【経営戦略の立案に活用】将来のリスクを回避するためのPEST分析の使い方

最終更新日: 2023/02/28 公開日: 2023/03/01

事業を成功に導くためには、政治の動向や法改正、経済情勢、社会構造の変化、テクノロジーの進歩といった自社のビジネスに影響する外部環境要因を理解する必要があります。

PEST分析とは、その外部環境要因を効率よく、網羅的に分析するために使用するフレームワークのことです。

PEST分析は経営者、マーケターだけでなくコンサルの仕事に携わる方も覚えておきたいフレームワークです。本記事では、PEST分析の基本や分析手順、事例などをご紹介します。

PEST分析とは

PEST分析はマーケティングの権威である米国の経営学者フィリップ・コトラーが編み出したフレームワークです。

政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの頭文字を取ってPEST分析と呼ばれています。

PEST分析は、主に事業戦略(経営戦略、海外戦略、マーケティング戦略など)を策定する際に行われるケースが多いです。

新たに事業を立ち上げる際には、自社の現状を把握するだけでなく、外部環境に関する情報を収集し、分析することも求められます。

コトラーは、自身の著作『コトラーの戦略的マーケティング』において、「環境分析調査を行わずに市場参入を試みることは、目が見えないのに市場に参入しようとするようなもの」と語っており、環境分析の重要性を説いています。

時代を問わず成功を収めてきた企業や製品の殆どが世の中の変化・流れ・トレンドを味方につけてきたと考えられています。

外部環境の変化に伴い、時代の流れに沿った商品開発やマーケティングを行うことで勝利を目指せるものとし、自社への影響を図るフレームワークとしてこのPEST分析が位置付けられています。

PEST分析を行う4つの外部環境要因

それでは先ずPEST分析を行う際に必要な4つの外部環境要因を順に解説します。

政治的要因

政治的要因が企業や市場に変化を及ぼすケースは少なくありません。現状の市場環境や今後の環境変化を見通すうえで、重要な要素です。

具体的には下記のような項目が企業や市場に大きな影響を及ぼします。

  • 政権交代
  • 法改正や制度の規制緩和
  • 減税、増税など税制の変化
  • 政治上の外交関係
  • 補助金の交付制度

法改正や税制の変化、制度の規制緩和などは市場に与える影響力が大きく、新たなビジネスチャンスにも脅威にもなる可能性があります。

経済的要因

経済は経済成長率や為替相場などの情勢のことを指し、以下のような項目が挙げられます。

  • 株価
  • 金利・経済成長率(GDP)
  • 物価(インフレ/デフレ)
  • 景気動向
  • 物価上昇率
  • 雇用情勢
  • 金融政策

経済的要因は、株価や物価などが企業の売上に大きな影響を与えます。
例えば円安が続いてしまうと、原料などを海外から仕入れて商品を生産している企業にとっては大きな脅威となります。

仕入れコストが上昇し、商品の値上げを検討しなければいけない状況に陥りやすくなります。

中・長期的な経済動向を予測して、最小限のリスクで抑えられるように日々注目しておきたいポイントです。

社会的要因

社会の情勢や流行は消費者の行動を変えるため、市場や商品の売上に大きな影響を及ぼします。社会的要因の注目すべき項目は下記が挙げられます。

  • 人口動態(地域別人口数、人口密度、世帯数、少子・高齢人口割合など)
  • 流行
  • 景気動向
  • 世論
  • 教育/宗教/言語
  • 社会問題(事件)

特に現代の日本においては少子高齢化が重要課題となっています。多くのビジネスにおいて、少子高齢化の進行を踏まえた経営戦略の策定・実行が必要な時代です。

また、Z世代(1995年前後~2010年前後に生まれた世代)へのアプローチが各企業においてLTV(顧客生涯価値)を上げるために重要項目であるのも間違いありません。

