ユニクロを展開している株式会社ファーストリテイリングは、「店長を2年でつくる」ことで有名です。
実際、ユニクロの店長は、入社2年目くらいの人が多く、数十人の従業員がいる店の責任者となっています。
なぜ、たった2年で新入社員を店長に育て上げることができるのでしょうか。
それは、ファーストリテイリングの人材育成方法にあります。
この記事では
- ファーストリテイリングの人材教育プログラム
- 店長として教育するための取り組み
- キャリアアップの取り組み
をそれぞれ紹介します。
ぜひ自社の人材育成のヒントにしてください。
ファーストリテイリングの従業員教育の基本方針
ファーストリテイリングでは、従業員の成長と自己実現に重きを置いています。
「個人の成長なくして会社の成長はなく、会社の成長なくして個人の成長もない」という考えが根底にあるため、従業員の成長のための取り組みやシステムが数多くあります。
従業員教育の中心には、「GLOBAL ONE・全員経営」と「現場・現物・現実」の基本方針があります。
それぞれ説明していきましょう。
GLOBAL ONE・全員経営
「GLOBAL ONE・全員経営」とは、すべての従業員が経営者となり、世界で一番良い会社をつくろう、世界で一番良いビジネスをしようという意味です。
ファーストリテイリングのユニクロは、グローバル化し、世界中に店舗があります。
外国に店舗をオープンしても、その国のファッションブランドと同じことをしていては、海外に出店する意味はありません。
どの国に行っても、同じユニクロがあり、同じファーストリテイリングの基準や考え方で経営していくことが「GLOBAL ONE」になります。
そのためには、ファーストリテイリングの経営理念を浸透させ、実行させることが必要です。
現場・現物・現実
「現場・現物・現実」とは、三現主義と言い、実際に「現場」に出て、「現物」を見て、「現実」を認識して判断することです。
ユニクロがマスクを販売する前、柳井会長兼社長は「マスクを販売しない」と言っていました。しかし、ユニクロの利用者から「マスクを作って売ってほしい」との声が相次ぎ、方針転換をしたのです。ユニクロがマスクを販売すると、すぐに売り切れたという事実は、新聞記事にもなりました。
(日本経済新聞2020年6月30日「ユニクロ、マスク発売 顧客の声 柳井氏動かす」より参照)
数値を見て判断するだけでなく、実際に現場で何が起きているのかを知ることで大きなビジネスチャンスを掴むことができます。
お客様と店舗を最優先に考え、リアリティーのある課題解決ができる人材を育成することが重要です。
ファーストリテイリングの教育プログラム
ファーストリテイリングには、「FR-MIC」という人材育成機関が設置されており、様々な教育プログラムが用意されています。
柳井会長兼社長と店長のトークセッションや、世界各国の経営者とのディスカッションなど、ハイレベルなプログラムで、従業員の能力を向上させます。
「FR-MIC」と教育プログラムについて、説明していきます。
社内人材育成機関「FR-MIC」
「FR-MIC(ミック)」とは、「FR Management and Innovation Center」の頭文字を取って名付けられた、社内の人材を育成する教育機関です。
ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正さんの肝いりで作られ、教育機関であると同時に、ファーストリテイリングのビジネスモデルや構造の改革を推進する役目を担っています。
「FR-MIC」の教育方針は、4つあります。
1. 経営者人材の発掘、教育機会の創出、抜擢
ファーストリテイリング公式サイト「教育と育成」より引用
2. ファーストリテイリングの理念・価値観・原理原則の浸透
3. 現場教育の強化
4. 教育基盤の確立
世界中に店舗があるファーストリテイリングは、いかに優秀な店長を配置するかが重要となります。
そのため、「FR-MIC」では、経営者を輩出し続けることに重きを置き、これら4つの教育方針に基づく人材育成を行っています。
教育方針の最初にある「経営者人材の発掘、教育機会の創出、抜擢」は、経営者となれる人材を発掘し、教育することで、活躍できるようにする取り組みです。
