
今や国内だけでなく海外にもファンが多い無印良品ですが、2001年に業績が悪化。しかし、そこからV字回復を遂げます。
無印良品が、現在の世界的に有名なブランドにまで成長した鍵は、無印良品の業務マニュアルである「MUJIGRAM」です。
この記事では、38億円の赤字からV字回復を遂げた無印良品を運営する良品計画による業務マニュアル「MUJIGRAM」を元にした、販売戦略や人材育成の方法をご紹介します。
- 従業員が効率よく動いてくれない
- どう指導すれば良いのか分からない
- 無駄を排除し、効率良く従業員の指導や商品配置を行いたい
- 無印良品のように売り上げを伸ばし、もっと店舗を増やしたい
このような悩みや考えをお持ちの経営者や実店舗をお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。
V字回復の鍵は「MUJIGRAM」

バブルがはじけて日本の経済状況は悪化しました。そんな中でも無印良品は赤字を出すことなく成長を続け、周囲からは「無印神話」と呼ばれるほどの躍進ぶりをみせました。
しかし2001年の8月、38億円もの赤字を出してしまいます。
この結果に業界内だけでなく社内でも諦めムードだったと、当時社長に就任した松井忠三さんは書籍『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』の中で語っています。
そんな無印良品がV字回復を遂げたきっかけが、業務マニュアルである「MUJIGRAM」です。
それまで、現場の社員一人一人の経験や勘頼りだった仕事を、マニュアルに集約したことで、全従業員が統一した仕事をできるようになりました。
MUJIGRAMとは何か?
業績回復の鍵となった「MUJIGRAM」は、非常に細かい内容まで記載されている店頭用の業務マニュアルです。
内容は、商品の陳列方法など以外にも、マネキンのコーディネート方法や商品の持ち方、品出しの目安時間など、店頭で行う業務の全てが事細かに記載されています。
- 「なぜこの作業が必要なのか」
- 「何を目的にしているのか」
- 「いつ誰が行うのか」
- 「どこでどのくらいの時間をかけて行うのか」
これらを記載し、アルバイト初日であってもマニュアルを読めば店頭に立てるように作成されています。
しかし、どんなマニュアルでも内容が全く更新・改善されなければ、いずれ役に立たなくなります。そのため、現場の声が反映されるように作られています。
現場で利用されるマニュアルにも関わらず、現場にいない役員だけで内容を更新してしまえば机上の空論になってしまいやすいことは明らかです。
「MUJIGRAM」は、現場の声を徹底的に反映させたものであるといえます。
「MUJIGRAM」導入によるメリット

無印良品がV字回復を遂げた鍵は「MUJIGRAM」だと解説しました。
しかもこの「MUJIGRAM」は、無印良品のような大手企業以外でもメリットがあります。
例えば、「この業務は何を目的としているのか」と部下やチームに聞いたとき、全員から全く同じ答えを得ることはできますか?
マニュアルに業務目的を記載することで「なぜこの業務が必要か」を全員が同じ内容で認識できます。
実際「MUJIGRAM」では、「作業の目的・内容・誰が行うのか」といった内容を記載することで、社員全員が同じ目的を共有した上で作業を行っています。
もう少し具体的にマニュアル導入のメリットをご紹介しましょう。
マニュアル導入のメリット

