自律を促すものなので、教育に時間がかかり、非効率な面もあります。
しかし、従業員が生き生きと笑顔で働き、お客様も笑顔になれる場所は、会社の大きな財産になるでしょう。
また、下記の「絆徳マーケティング完全解説」は、弊社代表の清水が20年以上培ってきたマーケティングの真髄をかみ砕いて解説した渾身のコンテンツと要約したものです。
無料でダウンロードできるのに、即実践に役立てていただける情報が盛りだくさんなので、是非お受け取りいただき、自社の人材育成や売上アップの施策としてお試しください。
#スターバックス #人材育成