企業にとって人材育成は自社の成長のために欠かせません。
最近では入社3年以内に退職する社員が増えており、新入社員の教育は最重要課題と言えるでしょう。
多くの企業が新入社員研修を手厚く実施する反面、それ以降の育成が疎かになってしまっていることも多いなか、人材育成に効果的と言われているのが社員のキャリアデザインのサポートです。
この記事では、どのように社員のキャリアデザインをサポートすれば良いのか悩んでいる人事担当者や経営者のために、以下の内容について説明します。
- キャリアデザインのサポートが重要である理由
- キャリアデザインをサポートする方法
- 新入社員のキャリアデザインをサポートするメリット
新入社員の早期離職を防ぎたいと思っている人の参考になる記事ですので、ぜひ最後までお読みください。
企業が社員のキャリアデザイン支援を重視する理由
高度経済成長期に導入された終身雇用制度や年功序列制度は、企業が長引く不況で経営破綻したり、M&Aが頻繁に行われたりする現在ではほぼ崩壊してしまいました。
終身雇用制度は入社した企業が定年まで雇用してくれる制度でした。
しかし、2019年5月にトヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用の維持は難しい」と発言し、大企業に入社したとしても同じ会社で働き続けることが困難になっています。
このような不安定さから転職が一般的になり、会社員だけでなく様々なキャリアや働き方を選ぶ人々が増えたのです。
企業は年功序列から成果を上げられる社員を評価する制度に変わり、社員のスキルアップを求めると同時に、キャリアデザインをサポートすることで、自社でのキャリアアップを実現させようとしています。
働き方が多様化する現代だからこそ、企業が率先して社員のキャリアデザインをサポートし、社員が理想のキャリアを進めるようにすることが大事です。
新入社員に行うキャリアデザイン支援の方法
新卒で入社したばかりの新入社員は、キャリアデザインを描いていたとしても抽象的だったり、無理のある設計だったりするため、自社でのキャリアデザインを具体的に考える機会が必要です。
新入社員からキャリアデザインを明確にすることで、自分が何をすべきかがわかりモチベーションが低下せずに日々の業務に就くことができます。
1. キャリアデザインを考えさせる研修を実施する
キャリアデザイン研修では、4ステップで過去・現在・未来について考えます。
- 自分の経験や知識・スキルを棚卸しする(過去)
- 自分が会社から求められていることを考える(現在)
- 自分が将来何をしたいのかを考える(未来)
- 将来のために何をすべきか考える
社会人になったばかりの新入社員がキャリアデザインを1人で考えても、どうすれば良いかわからない人も出てくることでしょう。
キャリアデザインの道筋を示し、自分のキャリアを真剣に考えられるように導きましょう。
また、社会人になったことのない新入社員のキャリアデザインは、テレビ番組やインターネットから得た情報が元になっていることも多いため、研修を行うことで軌道修正が可能です。
2. ジョブローテーションを取り入れる
ジョブローテーションとは、定期的に部署を異動して様々な職種を経験させる人材教育制度です。
新入社員研修の一環として行われることもあり、様々な仕事を体験することで自分の強みや興味、価値観などがわかります。強みなどを知ることは、キャリアをデザインするうえで重要です。
特にキャリアをうまくデザインできない新入社員にとって、自分の目指すキャリアを発見できる機会にもなります。
3. 定期的に面談を行う
キャリアプランは新入社員研修で作成して終わりではありません。定期的に見直し、現状と比べながら修正が必要です。
自分のキャリアプランはプライバシーに関わることのため、ほかの社員には知られたくないという人もいるでしょう。
1対1で面談をすることで、キャリアデザインで抱える悩みをヒアリングしたり、社員の強みを活かしたキャリアアップのアドバイスをしたりできます。
キャリアデザインの研修と面談を併用することで、より効果的なキャリアデザインのサポートが可能です。
自社社員のキャリアデザインをサポートする方法
キャリアデザインは新入社員だけに関わるものではなく、自社で働く間ずっと関わってくるものです。
そのため、自社の環境や制度が社員のキャリアアップを後押しする必要があります。
会社がキャリアデザインをサポートし、社内でキャリアアップがしやすい環境を作ることで、社員が自発的に自分のキャリアについて考えることができます。
1. 異動希望を出しやすい環境を作る
異動希望の自己申告制度や社内FA制度などを取り組んでいる企業が増えています。