マニュアルを導入することのメリットはいくつもありますが、最大のメリットは2つです。
- 社員全員が業務目的を共有できる
- 業務目的に対して効率の良い方法を考える社員を育てられる
業務目的の理解は、言い換えれば「なぜこの作業が必要なのか」です。
「なぜ」を理解できれば、社員全員が効率の良い方法や無駄を省く方法を考え、目的のために最短かつ少ない労力で仕事を行うことができます。
社員全員が業務目的を共有できる
「MUJIGRAM」では、ご紹介した通り「なぜこの業務が必要なのか」という業務の目的が、項目ごとに最初に記載されています。
そのため、業務を始める前に目的を知ることができます。これは、会社側だけでなく従業員側にもメリットがあります。
例えば、長期間働いている社員も働き始めたスタッフも関係なく「目的は何か」を、口頭ではなく決まった文章で確認できます。
そのため、伝言ゲームのように人によって内容が異なったり、教える内容が違っているなど、新しいスタッフを混乱させるようなこともありません。
また、業務の目的をスタッフ全員が正しく理解すると、その目的のために仕事を行うので無駄を省けます。
もしも目的を勘違いしたり、ただ指示に従うだけの状態だと、思ったような成果を得られず、修正や新たな指示出しなどで時間と労力を無駄にする可能性があります。
業務目的に対して効率の良い方法を考える社員を育てられる
「業務マニュアルを導入したら社員が何も考えないのでは?」と懸念する人もいるのではないでしょうか?
- 業務の方法のみが記載
- 何年も更新されていない
- 社員から新たな方法が提案されても全く相手にせず、更新もしない
- 効率の良い方法を提案してもマニュアル通りにしないと注意される
上記のような状態であれば「提案をしても意味がない」「何も考えずにマニュアル通りにした方が楽だ」と考え、マニュアル通りにしか動かない人間になるでしょう。
無印良品では、「顧客視点シート」というオリジナルのツールが利用され、現場スタッフがお客様の要望やクレーム、スタッフの気づいた点や改善案を本部に提出できます。
もちろん全ての提案が採用されるわけではありません。エリアマネージャーや本部のマニュアル作成の部門で内容を精査し、採用されたものが「MUJIGRAM」に記載されます。
しかし、全ての改善案が採用されないとはいえ「自分の提案や意見も聞いてくれる」という前提が現場にもあるため、常に効率のいい方法を考えながら仕事に取り組みます。
つまり、マニュアルをただ導入するのではなく、現場の意見が反映される仕組みを作ることで、仕事を効率的に行える環境と人材育成ができると考えられます。
「MUJIGRAM」により実現可能なもの

無印良品は今でこそ全ての店舗が統一した陳列や接客を行っていますが、「MUJIGRAM」の導入以前は、各店舗で店長のセンスに任せた陳列が行われていました。
この方法にはいくつもデメリットがありました。特に顕著だったのは、新店オープンの準備の際です。
各店舗ごとに陳列方法が異なっていたため、手伝いに来た他店の店長がそれぞれ全く違う陳列方法を指示したのです。
そのため、他店の店長が来るたびに、一度陳列した商品を何度も陳列し直し、夜中になっても準備は終わらないという状況だったそうです。
しかし、現在は「MUJIGRAM」を導入したことで次のような課題が整理されました。
- 店長ごとにことなるレイアウト
- 社員の経験に頼った商品の陳列や接客、営業
など、統一した商品の陳列や接客が行われるようになりました。
「MUJIGRAM」の導入を行ったことで社員の経験やスキルの蓄積、無駄な行動の排除が可能になったのです。
「MUJIGRAM」の導入をしたことによるメリットを、もう少し具体的にご紹介しましょう。
仕組み化で社員の経験を蓄積する
無印良品は「MUJIGRAM」を導入したことで、それまで店舗や部署だけで完結していた、社員やスタッフの知識と経験を蓄積する仕組み作りに成功しました。
MUJIGRAMは本部だけでつくるのではなく、現場(店)で働いているスタッフの知恵をすくいあげて一つにまとめています。これにより、すぐれた知恵や経験を全員で共有できるようになり、個人の経験を組織に蓄積できます。
無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい 松井忠三
個人で経験できることには限界があります。また、優秀な社員やスタッフと同じ知識や経験を得るには、膨大な時間がかかるでしょう。
しかし、マニュアルとして経験や知識を集約することで、短い時間で効率の良い仕事方法を学ぶことができます。
統一した内容で現場スタッフを指導できる
MUJIGRAMを導入したことで、現場スタッフの仕事内容やレイアウトなどが、全店舗で統一されました。
また、「MUJIGRAM」で使われる言葉は「分かりやすく・具体的に」を意識し、「インナー」など、誰でも知っているような言葉でもわかりやすく解説しています。
さらに、抽象的な言葉を具体的に写真などで分かりやすくするなどの工夫も行っているため、新しいスタッフでも既存のスタッフと同じ仕事ができます。
社員の退職によって業務が左右されない
どこの企業でも必ず起きることといえば「社員の退職」です。退職理由はさまざまですが、急な退職の場合であれば、十分な引き継ぎも行えないこともあります。
その結果、次のような問題が多くなることがあります。
- 退職した社員と同等のスキルを持った人間がいない
- 店舗運営の経験と知識のない社員しかいない
- 残った社員だけだと仕事内容が分からない
- 退職した社員しか知らない対応方法がある
退職をしていない場合でも、その社員が現場にいないと対応できないというのも問題です。
マニュアルに社員の経験や知識、スキルを集約すると、ベテラン社員がいない状況でも誰でもトラブルや未経験の仕事に対応可能となります
無印良品式マニュアル作成のポイント

