
絆徳経営の根本を支えるのが「人事制度」です。
経営者の方の中には、人事について次のような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
- 意欲の高い社員とやる気のない社員の差が激しい
- せっかく指導・育成した社員が辞めてしまい定着しない
- 優れた成果を挙げている社員が会社の方針に従わない
社員が活躍し、定着していく組織を実現するには「絆徳の人事」を目指すことをおすすめします。
今回は、絆徳経営の土台となる5つの原理原則について見ていきましょう。
社員の望みと会社の仕組みを一致させる

組織が抱える人事の課題は、多くのケースで「絆の分断」に起因しています。
絆が分断されてしまう大きな原因となるのが「自己有用感」の欠如です。
「私は必要とされている・役立っている」と実感できないことが、組織的な心の絆を分断していきます。
次に挙げる点を重要な課題と位置づけ、社員の望みと会社の仕組みを一致させていくことが大切です。
社員一人ひとりが「自分は大事にされている」と実感できる
人事制度を構築・改定する際、多くの企業は「どんな人材が会社にとって理想的か」を軸に仕組みをつくっていきます。
主体は「会社」であり、たとえるなら「箱」を先に準備してから中身を選ぶ発想になっているのです。
しかし、強い絆で結ばれた組織をつくるのであれば、むしろ「人」を軸に人事制度を考えていくべきでしょう。
人事制度をつくるにあたって、次の点を本質的に問うておく必要があります。
- 社員を大事にしたいと思っているか?
- 社員に幸せになってほしいと思っているか?
- 社員の給料を上げたいと願っているか?
社員は仕事を通じて成長し、評価され、給料が上がっていくことで自己有用感を持つことができます。
人事制度を構築する際には、「社員を大事にする」という根本的な設計思想が欠かせないのです。
人事制度が「社員の給料を上げる仕組み」と位置づけられている
人事制度における給与規定とは、一般的には給与額の根拠を示すためのものです。
給料を算出する根拠を示し、社員に提示すること自体が目的になっているケースも少なくないでしょう。
では、現状の給与規定は「何を」「どれくらいやれば」「いつまでに」給料が上がるのかを明示しているでしょうか。
もし明示されていないとすれば、社員から見て「給料を上げるための仕組み」になっていない可能性があります。
「どうすれば給料が上がるのか」を具体的に示し、仕組み化したものが人事制度に他なりません。
社員との絆をつくっていくには、人事制度が「社員の給料を上げる仕組み」として位置づけられていることが重要です。
仕組みが明文化されている
人事制度は、明文化されていること・共有されていることが大きなポイントとなります。
なぜなら、社員が誰でも知っている仕組みにすることで、ルールが平等かつ明確なものとして認識されるからです。
評価制度と連動した給与テーブルを作成し、公開するのは透明性の高い人事制度を構築するための1つの方法といえるでしょう。
何をどうすればいつ給料が上がるのか、ゲームのルールをあらかじめ提示しておくのです。
ルールが明確になっていれば、社員は自分自身の給料を上げるためにルールに則って自然と努力するようになります。
明文化された透明性の高い人事制度をつくることは、絆徳経営を実現する上で非常に重要な要素といえるのです。
「人」にフォーカスしない仕組みをつくる

社内で衝突や対立が頻繁に起こると、組織の絆が薄れ社員の気持ちが離れてしまいます。
対立構造を引き起こす主な原因は、「人」にフォーカスしてしまうからです。
「人」にフォーカスしない仕組みをつくることが絆徳経営を実現するためのポイントといえます。
「会社vs社員」の対立構造から脱却する
絆が壊れてしまう原因は「分断」にあります。
組織内で分断が生じると、心の繋がりは容易に断ち切られてしまうのです。
分断の最たるものが「雇う・雇われる」という構図でしょう。
仕事を与える側・与えられる側という構図から脱却しない限り、分断は否応なく発生してしまいます。
端的にいえば「会社vs社員」という対立構造に原因の発端があるのです。
経営者・管理職・社員が一体となり、同じゴールを達成する方法を考える必要があります。
組織の仕組み | 働き方 | 具体例 |
会社vs社員 | 受動的 | ・上司が部下を高圧的に対して高圧的に指示する ・理不尽に感じられる指示が「不満」に直結する |
絆徳流人事 | 能動的 | ・上司が部下とともに共通の目標達成を目指す ・取り組みや行動を見直す「改善」へと繋がる |
会社vs社員という対立構造から脱却することが、絆徳経営の実現に向けた第一歩といえるのです。
社員にとって「いやなこと」は取り除く
従来の人事制度では画一的な到達目標を掲げ、求められる能力や成果に達しない社員は評価しないケースが見られました。
しかし、どの組織にもさまざまなタイプの社員がいるため、社員にとって「いやなこと」も十人十色です。
ハードワークになっても高い成果を挙げたいと考える社員がいる一方で、長時間労働は避けたいと考える社員もいます。
長時間労働をいやがる社員に対して「耐えてもらいたい」と求めても、成果は望めないでしょう。
むしろ、時短勤務を選択できる制度を設け、誰でも利用できる制度として定めるほうがお互いにとって負担になりません。
社員にとっていやなことは取り除き、対立構造を生まない仕組みにしておくことが大切です。
上司は部下の成長を支援する
現場における上司と部下の関係性は、しばしば分断を生む原因となります。
問題の根本には「上司は部下を指揮・指導するもの」という思い込みがあるのです。
上司は部下にとって、成長を支援し評価をより高めるための道筋を示す存在であるべきでしょう。
・上司が部下に対して一方的に指示を与える
・上司の個人的な価値観に基づいて指導する
・部下が上司に意見をいえない雰囲気がある
【絆徳経営における上司と部下の関係性】
・上司と部下が目標・目的を共有している
・上司は部下の成長を支援する
・部下の評価が高まることで上司の評価も上がる
不満や批判が人へと向かうと、組織に分断を生む原因になります。
上司と部下が同じ方向を見て仕事をしていくことで、人にフォーカスしない仕組みがつくられていくのです。
弱みを意味のないものとし、強みを生かす

