はじめに
経営者として、チームメンバーが協力し合い、和気藹々と仕事を楽しんでいる姿を見るのは本当に嬉しいものです。部下がチーム内でうまくやっている様子を見ると、安心感を得ることができます。
しかし、チームの個々のメンバーがコミュニケーションに苦労しているとき、どう支援していいかわからず悩む経営者も多いでしょう。
一人ひとりには独自の個性があり、コミュニケーションの取り方も人それぞれです。
全員を同じ方法で管理することは不可能ですが、このガイドでは、コミュニケーションに苦手意識を持つ経営者でも、一人ひとりの個性を理解し、その個性に合わせて彼らと効果的にコミュニケーションを取る方法、そしてチーム内のコミュニケーションを活性化する方法を紹介します。
コミュニケーション能力への誤解と「価値観」を理解する重要性
チームメンバーとの関わりにおいて、もっとも起こりやすい勘違いの一つは、「コミュニケーション力のある人」と「ない人」の間で、無意識に持ってしまっているバイアスです。
よく、社交的かどうかだけで判断されがちですが、実際にはその背後にはさまざまな要因が絡んでいます。
例えば、技術的な話題に熱心に参加するエンジニアが社内の集まりでは引っ込み思案になることがあります。これは彼が技術に強い興味を持っており、その分野での議論では自然と活発になるためです。
一方で、マーケティングの専門家が技術会議で口数が少なくなることもあります。これらは、個人の「価値観」というものに左右されます。
「価値観」とは、最も価値をおいている行動の優先順位で、最上位の価値観を、人間行動学の世界的権威であるDr. ディマティーニは「最高価値 (Highest Value)」と呼んでいます。
この「最高価値」は、私たちが行動を起こす無意識の目的意識にあたり、脳の実行系から運動や感覚の中枢神経への指令に直結しており、人間の心身の健康を含む生理機能やパフォーマンスに、非常に重要な役割を果たしています。
つまり、チームのパフォーマンスをあげるコミュニケーションのスタートは、「この人はコミュニケーションが苦手だ」と簡単に決めつけるのではなく、相手の「価値観」を理解しようとすることが重要です。
私たちが「最高価値」の行動に取り組んでいる時には、脳の前頭前野が活性化し、能動性、創造性、戦略性が向上するだけでなく、感情や思考の統制がとれて潜在的な力が発揮されます。
さらに、私たちの長期記憶も向上し、困難を乗り越えるレジリエンス(心の柔軟性)も最も高いのです。
たとえば、データ分析が得意なスタッフにはデータ分析から業績を改善するようなプロジェクトを任せ、クリエイティブなアイデアが豊富なスタッフにはマーケティングキャンペーンのアイデアを出すようなミーティングに参加させるなど、一人ひとりの「価値観」に合った環境を提供することができると、結果的にチーム全体で仕事のパフォーマンスを向上させます。
チームメンバーの「価値観」に応じた職責とコミュニケーション
部下のコミュニケーションスタイルは、その人が何に価値を見出しているか、「価値観」によって大きく左右されます。
経営者およびリーダーが、チームメンバーの一人一人の固有の価値観を認識し、それをサポートすることで、部下は自信を持ち、コミュニケーション能力も向上します。
例えば、「相手の話を聴いて、望む未来を想像しながら、最適な選択肢を提案する」という価値観を持った女性Aさん。熱心に仕事をしてくれていましたが、顧客対応に時間やエネルギーをどれだけでもかける一方で、数値を扱う経理関連やシステムデータ処理の仕事の業務の遅れや、期待値が満たされないことに対して、私が不満を持っている状態が続き、それらを厳しく指摘することも多くなりがちでした。
その結果、顔を合わせても目は合わせない、報告も連絡も上がってこない、会議でも発言しなくなり、本人もどんどん自信を失っていった時期がありました。これは、彼女の価値観に合っていない職責をやらせていたため起きたことでした。
現在、Aさんは「顧客・取引先・スタッフのマネジメントの責任者」という役割の中で「顧客・取引先・スタッフ(会社)」の三者すべてが満たされる望ましい状態について考え、そのための手段を検討して、実行や調整、評価を行う仕事をしています。
やったことがない販路の開拓も「この商品やサービスを顧客に届けることが、顧客・取引先・スタッフ(会社)全員にとって望ましい」という思考が生まれると、未経験でもチャレンジしたいと、自ら能動的に動きます。
積極的に情報収集し、アイデアが生まれ、実行に移すことができるのです。
以前、苦手意識を持っていた経理関連やシステムデータ処理の仕事も、それを代わりに担うアシスタントをつけたことで、彼女は得意なことに集中するだけでなく、その業務が自分の職責にどのように役に立ち影響するかの重要性を理解した状態なので、アシスタントメンバーに対しても積極的にコミュニケーションを取ろうとします。
このようにチームメンバーの価値観を理解し、適切な職責を与えて、チーム内でお互いの価値観や職責の関連性を認識してもらうことで、メンバーは自分の個性や才能に自信を持てるようになります。
結果としてチーム全体のコミュニケーションが活性化し、全員が自分の役割において最高のパフォーマンスを発揮することが可能になります。
