
社員育成に取り組む上でネックとなりがちなのが「費用」です。
研修を外部に委託したり、準備を整えたりする中で、さまざまな費用が発生します。
- 社員育成に取り組みたいものの、コスト面が気になる
- 社員育成のための予算を十分に確保しづらい
- 社員育成に活用できる助成金があれば具体的に知りたい
このように感じている経営者の方は多いことでしょう。
そこで、本記事では社員育成に活用できる助成金について解説します。
対象となる社員育成の取り組みや具体的な助成金額についても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
社員育成に活用できる助成金の種類

社員育成に活用できる助成金として広く知られているのが「人材開発支援助成金」です。
正社員を対象とした教育訓練が給付対象となっており、主な助成金制度として次のコースがあります。
- 特定訓練コース
- 一般訓練コース
- 教育訓練休付与コース
- 特別育成訓練コース
それぞれのコースについて詳しく見ていきましょう。
特定訓練コース
訓練効果の高い10時間以上の訓練(Off-JT+一部OJTも可)に対して助成金が給付されるコースです。
訓練の経費、または期間中の賃金の一部が助成の対象となります。
厚生労働省では、次のような訓練を「訓練効果の高い訓練」の一例として挙げています。
種別 | 内容 |
労働生産性向上訓練 | 生産性向上に資する特定の訓練 |
若年人材育成訓練 | 入社5年未満・35歳未満の者を対象とする訓練 |
熟練技能育成・承継訓練 | 技能承継を目的とする訓練 |
グローバル人材育成訓練 | 海外展開などのための訓練 |
労働生産性向上に対する訓練には、たとえばITSS(ITスキル標準)レベル3〜4も含まれています。
新人向けの教育プログラムや、社員のITスキル向上を目的とした研修などに活用できる助成金です。
助成金額は下記の通りとなっています。
・OJT:1人1時間あたり665円(380円)
・経費助成:対象経費の45%(30%)
※( )は大企業の場合
※生産性の向上が認められる場合は増額あり
なお、OJTが給付対象となるには「厚生労働大臣の認定を受けた実習併用訓練」に該当する必要があります。
具体的な要件として、
- 実施期間が6ヶ月以上2年以下
- 総訓練時間が1年あたり850時間以上
- 総訓練時間に占めるOJTの割合が2割以上8割以下
- 訓練修了後に評価シート(ジョブ・カード)による評価を行う
などが定められています。
一般訓練コース
特定訓練コースに該当しない専門的な知識・技能を修得させるための20時間以上の訓練(Off-JT)が対象です。
訓練の経費や期間中の賃金の一部に対して助成金が給付されます。
特定訓練コースよりも給付の対象が広がった助成金と捉えて良いでしょう。
一例として、中堅社員を対象としたスキルアップ研修やマネジメント研修などに幅広く活用可能な助成金です。
助成金額は下記の通りとなっています。
・経費助成:対象経費の30%
教育訓練休暇付与コース
次のいずれかの要件を満たした場合に助成金が支給されるコースです。
- 有給教育訓練休暇等制度を活用し、数日間の教育訓練を受けた場合
- 30日以上の長期教育訓練休暇制度を活用し、教育訓練を受けた場合
社員が自主的に教育訓練休暇制度を利用することが給付の前提となります。
業務命令によって研修等を受講させた場合や、研究会・視察旅行などは対象外です。
助成金額は下記の通りとなっています。
・長期教育訓練休暇制度を利用:賃金助成6,000円・経費助成20万円
特別育成訓練コース
契約社員など有期契約雇用者の正社員化・処遇改善を目的とした訓練に対して助成金を給付するコースです。
助成の対象となる訓練には次の3種類があります。
訓練内容 | 訓練期間 | 訓練時間 | 形式 |
一般職業訓練 | 1年以内 | 20時間以上 | Off-JTのみ |
有期実習型訓練 | 2〜6ヶ月 | 6月あたり425時間以上 | Off-JT+OJT |
中小企業等担い手 育成訓練 |
3年以内 | OJTが全体の1〜9割 | Off-JT+OJT |
一般職業訓練の場合、OJTは給付対象とはならない点に注意が必要です。
助成金額は下記の通りとなっています。
・OJT実施助成:1人1時間あたり760円(665円)
・経費助成:実費
※( )は大企業の場合
※生産性の向上が認められる場合は増額あり
助成金を申請する際の注意点

人材育成開発支援助成金を申請する際には、いくつか注意しておくべき点があります。
給付される助成金の使途が社員育成であることを証明する上で重要な注意点も含まれています。
必ず確認した上で助成金の申請を行うようにしましょう。
職業能力開発推進者の選任
助成金の給付要件として、社内で職業能力開発を推進するキーパーソンを選任する必要があります。
推進者は誰でも良いわけではなく、職業能力開発の企画や訓練実施に関する権限を持つ人物でなくてはなりません。
具体的には、人事部の管理職や人材開発部門の責任者などが想定されます。
ただし、従業員数100名以下の事業所であれば、経営者や役員などが推進者を兼任することも可能です。
社員育成を計画的に進める上でも重要な役割を果たしますので、必ず選任しておきましょう。
事業内職業能力開発訓練計画の作成
事業内職業能力計画訓練計画とは、仕事の種類やレベル別に身につけるべき能力や必要な訓練を示すものです。
本来は、職業能力開発促進法の第11条において、計画の作成は事業主の努力義務とされています。
しかし、人材開発支援助成金の給付に際して必須の要件となっていますので、必ず作成しておきましょう。
助成の対象とならない経費
人材開発支援助成金は、あくまでも社員育成に必要な経費に対して給付されるものです。
したがって、職務に直接関係のない訓練や、専門性の低い訓練は助成の対象にはなりません。
また、業務遂行に必須となる法定講習などの受講も給付対象とはならないことに注意しましょう。
とくに誤解されやすいのが、資格試験や適性検査などの受検料です。
社員育成に寄与する可能性のある資格や適性検査であっても、助成金の対象としては認められません。
事業所内外での訓練にかかった経費のみが助成の対象となることを理解しておく必要があるでしょう。
助成金の申請について
助成金を申請するには、訓練開始の1ヶ月前までに管轄労働局またはハローワークに必要書類を提出しなくてはなりません。
必要書類は、主に「訓練実施計画届」「年間職業能力開発計画」「訓練別の対象者一覧」です。
支給申請は、訓練終了日の翌日から起算して2ヶ月以内に管轄労働局へ提出する必要があります。
労働局の審査後、助成金が支給されるという流れです。
開始前・終了後の期日が決められていますので、遅れることのないよう準備を進めておきましょう。
まとめ
社員育成に活用できる「人材開発支援助成金」について解説してきました。
社員育成にかかるコストの中には、助成金の対象となるものも含まれているかもしれません。
今いちど自社で実施予定の社員育成の計画を見返し、助成金の対象となり得るものがないかチェックしておきましょう。
助成金を有効に活用することで、社員育成をより効果的に進められるはずです。