経営者は企業理念やファーストリテイリングの価値観を理解したうえで、実行し、成果に繋げなければなりません。
ファーストリテイリングの企業理念の中心となる、ステートメントとミッションは以下の通りです。
ステートメント | 服を変え、常識を変え、世界を変えていく |
ミッション | ・本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します。 ・独自の企業活動を通じて人々の暮らしの充実に貢献し、社会との調和ある発展を目指します。 |
ミッションを達成するためには、店舗での教育も不可欠です。
店舗ではお客様とダイレクトに接することができるため、お客様の反応や意見を直接、店舗運営に反映させられます。
「FR-MIC」が中心となって、経営者の育成や店舗での販売員の育成をすることにより、ファーストリテイリングの理念を全社員に浸透させていくことができます。
販売員教育
ファーストリテイリングには、世界中に13万人以上の店舗スタッフが働いています。
販売員教育は、店舗スタッフを対象に行われる教育ですが、その中にも経営者マインドが入ります。
店舗スタッフといえども、経営者マインドを持つことで、お客様の声からニーズを拾い上げ、店舗の価値を高めることができるのです。
縫製工場訪問プロジェクト
「縫製工場訪問プロジェクト」はユニクロやジーユーで販売されている洋服がどのように作られているのかを、生産工場を見学・体験できるプログラムです。
自分たちが販売している商品がどのように作られているかを知ると、商品に愛着がわき、自社のものづくりに対するこだわりも知ることができます。
ダイレクトコミュニケーション
ファーストリテイリングでは、日常的な組織内でのコミュニケーションはもちろん、縦の繋がりのコミュニケーションも大切にしています。
年4回開催される「店舗課題解決ダイレクトミーティング」では、店舗スタッフ・店長・本部社員・経営者の4つの異なる立場の人間が直接、店舗の課題を解決するために話し合います。
立場が違うと、店舗スタッフが気づく課題を店長が知っていなかったり、店舗と本部の考え方がずれていたりすることが起こりやすいです。
しかしながら、直接話し合う場を設けることで、すべての立場の人間が同じ方向を向いて仕事ができるようになるということです。
本部も現場の声を聞くことで、事業全体の課題に気づけるというメリットもあります。
店長を育成するための取り組み
新卒の社員に対して、入社してすぐに管理者研修を行います。
一般的な会社で管理者研修を行うのは、たいてい管理者になってからなので、ファーストリテイリングの管理者研修はタイミングがかなり早いです。
ファーストリテイリングでは、従業員全員を経営者として活躍することを目指しているため、入社してすぐの新卒の社員に対して、管理者としての研修を行います。
スピードを意識して研修に取り組むことで、社会人としての自覚を持たせることができます。
新入社員研修
新卒の新入社員研修では、初年度の1年間で10回の研修が実施されます。
内容は3つのテーマに分けられ、管理者として必要なスキルやマインドを学んでいきます。
店舗・営業教育 | 損益管理・利益の最大化 売上・在庫・売場計画 人材マネジメント・部下育成 業務管理(金銭・労務など) 顧客満足度の向上 |
グローバル人材教育 | グローバルコミュニケーション 日本文化 異文化理解 語学 グローバルビジネススキル |
マネジメントスキル教育 | 財務・会計 服飾 ITリテラシー |
他の企業では新入社員に教えない内容を、1年間でみっちりと教えていきます。
店舗では、半期・月次・週次でPDCAを回しつつ、売り上げを上げるための意思決定や目標達成をするリーダーシップを身につけていきます。
研修の学びを現場で実践することで、経営者としての知識やマインドが身に付きます。
業務評価
研修で学んだことがきちんとできているかどうかは、毎月「業務評価」と呼ばれるチェックリストを使って確認します。
チェックリストには、店長が管理すべき「ヒト・モノ・カネ」に関する項目が書かれており、できていないものに「×」をつけるという評価方法です。
まず、自分で自己評価をした後、店長が再評価し、それからその上の上司が評価をするという三段階で評価が行われます、