チームメンバーの価値観を理解するための効果的な対話法
経営者も含めたチームのコミュニケーションを深めるには、対話を通じて一人一人の「価値観」を理解することが非常に重要です。
いくつかの効果的な質問例を紹介しましょう。これらの質問によって、チームメンバーが何に価値を見出しているかが分かります:
「現在の業務で一番楽しいと感じることや、やりがいを感じることは何ですか?」
チームメンバーがどのプロジェクトや業務に興味を持っているかを探るのに役立ちます。
「もし好きなプロジェクトを任せられるとしたら、何を選びますか?」
チームメンバーの夢やキャリアの願望について話すことで、何に価値を感じているかを明らかにします。
「どんなスキルを学んでみたいですか?何についてもっと知りたいと思いますか?」
チームメンバーが積極的に学びたいほどの関心を持っている分野やキャリアでの成長希望を探ることができます。
「チームで一緒に働く際に、自分の役割や責任だと思っていることは何ですか?」
これにより、チーム内で何を重視して責任感を持っているかがわかります。
「もし自由に新しいことを始めるとしたら、どんなプロジェクトを始めたいですか?」
チームメンバーの創造力を刺激すると同時に、何に興味を持ち、どのようなテーマやアイデアに引かれるかを知ることができます。
これらの質問は、経営やリーダーがチームメンバーの興味や情熱を理解し、それに基づいて適切なサポートを提供する方法を見つける方法論です。
メンバーが自分の興味を共有することで、彼らの自信とコミュニケーション能力を育てることができる上に、チーム内での豊かな人間関係を築く基盤となります。
重要なのは、チームメンバーの返答に対して価値判断を入れず、「そうなんですね」と共感しながら、さらに「どうして?」や「どんなところが?」、「XXXではなく、そうである理由は?」といった質問で深掘りをすることです。
これにより、メンバーの動機や関心を本質的に理解し、それぞれに合ったエンゲージメントを実現することができます。
メンバー間の会話をサポートする場づくり
既存のチームメンバー間でのコミュニケーションを強化するためには、仕事はもちろん、プライベートにおいても、お互いの興味や関心事を理解し共有し、相互理解を深めることが効果的です。
たとえば、あるプロジェクトチームで作業効率や生産性が低下しているとします。チームリーダーがメンバーの一人ひとりとの個別ミーティングを行い、仕事で最も興味を持っていることや、もっと関与したい分野を探ってみてください。
「最近のプロジェクトで最もやりがいを感じたのはどの部分ですか?」や「このプロジェクトに何を加えたいと思いますか?」といった質問は、メンバーが自身の興味や情熱を表現するきっかけを作ります。
この情報を基に、経営者やリーダーは配置を変えることも検討してください。
その上で、メンバーが共通の関心を持つ話題で定期的なディスカッションの機会を設けます。IT好きなメンバーであれば、最新のテクノロジーのトレンドについてのランチ会を企画することで、メンバーが自然と参加しやすくなります。
さらに、チームがリラックスして自然体で会話できる環境を整えることも重要です。カジュアルなコーヒーブレイクやチームビルディングのアクティビティは、役割を超えた本質的な人の繋がりを作り出すことができます。
例えば、チームでのワーケーション企画の中で、リラックスした仕事環境を強制的に作り出すこともお勧めです。そこでは、業務を行うよりも、オープンな会話の場を作ることに専念し、普段の業務が円滑に進むための土台づくりを行ってください。
おわりに
今回の記事はお役に立てましたか?
既存のチームメンバー間のコミュニケーションを活性化させ、チーム全体の協調性と生産性を向上させるには、経営者が価値観を理解して効果的に関わることが大切です。
そうすれば、チームは一層結束を強め、各メンバーは自分の個性や才能をチーム内で活かすことができるようになり、困難な状況を乗り越える、チームの心理的柔軟性(レジリエンス)の高いチームになります。
チームの個性で強い組織となれるよう、ぜひ実践してみてください。
北原万紀(きたはら まき)
株式会社GSEコンサルティンググループ
代表取締役
エグゼクティブコーチ / 女性起業家育成 / コーチ育成 / 人材開発・組織開発
個人のミッション・ビジョンを引き出し、最も繁栄する法則にあった人生とビジネスを構築するコーチング技術に高い定評があり、経営者やリーダー層を担当する。
「人間行動学」を基礎技術とする教育コンサルティング事業では、セミナーや講座の教育コンテンツの企画と指導を行う他、人材育成や起業家のビジネスプロデュースを行う。
インターネットのみで繋がる国をまたいだビジネスチームで会社を経営し、時間と場所に制限を受けないチームの働き方を実現。2022年末、日本と世界を繋ぐ国際ビジネスのサポートのためにドバイにて起業、企業海外進出サポートを行う。
Ms. Hope International 2018 世界グランプリ・2022年同大会国際審査員
大阪関西万博 Expo 2025 共創パートナー登録
北原万紀 GSEコンサルティンググループ
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