社内FA制度とは、野球のフリーエージェントのように一定の資格を満たした社員が自分を他部署に売り込み、異動希望先と面接をした結果で人事異動が可能となる制度です。
自社の戦略や人員配置により必ずしも希望が通るとは限りませんが、社員の異動希望を受けることで社員が主体的に自分のキャリアについて考える機会を与えています。
2. 副業や兼業を許可する
数年前までは副業をすると本業である自社の業務に支障をきたし、退職のもとになると考えて副業を禁止していた企業が多くありました。
2018年に働き方改革関連法が施行されてからは、徐々に副業や兼業を認めている企業が増えています。
厚生労働省が策定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」には、以下のように明記されています。
(2) 副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、例えば、
厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」1 副業・兼業の現状より引用
① 労務提供上の支障がある場合
② 業務上の秘密が漏洩する場合
③ 競業により自社の利益が害される場合
④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
に該当する場合と解されている
日本国憲法22条1項には「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」とあり、自社の社員であっても仕事を選ぶ権利があるため、副業や兼業を禁止するのは本来法律違反となります。
企業が副業・兼業を認めることで、社内では得られない知識やスキルを社員が自ら学ぶ機会を与えられ、キャリアデザインにも効果的です。
副業の収入から得られた金銭的余裕は心の余裕も生み、本業にも良い影響を与えるとも言われているため、自社の損失にならない限りは副業や兼業を認めると良いでしょう。
3. テレワークなどの様々な働き方を認める
社員の中には家事や子育て、介護をしなければならない人もいます。
仕事とプライベートを両立しながらでもキャリアアップを望めるように企業のサポートが必要です。
テレワーク | 社員が会社以外の別の場所でパソコンなどのICTを利用して仕事をすること。 |
短時間勤務 | 1日の労働時間を原則6時間に短縮する制度。 |
フレックスタイム制度 | 一定期間の総労働時間を定め、社員が期間中は出勤・退勤の時間を自由に決められる制度。 |
業種などにより適用できる企業は限られますが、勤務時間や勤務場所を自由に設定できるようにすることで、働きたくても働けない状況に置かれている社員や地方の優秀な人材のキャリアをサポートできます。
新入社員のキャリアデザインをサポートするメリット
社員のキャリアデザインをサポートは、社員だけでなく企業自体にもメリットがあります。
キャリアデザインを社員個人のものと考えるのではなく、自社にも関わる問題として考えることが大事です。
- 仕事に対するモチベーションのアップ
- 適材適所に社員を配置できる
- 早期の離職を防ぐ
以上のメリットは、自社の生産性を向上させ売上アップにつながります。
1. 仕事に対するモチベーションのアップ
新入社員は最初はモチベーション高くやる気をもって業務にあたりますが、慣れてくるにつれてだんだんとモチベーションが下がってくることが多々あります。
それは、仕事の意義や価値観が薄れてしまっているからです。
社員が自分でキャリアデザインをすることによって、自らのキャリアにとって業務が意味あることと位置づけ、主体的に行動できます。
自分のキャリアプランは目標に向かうための道筋であるため、明確にキャリアプランを設定することで毎日の仕事に意義を感じ、主体的に業務を行うようになります。
社員が受け身でいることは「やらされている」感を生みますが、能動的に動ける環境はモチベーションアップにつながり、結果的に自社の生産性向上に影響します。
2. 適材適所に社員を配置できる
キャリアデザインを考えることで社員の強みや個性がわかるため、社員が最も活躍できる部署に配置することができます。
また、社員も自分のキャリアのために業務に対する姿勢を変化させたり、意味あるものにしようとしたりします。現在の業務が自分のキャリアにとって必要なものであると考えるのです。
人事異動に関しても社員のキャリアデザインに基づいて行うことが多くなるため、納得したうえでの異動ができるでしょう。
3. 早期の離職を防ぐ
自社が与えられるキャリアアップへのチャンスが、社員が作成したキャリアプランにどのように作用するのかを確認します。