技術的要因

技術に関する情勢が変わると、事業活動の未来に大きな影響を与えます。

例えば映像技術の発展や高速通信環境の整備などによって動画配信サービスやそれに関わるサブスクリプション(継続購入販売)が更なる市場の拡大に繋がっています。

一方で、電子書籍が紙の書籍の市場を奪うように、技術に関する情勢の変化が特定市場の衰退原因となることも少なくありません。

技術的要因の注目すべき項目は下記が挙げられます。

  • ビックデータ
  • AI技術の進化
  • インフラの整備
  • 新技術の普及や特許の取得状況
  • メタバース(仮想空間内で行えるサービス)
  • 自動運転システム

技術進歩や新技術の普及度合いが企業や市場の動向にどのような影響を及ぼすのか、シミュレーションを立てた上で将来展望を明確にしておくことが必要です。

PEST分析の目的

経営観点でPEST分析を行うことは下記3点の目的があります。

自社における将来的なアドバンテージやリスクを把握するため

企業の事業活動は、政治・経済・社会・技術などの外部環境の要因によって影響を受けます。

PEST分析を定期的に行うことにより事業活動を取り巻く現状を知る機会につながり、将来起こりうる自社へのアドバンテージやリスクを予測しやすいでしょう。

変化に対応できる経営戦略を立てるため

事業活動を安定的に進めるには、日々変化する情勢について柔軟に対応する姿勢が求められます。

また、外部環境の要因から受ける影響は、前述したように企業にとってアドバンテージとリスクの両方があるため、適切に把握して戦略を立てる必要があります。

フレームワークを併用して活用するため

PEST分析は、5フォース分析やSWOT分析など他のフレームワークとも併用できる分析理論です。

5フォース分析やSWOT分析とは外部環境における変化や脅威を客観的に把握する点が共通しています。

上記を並行して行うことにより、各フレームワークの精度や分析結果を活かしたネクストアクションの構築精度を上げる効果が期待できるでしょう。

PEST分析の実施手順

PEST分析を行う際は「新商品の開発」「競合調査を深堀りした上で来期の経営戦略を立てる」など、取り組む目的を明確にしましょう。

①各要素について分析

最初は政治・経済・社会・技術の各項目において自社に関係する要素を掘り下げて洗い出します。

ブレインストーミングの要領で新聞などのメディアの最新情報も活用しながら関係性のありそうな外部環境に関する情報を列挙し、それぞれの軸に分類します。

②事実と解釈に分ける

政治・経済・社会・技術の情報収集を終えたあとは、外部環境要素を「事実」と「解釈」に分別します。

「事実」とは、情報やデータから読み取れる内容であり、「解釈」とは情報やデータの推移から個人的な予測を立てる主観的な内容を指しています。

例えば例えば航空業界において「飛行機の利用者数が減っている」、「円安により海外への航空券代が高騰している」という事実があるならば、「海外へな航空券代が高騰しているから飛行機の利用者数が減っている」という解釈に辿り着くことができます。

事実を明確にした上でそこから解釈を導き出すフローになります。

③事実に対して機会と脅威を分ける

続いて、ここまでで洗い出された事実と解釈をプラス要因となり得るのものを「機会」、マイナス要因となり得るものを「脅威」に分けましょう。

例えば再度航空業界に例えるなら格安航空会社の躍進は大手航空会社にとって大きな脅威となります。

しかし、サービス面のクオリティーを格安航空会社と差別化して消費者に訴求できれば、高所得者層や高齢者層など新たな層を取り込み、彼らのロイヤリティーを高める機会にもなり得ます。

こうして機会と脅威を切り分けをすることで、プラス要因を活かし、マイナス要因を回避・抑制する施策を打ち出しやすくなるのです。

④短期と長期に分類する

機会と脅威に分類したあとは、外部環境要因が発生する期間を「短期」と「長期」にわけておきましょう。

近い将来に発生することが予想される場合は短期、ある程度時間を置いて発生することが予想される場合は長期に分類します。

時間軸を意識して分類しておくことで、経営課題として取り組む優先順位や計画が整理しやすくなります。

⑤分析内容を行動に移す

分類を全て終えたら実際に企業として行う施策を検討します。
機会・脅威で分類した外部環境要因は短期・長期で整理して、緊急度や重要度の高い内容は、早めの対応を心がけましょう。