近年、企業においても多様性を認めることの重要性が論じられています。
多様性やダイバーシティと聞くと、ジェンダーに関する問題やマイノリティへの配慮を連想するかもしれません。
しかし、組織内で「認められる人」と「認められない人」が生じてしまうことも、多様性を阻む原因となり得ます。
絆徳経営においては、弱みを意味のないものとし、いかに強みを生かすかがポイントとなるのです。
自己有用性を感じられる居場所をつくる
ビジネスパーソンとして活躍していく上で、コミュニケーション能力が重要とよくいわれています。
では、もしコミュニケーションを図ることが苦手な人が組織内にいたとしたら、その社員に居場所はないのでしょうか。
特定の強みを持つ人が認められる一方で、弱点のある人は切り捨てられてしまう組織には社員が定着しません。
持続可能な経営を実現するには、社員一人ひとりの強み・弱みを受け入れ、活躍の場を見つける必要があります。
全員が自己有用性を感じられ、やりがいと誇りを持って働ける組織を目指すことで、絆徳経営が実現へと近づいていくのです。
ピラミッド型組織から丸ダイヤ型組織へ
最も能力が高い(と評価されてきた)人材を頂点とし、評価されない人材が下層に位置するのは「ピラミッド型」組織といえます。
一度下層に位置してしまうと挽回が難しいとすれば、意欲をなくす社員が現れるのが自然の成り行きでしょう。
公平な教育機会を提供し、下層から中間層へと社員の能力を押し上げていくことが大切です。
さらに、自社のみならず社会から評価される組織を目指すことで、ピラミッド型組織は丸みを帯びたダイヤ型組織へと変容します。
従来のピラミッド型組織の問題点をはっきりと認識し、丸ダイヤ型組織を目指すことが大切です。
絆徳哲学に基づくチームビルディングについては、下記の記事で詳しく解説しています。
ぜひ参考にしてください。
働く動機は十人十色と捉える
従来の人事制度に問題点があったとすれば、社員の中にはすでに意欲を失いかけている人もいるはずです。
入社してきた当初は意欲をもっていたはずの人材が、年月を経るにつれて意欲を失ってしまう。
意欲をなくす原因は、組織の側にもあると考えるのが自然でしょう。
どんな役割にやりがいや意欲を感じるかは、社員一人ひとり異なります。
なぜ意欲をなくしているのか、本人とじっくり向き合って原因を探り、本人にとって最も重視すべき働く動機を見つけましょう。
社員一人ひとりに適した働き方や仕事内容が分かれば、意欲を取り戻し再び組織に貢献してくれるはずです。
成果と価値観の両方を評価・育成する