無印良品はMUJIGRAMの導入によって、38億円の赤字から現在の確固たる地位を築き上げました。
しかし、単純にマニュアルを導入したから成功したのではありません。
無印良品の目指すべき方向性に合わせたマニュアル作りと、マニュアルを使った社員教育の仕組み作りに成功したからこそV字回復を遂げたと考えられます。
この章では、ここまでご紹介したMUJIGRAMの特徴に合わせて、マニュアル作成のポイントをご紹介します。
「なぜ」を従業員全員が理解する
1つ目は「なぜ?を従業員全員が理解する」です。
肝心なのは、どのように行動するかではなく、何を実現するかです。どのような売り場を作るのか、どのようなサービスを提供するのか、どのような商品をつくるのかを常に念頭に置いて仕事を進めないと、ただ言われたことをこなすだけになってしまいます。
無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい 松井忠三
無印良品のスタッフは、アルバイトも社員も関係なく、言われたことをそのまま行うのではなく、作業の目的を知った上で行動しています。
作業の目的を知れば、その作業が最終的にどのようなことを達成するために必要なのかを理解することができます。
例えば、小学生までの子供向け商品を取り扱っている店で、「重たい商品は必ず棚から落ちないようにヒモで固定するように」とマニュアルに記載されていた場合です。
「商品が落下し破損することで、近くにいる子供が怪我をしないように」だと明記していれば、商品よりも子供の安全を第一だと、スタッフも考えるようになります。
会社の方針として「子供の安全」と掲げても、具体的な言葉がなければ伝わりません。
マニュアルに具体的な作業内容と作業目的を記載することで、社員全員が曖昧に書かれていた「子供の安全」について理解することができます。
常に現場の意見で内容を更新
マニュアル作成のポイント2つ目は「常に現場の意見で内容を更新すること」です。
「今の仕事のやり方」が、来月もベストなやり方であり続けることはありません。ところが、仕事のやり方を一度決めてしまうと、それに満足してしまい、しばらくは見直しもしないケースが多いようです。
無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい 松井忠三
マニュアルは一度作れば完成ではなく、現場のスタッフやお客様の意見、市場の状況によってリアルタイムで更新することが重要です。
無印良品では、現場の意見や提案が本部に伝わるオリジナルソフトを利用することで、リアルタイムでマニュアルを更新しています。
この仕組みがあることで、無印良品は常にベストな状態を保てているといえます。
また、「現場の意見がマニュアルに反映される」と会社全体で周知されている状況は、社員や現場スタッフの主体性を育てることにもつながります。
実際、無印良品では陳列方法などで、現場の改善案を採用した事例も数多くあります。
そのため、スタッフの中にはイラストなどを用いて、熱心に改善案を提案する人もいるとうことです。
また、常にマニュアルを更新することで、サービスの内容が洗練されるだけでなく、社員全員が理解しやすく、使いやすいものになります。
自社でマニュアルを導入する場合は、マニュアル作成の部署を作ったり、各部署のリーダーに意見や改善案を集約するなど、随時更新を行いましょう。
「MUJIGRAM」を自社に落とし込む

無印良品の業務マニュアル「MUJIGRAM」についてご紹介しました。「MUJIGRAM」を導入したことで、無印良品は現在の世界で活躍するブランドへ成長しました。
しかし、「MUJIGRAM」の内容をそのまま自社で使っても、無印良品を作った良品計画のような企業に成長はできません。
無印良品は「今何が問題か」を洗い出した上で、MUJIGRAMを通して問題を解決する仕組みを作りました。
トップを代える、リストラをすると言った対処法だけでは組織の体質を変えられないので、景気が悪くなったらまた同じような危機に陥ります。根本的な原因を探り当て新しい仕組みに置き換えないと、組織の体質は変えられないのです。
無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい 松井忠三
まずは、自社の問題点を洗い出し、問題解決に必要な仕組みづくりをマニュアルを通して行ってみましょう。
- 作業の目的を記載する
- 社員の声を即時に反映させる仕組みを作る
このように、自社のマニュアルでもマネできそうな作成のポイントのみを導入してみることをおすすめします。