PEST分析の事例

自動車業界

自動車業界を取り巻くPESTを分析すると下記が項目として挙げられます。

政治
・SDGsが世界的な関心事になり、世界各国が政策に取り入れている
・電気自動車の普及に伴い既存のガソリン車への増税リスクが生まれる可能性有り
・自動運転技術に対する法整備が進む

経済
・新型コロナウイルスの拡大を受けて近年は外出自粛傾向にあり運転機会の減少
・現在は原油価格が運転需要に大きな影響を与えて、将来的には電力価格が運転需要に大きな影響を与える見込み

社会
・若者の車離れ
・カーシェアリングなどの非所有サービスの拡大
・高齢者のアクセル踏み間違え事故の衝撃

技術
・自動運転技術の進化
・インターネットとの接続など電装技術の開発

もし現状を踏まえて、緊急度・優先度の高い施策を実施するならば、市場縮小や若者の車離れが進む中で、競争力を維持するための戦略やマーケティング手法などを考えていかなければなりません。

例えば世界売上1位を誇るトヨタ社は自動車のサブスクリプション(定額課金)サービス「KINTO」を2019年に開始し、申し込み数を伸ばし、車を所有したくても中々できなかった若者からの支持を増やすとともに、ブランドの信頼性向上、各商品の知名度拡大に成功しています。

一方で、長期的な視点で見るならば電気自動車や自動運転の普及度合いや法制度改正などを意識して他社が発表・リリースした新技術に負けない技術開発に注力することが求められます。

トヨタ社の対応例を再度紹介すると、「電動化」や「事故予防」にも素早く対応しています。

特にEDR(Event Data Recorder)という機能は、車両に衝撃が加わった際にその瞬間の運転操作状態を記録し、あとから改善を施す技術です。

トヨタ社では今後さらにEDRの精度を高めてより安全運転が行いやすい車両が開発されることが推測できます。

コンビニエンスストア業界

自動車業界を取り巻くPESTを分析すると下記が項目として挙げられます。

政治
・営業時間に関する規制緩和
(24時間営業を規制しないなど)
・消費者税の動向
(近年中に更に上がる可能性)
・レジ袋有料化

経済
・店舗数は増加し続けるが人口減少
・原油高や商品の原料価格の高騰
・コロナ禍の経済低迷、コンビニ離れ

社会
・コロナ禍における外出自粛要請
・少子高齢化における購買力の低下

技術
・セルフレジの普及
・銀行ATMとの提携
・キャッシュレス決済サービスの拡大

セブンイレブン社が上記で挙げた項目に対して行った施策例を紹介します。

まず2020年7月から始まったレジ(プラスチック)袋有料化に伴い、セブンイレブン社は早い段階から店舗内でエコバッグを販売して、利用者のストレス軽減に対していち早く対応していました。

その後も様々なバリエーションのエコバッグを店舗やオンラインショップで販売しています。

コロナ禍対応及びキャッシュレス決済対応として代表的なのが非接触型のレジの導入です。

店舗スタッフが商品の金額を表示させた後、顧客が支払い方法をタッチパネルから選び、顧客自身が支払いを済ませるというレジです。

これは会計時に少しでも店舗スタッフが商品を触らなくて良いように、顧客も店舗スタッフと会計時に非接触で済ませられるいうコロナ禍で発生したニーズを満たす施策でした。

この非接触型レジによってキャッシュレス決済も行いやすくなり、且つ店舗スタッフの負担を軽減できる状況が生まれました。

2020年9月から導入されたこの非接触型のレジは2021年8月末までに全店舗の9割まで設置が完了しています。

まとめ

PEST分析は自社でコントロールできない外部環境要因分析する手法です。

外部環境要因によって市場における需要と供給のバランスや消費者の行動は大きく左右されるため、新規事業をスタートする際やや既存ビジネスの見直しを図る際は是非PEST分析を活用した上で施策を立てましょう。

最終更新日: 2023/02/28 公開日: 2023/03/01