社員のキャリアプランの多くが自社の評価基準などと乖離している場合、改善しなければなりません。放置すると、社員は自分のキャリアプランを叶えられないと感じ退職してしまいます。
キャリアプランをもとに人員を配置することでミスマッチが少なくなります。その結果、社員の満足度が向上し離職の防止に繋がるのです。
キャリアデザインのサポートを行っている企業事例
社員がキャリアデザインに取り組むうえで、企業のサポートは重要です。
研修やワークショップを実施し知識をつけさせたり、キャリアアップをしやすい制度を設けたりすることで、社員のキャリアデザインが現実化できます。
社員のキャリアデザインを後押しするような施策を持つ企業として、ソフトバンク株式会社と株式会社オリエンタルランド、株式会社日立製作所の3社を紹介します。
1. ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社では、様々なキャリア開発支援制度やキャリア研修に取り組んでいます。
自己申告制度 | 年1回の上司との面談。所属部署での適応状況や挑戦したい業務を自己申告する |
キャリアデザインワークショップ | 自身を深堀りし、キャリアプランを作成する研修 |
キャリア講演会セミナー | 有識者による講演会を通して自分自身を振り返るきっかけにする |
個別キャリア相談 | カウンセラーによる個別面談 |
フリーエージェント制度 | 社員自らが希望部署への異動に挑戦し、選考に合格すれば移動できる制度 |
ジョブポスティング制度 | 新規事業などの立ち上げメンバーを社内公募する制度 |
資格取得支援制度 | 約240の資格を取得する際の受験料などを支援する制度 |
副業の許可 | 許可制で副業が可能 |
ソフトバンクの新入社員研修では主に一般的な業務にかかわる内容を指導しますが、ソフトバンクグループの全社員がキャリアアップする機会を多く用意しています。
ソフトバンクユニバーシティという研修制度も設けられており、どの階層の社員にもキャリアアップのためのサポートが充実していると言えます。
2. 株式会社オリエンタルランド
東京ディズニーリゾートを運営している株式会社オリエンタルランドには「成長のきっかけをつくる取り組み」として、社員が主体的にキャリアを考える機会を設けています。
自己申告制度 | 上司との面談で、今後の希望キャリアを伝える制度 |
仕事チャレンジ制度 | 現在所属している部署で成果を出している社員が、より自分の能力やスキルを活かせられる部署へ異動希望を出せる制度 |
社内人材公募制度 | 新規事業や専門性の高い業務を行うメンバーを社内公募する制度 |
兼業の許可 | 兼業を可能にすることで社員のキャリア開発を支援する取り組み |
オリエンタルランドでは、OLCキャリア・カレッジというキャリア支援を準社員を対象に行っていましたが、正社員も受けられるように対象範囲を拡大しました。
OLCキャリア・カレッジでは、キャリア相談やキャリアデザイン研修などを実施し、キャリアアップ支援を強化しています。
3. 株式会社日立製作所
株式会社日立製作所では、仕事の意義や価値観が会社の成長に必要なものであるという考えから、社員が仕事に対する意義を理解するためのサポートをしています。
グループ公募制度 | 日立グループ内で社員に対してメンバーを公募する制度 |
社内FA制度 | 社員が他部署への異動を希望し、選考に合格すれば異動が認められる制度 |
キャリア相談室 | 社員がキャリアデザインをするうえで生まれる課題への心理的援助を行う取り組み |
社員のキャリアデザインを支援する際の両軸が「MBO(目標による管理)」と「CDP(キャリア開発プログラム)」です。
日立製作所ではキャリア開発の中心は職場であると考え「日々の仕事を通じた成長」を重視しています。短期的な目標設定の場である目標管理面談と、中長期的な視点で考えるキャリア面談を通して、社員と会社の両方の成長を目指しています。
CDPは社員のキャリアプランを直接支援する取り組みです。CDPの中心的企画である日立キャリア開発ワークショップ(H-CDW)では、キャリアカウンセラーの指導のもと自己分析を行います。
新入社員からキャリアデザインを考えさせることは重要
この記事では、社員のキャリアデザインをサポートする方法などについて説明しました。
社員のキャリアは自社に入社した時から始まっているため、新入社員からキャリアプランを作成させ支援していく必要があります。
キャリアデザインは社員が成長するために必要なものですが、社員の成長は自社の成長に繋がります。キャリアデザインで社員の強みを見つけ活かすことができれば、自社にとって大きな戦力となるでしょう。
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