「×」がついてしまった項目があった場合、トレーニングガイドというテキストを使ってもう一度学習し直します。
せっかく研修をしても現場に戻ったら忘れてしまうという人も多いですが、現場で上司が後追いをすることで、研修内容が無駄になりません。
「業務評価」を点数化し、一定の基準を超えた社員が店長への資格試験を受けることができます。
店長育成に対するマインド
ファーストリテイリングでは、平均して入社2年ほどで店長となる人が多いです。
「業務評価」の達成スピードは人によってまちまちであるため、早い人では1年で店長になる人もいれば、店長になるのに数年かかる人もいます。
熱意をもって業務を行い、成長意欲の高い人ほど、店長になるまでの期間は短くなり、活躍の幅が広がるともいえます。
新卒入社なので社会人としての知識を身につける必要もありますが、それに加えて店長になるための勉強もしなければなりません。
集合研修と実践の結果を厳しく評価されるため、必ずやり遂げるという意思と努力が必要です。
新卒で入社する社員は、入社する前から店長候補だということを知った上でファーストリテイリングの門を叩いているので、もともと熱心に取り組む社員が多いです。
店長教育を新卒で入社してすぐに行うことで、上昇志向がある人材を集められるのは会社の成長にもプラスに働きます。
キャリアアップのための取り組み
ファーストリテイリングの社員一人ひとりが「人生のハンドルは自分で握るべき」との考えで、様々なキャリアにチャレンジできる制度や、そのための教育制度を設定しています。
ファーストリテイリングは実力主義で、自分の成果が評価やキャリアに結びつきやすくなっています。
キャリアアップについても、従業員が真剣に将来を考える仕組みが整っています。
キャリアチャレンジプログラム
ファーストリテイリングには、「キャリアチャレンジプログラム」という社内公募制度があります。
このプログラムは、部署を超えてキャリアの幅を広げたいという人が、他部署へチャレンジできるという取り組みです。
半期に一度、所属部署や年齢などに関わらず、希望する部署へ応募できます。
一般的な会社であれば、会社が適性を見て部署異動などを決めるため、キャリアも会社が決めてしまいがちです。
ファーストリテイリングでは、「キャリアチャレンジプログラム」によって、自分で自分のキャリアを決めることができるのです。
他部署への異動に手を挙げることはできますが、社内での面接や選考があります。
次の部署でどう働きたいのか、何を成し遂げたいのかなどを考えることで、キャリア設計が明確になるでしょう。
自己申告制度
「自己申告制度」とは、半年に1回、自分のキャリアについて考え、将来どのようなキャリアに就きたいのかを会社に申告するという制度です。
申告の際に、将来どうなりたいのかという目標だけでなく、目標を達成するために経験したいことや働き方も考えて申告するため、自分のキャリアについて真剣に考える良い機会となるでしょう。
個別育成計画
通常はどの会社でも、従業員ごとに目標を設定し、その目標が達成できているかどうかで評価しています。
ファーストリテイリングでは、従業員一人ひとりが、自分のキャリアゴールを設定し、自分の能力を磨くための「個別育成計画」を作ります。
キャリアゴールを達成するために必要な経験やスキル、知識を認識し、毎日の業務に反映、実行しながら成長していくのが狙いです。
ユニクロの人材育成方法を取り入れて将来の店長候補を育成しましょう
この記事では、ユニクロを運営するファーストリテイリングの人材育成方法について解説しました。
ファーストリテイリングは、従業員のキャリアアップのための教育や取り組みが充実しています。
それは、従業員の成長が会社の成長となり、会社が成長すれば従業員も成長できると考えているからです。
従業員が自分の成長を感じられると、働き甲斐も向上し、従業員エンゲージメントも上がり、良い人材が定着することにも繋がります。
ファーストリテイリングの人材育成方法をヒントに、自社の人材育成と従業員のキャリアップについて考えてみてはいかがでしょうか。
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