人事制度の中でも重要なカギを握っているのが「評価」です。
どのように社員を評価し育成していくのが良いのか、絆徳経営の原理原則を見ていきましょう。
適切な教育機会を与え成果を公平に評価する
評価の根底には「公平」という原則がなくてはなりません。
一部の優秀な社員ばかりが成長して評価を高めていくようでは、置き去りにされる社員が生じてしまいます。
すると、ピラミッド構造型組織の典型とも呼べるような会社ができあがってしまうのです。
評価の前提には「適切な教育機会」があるべきでしょう。
どの社員も等しく教育を受ける機会があり、成果を出せば公平に評価される。
公平な評価であるからこそ社員が納得し、評価を高めるために前向きになってくれるのです。
成果と価値観の両軸で評価する
評価はしばしば「成果」にフォーカスしがちです。
売上や利益率といった数値は客観性が高いことから、成果を出した社員を評価するのが公平と考える経営者は少なくありません。
しかし、成果さえ挙げれば良いと社員が考え始めると、組織の絆が断たれる原因となります。
社員によっては、他の社員を蹴落としてでも成果を追求しようと利己的なふるまいをするようになるからです。
評価には成果だけでなく、意欲やマインドセット、理念への共感度といった「価値観」も含めるべきでしょう。
有名な事例としては、かつてGE社が採用していた制度が挙げられます。

成果(パフォーマンス)と価値観(コアバリュー)の両軸で評価することで、経済的合理性と理念が両立する組織へと近づくのです。
上司は部下が昇給・昇進するための道筋を示す
しっかりとした評価制度を定めても、適切に運用されなければ効果は発揮されません。
間違えやすい点として、評価制度は減点法によって運用されるべきものではないのです。
減点法とは「ミスをすると評価が下がる」「上司の機嫌を損ねたら評価されない」といった評価方法を指します。
社員は評価制度を前に萎縮し、上司vs部下・会社vs社員の対立構造を生む原因となりがちです。
絆徳経営では、評価制度は社員の評価を高め、給料を上げるために設けられます。
上司は部下が昇給・昇進するための道筋を示し、サポートする存在です。
部下にとって上司が「助けてくれる」存在となることで、対立構造が生じない組織へと生まれ変わっていくでしょう。
社員が社員を育てる機会を持たせる
絆徳経営では教育の機会が公平に与えられることを重視します。
では、社員教育はどのように進めれば良いのでしょうか。
教えながら学び成長する風土をつくる
絆徳経営において、教育は特定の社員だけが担当するべきものとは位置づけられません。
一定の経験を積んだ社員には早い段階で部下をつけ、部下の教育を担当してもらうのです。
社員教育は経営者や部門長が躍起になって取り組む施策ではなく、社員全員にとって共通の目標となります。
教える側の社員にとっても、部下や後輩を教育することは学びの機会となるはずです。
教えている中で自身の間違いに気づいたり、言語化して説明することで理解が深まったりするでしょう。
教えながら学び、共に成長していく風土をつくることで、組織全体が自律的に発展していくのです。
目指すべき教育の方針を明確化する
先輩社員が後輩を指導すると聞いて、OJTを連想した方は多いでしょう。
OJTによる社員教育には、実は大きな落とし穴があります。
会社の資産であるノウハウや技術が適切に継承できるかどうかは、教える側の社員の能力に委ねられているという点です。
上司や先輩が教え上手であれば問題ありませんが、必ずしも全員がうまく教えられるとは限らないでしょう。
そこで、目指すべき教育の方針を明確化し、身につけるべきスキルを段階的に示すことが大切です。
社員が個人的な解釈で後輩や部下を教育するのではなく、可視化された方針にもとづいて教育することを基本としましょう。
教育のための教育を重視する
教育の質にばらつきが生じてしまうのは、教える側が「教え方」を習っていないからです。
「教え方」を知るには「教育のための教育」を重視する必要があります。
絆徳経営では、次のように「教育の組織化モデル」によって段階を踏んで「教え方」を学んでいくのです。
段階 | 役割 | 身につけるべきスキル |
ステップ1 | モデレーター (中立的促進者) |
意見を引き出す・話を盛り上げる |
ステップ2 | ファシリテーター (司会進行役) |
議論を一定の結果に導く |
ステップ3 | ティーチャー (話して教える人) |
情報・知識を伝える |
ステップ4 | コーチ (答えを引き出す人) |
質問を投げかけて気づきを促す |
ステップ5 | コンサルタント (答えを与える) |
具体的な解決策を提案する |
ステップ6 | メンター (気づきを促す) |
体験を共有しフィードバックを与える |
ステップ7 | トレーナー (成果を出させる) |
勝ちパターンを伝授する |
ステップ8 | ボードメンバー (幹部) |
経営の根幹に関わる意思決定に関わる |
上表のステップを教育の方針として示し、目指すべき方向性を明確にしてください。
社員が社員を教育し、自然と成長していく組織になれば、絆が強化され「持続可能な経営」が実現するでしょう。
まとめ
今回は、絆徳経営のエッセンスにあたる原理原則について解説してきました。
絆徳経営をより詳しく学びたい方は、ぜひ『絆徳経営のすゝめ」を読んで理解を深めてください。
自社が抱えていた人事・教育に関する課題を解決へと導くヒントが、きっと見つかるはずです。
